15話 下着泥棒と皇女
ニーナの苦難は続く。
なぜか放課後、セルナとフレットに誘われて一緒に魔法の自主練習をすることになった。
そんなわけで放課後になってすぐ、ニーナたちは魔法科1年生が使える野外訓練所に移動した。
そうすると、そこには先客がいた。
第三皇女とその取り巻きたちである。正確には、皇女、男子二人、女子二人の合計5人。
全員が魔力の星を浮かべている。皇女が3個で、残りの者たちが2つ。
皇女の星の色は澄んだ青空のような色をしていた。得意属性は水だろうか、とニーナは思った。
「おや? あれって皇女だっけ?」とセルナ。
「そうだね。どうする? 話しかけてみる?」とフレット。
(や、やめてぇぇぇぇ!)
ニーナは心の中でそう叫んだ。
公爵令嬢と伯爵令息と一緒にいるのも意味不明なのに、皇女様まで増えたら私の心臓がもたない、とニーナは思った。
セルナとフレットが皇女に近寄り、ニーナもビビりながら後に続く。
皇女たちが星を浮かべるのを止めて、ニーナたちに視線を移した。
「やあやあ」
セルナが右手を上げて、まるで前から友達だったかのように気軽に話しかけた。
あ、公爵令嬢だから友達なのかな? とニーナは思った。
「初めまして」とセルナ。
いや、始めましてなんかーい、とニーナは心の中で盛大に突っ込んだ。
友達みたいな雰囲気だったじゃないですかぁ、とニーナは苦笑い。
「君は確か、アルカサルの子だったかしら?」
皇女がセルナを見詰めながら言った。
皇女の髪型はセミロングのストレートで、清潔感があって上品な印象を受ける。髪色は藤の花のような明るい紫。繊細で高貴な印象を受ける色。
瞳の色も髪と同じ藤色で、全体的に整った絵画のようだ。
「ああ。私はセルナ・アルカサル。アルカサル公爵家の直系だよ。よろしく、皇女様」
とはいえ、セルナやアレシアに比べたら皇女の美しさは少し劣る。
セルナとアレシアが人類の美の上澄みだからで、皇女は十分に美人と呼べる。
ちなみに年齢はニーナやセルナと同じ13歳。
アカデミーは13歳から16歳まで受験できるので、同じ学年でも年齢はバラバラだったりする。
「あたくしはルビィ・パレンシア・ベナビデス。知っての通り、帝国の第三皇女よ」
ルビィ皇女は凛とした様子で言った。
「僕はフレット・ボニージャです皇女殿下」
フレットが丁寧に礼をした。
「あ、えっと、私はニーナといいます……平民です」
「平民だと? 無礼だぞ」
ニーナも挨拶したのだが、ルビィの取り巻きの男子に睨まれてしまう。
「貴様が平民であるならば、殿下に挨拶する立場にない。その上、真っすぐ見詰めるなど不敬もいいところ。目を伏せていろ」
男子は短い髪をツンツンに立てている。
言動から貴族だろうと推測できるのだが、どこの家門なのかニーナは知らない。
「申し訳……」
ニーナが頭を下げようとしたのだけど、なぜかセルナが左手でニーナを制した。
そして。
「下着泥棒の分際で私の友人を咎めるとはいい度胸だ」
セルナはツンツン髪の男子を睨みながら言った。
場に沈黙が訪れる。
でも長くは続かない。
「ばば、バカなことを! いいいい、いくらアルカサルのご令嬢でも、でも、そそそ、そのような侮辱ははは、ゆる、許されないぞ!?」
ツンツン男子は明らかに動揺し、右手の人差し指でセルナを示した。
「おい。公爵令嬢を指さすとは無礼だな」セルナが言う。「その上、真っすぐ見詰めるなど不敬もいいところ。目を伏せて下着に思いを馳せていろ」
ニーナは理解した。
セルナはちゃんと、本当に、平民のニーナを友人だと思っているのだと。
どうしてセルナに気に入られたのかは分からないけれど、セルナがツンツン男子を攻撃しているのはニーナのためだということは分かる。
だからと言って、下着泥棒という濡れ衣を着せるのはどうかとも思うけれど。
それでもニーナは嬉しかった。
公爵令嬢とは雲の上の存在だ。
そんな存在が、ニーナを守ろうとしているのだから。
◇
「実に面白いわね」ルビィがツンツン男子をチラッと見てから言う。「こいつは別に友達でもなんでもないけど……その侮辱はさすがに言いすぎだわ。取り消しなさい」
実際問題、ツンツン男子は勝手にルビィにくっついているだけなのだ。
ちなみにツンツン男子の年齢は15歳で、ルビィの入学に合わせて自分も入学したというタイプ。
他の三人の取り巻きたちも似たようなもの。
「事実だったらどうする?」とセルナ。
「事実なの?」
ルビィがツンツン男子に向き直って言った。
「まま、まさか! そのようなことは、ございません!」
「と、言っているけれど?」
ルビィがセルナの方に向き直る。
「彼は今、盗んだ下着を着用している」
セルナが言って、場に戦慄が走った。
ルビィとセルナ以外の者が一歩後退し、ツンツン男子から距離を取る。
「なな、ぬぁわにを根拠にっ!」
「脱げば分かるだろう?」
「ば、ばか言うな! オレは脱がんぞ!」
「じゃあこうしよう。私も脱ぐから君も脱げ」
「は?」
ツンツン男子が目を丸くする。
「それは実に公平ね」ルビィがうんうんと頷く。「あたくしは力のない皇女で、母はメイドの出。だけれど、陛下に認められたれっきとした皇族。そのあたくしが証人となるわ。彼の名誉のためにも、脱いで確認しましょう」
「ここここ、皇女殿下!?」
ツンツン男子は明らかに焦って目が泳いでいる。
「セルナ・アルカサルの言葉が嘘なら」ルビィが言う。「侮辱罪及び、帝室侮辱罪、更に偽証罪で裁くことを約束するわね」
「彼が本当に下着泥棒なら?」
「金輪際、あたくしへの接近を禁止するわ。それだけではなく、被害者に教えて窃盗罪で訴えるように推奨する」
ルビィが言って、セルナが頷く。
「えっと、セルナ……?」
ニーナが不安そうにセルナを見ている。
反面、フレットは涼しい顔をしている。
「大丈夫だよニーナ。彼は本当に下着泥棒だから」セルナがニヤッと笑う。「しかも一番のお気に入りは継母の下着だよ」
場に衝撃が走った。
ルビィの取り巻き三人がバッと後方に下がって距離を取る。
ツンツン男子は顔面蒼白で、今にも吐きそうな感じだった。
(脱ぐまでもなさそうね)とルビィは思った。
しかし、セルナはまるで脱ぎ慣れているかのようにパパっと下着姿に。
「ちょ、ちょっと!?」ルビィの方が焦ってしまった。「そそ、そんな簡単に脱いじゃダメよ!? もっと隅の方で、あたくしだけが確認するつもりだったのに!」
「あ、そうなの?」セルナはキョトンとした感じで言う。「まぁでも別に気にしなくていいよ。見ての通り、肌着とドロワーズだし。色気の欠片もない」
「それでも! みんなの前で脱ぐのはどうかと思うわよ!?」
ルビィは強い口調で言った。
「セルナ! いいから着て! もう着て!」
フレットも酷く慌てた様子で言った。
「はいはい」
セルナはササっと制服を着直す。
それからツンツン男子に視線を移した。
ツンツン男子が後ずさる。
「逃げたら君の継母にチクる」セルナが冷酷に言う。「きっと彼女、自分の下着がないことを不思議に思っているだろうからね。ふふっ、私のドロワーズとは違う、大人のショーツのことだよ?」
ツンツン男子がドサッとその場に膝を突く。
「ど、どうか彼女にだけは……」
「ではニーナに謝罪しろ」
セルナが言って、ツンツン男子は酷く悔しそうな表情を浮かべた。
貴族としてのプライドが、平民に謝罪することを拒んでいるのだ。
とはいえ、結局彼はニーナに謝罪の言葉を述べた。
「消えなさい」ルビィが冷淡な声で言う。「二度とあたくしの視界に入らないで。もし見かけたら、どんな手を使ってでも後悔させるわ」
ツンツン男子は急いでその場を去って、そして二度とルビィと会うことはなかった。
「それでセルナ」ルビィが面白そうに笑う。「彼が下着泥棒だと、どうして知ってたのかしら?」




