勇者の嫉妬
2本
① 勇者の嫉妬
昼下がりの野営地。
遠征中の休憩時間、仲間たちは簡易テントの周囲で談笑していた。
男は、魔術師の女性団員に魔力制御の相談を受けている。
「さっきの循環、すごく安定してましたよね」
「え?あ、いや……勇者様に鍛えられてるだけで」
照れたように笑う男。
その様子を、少し離れた場所から勇者は見ていた。
無表情。
だが視線は鋭い。
魔物の糸の戦闘服は身体に沿い、彼女の呼吸のわずかな乱れを隠さない。
「……楽しそうだな」
小さく呟く。
次の瞬間。
「アストロ」
呼ばれた声は、静かで、冷たい。
男が振り向く。
「は、はい!」
「来い」
短い命令。
拒否権はない。
林の奥へと連れて行かれる。
木漏れ日が揺れ、外界の気配が遠ざかる。
「さっきのは何だ」
「何って……相談を」
「距離が近い」
即断。
男が口を開きかける。
その前に。
勇者の手が胸元を掴む。
薄布がぴたりと張る。
「私の訓練が足りないか?」
声は低い。
静かだが、熱を帯びている。
「ち、違います!」
「ならなぜ、他に頼る」
一歩、押す。
男の背が木に当たる。
勇者が覆い被さる。
完全に上。
「嫉妬、ですか」
思わず出た言葉。
一瞬の沈黙。
勇者の目が細くなる。
「……そうだと言ったら?」
距離が、ゼロに近づく。
「私以外に目を向けるな」
耳元で囁く。
そして――
舌が、ゆっくり耳をなぞる。
今日は、いつもより深い。
怒りではない。
独占欲。
「お前を育てているのは誰だ」
耳の裏を舐め上げる。
「強くしたのは誰だ」
軽く吸う。
男の指が震える。
「勇者様です……」
「なら」
唇が首筋へ。
吸う直前で止める。
「私だけを見ろ」
はっきりした命令。
そして急に離れる。
表情はいつもの勇者。
「持ち場に戻れ」
だが、男の耳は真っ赤に染まっている。
勇者は背を向け、小さく息を吐く。
「……余裕がないな」
自分に言い聞かせるように。
だがその目には、確かな所有欲が宿っていた。
⸻
遠征中の同室夜番
廃塔の一室。
敵地ゆえ、男女分ける余裕はない。
夜番は二人きり。
石壁の部屋は狭く、寝台は一つ。
「交代で仮眠を取る」
勇者が言う。
だが男が横になっても、眠れるはずがない。
視線の先には、窓辺に立つ勇者。
月光に縁取られた身体の線。
布越しに浮かぶしなやかな曲線。
「眠れないか」
振り向かずに言う。
「……はい」
「来い」
呼ばれる。
隣に座らされる。
距離が近い。
肩が触れる。
魔力の波長が、かすかに共鳴する。
「落ち着け」
勇者の手が、腹部に触れる。
魔力を流す。
温かい。
だが。
指が少しずつ上へ滑る。
胸へ。
鎖骨へ。
「呼吸を合わせろ」
吐息が耳にかかる。
そして。
ゆっくり、舌が耳を舐める。
静かな部屋に、湿った音が小さく響く。
男の指が寝台を握る。
「声を出すな」
低く囁く。
もう一度。
今度はゆっくり時間をかけて。
耳の内側をなぞる。
「……勇者様」
「何だ」
「近すぎます」
「敵地だ」
当然のように言う。
そして、首筋に唇を落とす寸前で止める。
「守ってやっている」
その言葉に、支配と優しさが混ざる。
離れた瞬間、空気が急に冷える。
「眠れ」
命令。
男は逆らえない。
勇者は月を見上げる。
「……我慢しろ」
自分に言い聞かせるように。
⸻
②魔力暴走寸前
強敵との戦闘後。
男の魔力が不安定になる。
荒い呼吸。
魔力が揺らぎ、空気が震える。
「落ち着け」
勇者が抱き寄せる。
薄布越しに密着。
体温が直に伝わる。
「視線を合わせろ」
男の瞳は熱に潤む。
「制御できません……」
「できる」
勇者の手が頬を掴む。
「私を見ろ」
魔力が流れ込む。
だが暴走は止まらない。
勇者は一瞬迷い――
顔を近づける。
唇が、触れそうな距離。
熱い吐息が混ざる。
「深呼吸しろ」
囁きながら、唇がかすかに触れる。
一瞬。
魔力が静まる。
だが完全には触れない。
寸止め。
勇者はゆっくり離れる。
「……制御できたな」
男は息を整える。
勇者は額を軽く押し当てる。
「まだ早い」
静かな声。
「最強になれ」
耳元で最後に囁く。
「その時は、逃がさない」




