第百二十四話【繋がり……?】
カスタードから届けられた手紙には、今までとは違って目的地だけが書き記されていた。
いつもは、至急参られよ。としか書いてなくて、詳しい話は直接会って説明してくれてたんだけど、いったいどうしたんだろ。
たぶんあれは、情報が漏洩することを嫌ってそうしてたんだと思う。
コウモリに持たせられる手紙の大きさには限界があるからってのもあるだろうけど、それ以上にそっちを気にしてたハズだ。
にもかかわらず、今回は目的地を……俺達が行くべき先を明記してた。これは……どういうことなんだろうな。
単に、それだけなら周りの誰かに見られても平気だと思った……のか。それとも、もとからそこまで重要視してたわけじゃなかったのか。
アホみたいな顔して気の抜ける声で喋るおっさんだけど、気をつける部分には気をつけるやつだから。後者ではないような気がするんだけど……うーん。
準備が出来るまで、馬車に乗ったあと、目的地よりも手前の街で一度足を止めたときにも、ずっと同じことを考えてた。
けど、まあ……あたりまえだけど、答えなんて出ない。本人に聞かない限りはわかんないままだ。
そんなすっきりしない状態でも、馬車は俺達を運んでくれる。ギルマン達はカスタードのこと知らないし、知っててもそれはそれって割り切るだろうしな。
そんなわけで、まだもやもやしたまま目的地へ……カンビレッジへ到着すると、同じように悩んだ顔したフィリアに急かされる形で役場へと向かった。
「なんだよ、なんでそんなに急いでるんだよ。なんかわかったのか? そういう顔してないけど」
「急いでいるわけではありませんが、しかし悩んで足を止めても仕方がありません。伯爵が仰ったからには、この街に何かがあることだけは間違いありませんから」
まだ自分も納得出来てない、事態を掴みあぐねてるくせに、とりあえずバタバタしてるのは……ここのところずっと忙しかった癖が抜けてないのかな。
まあでも、フィリアの言う通りではあるか。悩んでも考えても答えなんて出ない以上、とりあえずここで何が起こるのかを見届けないと。
「たぶんだけど、この街で俺達が何かをしなくちゃいけないわけじゃないんだろうな。とにかくここにいて、ここで起こることに対処するべきだ……ってことだとは思う」
「そうですね。自発的に動かねばならない事態ならば、それを明記せずに出発はさせないでしょう。であれば……」
対処という言葉さえも過剰かもしれません。って、フィリアはそう言うと、カバンの中から分厚い紙束を取り出した。
暇潰しの本……じゃないよな。かと言って、それに絵を描いてのんびり待とう……って顔でもない。となると、それは……
「……もしかして、宮から仕事持ち出してきたのか……? なんて言うか……今まではそこまでしたことなかったって思うと、かなり……」
「言わないでください……はあ。いえ、普段以上に仕事が多いことは間違いないとして、こうまでしなければ間に合わないと言うほどではないのです。ですが……」
ふう。と、小さくため息をつくと、フィリアは街の様子を……役場の窓から見える、それなりに平和で穏やかなカンビレッジの街並みを眺めた。
「……こういった街ばかりではない、平和は取り戻さねば手に入らない場所が少なくないと知ってしまいましたから。貴方を宮に繋ぎ止めている時間の罪深さも、同じように」
「お、大げさだな……まあ、でも……そうかもな。ナリッドみたいな場所、ほかにも山ほどあるだろうし」
ここから一番近くて、実際に目にしてて、実感が伴ってる場所はナリッドだ。でも、それだけがフィリアを焦らせてるわけじゃない。
たぶん、ヨロクだってそう。ゲロ男達が戦ってるって知って、それに加勢出来なかった悔しさがあるから。
俺が戦えば、ほんのわずかな被害すらも出さずに魔獣を殲滅出来る。これはもう、宮にいる誰の中にもある共通認識だ。
もともと信じてくれてたフィリアにとっても、もっとしっかりとした信頼になったことだろう。
だからこそ、自分が縛りつけられていることがもどかしいんだ。そして、そのせいで俺の力を存分に振るえないことも。
いつか言ってたみたいに、俺を国軍に入れてしまえば、それはそれでもっと多くの魔獣を倒せるかもしれない……って、そんなこと考えるくらいに。
「……だけど、カスタードがそういうとこ配慮してないとは思わない。説明もなしにここへ来させられたのは、それが一番早いから……だと思う」
説明したほうが早いに決まってる、普通は。だって、でなくちゃ今みたいになる。
認識が食い違ったり、何も出来ない時間が生まれたり、そういうのを避ける準備が出来ないわけだから。
それでも指示を簡略化したのは、そうしたほうがいい都合があったからに違いない。
それが、俺達にとって都合がいいのか、カスタードにとって……カスタードがほかのこと出来るようになって、結果として俺達に都合がいいのかはわからないけど。
少なくとも、身勝手な理由ではないだろう。なんとなくだけど、そういうおっさんな気がする。
アイツ、俺達のこと徹底的に子供扱いしてるからな。そんで、子供相手に迷惑かけてやろうなんてしないやつだ。ムカつく。
「……しかし、もしもそうだとして……私達のもとに何が訪れるのでしょうか。人が来るのか、それとも問題が起こるのか。ううん……」
さて。まあ、カスタードのことは信用してるけど、それはそれとしても不安はある。
まさかとは思うけど、対処に困る問題が起こる……ことはないと思う。それと同時に、時間のかかる問題でもないと信じてる。
もしそうだったら、それを投げっぱなしにするのは……無責任だし、失敗したり見落としたりするリスクを考えてなさ過ぎるから。
となったら、バカでもわかるくらいハッキリと、誰でもどうにか出来るくらい簡単な、なのに俺達じゃなくちゃいけない何かが起こる……んだろうけど。
そんなの……なんかあるか……? カスタードがフィリアのことを王様だと知らなかったとしても、少なくとも宮仕えだとは思ってるわけで……
「し、失礼いたします。陛下、急ぎお聞きいただきたいことがございます。よ、よろしいでしょうか」
「……? はい、なんでしょう。ああ、ええと……彼は同席していても構いませんか」
はて。と、ふたりで悩んでると、役場のドアを叩く音と、ちょっと緊張した様子の男の声が聞こえた。
それはフィリアの返事を待ってから中に入ってきて、真っ青な顔で……不必要なくらい緊張しきった様子で、挙動不審なくらい気を遣いながら頭を下げる。
なんて言うか……いや、王様だからな、相手が。じゃあ、こういうふうになるやつもそりゃいるよな……とは思う。
でも、今までに見た、会った、聞いたやり取りの中には、ここまでガチガチにかしこまったものは一度もなかったように思うから……うん?
それはやっぱりフィリアの中にもある疑問みたいで、目を丸くして男に事情を説明させようとする。
俺も一緒にいていいのかとか、ここでしていい話なのかとか、そういうのを確かめながら。でも……
「ど、どうぞこちらへ。その……」
「……はい、すぐに。ふむ……ここでは出来ない話がある……のでしょうか」
これはもう、緊張ってよりは怯えだな。怯え……なくちゃいけないようなことを、王様相手にしなくちゃいけない事態に陥ってる……とか。
まあ、王様相手にこっち来いとか言うの、そりゃ緊張するだろうなとは思う。俺だって初対面だったら言えない。王様だし、顔怖いし、デカいし。
けど……カンビレッジには何度も来てるし、直接話をしたことはなくても、フィリアがどういう王様かはなんとなくわかってるんじゃないかな。
それでもここまで怯えてる……って、いったいどういう……
「――ァア? チッ、また見ねえうちにボケたツラになりやがったな。死んでねえのが信じらんねえ為体だ」
「……その声は……っ! マリアノさん!」
怯えきった様子の男に連れられて役場を出ると、道を一本も渡ることなく声をかけられた。
そうして振り返った先には、機嫌の悪そうな子供の顔が……もう何度も会ったマリアノが、今日もイライラした様子で待っていた。
まさか……カスタードが見せたかったものって、コイツ……なのか?




