20話 初めての……
その建物は二階建ての酒場を改装したもので、入口のドアは頑丈で分厚い木製に変えられていた。
ここはカノー地区の中心街から少し離れた裏通り。
この通りは夜になると賑わうのだが、今は歩いている人も少ない。
アレシアは【身体強化】を使ってから、頑丈なドアを蹴り開けた。
木製のドアが内側に飛んでいき、中でくつろいでいたチンピラたち数名を押しつぶした。
「やあこんにちは!」ドアを蹴ったアレシアより少し早く中に入ったセルナが元気に言う。「そして死ね!」
(セルナは意外と普通だな)アレシアは思う。(もっと何か喋るかと思ったが……まぁいいか)
あは、とアレシアは笑ってから剣を抜く。
「てめぇらなに……」
チンピラの一人が叫び、そして叫び終わる前にアレシアが踏み込み、高速でチンピラの首を刎ねた。
その首がまだ空中を舞っている間に、アレシアは次のチンピラを斬る。
「敵襲ぅぅぅぅぅ!!」
そう叫んだ人物を、セルナの【マナアロー】が貫き殺す。
だだっ広い一階部分にいるチンピラの数は9人で、あっという間に0人になる。
ああ、生きているのが0人という意味で、死体は残っている。
2階からチンピラたちが武装して降りてきたので、アレシアは嬉しくて身震いした。
これで終わりではあまりにもあっけない。
だから少しサービスしようと思って、アレシアは剣を床に刺してヘラヘラと笑った。
新たに降りてきたチンピラは7人で、その中のリーダーっぽい人物が言う。
「てめぇら、どこのもんだ? 真昼間っからカチコミくれやがって。生かして帰さねぇぞクソが」
「ああ! ぜひそうしてくれ!」アレシアが両手を広げながら言う。「できるならわたくしにこの世の地獄を教えてくれ!」
アレシアは本気でそう願っていた。
セルナは少し引いた様子で苦笑い。
「やっちまえ!!」とリーダーっぽい人物が叫ぶ。
そうすると、魔法使いが【サンダーアロー】を放つ。
アレシアはあえてその攻撃を肩の辺りで受けた。
雷を伴った魔法の矢はアレシアの肩を貫き、そのままアレシアに電撃でのダメージを与える。
「あははははははは!! いいぞ!! 痺れてくるぅぅぅ!! 痛いぞぉぉぉ!! これは濡れる!!」
アレシアは壊れた人みたいに楽しそうに笑った。
セルナはボソッと「きしょ……」と呟いた。
チンピラたちも攻撃しようと駆け出していたのだが、アレシアの異様な笑いに足が止まってしまう。
「どうした!? 攻撃しろ!! わたくしを楽しませろ!! 初デートなんだ!! もっともっと楽しませろ!!」
電撃の効果を全て受け止め、アレシアが叫んだ。
「ビビッてんじゃねぇ!! 相手はガキ二人だ!!」リーダーが叫ぶ。「行けクソども! ビビッてんなら俺様が殺すぞ!?」
リーダーは大剣をブンと振り下ろし、テーブルを真っ二つに裂いた。
それを見てから、チンピラたち3人がアレシアへと向かって走り、2人がセルナへと向かった。
◇
魔法使いは再び【サンダーアロー】を放ったが、今度はセルナに向けて撃った。
セルナは自分の前に【シールド】を展開してそれを防御。
それからチンピラ二人の攻撃をスルスルと躱してから短剣を投げる。
短剣は魔法使いの額に綺麗に突き刺さった。
「あら……」
セルナは驚いて目を丸くした。
余裕でマグレである。セルナはこの短剣で魔法使いを殺そうと思ったのではなく、牽制しようとしただけ。
とりあえず殺せたので良しとして、セルナはサッと振り返ると同時に【マナアロー】を放ってチンピラの首を貫いた。
これでセルナに向かってきたチンピラは残り一人。
残ったチンピラは長剣をしっかりと構え直した。
アカデミーの生徒に比べるとあまり綺麗ではないが、素人でもない、という感じの構え方。
チンピラは呼吸を整え、さっきとは違う丁寧な斬撃を繰り出す。
セルナの戦闘能力は、正直それほど高くない。ないのだが、チンピラの剣撃をセルナはスッと回避。
セルナは自分の命を何より大切に思っているので、護身術だけはそれなりだったりする。
回避と同時に、セルナはチンピラの手首を捻って剣を奪った。
チンピラはどうして剣を奪われたのか分からず、一瞬だけ呆けた。
その隙を見逃すほどセルナは優しくない。
サクッと奪った剣でチンピラの腹を突いた。
セルナは剣を手放し、チンピラから離れる。
そうすると、チンピラが泣きそうな顔でセルナを見て、それからゆっくり倒れた。
セルナがアレシアの方を見ると、すでに三人を斬り伏せてリーダーと斬り合っていた。
「ふむ……背後から【マナアロー】を使ったら……」
それでもアレシアを殺すのは無理だな、とセルナは判断した。
試してもいいが、たぶん普通に避けられて、それで終わりだ。
アレシアは性格的にセルナを責めないが、今後警戒されるだろう、とセルナは予測。リスクが高すぎるので、セルナはとりあえず見学することに。
アレシアはしばらく遊んだあと、リーダーの両足を斬り落とした。
リーダーが断末魔みたいな悲鳴を上げて床を転がる。
「さぁセルナ、初めての共同作業だ! トドメは貴様が刺せ!」
高揚した様子でアレシアが言った。
セルナは普通にめんどくさ、と思った。
思ったが、歯向かうつもりもないので、リーダーの頭に【マナアロー】を撃ち込んだ。
魔法使いのもっとも基本的な攻撃方法が【マナアロー】で、得意属性をまとわせるのがスタンダード。
セルナは未だに自分の得意属性が分からないので、そのまま使っているが。
「さぁセルナ! ハグをしよう!」
アレシアが両手を大きく広げた。
セルナは溜息を吐きながら、アレシアを抱き締める。
「いいデートだった」
そう言って、アレシアが両手でセルナの顔を固定。
それから、セルナの唇に自分の唇を重ねる。
セルナは何をされたのか一瞬、理解が及ばなかった。
それがキスだと気付いたのは舌を入れられた時だ。
セルナはアレシアを押し退けようとしたが、【身体強化】を使っているアレシアはビクともしない。
セルナも自分に【身体強化】を施したが、それでも引き離せなかった。
ならば、とセルナは親指をアレシアの傷口にねじ込んだ。チンピラ魔法使いの【サンダーアロー】に貫かれた肩の傷口のこと。
「いいぞセルナ、残酷なことも平気な顔でできる貴様が愛しい」
くっくっく、と笑いながらアレシアがセルナから離れた。
セルナは心の中で(こいつ本当に嫌いだ。本当に早く消してしまわなきゃ)と思った。
「おいおい、そんな顔をするなよセルナ」アレシアは相変わらず笑っている。「嬉しくなって襲ってしまうだろう?」
アレシアのその言葉で、セルナは表情を殺した。
本当に襲われかねないと思ったからだ。
「それより、返り血を落として急いで帰ろう」
言ってから、セルナは【水球】を二つ作って、一つをアレシアの方へと移動させた。
セルナとアレシアはその【水球】で手と顔を洗った。
服に付着した血はもう仕方ない、ボニージャ伯爵低で着替えるしかない。
◇
セルナとアレシアが去ったあと、近くで待機していたジャックと孤児たちがアジトの中に入った。
死体を見て顔をしかめる子もいたが、それだけだ。吐いたり喚いたりは誰もしなかった。
ジャック達は全ての部屋を調べて、生き残りがいないことを確認し、あらゆる財産を回収してから撤収。これはもちろんセルナの命令だ。
「せっかくだから連中の金を我々の資金にして有効活用しようじゃないか」というのがセルナの言葉。
撤収している最中、ジャックは自然に笑顔になった。
なぜなら、ジャックは戦果に非常に満足していたから。
それは金額の問題ではなく、犯罪組織とカノ―男爵が交わした契約書が見つかったことが理由だ。
「こういうのって口約束でやると思ってたけど」ジャックが呟く。「お互いに信用してなかったってことか」
どうであれ、このあとのことが少しやり易くなったのでは、とジャックは思った。




