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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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27話 新しい扉、ヒロインの覚醒


「フレット……」


 脳が理解を拒む。

 頭の中がぐちゃぐちゃになって。

 とっても綺麗なその首が、作り物なのではと疑って。

 だけどどう見ても本物で。

 それは同志フレットの首で。


「フレットォォォォォォ!!」


 セルナは混乱して、フレットの首に駆け寄ろうとした。

 しかしアレシアがセルナの顔面にパンチして、セルナは床に引っ繰り返った。

 痛い!? なんで!? 

 セルナは自分が殴られたと気付くまでに数秒を要した。


 ニヤッと笑うアレシアがセルナを見下ろしている。

 立たなきゃ、立たなきゃ。

 セルナは尻もちをついたような状態で。

 あれ? 腕が震えて立てない。

 あれ? 身体が言うことを聞かない。

 なんで?


「いいぞセルナ。お前はそんな風に狼狽えるのか! 可愛いぞセルナ!」


 アレシアは両手を広げて、まるで脳の回路が焼き切れた人みたく笑った。


「ほら、愛しいフレットだぞ」


 アレシアは左手で乱暴にフレットの髪の毛を引っ掴み、そのままセルナの方に投げつけた。

 セルナは飛んできたフレットの首を受け止めることも避けることもできなかった。

 フレットの首はセルナの胸に当たって、コロコロと床に転がる。


「ああああああああああああああ!!」


 セルナは叫んだ。

 訳が分からない。

 何も理解できない。

 アレシアがやったことも、自分の感情も、何もかもが。

 フレットは同志だった。

 信頼できる同志だった。


 今世、人を疑わなくていいから、セルナは仲間を全力で信じた。

 でも、考えていなかったのだ。

 それほど全力で信じた相手が、殺されるということを。

 目を逸らしていたのかもしれない。

 人を信じる気持ちよさに溺れていた。

 フレットのことを、姉から救うと約束したはずなのに。


「なんでフレットを! 実の弟だろう!? 昼食の時に反抗されたのがそんなに気に食わなかったのか!?」


 セルナは泣きながら叫んだ。


「バカ言うな。わたくしは今日、こうするとあの夜に決めていたのだ」アレシアが楽しそうに言う。「腕利きのアサシンに狙われ、自分の命が長くないと感じ、だからわたくしはやりたいようにやると決めたのだ」


「これがお前のやりたいことか!?」


「その通り! 素晴らしいだろう!? なんせ、いつも飄々としている貴様が泣き叫んでいるのだから!! 感情剝き出しで怯えながら叫んでいるのだから! 見たかったんだ貴様のそんな姿を!!」


 言いながら、アレシアは右手でセルナの髪の毛を掴んで無理やり立たせる。

 セルナは抵抗しなかった。

 いや、正しくはできなかった。

 身体が竦んでいる。

 アレシアが左の拳をセルナの腹部に叩きこむ。

 あまりの痛みに、セルナは身体を折り曲げた。


「さぁ、可愛いセルナ! あとはお前を殴り殺すだけだ! もっと怯えろ! 命乞いをしろ!」


 アレシアがセルナの髪の毛を離す。

 セルナはその場にへたり込み、だけどアレシアを睨んだ。

 そして。


「助けてぇぇぇぇぇぇ!! カルラァァ!! ジャック!!」


 力いっぱい叫んだ。

 屋敷中に聞こえるくらいの声量に魔力を乗せて、食堂の窓が砕け散った。

 魔力を乗せたのは無意識で、セルナが狙ったわけじゃない。


「くぅ……」


 アレシアが両手で自分の耳を塞いだ。


「お姉様から離れろクソ女!!」


 窓から飛び込んできたカルラが、アレシアを殴り飛ばした。

 アレシアが壁に叩きつけられるが、すぐに体勢を立て直す。


◇


 窓から入ったカルラが見たのは、叫び終わったセルナの姿だった。

 情けなく座り込み、身体が震えていて、尻の下に水溜まりができている。

 ああ、お姉様が怯えている。

 小さい頃から偉そうで、だけどいつも優しかったお姉様が。

 寒い夜はいつも抱いて眠ってくれたことを、なぜか思い出していた。

 まるで時間がゆっくり流れているかのように、カルラは多くのことを考えることができた。


 セルナの顔は鼻血と涙でグチャグチャだった。

 セルナの人生でもっとも情けない姿は?

 そう問われたらきっとこの瞬間を選ぶだろう。

 ああ、だけどお姉様、

 そんな情けないあなたが愛しい。

 情けないあなた「も」ではなく、情けないあなた「が」酷く愛しい。

 胸が、あるいは別のどこかが、キュっと締まって気持ちいい。

 その瞬間、カルラは新しい扉を開いた。

 ギフト【盲目の愛】の覚醒。


 ギフトは覚醒したその時に、何もかもを理解する。

 その使い方も、意味も、何もかも。

 カルラが開いたギフトは、セルナを愛しいと思えば思うほど、強くなるというもの。

 それも際限なく。無限に。

 だからギフトを使った刹那、カルラはアレシアを殴れると確信。

 アレシアはカルラに気付き、迎撃しようとしているが、動きが遅く見える。


「お姉様から離れろクソ女!!」


 言葉と同時にアレシアを殴りつける。

 アレシアが吹っ飛び、壁にぶち当たった。

 自分の強さにカルラ自身が少し驚いた。

 身体強化の上位互換であり、更に。


「【マナアロー】」


 カルラはもともと、簡単な生活魔法が使えた。

 そして、セルナがアカデミーに入学するために魔法を学んでいる時、カルラも一緒に魔法を覚えた。

 カルラの周囲に、桃色の魔力の矢が10本ほど浮かんでいる。


「バカな、5星魔法使い!?」


 アレシアが驚愕に満ちた声で言った。

 違う、カルラの本来の能力はセルナと同程度。2星魔法使いに過ぎない。

 自らを際限なく強化する【盲目の愛】の効果。

 今以上、これ以上にセルナを愛することができれば、まだ強くなれる。

 そういう壊れた能力。ずっとセルナを愛し続けたカルラにピッタリのギフト。


「死ね」


 カルラが言うと、10本の【マナアロー】がアレシアを襲う。


「クソがぁぁぁ!!」


 アレシアはその攻撃を8本まで回避したが、1本は太ももを掠め、1本が右耳を貫いた。


「避けるとか、化け物ですね」


 カルラがそう吐き捨てて、再度【マナアロー】を使おうとした瞬間、セルナの護衛騎士が駆け込んできた。

 そっちに目が行った隙に、アレシアが疾走。そのまま窓から飛び出した。


「これは!? セルナ様、一体何が!?」


 護衛騎士がキョロキョロと食堂内を見回しながら言った。


「フレットが殺された、アレシアが殺した、治安維持隊を呼んで」


 セルナはまだ立てないままだったが、とりあえず大事なことだけを伝えた。


「分かりました! 治安維持隊に連絡をしてくれ! 大きな問題が発生した!」


 護衛騎士は共鳴の指輪に向けて言った。


「同志フレットが?」


 カルラはそう呟いてから、床に転がるフレットの生首を発見した。


「大丈夫かセルナ!」


 ジャックが窓から飛び込んできて、護衛騎士が剣を抜いた。

 それを見てジャックも短剣を抜く。


「待って、大丈夫!」


 セルナはジャックと護衛騎士と両方に言った。


「ジャック、遅いですよ」カルラが言う。「あの怪物は自分が撃退しました」


「ああ、塀を乗り越えていたのがチラッと見えたが……カルラが?」


「セルナ様、この子供たちは……」と護衛騎士。

「いいから君は少し離れてて」とセルナ。


 護衛騎士が剣を仕舞って壁の方へと移動。


「マジかよセルナ、大丈夫なのか? 顔、殴られてるよな?」

「腹もやられてる」


 あはは、とセルナは力なく笑った。


「お姉様、怖かったでしょう」

 言いながら、カルラがセルナを抱き締める。

 そうすると、セルナの震えが伝わってとっても愛しかった。


(ああ、怯えるお姉様が可愛い!)


「って、その生首フレットか!?」


 ジャックがフレットの生首を見つけて目を丸くした。


「ああ、アレシアが殺してた……私がここに入った時には……皿に載せられてた……。まるでメインディッシュみたいに……」


 言ってから、その場面を思い出したセルナが吐いた。


「ああ、お姉様、よしよし。もう大丈夫ですよ」


 カルラがセルナの背中を撫でた。

 カルラにもセルナの吐しゃ物がかかったのだが、カルラは少しも気にしていない。

 その後、治安維持隊がやってくるまでカルラはずっとセルナを撫でていた。


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