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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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12話 アルカサル公爵家


 下校時間の正門前は混雑している。なぜなら、貴族の子供たちを迎えに来た馬車が大量に停まっているから。

 セルナとフレットも正門に向けて並んで歩いていた。


「それにしても、入学式はないんだね。ちょっと楽しみだったのに」

「入学式?」とフレット。

「知らない?」

「初めて聞いた。どんなの?」


「ふむ。まず生徒たちを広い場所にズラッと並べるんだ。まるで軍隊のようにね」セルナが語る。「で、私のような指導者が政治的演説を行う。学問についても少し話すけど、大筋は『祖国にどう貢献するか考えるように』って言う」


(生徒目線じゃなくて指導者目線!?)


 フレットは少し驚いたけど、セルナの目標を知っているのでまぁ納得した。


「他には敵国がいるなら敵国についても話す。資本主義の豚どものことなんかもね」セルナがどこか懐かしそうに言う。「それでまぁ、新入生に花束を渡して、ベルを鳴らし終わり」


「なるほど……でもそれほとんど演説だね……」

「花束を贈呈する時に祝辞を述べるよ。これから偉大な祖国の歯車として自覚を持つようにって」

「あ、うん……」

「帝国の入学式はどんなだろう、って思っていたのにまさかないとは……」


 そんな風に会話を楽しんでいたら、いつの間にか正門の近くの噴水に到着。

 本来、アカデミーの敷地内に馬車を乗り入れてはいけないのだが、なぜか噴水の横に大きな馬車が停車していた。

 馬車の隣には老執事が立っている。


「邪魔だなぁ」とセルナ。


 生徒たちは馬車を避けて正門を目指している。


「あの大きさの馬車なら上位貴族だと思う」フレットが言う。「うちの馬車より大きいし」


「上位貴族って確か、大公家、公爵家だっけ?」

「そう。辺境伯家も領地の広さは僕ら伯爵家と変わらないけど、軍事的に強いから上位貴族だよ。僕たち伯爵家と男爵家はその下。中位貴族って呼ばれてるね」


 更に下位貴族としてアカデミーを卒業した魔法士、騎士、準男爵がいる。

 この下位貴族のことを準貴族と呼ぶこともある。そして準貴族の数はアカデミーの卒業者の数だけ存在しているので、かなり多い。


「えっと、辺境伯はあれだね? 隣国と国境を接している中でも、落とされちゃいけない重要な領地を治めている少し特殊な存在だったね?」


「そう」とフレットが頷く。


 まとめると、帝室を頂点として権力の強い順に大公家、公爵家、辺境伯家、伯爵家、男爵家、その他準貴族家という並びになる。

 帝国は貴族の数がかなり多いが、上位貴族の数は少ない。

 大公家に至っては2つしかない。

 公爵家は7つで、辺境伯家は6つ。


「この帝国の地図を見ると頭が痛くなりそうだよ」セルナが言う。「いずれ私が頂点に立ったら全部を1つの中央政府にして、構造そのものを変えてやる」


「理想の社会だね!」フレットが目を輝かせる。「中央政府の中に州があって、州の中に県があって、県の中に市があって、市の中に街がある!」


「そう。行政区分を整え、権力を私に一本化する」


 もちろん貴族制度など即時廃止だ。

 と、大きな馬車の老執事がセルナを見て近寄ってくる。


「何か御用ですか?」


 フレットが左手を伸ばしてセルナを庇うように立ち止まる。


「セルナ様、お迎えに上がりました」と老執事。


「誰だ君」


 言いながら、セルナは老執事に【記録詠み】を使用。

 脅迫、拉致、監禁、不当な尋問、拷問、その他もろもろ、かなりやばい執事だ。

 まぁ、上位貴族に仕えているなら汚いこともやるだろう、とセルナは思った。


「アルカサル公爵家でございますよ、セルナ・アルカサルお嬢様」


 老執事はニコッと微笑みを浮かべた。

 フレットとセルナが目を丸くする。

 近くにいた生徒たちがヒソヒソと何か喋っている。


「馬車に乗ってください。旦那様がお待ちです」

「……私はアルカサルだと自称したことはないよ?」

「ええ、そうですか。ですが、まずは旦那様とお話しましょう。セルナ様の家出について、ね?」


 老執事は笑顔だが、圧が凄かった。


「……断ったら?」

「おやおや? もし家に戻らないのでしたら、旦那様はきっと『罰を与える』でしょうね」

「行くよ」


 セルナは小さく息を吐いた。

 これは逆らったら死ぬか、そうでなくてもヤバい状況に陥るやつだ。


「セルナ……?」


 フレットが心配そうに言った。


「大丈夫。ちゃんと伯爵邸に戻るから、もう行って」


 セルナは優しくフレットの肩を押した。


「分かった。待ってるから」


 フレットは少し迷ったがセルナの言うことを聞いた。


「ではどうぞ、お嬢様」


 老執事がセルナをエスコートし、セルナは馬車に乗った。

 セルナの対面に老執事が座り、御者との連絡用の窓をコンコンと叩いた。

 それを合図に、馬車が動き始める。


「私はお嬢様になったつもりはないが?」

「ええ、そうでしょうとも。あなたはアルカサル公爵家とは縁もゆかりもない人物ですから」

「……だよね。容姿が偶然、アルカサルに似ているってだけで」


「似ている、どころではありませんがね」老執事が肩を竦めた。「しかし運がいい。あなたはアルカサルの養子になれるのですから」


「なんだって?」

「もちろん、あなたに相続権などはありません。しかしながら、アルカサル公爵令嬢としての恩恵は全て受けられます」

「……意味が分からない」

「詳しくは旦那様が話すでしょう。わたくしめは事前情報を与えただけでございます」


 それっきり、老執事は黙ってしまう。


(クソ、こんなことならアルカサルの情報を買っておくんだった……)


 セルナはアルカサル公爵家について表面的なことしか知らない。

 容姿の特徴が似ている程度で、接触があるとは思ってもいなかった。

 仕方ないので、セルナは今知っている情報を頭の中で整理。


 アルカサル公爵家の領地は帝都の東側にあって、巨大な穀倉地帯を有している。あと鉄鉱山もあって、良質な農具や武具を生産している。経済的には豊かだ。

 公爵位を継げなかった者たちも全員が準貴族となって、領地の経営に関わっているか帝国の官僚となっている。

 もちろん政略結婚として他家に嫁いだ者もいるが。


(今の公爵は50代だったか? 息子に爵位を譲って隠居してもよさそうだが……)


 詳しいお家事情は分からない。


(まぁどうであれ、養子にしようとしているなら殺されることはないか)


 とりあえず命が安全ならそれほど身構える必要もない。


(むしろ公爵令嬢になった方が私の目的には近づけるか? 相続権はないと言っていたが、関係者を皆殺しにして私しか残らなければ? 皇子や皇女に近づき、可能なら誘惑するか脅迫して、帝室を乗っ取るのもいい)


 同級生に第三皇女がいるので、別に公爵令嬢にならなくても帝室乗っ取りはいけそうだが。


(……慎重に考えた方がいいか。負うべき義務があるはずだ)


 何の意味もなくセルナを養子にするはずがない。見た目がアルカサルだから、なんて理由はまずありえない。


◇


 アルカサル公爵家の邸宅は、帝都の一等地に存在していた。

 近所には大公家や公爵家、辺境伯家の邸宅がある。帝城も近く、通勤するには楽な距離だ。

 アルカサル公爵家の巨大な正門の前には、兵士のような恰好をした者が二人立っていて、セルナの乗っている馬車を見て門を開けた。

 ちなみにだが、貴族家の門を守っているのは治安維持隊ではなく、貴族家に属する私兵だ。


 門から邸宅までがまた遠いが、美しい庭園になっているので退屈しなかった。

 玄関付近で馬車が停まり、老執事がエスコートしてセルナを馬車から降ろす。

 それから2人で玄関に入り、そのまま二階へと移動。

 しばらく進むと大きなドアがあって、兵士が2人立っている。


「こちらでございます」


 老執事が言うと、兵士の1人が「閣下! 執事長が戻りました」と大きな声で言った。

 中から「入れ」と声が聞こえ、兵士がドアを開ける。

 老執事とセルナが中に入ると、制服のような綺麗な服を着た50代後半の男性が執務机に座っていた。

 他にも机があって、そちらには補佐官たちが座って書類に何かを書き込んでいる。


(仕事部屋ということか)とセルナ。


「ほう。これは驚いた」50代後半の男性、公爵らしき人物が言う。「本当にアルカサルそのものではないか」


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