第百二十五話【連行】
カスタードの指示に従ってカンビレッジを訪れた俺達を待っていたのは、いつも通りイライラした顔のマリアノだった。
マリアノが……盗賊団の……幹部? 用心棒? とにかく、犯罪組織の中枢に座ってるやつ……が……役場の前まで……会いに来てて…………
「……ちょっと待て。どういうことだ、これ。なんでお前がここにいる。ここにいられる」
「頭の緩ぃ話してんじゃねえ、クソガキ。んなもんテメエで考えやがれ」
おかしいだろ。いや、その、いろんな部分がいっぺんにおかしいから、どこからつっこんだらいいかわかんないけど。とりあえず全部おかしいだろ。
コイツは悪いやつだ。案外悪いやつじゃないのかも……とか思ったけど、人間性の話じゃなくて。コイツは、犯罪者なんだ。
それがどうして、こうも堂々と役場の……国の施設の前にいる。役場の人間に王様を呼んで来させられる。
普通に考えたら、ここに王様がいることなんて誰も知らないし、知ってるふうなやつが来ても言うわけない。
それでもさっきのガチガチに緊張した男の人は、王様を……フィリアを呼び出して、マリアノに引き合わせたんだ。
そんなわけないだろ、冷静に。だって、不審者だ。身分を明かせるやつじゃないし、そんなのが王様に用事だなんて言っても取り次ぐわけない。
じゃあ……まさか、脅したのか? 殺すぞって、脅迫して案内させたのか? いや、それも違う。脅されたからって通すわけない。だって、王様だぞ。
てことは、身分を偽った……のか? たとえば……たとえば……たとえが思いつかないけど、なんか嘘ついて、王様と会えるようなやつだと思わせたのか。
いや、だとしても、そんなのちゃんと確認されたら一発でアウトだろ。そして、王様に会わせるってなったら当然、普段以上にしっかり確認するに決まってる。
じゃあ……じゃあ……じゃあ……なんで、マリアノが、盗賊が、犯罪者が、あたりまえって顔でフィリアに会いに来てるんだ。
「ハッ。あいかわらず頭でっかちだな、テメエは。しかし、ンなことはどうだっていい。ツラ貸せ。ついて来い」
「は、はい。ユーゴ、ええと……だ、大丈夫ですか? その、なんだかとても……珍しいと言うと変かもしれませんが、すごく慌てているように見えますが……」
逆になんでお前はそんなに平然としてるんだよ! って、怒鳴りたい。怒鳴りたいけど……怒鳴ってもなんにも解決しないし、わけわかんないままだ。じゃあ……我慢。
でも、俺が我慢したのを見たからなのか、その逆か、マリアノはすっごい……呆れた顔でフィリアを見てる。そうだよな、そう思うよな。変なのはフィリアだよな。
「っ。フィリア、とりあえず俺より後ろにいろ。またなんか罠があるかもしれないし、そうでなくてもマリアノはフィリアのことだいぶ嫌いそうだからな」
「っ⁈ き、嫌われてなど……いないと思える根拠もありませんが……しかし……」
なんでそんなとこ悔しそうなんだよ! ああもう! さっきからリアクションが全部変だ! このアホ! デブ!
二度目はさすがに我慢しきれなくてつい怒鳴っちゃったら、まだ建物の中から様子を見てた役人みんなが真っ青な顔で慌ててるのが見えた。
だけど、そんなのお構いなしにマリアノはどんどん進むから……ああもう、こっちもこっちでわがままなやつだった。アホばっかりか。ムカつく。
「~~っ。今度はちゃんと連れて帰る、今日のうちに戻るから。約束するから、あんまり心配しなくていい」
そうだ。ただでさえナリッド解放のときに黙って姿を消してるから、役人からもしっかりと不信感を買ってる。
そこへこんな怪しいガキが出てきて、王様を連れ出して……なんて、もう……頭痛い。みんなの不安を想像すると、俺のほうがイライラしてくる……
それでも、マリアノが俺達の前に姿を現したからには、ちゃんと相手しなくちゃならない事情があると見て間違いない。
言い訳がましい約束だけ残して、フィリアを連れてマリアノを追っかけよう。いろんな事情は……聞けば説明してくれるやつだといいんだけど……
「……先に、ナリッドの件は礼を言っとく。テメエらが来なけりゃしばらくあのままだっただろう。あのまま……ゆっくりと、取り返しのつかねえとこまで沈んでた」
「っ。な、なんだよ、急に。ゲロ男にも同じこと言われたぞ。まあ、しばらく会ってないだろうけどさ」
ちょっと先を歩いてたマリアノに追いついて、不機嫌そうな背中の後ろを歩いてたら、急に変な……変でもないか。ゲロ男にも言われたようなお礼をされた。
だけどそれは、俺達だって感謝してることだ。盗賊団に力を借りなかったら、ナリッドの街まで行けたかどうかも怪しいんだから。
けど、マリアノはこっちの言い分を聞く気なんてなさそうで、立ち止まるどころかペースを落としもせず、振り返らないまま歩き続ける。なんだよ……
「……そうだよ。お前、ずっとこっちに……南にいたんだろ。だから、俺がアイツと話をしたことも、そこで同じようなこと言われたことも知らないんだ」
「……ァア? チッ、あのボケ。オレの居場所を、よりにもよってコイツらにゲロってどうすんだ。デカ女のまぬけぶりに当てられてやがんな」
まあ、そこはゲロ男だからな……って、そんなボケ言ったら睨まれそうだし、やめとこ。
それはそれとしても、なんかフィリアが不満そうな顔でびっくりしてるんだけど……マリアノの言う通りだと思う。フィリアがアホだから、ゲロ男も気を緩めるんだろうし。
「……どうせ知ることになるし、隠す意味もわかんないから言うけど。ヨロク、大変そうだったぞ。街の近くで魔獣はいっぱい倒したから、マシになったと思うけど」
「……そうかよ。ンじゃあ、それにも礼を言わねえといけねえな」
さて。それで……俺、マリアノとどこまで話をしていいんだろうな。
ゲロ男はきっと、マリアノさえも疑ってる。疑わざるを得ない状況に陥ってる。もしかしたら心を操られてるかもしれない、って。
としたら、俺が迂闊なことを言うわけにもいかない。それこそ、戦線の危機でも呼び戻さないくらいの覚悟があるんだ。それを無為にするわけにはいかないだろ。
とりあえず、どうせ合流すれば北で何があったかくらいは知ることになるだろうし、その話題くらいは出しても平気……だと思ったけど。
それにしても、リアクションが薄くて……仲間が危なかったって聞いたら、もうちょっとあってもいいだろうに……
「……なあ。それで、いったい何やったんだよ。役場の大人が、お前に会わせるためにフィリアを呼び出したんだぞ。王様をだぞ。マジでどんな脅し文句使ったんだ」
「っ! そ、そうですね。そう言われてみれば奇妙です。その……いえ。私達の知らぬところで、貴女個人はカンビレッジの街で信頼を勝ち取っていたという話でしたら……」
ァア? って、かなりドスの利いた声ですごまれちゃって、フィリアはそれ以上何も言わずに俺の後ろに隠れた。さすがにもう学習したな、自分が喋ると不機嫌になるって。
しかし……そっか。本当に今の今まで気づいてなかったのか、そこがいきなり変だったこと。なんか……フィリア、自分が王様だってことたまに忘れてる気がする……
「……フィリアがアホなのはもうわかってるだろうし、一回無視してくれていい。でも、本当に何やったんだよ。たとえ街で有名になってたとしても、それで王様とは――」
「――おい、クソガキ。オレ達はいつからオトモダチになったんだ。ちっと見ねえうちにテメエも毒されちまったみてえだな」
っ。いっぱい聞きたいことある、疑問がたくさんある。聞いたら教えてくれるやつ……じゃないかもしれないけど、せっかくだから……って、そんな気分でいた。
でも、そんな俺をバッサリ切り捨てて、マリアノは一瞬だけ俺を睨んだ。気の緩みを咎めるみたいに。いや……みたい、じゃないか。
そうだった。悪いやつじゃないかもって思ってるけど、そもそもマリアノは、いきなり俺達のこと襲ってきたようなやつだ。
それに、フィリアは和解するつもりでいても、今の時点では国賊として敵対してるわけだし。
なんか……ゲロ男とも水面下で協力を結べたから、すっかり仲間になったような気になってた。
なんでかわかんないけど、そうなるのが自然……って言うか、しっくりくるような気がしちゃうんだよな。なんでなんだろ……
そのあとにはもう無駄話なんて出来る空気じゃなくて、静かに、重苦しい空気を全身で感じながら、街の外に……盗賊団の拠点、砦跡に案内された。
でも、建物の中には入らずに、そのまま誰もいない裏手に連れて行かれて……?




