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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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23話 もう戻る気はないよ


 夜、セルナは公爵邸の馬車で待ち合わせ場所へと向かっていた。


「お嬢様、あまり深夜に出かけないでください」


 セルナの対面に座っている護衛騎士が淡々と言った。


「ああ、悪いね。でも大事な用なんだよ」


 そもそも、付いてこいとは言っていないのだが、とセルナは思った。

 待ち合わせ場所がもっと近ければ、コッソリ抜け出して歩いて行くのに、と心の中で溜息を吐く。

 馬車の窓から空を見上げると、いい感じに星々が瞬いていた。


 特に『いい夜』でもなく、極めて普通の夜。こんな夜は特に何も起こらないものだ。

 そんなことを考えていると、セルナが指定した場所に馬車が到着。

 まず護衛騎士が馬車を降りて、セルナをエスコート。

 1人で馬車ぐらい降りられるのだが、と思いつつもセルナは護衛騎士のエスコートに従って馬車を降りる。


「ここで待て」とセルナ。


 ここは路地裏への入口。

 スラムではないが、夜に女の子が一人で歩くような場所ではない。

 とはいえ、セルナは前世を男として生きたし、今世でもまだ自分が女の子であるという感覚が薄い。

 もちろん、自分の美貌は理解しているし、それを武器として使うこともあるけれど。


「しかし……」と護衛騎士。


「大丈夫だから。私の護衛なら私の命令に従ってくれ。30分で戻る」


 脅迫できれば早いのだが、この護衛騎士は特に目立った不正を行っていない。立ち小便レベルの、どうでもいい不正が少しあるだけ。


「一体、ここで何を……」

「君がそれを知る必要はない」

「……当主には報告しますよ?」

「ご自由に」


 小さく肩を竦めてから、セルナは路地裏へと踏み込んだ。

 少し歩くと民家があって、セルナはその中に入った。中が暗いので、セルナは自分の前に【光球】を浮かべて光源を確保。

 民家の玄関を抜けて最初の部屋にはテーブルと椅子が並んでいて、セルナはその一つに腰を下ろした。


「時間通りなんだな」と少年の声。


「君もね」


 セルナが言うと、どこからか出現したスタース・アンシェルがセルナの対面に腰を下ろした。


「あー、なんだ、その……」


「失敗したんだろう? 分かってるよ」セルナが言う。「なんせアレシアは今日も元気に登校していたからね」


「そう。失敗した。あそこまでの怪物だとは思わなかった。正直、オレだけじゃ何度挑んでも殺せない……少なくとも、そう感じたよ」

「ふむ……」


 セルナはアンシェル一家にアレシアの殺害を依頼していた。必要な金はこの前潰した犯罪組織の財産から用立てた。あの犯罪組織、思った以上に金を貯め込んでいたのだ。


「だから確実に殺すならオレらも2人以上でやる」

「ではそうしてくれ。あいつは早めに処理したい」

「だろうね。10年後なら、我が家総出でも殺せなくなるかも、ってレベルだったし」

「最初に言ったはずだけどね。【剣才】というギフトを持った化け物だ、って」

「ああ。でも14歳の女の子だぜ? 強いって言っても、あそこまでとは思わない」


 やれやれ、とスタースが両手を広げた。


「他に用がなければもう帰るよ? 口うるさい護衛を待たせているんだ」

「いや、追加料金を徴収することになった」


「……はぁ?」ギロッとセルナがスタースを睨む。「すでに5000万リブラも払っているのに?」


 だいたいの内訳は、伯爵令嬢という地位が3000万で、戦闘系のギフトを持っているというのが加算で2000万。


「止めるのは自由だぜ?」

「ふざけ……」


 立ち上がろうとしたセルナの首に、冷たい刃が当たった。

 セルナは動きを止め、息を呑む。

 スタースは動いていない、セルナの前に座ったまま。

 つまり、別の誰かが背後から音もなく近寄って、セルナの首にナイフか何かを当てたことになる。


「心配しなくてもぉ、追加はたったの1000万だし」


 セルナに刃物を当てている人物は、妙に明るい声で言った。その声で女であることは理解できた。

 であるならば、アンシェル一家の長女マルガレーテだろう、とセルナはすぐに推理。

 母親にしては声が若いし、末っ子にしては声が大人びている。


「あーしも怪物狩りに参加するから、その分ちょーだいってだけだし」

「分割払いでもいいかな? 5000万払ったばかりなんだ、さすがに一括は無理だよ」

「いいよいいよ、分割大歓迎!」


 言いながら、マルガレーテがゆっくりとセルナの首から刃物を外す。

 セルナは心の中だけで安堵の息を吐いた。一流のアサシン2人と戦って、生き残る自信はセルナにはない。

 マルガレーテは踊るようなステップでスタースの隣に移動した。


「あーしはマルガレーテ・アンシェル。アンシェル一家の長女っしょ! よろぴー♪」


 マルガレーテはピースをしながら言った。

 マルガレーテの髪型は、低い位置でツインお団子を作っている。

 髪の色は水色で、顔立ちは美人というよりは可愛い系。頬にハートの絵を描いている。

 服装はボタンではなく紐で留めるタイプのスリットドレス。横に深いスリットが入ったワンピースタイプの服だ。色はド派手な黄色。


「反応してねセルナっぴ。あーし沈黙嫌いだから」


 ダンッ、とマルガレーテがテーブルにナイフを突き刺した。


「ああ、えっと、私はセルナ・アルカサル。よろぴー?」


 セルナは小さく首を傾げながら言った。

 よろぴーの使い方が合っているのか少し疑問だったからだ。

 まぁたぶん『よろしく』の可愛い言い方なのだろうと推測はしているが。


「ええ!? 超可愛いし! 我が家に嫁に来ない!?」


 マルガレーテが両手で自分の頬を押さえながら、身体をクネクネと動かした。


「いや、嫁には行かないよ。マルガレーテ……さん」

「待って待って! マルガレーテさんとか超他人じゃん!?」


(お前は他人だが?)とセルナは思ったが言わなかった。


 マルガレーテのような感情とその場のノリで動くタイプは危険だ。地雷を踏んだら即終了、なるべく顔色を窺いながら発言する必要がある。


「マジでウケるぅ! あーしのことはレーテって呼んでぇ!」

「ああ、うん、分かったよレーテ」


 セルナはニッコリと微笑みを交えてそう言った。

 同時に【記録詠み】を使用。

 ザ・アサシンという感じの不正が並んでいた。


「キャー! 超かわ!」


 マルガレーテ改めレーテがクネクネと体を捩る。

 不正、殺人の詳細をいくつかサッと確認すると、どれも身の毛のよだつものだった。

 レーテはただ仕事として人を殺しているのではない。殺しそれ自体を楽しんでいる。

 それがハッキリ分かる内容だった。レーテはアレシアと同類なのだ、とセルナは理解。

 であるならば、セルナの作る社会にレーテの席はない。


「あー、姉貴、そろそろ本題に入ろうぜ」


 スタースが呆れた様子で言った。

 ちなみにスタースの席は用意してもいい、とセルナは思っている。

 初めて会った時に【記録詠み】を使ったのだが、スタースは仕事としての殺人しかしていない。


 無駄にターゲットを苦しめたりしていないし、スタース自身も殺しを楽しんだりしていない。つまりプロフェッショナル。

 アサシン一家に生まれたからアサシンをしているだけの少年。今後はセルナのためだけに人を殺すなら、同志にしてもいい。


「ん? そだねー。これ新しい契約書。サインよろぴー」


 レーテがどこからかクルクル巻かれた紙を取り出し、それを広げてセルナの前に置いた。

 セルナはその契約書をしっかりと読む。

 大事なのは2点だけ。1つは、支払はアレシア殺害後で良い、ということ。もう1つは、アレシア殺害は10日以内に実行する、ということ。


「分割の件も書いてくれないかな?」


 セルナが言うと、レーテが契約書を回収して自分の前に置く。

 それから、またどこから出したのか万年筆で分割の件を書き込み、再びセルナの方に置く。


「最初の時も言ったと思うけど」スタースが言う。「サインしたら後戻りはできないよ?」


「戻る気はないよ。これは必要なことだから」


 セルナはもう一度しっかり読んでからサインした。

 理想の社会にアレシアの席はない。

 ならば素早く消す必要がある。

 今後、アレシアが成長して手に負えなくなる前に。

 セルナに決定的な不利益をもたらす前に。


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