第百二十九話【納得は前進にあらず】
カスタードいわく、俺達を見張ってるやつがいて、そいつらに盗賊団との協力を……協力しているような雰囲気を見せたかった……らしい。
そのためにマリアノと会う場を用意したくて、その機を逸しないために急いで連絡した結果があの一文だけの指示だった……と。
それを聞いてまず思ったのは、らしくないな……って感覚だった。根拠らしいものが浮かぶほどカスタードのことを知ってるわけじゃないから、なんとなくだけど。
今までカスタードは、不確定な要素があるならそれを伝えるか、そもそも話題を出さないようにしてた……気がする。
それなのに今回は、伝えることも後回しにして、何よりも形を優先させた。それこそ、俺達の行動が予測不能なものになるのも厭わずに。
そんならしくないことをしてまで急いだことが、マリアノと協力しているように見せかけること……だけ、なんて。それもらしくないと言えばらしくない。
まあこっちは、カスタードはそういうの効率よくやるタイプかなって勝手に思ってるだけだけど。
しかし、ようやく聞かされたそんな話にも、当然疑問が浮かぶ。そもそもの問題として、俺達が見張られてるなんてところから。
「……くさび……なんて言うけど、そもそもなんで俺達が監視されてるんだ? って言うか、もしされてたとしても、なんでお前はそれがわかったんだよ」
見張られてたらわかる……とは言わない。でも、悪意のあるやつが近くにいるならそれはきっとわかる。
それこそ、ゲロ男とかマリアノとか、今まではちゃんとわかった。わかった……うえで、対処する方法があることも思い知ったけど。
でも、その対処だって、俺が悪意を感知するって知ってなくちゃ始まらない。隠す必要があると知らなきゃ、隠そうとも出来ないわけだし。
としたら、ゲロ男やマリアノがやってるんでもなければ、見張りなんて俺が気づいてるハズ。
それに、そもそも俺達を見張ってどうするって話もある。
そりゃ、フィリアは王様だ。だったらそれを見張る意味はあるだろう。
けどそれは、王様としてのフィリアを見張りたいんであって、だとしたらそれはきっと宮の中や街役場での姿だ。
間違っても、魔獣を退治しに出かけたり、そこで俺に怒られてる姿を監視したいわけじゃない。
万が一そうだとしても、だとしたらマリアノと話をしてるとこは見せるべきじゃないだろう。
王様が盗賊団と手を組んでるなんて、むしろ知られないほうがいい。下手したら弱点になりかねないんだから。
と、ちょっと考えるだけで気になるところがいくつも出てくる。その結果が、どうして監視されてるんだ? なんでそれがわかったんだ? って質問だった。
そうだよ。くさびにするとかなんとか言ったけど、その話が成立するには前提条件がこれだけ整ってないといけない。
そこんところをちゃんと説明して貰わないと、納得しようにもしようがないぞ。
「ふんむ。そち、我輩の言葉を覚え、きちんと考えて過ごしているようであるな。感心であーる」
「はぐらかさなくていいから、さっさと答えろよ。今日それ多いぞ」
感心であーる。じゃない。腹立つな。いつものカスタードならまだしも、今日のなんか変なお前に感心されてもうれしくない。
でも、そんな文句を言われるよりは前に話をしてくれるみたいで、フィリアにも一度視線を向けてから、わざとらしく咳払いをしてみせた。
「見張りは誰か……ではないのである。むしろ、見張り足り得ないものは何か……と、そう思案すべきであーる」
「ええと……誰が私達を見張っているかではなく、誰ならば見張られている可能性を疑わずに済むか……という話でしょうか。でしたら……ええと……」
ええと。って、フィリアは考え込み始めて……でも、まさか宮で働いてる人の名前をここで出すわけにはいかないから、思い当たる節を指折り数えて思い浮かべた。
たぶん、俺の頭にパッと浮かんだのとそう変わんないだろう。パールにリリィ、それに目の前のカスタード。それから……
「――否、である。フィリア嬢、その思案がすでに間違っているのであーる」
「え、ええと……? それは……その……誰かを疑うことは間違いだ……と、道徳的な観点から……」
全然違うだろ。って、俺が思ったのと同じタイミングで、全然違うであーる! って、カスタードも怒った。
ってことは……変になってるわけじゃないのか? 少なくとも、フィリアの変さ加減にツッコミ入れれる程度にはまともってことだけど。
「フィリア嬢。そちらの身の回りにいる者すべて、いつなんときから監視者になるかわからんのである。忘れたであるか。敵には、人を操る魔術師が存在するのであーる」
「っ! そっか……そういうことか。具体的に誰が監視してるか……じゃなくて、もうどこでも見られてるって前提でマリアノと接触させたのか」
そうだ。そうだった。人を操る魔術師って聞いて、パールやリリィにすら相談出来ないって打ちのめされたんだ。
でも、その意味をもうちょっとちゃんと考えると、宮の中とか身内って話じゃなく、全然無関係の、それこそ街でたまたますれ違った人が敵かもしれないってことになる。
だからカスタードは、操られてる人間がいる可能性の高い場所で……つまり、北端と南端……ヨロクとカンビレッジで、俺達を盗賊団と接触させたんだ。
ある意味では、見せつけるために。まだ成立してない協力関係を、あたかも出来上がったもののように見せるために。
「……って、ちょっと待てよ。だとしたら、可能性の高いマリアノに接触したのはダメじゃないか? しかも、お前から直接手紙を送るなんて」
なるほど。って、納得したけど、それと同時にまた一個疑問が浮かんだ。
もし誰でも操られてる可能性があるって警戒するなら、なおのこと今回のやりかたはマズかったんじゃないかって。
今の時点では、カスタードの存在はかなり隠されてると思う。まあ、何回も馬車でここまで来てるし、手紙も宮に届いてるから、身内にはある程度バレてるかもだけど。
でも、それがどういうやつで、何をしてて、俺達とどういう関係なのかは知られてないハズ。
だけど、マリアノに手紙を送ったことで、カスタードの能力を知られて、俺達の情報源だってこともバレた。
これは……そりゃ、直接痛手になるわけじゃないかもしれないけど、隠せるなら隠したほうがよかったんじゃ……
「……もしかして、マリアノは操られてないのか? その保証があったから、マリアノだけに手紙を……」
「いや、そうではないである。そちの言う通り、我輩の存在を秘匿し続けられなくなりかねない選択であった。しかし……それでも、せざるを得なかったであーる」
保証があってマリアノに連絡したんじゃなくて、自分の存在がバレてでもこの一手を打っておきたかった……ってことか。
だけど、もしもマリアノが操られてたら全部裏目じゃないか……? だって、マリアノは俺達と盗賊団が協力してないことがわかってるわけだから……
「……あっ。いや……でも……」
「ユーゴ? どうかしましたか?」
いや。違う。わかってない。マリアノもわかってないんだ。国と盗賊団にはもう、協力関係が築かれてるって。
いいや。マリアノどころか、盗賊団の誰も……そして、協力の根幹であるフィリア本人でさえ知らない。知らせてない。だってそれは……
「そのとおりであーる。ユーゴ、まさしくそちの考えているとおりなのである」
「っ。そういうことか……なるほど、あんな手紙しか寄越せないわけだ」
そうだ。国と盗賊団とのあいだには――俺とゲロ男とのあいだにはもう、水面下での協力関係が結ばれている。カスタードはやっぱりあの場を見てたんだ。
フィリアは何もわかってない顔で困ってるけど、この反応こそがカスタードも望んでた結果……だとしたら……っ。
らしくないなんて思ってたけど、全然そんなことなかった。いつも通り、俺達のことを子供扱いして、全部わかったような顔で指示してたんだな。
「むぉっほん。しかし、くさびはくさび。何かが解決したわけではないのであーる。この状況を打開するには、やはり北方の調査に手をつけねばならんであーる」
「前に言ってた、戦線を迂回してヨロクより北を調べろ……ってやつだな。まあ……それが出来るならとっくにやってるって話だから、うーん……」
納得した。で……それはそれとしても、つまりは状況が前に進んだわけじゃないってことも理解した。して……ちょっとがっかりもした。
カスタードはきっと、時間稼ぎのためにこんなリスクを冒したんだ。つまり、そうしないといけない状況にあるとも言える。
なのに、その稼いだ時間で出来ることはまだ何も増えてない。言われた通りに北へ行こうにも、そのための部隊も馬車も荷物もないんだから。
「あの、ええと、いったい何がどう、そういうこと……なのですか? ユーゴ、伯爵。私にもわかるように説明していただけると……」
「むほん。それはであるな……ふむ、なんと言うべきか。件の少女も単独行動をしているのならば、団の行動の全容までは把握しておらんだろうということである」
と、それはそれとしてもフィリアが困り果てちゃったから、カスタードから補足が……誤魔化しが入った。
まあ、表から見てもそう変な言いわけじゃないよな。実際、マリアノからも聞かされてるし。団の目的と個人の目的は別で、不干渉な部分もちゃんとあるって。
そうして表面上は話に追いついたフィリアも含めて、三人でまた北方調査へ乗り出す方法を考えた。
考えた……けど……こんなとこで考えて答えが出る問題じゃないんだよな……




