18話 アサシンギルド
数日後。
セルナは白き翼の酒場にいた。少し子供っぽいフリフリした高価なドレスで。
セルナ的には平民の服が好きなのだが、公爵家が高価なドレス以外を許さなかった。セルナの意思を無視して大量のドレスが購入されていたのだ!
「アサシンギルドを紹介してほしいとか、セルナちゃん何かあったの?」
ギルドマスターのルシアノが目を丸くして言った。
ここは酒場の隅の方の丸テーブル。
セルナの対面にルシアノが座っている。
「君に関係ない。紹介してくれるのか? それともくれないのか?」
セルナはツンとして言った。
ルシアノみたいなタイプはあまり好きではないのだ。
ちなみに、セルナはここまで公爵家の馬車で訪れて、馬車では護衛騎士とメイドが待機している。中に一緒に入ろうとした護衛騎士を待機されるのに少しだけ苦労した。
「もちろん紹介はするさ。どっちがいい?」
「どっちとは?」
「おや? セルナちゃんはアサシンギルドについては何も知らない?」
「知らないからここに来たんだが?」
「そっか。まぁそうだよな」
ルシアノが肩を竦め、少し笑った。
「説明を求める」
「ああ。いいとも。まずアサシンギルドは2つある」ルシアノが指を2本立てる。「1つは国を跨いで活動している『烈火』。もう一つは帝国内でのみ活動している『アンシェル一家』」
「更に詳しく」
「そりゃ有料だろ、普通に」
ルシアノが言って、セルナは財布から1万リブラ札を出してテーブルに置いた。
「それだと口頭で片方のみ、だな」
「ふむ」とセルナが1万リブラ札を追加した。
「ちなみに資料が欲しけりゃ片方3万リブラだ」
「意外と安いね」
「紹介料は含まれてねぇ。ただどういう組織か概要が載ってるだけだ」
「そうか。概要だけだとしたら高い。資料はいらない。口頭でサッと聞かせてくれ」
「よし。まずは烈火の方だが、こっちは人数も多くて幅広く色々な仕事を受けてくれる。本拠地がどこにあるのかは俺らも知らねぇ。が、窓口は分かってる。組織が大きい分、事務方がしっかりしていて、依頼も事務の奴にする。んで、仕事の内容によって適切なアサシンが派遣される、ってシステムだ」
「なるほど。効率的で良さそうだ」
「反面、難しすぎる仕事は断られることもある」
「幅広く受けているのに?」
「誰でも殺すって意味じゃねぇ。皇族や王族の殺害はまず間違いなく断られる。けど、殺し方や殺す日なんかの、細かい指定が幅広くできる、って意味だ。もちろん金額は跳ね上がるけどな」
「アンシェル一家は?」
「こっちはマジで家族経営」ルシアノが水を一口飲んだ。「分かりやすく言うと、当主の男を中心として、その妻、娘二人、息子一人、それから当主の弟が一人。ちなみに暗殺稼業を始めたのは当主の父で、そいつは一線を退いて教育に力を入れている」
「たったの6人で回していると?」
「ああ。だから忙しい時は普通に断られるが、実力はかなりのもんだ。特に子供たちは生まれた時から仕込まれてる」
「実力ね。正直よく分からないけど、実力を見せてくれと言ったら素直に見せてくれるかな?」
「どうかな。そいつは気分次第かもしれねぇし、俺には分からんな。まぁ下手なことを言って怒らせるのはやめとけ」
「ふむ……たとえばだが、『竜絶』の団長を殺してくれと言ったら、受けると思うかい?」
竜絶は皇帝直属の特務騎士団で、帝国の最高戦力だ。
「烈火は断るだろうぜ。でもまぁ、アンシェル一家はスケジュールが空いてるなら受ける。そういう連中だ」
「そうか。ではアンシェル一家を紹介してくれ」
セルナが言うと、ルシアノは少し驚いた様子だった。
「セルナちゃん、マジで竜絶の誰かを殺したいわけじゃないよな?」
「君に話す必要はない。紹介だけしてくれ」
殺すのはもちろんアレシアだ。世界が引っ繰り返っても彼女の席はない。
「紹介状を書こう」
ルシアノが右手を上げると、酒場の店主が一度奥に引っ込む。
「いくらだ?」
「殺す相手を教えてくれたら無料にしておこう」
割といい申し出か? とセルナは少し迷った。
「いや、やはり言わない。というか、殺すかどうかも定かじゃない。念のため、アサシンとも繋がっておきたい、ってだけさ」
セルナは真っすぐにルシアノを見た。
「ま、ムカついても簡単に殺しちゃダメだぜ?」
ルシアノが真っ当なことを言った。
「そうだね」
セルナが言って、ルシアノが溜息を吐いた。
「50万だ」
「分かった」
セルナは財布から小切手を出して、金額を書き込んだ。
お小遣いのほとんどが消し飛んで、少し悲しかった。
公爵令嬢となったセルナは、公爵家から毎月60万リブラが与えられる。同時に、自分の口座も公爵家の手配で手に入れた。
「ところで」とルシアノが言ったところで、店主が紙を持ってきた。
よくあるサイズの紙だ。
ルシアノがその紙の中身を読み、下の方にサイン。それからセルナに見せる。
「うん。ありがとう」
セルナはサッと確認してそう言った。
特に何の変哲もない普通の紹介状だ。
ルシアノがその紙をクルクルと巻いて、ひもで縛ってからセルナに渡した。
「じゃあ、私はこれで」
「待った!」
席を立とうとしたセルナを、ルシアノが引き留める。
「シニッカのことなら誰にも言わないから心配しなくていい」とセルナ。
「そりゃありがてぇけど、シニッカのことじゃねぇ」
「そうかい? では私に付けている見張りのことか? 心配しなくても背の高い男が現れたらシニッカに教えるよ」
「おっと、見張りに気付いてたか」
「おいおい、もしかしてコッソリ見張ってるつもりだったかね?」
「ははっ、連中はもう引き揚げさせる。それよか、セルナちゃんやっぱり公爵令嬢だったんだな」
「ああ。色々と面倒な事情があってね」セルナが肩を竦める。「堂々と言えなかった」
「うちの正式なメンバーにならない?」ルシアノが言う。「外部協力者から始めてくれてもいいけど」
「ふむ……。外部協力者ぐらいなら、まぁ機会があればやってもいいかな」
「よし。約束だぞ?」
「機会があれば、だ」
やれやれ、とセルナは息を吐いた。
セルナとしても白き翼の持つ情報を抜き取りたいので、近寄れるなら近寄ってもいい。
「それでいいさ。用がある時は連絡員が接触する」
「分かった。それじゃあ、また」
そう言って、セルナは席を立った。
ルシアノが手を振ったけど、セルナは振り返さなかった。
馬車に戻って、メイドに「家に戻ろう」と伝える。そうすると、メイドが御者に目的地を伝えた。
(アンシェル一家に会うのは来月だね。今はもうお金がない)
そういえば暗殺の料金を聞くの忘れてたな、とセルナは思った。
◇
「同志ニーナが面倒なことに巻き込まれてんぞ」
夜、眠る前のこと。
共鳴の指輪でジャックからそう連絡があった。
「同志ニーナが?」
セルナは少し驚いた風に言った。
すでにニーナには理想の社会について話していて、共感も得ている。
下着泥棒を撃退した件のあとから、セルナとニーナの仲が急速に深まった。なので、少し駆け足で同志に誘い、SIUについてもある程度教えていた。
「ああ。ニーナの実家が地元犯罪組織の地上げを食らってんだよ」
「実家はパン屋だよね?」
「そう。そこを犯罪組織が買おうとしてんだ。そこだけじゃなくて、その辺り一帯を。バックに貴族がついてるっぽいけど、そこまでは調べが進んでねぇ」
ちなみに、ジャックが調べていたのは犯罪組織ではなくニーナのこと。
同志となる前から、セルナはニーナについて徹底的に調べるよう指示をしていたのだ。悪意からではなく、ただ知っておくため。
「明日、アカデミーでニーナに詳しく聞いてみよう」
「ああ。俺はどうする?」
「調査を続けてくれ。犯罪組織を潰すことも視野に入れて、だ」
「アクセプト」




