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動くな

動くな


廃塔の最上階。


夜は深く、月だけが静かに覗いている。


アストロは壁際に立っていた。

背は石壁に触れ、逃げ道はない。


勇者は数歩手前で足を止める。


その視線だけで、空気が重くなる。


「アストロ」


低い声。


「はい」


高めで、少しかすれた返事。


「今日は訓練だ」


勇者の足音が近づく。


一歩、また一歩。


「動くな」


その言葉と同時に、契約の紋様が淡く光る。


アストロの身体が硬直する。


指先すら、思うように動かない。


拘束というより――支配。


勇者の許可なしに、何一つできない。


「いいか、動くな」


念を押す。


アストロはわずかに息を呑む。


「……はい」


勇者はゆっくりと手を伸ばす。


胸元に触れる。


布越しに、鼓動を確かめる。


速い。


「尊敬している相手に、こんな鼓動を向けるのか?」


指が横へ滑る。


小さな起伏を押す。


動けないアストロの身体が、ぴくりと震える。


だが逃げられない。


「女性として意識しているのだろう」


もう一度、強く。


揉む。


転がす。


押す。


アストロの喉が震える。


だが身体は動かない。


契約が縛っている。


勇者はその様子をじっと見つめる。


「動けないのは怖いか?」


「……少し」


正直な声。


「だが、嫌ではない」


その答えに、勇者の目が細くなる。


「可愛いな」


今度は両手で胸元を扱く。


左右から、ゆっくりと圧をかける。


布越しに伝わる感触を確かめるように。


アストロの呼吸が荒くなる。


高い息が漏れる。


「動くな」


再び念押し。


指先が下へ滑る。


腹部。


細い腰。


そして、布越しに伝わる熱へ。


触れる。


逃げられない。


掴まれれば、受け止めるしかない。


勇者の指が、ゆっくりと一定の動きを刻む。


焦らす。


止める。


また動かす。


アストロの呼吸が浅くなる。


視界が揺れる。


だが身体は一切動かない。


「自分では何もできないな」


低く囁く。


「私が止めれば、そこで終わる」


少しだけ強くする。


反応が大きく跳ねる。


喉の奥で声を殺す音。


勇者はわざと速度を上げる。


逃げ道を与えない。


高める。


確実に。


アストロの膝が震える。


だが動けない。


縋れない。


触れられない。


ただ、与えられる。


「限界か?」


勇者は分かっている。


どこが境界か。


あと一歩で崩れる。


その直前で――


ぴたりと止める。


完全な停止。


アストロの身体が大きく震える。


熱の行き場を失い、喉が詰まる。


「まだだ」


再び動かす。


今度はゆっくり。


じわじわと。


焦らす。


溜める。


高める。


勇者の呼吸もわずかに乱れる。


顔が近づく。


「私を女性として見るな」


囁きながら、動きは止めない。


「勇者として敬え」


だが、その目は揺れている。


アストロの潤んだ瞳が、理性を削る。


二度目の境界。


限界の一歩手前。


勇者はそれを感じ取る。


そして。


また、止める。


完全に。


二度目の寸止め。


アストロの身体が震え、壁に額を打ちつけそうになる。


だが動けない。


勇者が顎を上げさせる。


「目を逸らすな」


契約が強く光る。


三度目。


今度は強く。


速く。


逃げ場のない刺激を積み上げる。


アストロの呼吸が途切れ途切れになる。


指先が白くなるほど力が入るが、動けない。


限界。


完全に、越える直前。


勇者の瞳が揺れる。


理性が崩れかける。


このまま、越えさせれば。


だが――


止める。


三度目。


完璧な寸止め。


静寂。


アストロは震えながら立っている。


勇者はゆっくりと手を離す。


だが契約はまだ解かない。


動けないまま。


「覚えておけ」


静かな声。


「お前がどうなるかは、私次第だ」


数秒の沈黙。


そして、ようやく契約が解ける。


アストロの身体が崩れ落ちる。


勇者が支える。


抱き寄せる。


胸に顔を押しつける。


「勘違いするな」


低く告げる。


「これは訓練だ」


だが、その指先はまだ彼の腰を撫でている。


夜は終わらない。


越えない。


だが、何度でも境界まで連れていく。


主導権は、常に勇者にある。

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