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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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10話 粛清と殺人の違い


(いやぁ、出るわ出るわ)


 不正のオンパレード。

 マッチョな店主よりも軽薄ニヤケ男の方がヤバそうだぞ、とセルナは思った。

 なぜか注文した情報を持ってきたのがこの20代後半の男だったのだ。

 店主の使いっぱしりかと思ったが、【記録詠み】で見た不正の質と量は店主に勝るとも劣らない。

 今を輝くスパイのエースか、そうでなければ上役だ。


「君は店主の上司か何かか?」


 セルナが言うと、男が目を見開いた。


「うーん、どうしてそう判断したのかなぁ? 俺、どう見ても下っ端だろ?」

「そういうことにしたいなら、まぁそれでもいい。さっさと情報をよこせ」


 セルナは男の持つ封筒に視線を移した。


「俺、なんで嫌われてるの?」

「経験上、お前みたいな奴は絶対に裏切るんだ」

「えー? 酷くね? そもそも俺が誰を裏切るってんだよ?」

「いいから早くそれを……」


 セルナが手を伸ばすと、男がサッと封筒を上げた。


「セルナちゃん、俺の名前はルシアノだ。ルシお兄さん、って呼んでくれたら渡すぜ?」


 ニヤニヤと男――ルシアノが言った。

 セルナは溜息を吐いた。


「……君の席ないから」


 セルナがボソッと言った。


「何? 席?」とルシアノ。


「何でもない。売るのか売らないのかハッキリしてくれ。時間の無駄だ」

「……そんなにルシお兄さんって呼ぶの嫌か?」


 ルシアノが言って、セルナは再び溜息を吐いた。


「ルシお兄さん、それを売るのか売らないのか決めてくれ。私はあまり無駄な時間を好まない」

「売るさ。ルシお兄さんって呼んでくれたしな」


 ルシアノが封筒をカウンターに置く。

 それをセルナが手にとって、中身を少しだけ出してザックリ確認する。


「フレット」とセルナ。


 フレットが小切手を取り出してその場で金額を書き込む。


「へー、伯爵令息よりセルナちゃんの方が立場が上なんだ?」


 ルシアノは小切手を受け取りつつ言った。

 セルナは無言で席を立ち、フレットも席を立った。


「えー? マジで冷たくね? もうちょい話そうぜ?」


「ロリコンかね?」とセルナ。


「ちげぇよ! ただ話したいだけだっつーの!」

「ふむ。ではディープアイズの情報はいくらかな?」


「基本パッケージ5000万」ルシアノが言う。「すぐ提供できるのはそれだけだ。あとは追加調査で、まぁ時価だな」


「もう用はない。帰ろうフレット」


 セルナが回れ右して、酒場を出ようと歩き始める。

 フレットがそれに続く。


「また来いよー!」ルシアノが言う。「その時は俺を呼ぶんだぞぉ!」


◇


 セルナは馬車の中で買った情報を精査していた。かなりしっかりした情報だが、金額分の価値があるとは思えなかった。あくまでセルナの感覚だが、値段が高すぎるように思う。


「君のこともピックアップされてる」


 セルナは資料を3枚だけフレットに渡した。

 フレットがそれに目を通す。


「本当だ。僕のこと、かなり詳しいね……」

「1枚目に基本情報が載ってて、2枚目に人間関係なんかの深堀、そして3枚目に性癖や弱点となりうる部分、知りえた秘密などなど」

「僕が姉さんを恐れてることや、伯爵家での立場なんかも詳しく書かれてる……」


「長期に渡って情報が抜かれているようだね」セルナが言う。「たぶん召使いの中に情報を流してる奴がいる。1人か複数かは分からないけど。いや、あるいは諜報員が入り込んでいる可能性もあるか」


「うわぁ……結構、嫌だねこれ……丸裸にされてるみたいで」


 フレットが複雑な表情で言った。


「どうであれ、白き翼はいい感じの諜報能力を持っていると分かった」セルナが少し楽しそうに言う。「そしてその情報の一部はあの酒場の二階にある」


「そうだね。二階から持ってきたもんね」とフレットが同意。


「だから、それを盗めたら私らは一気に優位に立てるんだけどねぇ」


 セルナが言うと、フレットが目を丸くした。

「時間をかけて、白き翼の関係者を懐柔しよう」


 組織とは関係のない不正を見つけて脅すとか。


◇


 数日後、伯爵家の情報を白き翼に流していたメイドはすぐ見つかった。

 召使い全員に【記録詠み】を使って、ついでにいくつかの不正を発見したので、必要な時に使おうと思っている。

 で、情報を流していたメイドは泳がせている。


 彼女を観察した結果、諜報員ではないとセルナは判断した。

 お金をもらって情報を提供しているだけの小物。

 こちらもいつか使いどころがあればいいなぁ、という程度。

 そしてやはり、白き翼はお金にモノを言わせる系の組織だということが再確認できた。


◇


 更に数日後、セルナとフレットはカルラの孤児院を訪ねた。

 特に裏切り行為もなく、順調に物事が進んでいたので子供たちやシスター&ブラザーと話すだけで伯爵邸に戻った。


 翌日にはジャックの孤児院を訪ねたのだが、こちらではブラザーが裏切っていた。

 しかも裏切りの内容が『白き翼にSIUから接触があったことを報告し、SIUを探るよう言われてそれを了承した』ときたものだ。

 もちろん報酬はお金だ。


「私は許せないモノが3つある」


 孤児院の院長室でセルナが言った。

 院長室にいるのはセルナ、フレット、ジャック、それから院長と裏切り者のブラザーだ。

 この孤児院にはもう一人シスターがいるが、彼女は子供たちと外で遊んでいる。


「1つは、私の決めたルールに従わない者」


 セルナが指を一本立てた。

 この部屋に集まっている理由は単純で、ここの子供たちはまだ完全に洗脳できていないから、殺人を見せるのは時期尚早だと思ったから。


「えっと……同志セルナ?」


 院長に呼ばれてこの部屋を訪れたブラザーが、怪訝な表情を浮かべた。


「2つ目は、私を裏切る者」


 セルナが指を2本立てる。

 ジャックが入口の前に陣取って、ブラザーの逃げ道を塞ぐ。


「同志ジャック、一体これは……」


 ブラザーが体の向きを変えて言った。


「そして3つ目……」


 セルナがブラザーに近寄り、その腹部に右手を当てた。


◇


 ブラザーは自分が窮地に立たされていると理解したが、どうすればいいのか分からなかった。

 殴って逃げる? そんなことをしたら教会での出世は終わりだ。


 そう、ブラザーはこの期に及んでも自分の人生を諦めていなかった。いや、そもそもブラザーは自分が殺されると思っていないのだ。

 正しくはセルナが人殺しまではやらないと、なんとなくそう思っているのだ。


◇


「……私を裏切った分際で、私のことを『同志』と呼ぶクソッタレだ」


 言い終わったと同時に、セルナは右手で【マナアロー】を放った。

 当然、その【マナアロー】はブラザーの腹部を貫いた。

 ブラザーが悲鳴を上げてその場に倒れ込む。


「わ、わたしは裏切ってなど……」


 痛みに悶えながらも、ブラザーは無実を主張した。


「しぃー」とセルナが自分の唇に人差し指を当てる。


「君は白き翼と内通しているだろう? 知っているから答えなくていい」セルナはブラザーを見下ろしている。「フレット、君がトドメを刺せ」


「え?」


 フレットが目を丸くする。


「安心したまえ。君が行うのは裏切り者の粛清であって、人殺しではない」

「……だ、だけど……」


 狼狽えるフレットがセルナを見てブラザーを見て、もう一度セルナを見た。


「フレット、私と歩むのだろう? 理想の社会を目指すのだろう?」

「もちろん! もちろんだけど……」


「ならばやるんだ」セルナはフレットの隣に並び、その手を取った。「もう一度言うけど、これは殺人じゃない。ただの粛清。殺人は個人の感情によって人的資源を減らす最悪の浪費だけど、粛清は組織の機能を維持し、整えるための修正に過ぎない。故に罪悪感を覚える必要はない。この行いは未来のために必要なことだよ」


 セルナはフレットの手を取り、ブラザーに向ける。


「やめてくれ……」


 息も絶え絶えな様子でブラザーがそう言った。


「さぁフレット。私といこう。輝かしい未来へ」


 セルナが言って、フレットは顔を歪め、目を逸らし、だけど覚悟を決めたようにブラザーを見た。


「【マナアロー】!」


 フレットの手から白っぽい魔力の矢が放たれ、ブラザーの心臓を貫いた。


「これで君は真の同志だよフレット、末永くよろしく」


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