第百三十話【手詰まりを解きほぐすのは】
なんとかして北方の調査へ行きたい。けど、その方法がない。カスタードと一緒に悩んでも解決しなかった問題を抱えて、また数日が経過した。
フィリアは王様だ。本当は魔獣退治の現場にのこのこついて行っていいようなやつじゃない。だから、ヨロクよりも北……国の外になんて出ていいわけがない。
安全が保障されていないから……だけじゃないんだと思う。たぶん、王様だから出ちゃいけないんだ。王様は、国を守るためにいるから。
にもかかわらず、フィリアが危険な前線に出てるのは、そうしないと俺が戦えないからだった。
俺は国軍の兵士じゃない。何かほかの肩書きのある戦士でもない。俺は、王様が連れて来たから宮にいることを許されてるだけの、正体不明の変な子供だ。
そんな俺が、軍の馬車に乗ってあっちこっち行って、武器を持って魔獣と戦う……には、それを許可する人が必要だったんだ。
だからフィリアはいつも俺と一緒だった。俺が魔獣を倒せるように。そして、俺が好き勝手暴れないよう見張るために。
じゃあ、俺が信頼を得て、ひとりで戦えるようになれば……フィリアさえ一緒じゃなければ、北へ行けるのか……って言ったら、そういうわけでもない。
ひとりで戦えるようになったとしても、道もわかんない場所へは行けない。俺が平気だって言っても、みんなからはそう思えないから。
それに、俺が信頼を勝ち取ったら勝ち取っただけ、失うわけにはいかない戦力としても扱われる。そうなると、余計に無茶はさせて貰えない。
これについては、宮に戻ってからフィリアに言われたんだ。俺としては納得いかないけど……まあ、俺いなかったら魔獣退治も大変になるし、言ってることはわかる。
わかるけど、それじゃ困るんだよな。それってつまり、もし北へ行く馬車を確保しても、そしたら次は俺が出て行っても平気な理由を作らなくちゃいけないってことだ。
フィリアいわく、議会からも厚い信頼を得始めてる……ってことだから、下手すると俺が戦うことにさえ承認が必要になりかねない。
と、そんなわけで。結局、カンビレッジ訪問の理由をカスタードに聞いても、それに納得しても、事態は何も前には進んでいなかった。
このままだと国がピンチだ……って状況なのかさえも不明瞭なところで足止め食らってて、とにかくイライラする。
まあ、明確な危機が迫ってないからこそ、俺やフィリアにもいつもどおりの役割が求められてるんだけどさ……
そんな中で、フィリアはまた宮の仕事に忙しくしてて、俺がひとりで出来ることもほとんどなくなって。
暇を持て余したからと、ひとりでランデルの街をぶらぶらしてたときのことだった。
「よう。また会ったな、ユーゴ」
「……げっ。なんだよ、なんでこんなとこにいるんだよ。そんな暇ないだろ。役に立たないから追い出されたのか」
また、いつかも会った場所で、まるで自然なことのようにゲロ男に声をかけられた。
それはある意味、ヨロクについて……ヨロク北方の戦線について、安心させてくれる報せでもあった。
「なんだよはご挨拶だな。お前こそ、なんだってまた同じとこで会うかね。ったく、どんだけ俺のこと恋しかったんだ」
「は? うざ、キモい。誰がお前なんか。普通に暮らしてれば行くとこなんてだいたい同じになるだろ」
ゲロ男はあいかわらずへらへらしてて、うざくて、キモくて、クズだった。
けど……あいかわらずこっちの考え、行動を見抜いてるっぽくて……それもうざい。死ねばいい。
そうだ。やることのなくなった俺は、またいつかみたいにゲロ男と話が出来たら……って、繁華街のあたりをうろうろして過ごしてたんだ。
結局のところ、コイツと話をしないことには何も進まないから。表立っての行動に制限がかかってる以上、水面下での作戦に頼るほかにない。
北の調査に行くって話にしてもそう。盗賊団が戦線を押し留めていられなくなるようなら、隙を見て出発する……なんてことも出来なくなる。
それしてるあいだにヨロクが攻められたら元も子もないからな。何をするにも、宮にいる人間の力だけじゃダメだ。
「……ま、性懲りもなくおんなじとこ来てるのは俺も一緒だけどな。お前も似たこと考えててくれて助かったぜ。さすがに宮の中にいられちゃ呼び出せねえからな」
「ふん。いくらお前がキモくても、あれだけデカい建物の中にいたら流石に気づかないからな。そもそも、あの中にいると外の様子とかほとんどわかんないし」
へー、そんなに切り離された場所なんだな。って、ゲロ男は興味深そうに宮を……遠くにある大きな建物を眺める。
しまったな、余計なこと言ったかも。もしコイツが裏切ったら、ランデルでなら好き勝手出来る……とか思われかねない。
「はっは、そんな顔すんなよ。安心しろ、ここじゃ悪さしねえよ。したくても出来ねえって。衛兵の数が段違いに多いんだ。それに、捕まったときのリスクも違う」
「いつもそんなセコイこと考えて生きてんのか。やっぱり人間のクズだな。臭い。近寄んな」
俺の言葉にゲロ男はかなり苦い顔をしたけど……もしかして図星だったのかな。それとも、セコイって言いかたが気にくわなかったのかな。
でも、それになんの文句も言わず、ため息ひとつで無駄なおしゃべりに区切りをつける。こっからはちゃんとした話をしようってことだろう。
「……ごめん、先に謝っとく。ヨロクでお前と会ったこと……フィリアと一緒に砦へ行って、ついでに街の南側で魔獣退治したこと、マリアノに言った」
「あん? なんだお前、姉さんと会ったのか。で……お国が俺達のこと気にかけてるって伝えてくれたわけ。ほー、そりゃまた」
無駄な話が終わったなら、とりあえず報告しなくちゃいけないことがある。このあいだのカンビレッジ訪問で、マリアノとした話についてだ。
「フィリアもいたし、マリアノからも話を聞きたかったから、表向きにやったことは伏せらんなかった。どうせあとで知るからいいと思ったけど、マズかったか?」
「いんや、いいんでない。姉さんがシロと決まったわけじゃないけど、欠かせない存在なのは間違いないんだ。お前の言う通り、俺からも伝えるつもりだったよ」
そっか。じゃあ……一応、借りとかはなしだからな。余計なことしたわけじゃないし、足引っ張ったわけでもないから。
で……なんだけど、マリアノが個人的にやってること……については、コイツに喋っても平気なのかな。
ゲロ男は操られてないから、秘密を知られて誰かがピンチになる……とかはないと思う。
でも、盗賊団の中での暗黙の了解……他人の目的に踏み込まないって部分を、部外者の俺が破っていいのかどうか。
「また思い悩んだ顔してんな。ま、いいわ。たぶんだけど、姉さんの話でしょ。いいよ、言わなくて。それで状況がどうにかなるなら、とっくにひっくり返されてるって」
「……お前のそれ、キモいな。なんでもかんでもお見通しみたいな言いかた、本当にキモい。うざい。死ね。クズ」
本当に口の悪いガキだな。って、ちょっと笑いながらそう言うと、ゲロ男はまた視線を遠くへ……今度は宮じゃなく、南のほうへと向ける。
マリアノのことを思い出してるのか、それともそういうふうに見えるしぐさをしてるだけなのか。真意はわかんないけど。
「とりあえず、報告することは報告したからな。次はそっちの番だ。こんなとこにいるってことは……」
「おっけーおっけー、そう焦んなって。ちょっと場所変えようぜ。人に聞かせたい話でもないしな」
まあ、こんなとこにいるからには……だけど、この様子なら間違いないのかな。
たぶん、北の戦線は一旦落ち着いたんだ。追い払ったとか、倒したとか、そうとまでは言わなくても。とりあえずコイツがいなくても平気なくらいにはなったんだ。
じゃあ、それについてもちゃんと話して貰わないと。そう思って急かした俺を制して、ゲロ男はついて来いと手招きをする。
人に聞かれるとまずい……誰が操られてるかわかんないから、誰にも聞かせるわけにはいかないのはわかる。
でも、人がいないところ……なんてあるのか? この人の多いランデルで、コイツが出入り出来る場所に。うーん……?




