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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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29話 きっと誰かが見つけるさ


「領地戦を少し待ってください」セルナが言う。「具体的には、フレットの葬儀が終わるまで。私はフレットの葬儀に参加したいので」


 ボニージャ伯爵家がどうなろうと知ったことではないが、フレットの葬儀だけはきちんと済ませたかった。

 前世、セルナにとって誰かの葬儀は自分の権力を見せつける場でしかなかった。特に国葬なんかでは自分が一番目立つようにした。

 指導者となる前は、葬儀を利用して人脈を広げたりもした。利用できる状況は全て利用する、というスタイルだったのだ。

 そしてそれは今も変わっていない。


「……フレット君とは相当、仲が良かったようだな」


 ベンジャミンが複雑な表情で言った。


「私は、彼を信頼していました……。大人になっても、ずっと仲間だと……そう思っていました……」


 もう彼が大人になることはない。理想の世界をともに歩むことはない。そのことが酷く悲しく、セルナの心が痛んだ。


「だから……ああ、えっと、つまり……私はただ、私の気持ちに区切りを付けたい……と、そう思っていて……。葬儀で彼を見送れば……区切れるかと……」


 死んだ者は蘇らない。

 であるならば、進んでいくしかない。どれほど恋しくても、どれほど胸が苦しくても、それでも理想の世界へと。


「愛していたのか……」とテランス。


 恋愛的な意味の愛情はなかったので、セルナは「え?」と目を見開いた。

 もちろん同志として信頼していたし、情もあったけれど、恋愛は絶対にない。

 だがセルナは必要とあらば恋する乙女の真似だってできる。


「そうかもしれません……。だから、フレットの葬儀に参加したいです」


 彼を送るため、自分の気持ちを区切るため、そして。

 愛する彼を失った可哀想な公爵令嬢を演じるため。きっとみんながセルナに同情し、優しく接してくれるだろう。

 実に素晴らしい。その状況はきっと利用できる。悲劇のヒロインが敵意や悪意を向けられることはあまりないのだから。


「そうか。分かった」ベンジャミンが頷く。「領地戦は葬儀が終わるまで待とう」


「ありがとうございます。それと3つ目ですが……」


 セルナはカルラの隣に移動して、カルラをギュッと抱き締めた。


「この子を私のメイドにしたいです」


 セルナが言うと、カルラがすごく驚いていた。


「え? 嫌なの?」とセルナ。


 カルラがいつかセルナのメイドになることは前々から決まっていたはずだけど、とセルナは思った。


「嫌じゃないです! むしろ嬉しいです! 今すぐメイドになりたいです!」


 カルラが元気よくそう主張した。


「それは好きにすればいい。メイド長に話は通しておく」


 ベンジャミンが許可を出し、セルナは「ありがとうございます」と言った。


「とはいえ、一度孤児院に戻りますね」とカルラ。


 引継ぎとか色々あるのだ。そのことはセルナも分かっているので、コクンと頷いた。


「俺も孤児院に戻る」とジャック。

「分かった。ではまた会おう」とセルナ。


 二人が応接室を出たあと、セルナはテランスに視線を送る。


「なんだい?」

「私も家に帰りたい」

「ああ、そうだね、帰ろう」


 テランスが手を差し出したので、セルナは普通にその手を握った。そのことに、セルナ自身が驚いた。

 演技として手を繋いだのではなく、自然に手を握ったのだ。流れに従ったといえばそうだが、それでも少し釈然としない。


(それだけ私の心が弱っている、ということか)


 悲劇のヒロインを演じようとか、ある程度の計算高さは戻っているのだけど、それでもダメージを負ったことに変わりはないのだ。


◇


 翌日、セルナはアカデミーを休んだ。

 自室で布団にくるまって、一日を無為に過ごした。

 誰とも話さず、食事も摂らず、ただボニージャ姉弟のことを考えた。


「私は油断などしていなかった。アレシアに対しては、最善手を指していた」


 つまりアンシェル一家に殺害を依頼したことだ。セルナにはアレシアを殺す能力がない。でもアレシアは消さなくてはいけない。どう考えてもそれが最善だった。


「問題はスタースが一度失敗したこと」


 それがキッカケで、アレシアは自らの欲望を満たそうと動いたのだから。

 スタースが一度でちゃんとアレシアを始末していれば、こんな事態は起こらなかった。

 とはいえ、100%成功するアサシンなど存在しない。アンシェル一家ではなくアサシンギルドの『烈火』に頼んでも同じだろう。

 であるならば。


「スタースが失敗した時に、アレシアがどう動くか予想できなかったことが問題か?」


 だがそれも難しい、とセルナは思う。

 アレシアは常人には理解できない思考回路をしている。そもそも実の弟の首を刎ねて皿に載せるような女だ。まともであるはずがない。


「大事なのは今後の方……」


 セルナの方針は決まっている。アレシアを自分で殺すことだ。

 アンシェル一家にも話を通さなくてはいけない。けれど、スタースたちは逃げたアレシアを見つけられない可能性が高い。


「とにかくアレシアを見つけることが先決か」


 使えるものは全て使う。

 まずは当然SIUを使う。白き翼にも頼むつもりだ。事件の詳細を語れば引き換えに探してくれるだろう。

 前世とやることは変わらない。セルナには戦闘能力もカリスマ性もないし、上手な演説もできない。


 じゃあ何ができるの?

 姑息な裏工作と他人を使うこと。アレシアを見つけるのはセルナじゃない。待っていれば誰かが見つける。

 前世のセルナならアレシアの殺害も他人に任せただろう。指導者になってからは、気に食わない相手の名前に線を引っ張れば自動的に粛清されていたし。

 でも今回は自分でトドメを刺さないと進めないと感じてしまった。


「まぁそれはそれとして……」


 セルナは布団から出て、呼び鈴を鳴らす。

 そうするとすぐにメイドがやってきた。


「冷たい飲み物が欲しい」


 セルナが言うと、メイドはすぐに部屋を出る。

 何を持ってくるかはお楽しみ。

 セルナは椅子に座ってしばらくボーっとしていた。そうするとさっきのメイドがジュースを持って戻って来た。


「オレンジジュースか。いいね」


 セルナは一気にコップの半分ぐらいまでジュースを飲んだ。

 キンキンに冷えていて美味しかった。


「他に何かご用はありますか?」

「いや。今はいい」


「そうですか。それでは報告です」メイドが言う。「フレット様の葬儀は帝都で行われることになりました」


「分かった。参加するから準備をしておいて」

「かしこまりました。しかしボニージャの関係者が帝都に集うのに少し時間がかかりますので、10日後とのことです」

「そうか」


 セルナが言うと、一度頭を下げてからメイドが部屋を出る。


「10日か……アレシアが死ぬほうが先だね、きっと」


 セルナは首に下げている共鳴の指輪を引っ張り出して、カルラとジャックに連絡を取る。

 自分がやる必要のあることを済ませるためだ。


「カルラ、ジャック、今話せる?」


「お姉様、自分はいつでも話せますよ」すぐに共鳴の指輪からカルラの声がする。「あ、メイドの件ですが、モニカの教育が途中なので、3日ほど待ってください」


「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます」


「セルナ、大丈夫か?」ジャックの声も別の共鳴の指輪から聞こえる。「体調的な意味だけど」


「大丈夫だよ。それよりカルラ、白き翼の奴を我が家に寄越して欲しい」

「自分が接触して大丈夫ですか?」

「うん。君は私のメイドだから、初仕事ってことにすればいい」

「なるほど。ではすぐに手配します」


「俺は何をすれば?」とジャック。


「アンシェル一家のスタースに伝えて。アレシアは半殺しの状態で私の前に連れてきてくれ、と」

「了解」


 カルラとジャックにはアンシェル一家との接触方法を教えている。セルナの使いだと言えば殺されはしないし、ジャックはきっと上手くやる。


「あと、他の連中が先に見つけたら金は払わないって言っておいて」

「それも了解」

「そしてSIUは全力でアレシアを捜索。ただし発見しても手は出さずに治安維持隊に通報すること。頼んだよ?」

「「アクセプト」」

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