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異世界転生  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】

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第百二十八話【思惑】


 マリアノとは話が出来たけど、結局カスタードが何をさせたかったのかはわからずじまいで、半分呆れられるような形で盗賊団の砦から街へと帰った。


 全部が全部無意味だったとは言わない。マリアノが何してるのかとか、盗賊団がどういう指揮で動いてるのかとか、新しく知れたこともあるから。

 でも、わざわざカンビレッジまで来て、マリアノまで呼びつけて、そうして得られたものとしては……ちょっと物足りないよな、って。


 そんな満足いかない結果だけを持って、仕方なくもやもやしたままランデルへと帰る。

 カンビレッジへ行け。なんて、あまりにも簡素な指示の意図はわからないまま、手応えらしいもののひとつも得られずに。


 そして……そのもやもやを晴らすべく、帰って早々にまたカスタードの洞窟を訪ねた。

 本当に帰ってすぐだったから、フィリアも宮の仕事を後回しにしたんだろうな。それだけ気になってたのか、それとも……サボりたかったのか。


「よく来たであーる、もてなすで――」


「もてなさなくていい。それより、ちゃんと説明しろ。なんだよあの手紙。それと、マリアノについても」


 で、だ。フィリアの都合はなんでもよくて、話が早いのは俺としても助かる。ちゃんと事情を聞かないとイライラするしな。

 そんなわけだから、いつも通りのまぬけな歓迎をすっ飛ばして、いきなりカスタードに詰め寄った。あれはどういうことなんだって。


「落ち着くであーる、人生には余裕が肝要であーる。そちの言わんとすることはとうに理解しているである。それこそ、ふみを出したそのときから」


「あの手紙ではこちらが混乱するだろうとわかっていながら、しかしあのような形で指示を出したのでしょうか。それとも、そうとしか出せなかった……のでしょうか」


 詰め寄って、はぐらかされて、フィリアからも尋ねれば、カスタードはやっと申し訳なさそうな顔をした。

 でも、フィリア嬢も余裕を持つであーる。とかなんとか言って……なんだよ、遊んでる時間ないんだけど。


「順を追って説明するであーる、少し落ち着くであーる。説明不足については謝罪せねばならんであるが、しかしこちらにも事情というものがあるのであーる」


「それはわかったから、じゃあその説明を早くしてくれよ。ったく、こっちはすっきりしないままマリアノにまで睨まれて、いい迷惑なんだぞ」


 事情がある……か。まあ、そうだろうとは思ってたけど。でも、いったい何があったんだろ。

 気になるし急かしたいけど、急かしたら急かしたで落ち着けって言われて余計に時間食うから……ムカつくけど待ってやるか。はあ。


「まず第一に、手紙の内容を簡略化したしたことについて。これは単に、時間の都合であーる。そちらを招いて、説明をして、それから出発では間に合わんと踏んだであーる」


「間に合わない……って、何にだよ。説明がないとむしろ遅くなることだってあるだろ。今回だって、なんにも聞いてなかったから……」


 急いでたのかな。とは、たしかに俺も考えた。でも、急いでるからこそ説明は省いちゃダメだろうとも思った。

 だからそのことについて口を挟んだら……まずは聞くであーる。って、制されちゃった。ムカつく。早くしろ。もったいぶんな。まぬけ。


「此度の最大の目的は、そちらとくだんの少女とを引き合わせることであーる。そのためには、かの人物の足取りを掴んだ瞬間を逃すわけにはいかなかったであーる」


「伯爵の調査能力を以ってしても、彼女の行方を把握し続けることは困難だ……ということでしょうか。ゆえに、見失う前に呼び出したかった、と」


 フィリアの反応に、カスタードは満足そうにうなずいた。うなずいたけど……でも、その可能性は俺だって考えた。考えて、でも、それじゃ意味ないなって思ったんだ。

 だって、ただ会って話すだけが目的なわけないだろ。話をして、そのあとどうするかが問題で、そのためにはやっぱりちゃんと目的を説明して貰わないと……


「ユーゴ、ちと落ち着くである。此度の目的は……最大の目的は、そちらと少女とを引き合わせることである。それ以上でも以下でもないのであーる」


「……なんだよ、その言いかた。だから、会ってどうするかが問題で……」


 いや……会ってどうするかよりも、会うこと自体のほうが重要だった……ってことか?

 でも……どういうことだよ、それ。だって、実際に会って話をして、でも何も進まなくて困ったんだ。じゃあ、今回のやりかたは失敗だったってことじゃないのか。


「むおっほん。少し言いかたを変えるであーる。かの少女と会ってどうするか……ではなく、かの少女と接触したという事実こそを重要と見たのであーる。この意味がわからんであるか」


「わかるわけないだろ、うざいな。もうマリアノとは何回も会ってるし、話もしてる。そりゃ、今回初めて聞けたこともあったけど、それもそんなに重要なことじゃ……」


 意味のない話とは思わないけど、大きな価値のある話とも思えない。聞けたのは、マリアノの大雑把な目的と、盗賊団の在りかただけだから。

 こんなのがそこまで重要とは思えないんだけど。って、食ってかかれば、カスタードはまた首を横に振って、そうではないである。とかなんとか言って……


「会って、話をした内容などは二の次だと言っているのである。この機会に、そちらが、かの少女と会った……という事実が欲しかったのであーる」


「話の内容はどうでもいいって……そんなわけあるか。なんだよ、わけわかんないこと言って」


 どうでもいいならあんな遠くまで行かせるなよ。行かせるにしても、なら手紙にもそう書いとけよ。

 いや……それは書けないか。王様に指示出してるやつがいるって、漏れたら面倒だし。


 カスタードの言ってることが全然理解出来なくて、イライラして、でもなんかは考えてるんだろうってわかるから、なおのこともどかしい。

 こいつ、こんなやつだっけ。もっとちゃんと説明してくれる、頼れるやつだと思ってたんだけど……


「……ふんむ。ユーゴはともかく、フィリア嬢もわからんであるか。話せば簡単なことなのであるが……ちと、ふたりとも追い詰められ過ぎているであるな」


「……申し訳ありません、私にもさっぱり。伯爵はいったい何をお考えだったのですか」


 カスタードは視線を俺からフィリアへと向けて、同じように困った顔をした。こんなこともわからないのかって呆れられてる感じだ。

 簡単なこと……追い詰められてるから気づけてないこと……って、そうは言うけど。俺もフィリアも、やっぱり首をかしげるばっかりで答えには至らない。


 そんな俺達にカスタードは小さくため息をついて、けど……見放した感じじゃなく、優しく笑いかける。

 そして、答えを教えるであーる。とか言って、手のひらにもう一方の手を突き立てた。


「くさびであーる。この一件は、そちらの行動を監視する者に対する牽制であーる。盤石とは言わずとも、こちらには連携の意図があると見せつけることこそが目的であーる」


「……連携の……? 俺達を見張ってるやつに、盗賊団と協力してるように見せかけたかった……ってことか?」


 さようであーる。って、カスタードはそう言うと、ちょっと怖い顔になって拳を握り込んだ。


 俺達を監視してるやつがいる……なんて、初めて聞いた。最近わかった……感じじゃないよな、この言いかただと。前から知ってて……でも、言わなかった……?

 カスタードのことだから、あえて言わなかったんだろう。監視されてることに気づいたと思わせないため……とか、そういう事情があって。


 でも……今日の……いや。カンビレッジ訪問から始まった今回のカスタードの行動は、全体的に……らしくないものに思えた。

 それがなんか……なんでらしくないのかがわかんなくて、らしくないことをしなくちゃならない背景が不穏で、気づけば背中に汗をかいていた。


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