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理性が削られる夜

遠征三日目。


廃塔の上層、石造りの一室。

敵地ゆえ警戒は必要だが、今夜の夜番は勇者と男だけだった。


窓から差す月光が、魔物の糸で織られた戦闘服の輪郭を淡く浮かび上がらせる。


その布は薄く、柔らかく、魔力を通せば鋼より強い。

だが今は魔力を流していない。


ただ、身体に沿っているだけ。


「眠れ」


勇者が短く言う。


だが男は寝台に横になっても目を閉じられない。


理由は明白だった。


同じ部屋。

数歩の距離。

静かな呼吸音。


「……やはり無理か」


窓辺に立っていた勇者が振り向く。


月光が彼女の輪郭を縁取る。


「来い」


拒否はできない。


男は起き上がり、勇者の前に立つ。


距離は近い。


呼吸が混ざる。


「最近、魔力の揺れが激しい」


静かな声。


「原因は分かっているな」


男は視線を逸らせない。


「……勇者様です」


一瞬、空気が止まる。


勇者の目が細くなる。


「正直だな」


ゆっくりと手が伸びる。


胸元に触れる。


薄布越しに、体温。


指先が円を描くように動く。


「鼓動が速い」


そのまま、指はわずかに位置を下げる。


胸の中心から、ほんの少し横へ。


布越しに、微かな凹凸を捉える。


男の呼吸が乱れた。


「ここも、敏感か」


軽く押す。


ほんの僅かに。


だが確かに、布の上から指先がつまむように触れる。


「っ……!」


男の背が壁に当たる。


勇者は一歩踏み込む。


完全に、逃げ道を塞ぐ。


「声を抑えろ」


低く囁く。


もう一度。


今度は、少しだけ指先に力を込める。


布越しに、ゆっくりと転がすように。


男の喉から、抑えた息が漏れる。


勇者の呼吸も、わずかに乱れる。


「……可愛い反応だ」


耳元へ顔を寄せる。


そして、舌で耳をなぞる。


湿った感触が、はっきり残る。


そのまま、耳を甘く吸う。


同時に、胸元を軽く弾く。


男の身体がびくりと跳ねる。


「制御しろ」


「無理です……」


「無理ではない」


指先が、今度は丁寧に撫でる。


布越しでも、はっきりと分かる。


熱が集まっている。


「こんなことで乱れるようでは」


囁きが、甘くなる。


「私には届かない」


男の手が、思わず勇者の腰に触れかける。


ぴたり、と止まる。


勇者の視線が落ちる。


「触れるな」


静かな命令。


だが怒ってはいない。


むしろ、楽しんでいる。


「私が許すまで」


そのまま、胸元を軽くつまみ上げる。


ほんの一瞬、強めに。


男の呼吸が止まり、震える。


勇者の目が、熱を帯びる。


理性が、確実に削れている。


「……危ないな」


小さく呟く。


だが手は離れない。


ゆっくりと、親指で円を描く。


焦らす。


じわじわと。


「お前は私の戦力だ」


耳元で囁く。


「そして」


もう一度、胸を軽く弾く。


「私のものだ」


その言葉に、男の身体が震える。


勇者は、ふっと息を吐き――


手を離した。


急に熱が引く。


男は荒い呼吸のまま立ち尽くす。


勇者は一歩下がる。


月光の中、少し赤い頬。


「……これ以上は」


視線が揺れる。


「私が持たない」


だが最後まで主導権は渡さない。


「最強になれ」


静かに言う。


「私を奪えると、本気で思えるほどに」


そして背を向ける。


「今夜はここまでだ」


男は動けない。


胸にはまだ、指の感触が残っている。


勇者は窓辺に戻り、月を見上げる。


拳を握る。


「……時間の問題だな」


理性が削られていく。


だが越えない。


まだ。


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