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感度

アストロ=前回までの男

今後はこの名前で統一します

遠征五日目の夜。


雨上がりの空気が、廃塔の石壁を湿らせていた。

窓のない小部屋。灯りは小さな魔導灯ひとつだけ。


勇者とアストロは、向かい合って座っていた。


魔物の糸で織られた戦闘服は、濡れた空気を吸って柔らかく肌に沿う。

刃も魔法も通さぬはずの布が、今はただ薄い影のように身体の線をなぞっている。


アストロは華奢だ。

長い睫毛に縁取られた瞳、細い首筋、肩の線は滑らかで、筋肉はあるのに主張しすぎない。


そして声は、高めで、少し掠れている。

戦場で叫べば鋭いが、近くで囁けば妙に甘い。


「……落ち着かないな」


勇者が言う。


低く、静かな声。


アストロは視線を逸らせなかった。


「勇者様が近いからです」


正直な返答。


勇者の唇がわずかに上がる。


「最近、正直すぎる」


一歩、距離を詰める。


アストロの背は石壁に当たる。

逃げ場はない。


「魔力を循環させろ」


「……はい」


言われるままに集中しようとする。


だが、うまくいかない。


勇者の存在が近すぎる。


彼女の体温、呼吸、視線。

それだけで魔力が揺れる。


「乱れている」


勇者の手が、そっとアストロの胸元に触れた。


薄布越しに、体温が混ざる。


「ここ」


指先がゆっくりと押す。


華奢な胸板。

だがその奥で、心臓が激しく打っている。


「……速い」


「勇者様のせいです」


かすれた声。


その響きに、勇者の目が細くなる。


「私のせいか」


指先が、ほんの少し横へ滑る。


魔物の糸の布は敏感だ。

魔力の乱れを拾い、伝える。


勇者はわざと、布に魔力を流さない。


守りを弱める。


アストロ側の感覚を、むき出しにするために。


「っ……」


指が、胸の小さな突起を布越しに捉える。


軽く、触れるだけ。


だがアストロの身体ははっきり震えた。


「反応がいい」


「や、やめ……」


声が裏返る。


高く、かすれている。


勇者はその声を楽しむように、ゆっくりと指先で円を描いた。


布越しに、じわじわと刺激を重ねる。


「制御しろ」


「無理です……」


「無理ではない」


耳元に顔を寄せる。


吐息がかかる。


そして、舌で耳をなぞる。


ぬるりとした感触。


アストロの膝がわずかに折れる。


勇者の腕が腰を支える。


「立て」


低い命令。


支配的な声。


もう一度、耳を舐める。

今度はゆっくり、内側をなぞるように。


同時に、胸元を軽くつまむ。


布越しに、ほんの少し力を込める。


「っ……!」


アストロの呼吸が乱れる。


細い喉が上下する。


「声を抑えろ」


囁きが甘い。


「敵地だ」


明らかに嘘ではないが、理由にはなっていない。


勇者は、焦らしている。


わざと。


指先が、突起を弾く。


びくりと震える身体。


「感度が上がっているな」


「……魔力が、乱れてるからです」


「違う」


勇者は静かに言う。


「私だからだ」


言い切る。


逃げ場を与えない。


アストロの瞳が揺れる。


勇者の手が、今度は両側に触れる。


左右同時に、ゆっくりと撫でる。


布の上から、丁寧に。


焦らすように、止めて、また触れて。


「こんなことで乱れるようでは」


耳元で囁く。


「私には届かない」


その言葉に、アストロの胸が熱くなる。


悔しさと、欲と、憧れが混ざる。


「……強くなります」


かすれた声。


勇者の指が、ほんの少し強くつまむ。


短く、鋭い刺激。


「なら耐えろ」


命令。


アストロは歯を食いしばる。


だが身体は正直だ。


胸元の布が、わずかに盛り上がる。


勇者はそれを見逃さない。


「可愛い」


小さく呟く。


そして、ぴたりと手を止める。


急に熱が引く。


アストロは荒い呼吸のまま、勇者を見上げる。


「……続きは」


掠れた声。


勇者は微笑む。


完全に主導権を握った笑み。


「私が許すまで、ない」


一歩下がる。


距離ができる。


それだけで、寒い。


「最強になれ」


静かに告げる。


「私を奪えると、本気で思えるほどに」


だが視線は柔らかい。


独占と、欲と、愛着。


全部を隠しきれていない。


アストロは胸を押さえ、深く息を吸う。


まだ感触が残っている。


布越しの指先。

耳に残る湿った熱。


勇者は窓辺に立ち、夜を見つめる。


理性は削れている。


だが、越えない。


越えないからこそ、燃える。


「……時間の問題だな」


小さく呟く。


アストロが本当に最強になったとき。


そのときは。


規則も、距離も、焦らしも。


すべて意味を失う。


それまでは――


育てる。


焦らす。


支配する。


逃がさない。


夜はまだ、長い。

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