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異世界転生  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】

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第百二十三話【いつもと違う報せ】


 ナリッドの港を有効活用すべく、クロープって街で船の試算をしてからまた数日。

 結局、これと言ってやれること、進められるものもなく、解決しなくちゃならない問題を前にただ焦るばかりの日が続いた。


 宮にいれば、フィリアは王様としての仕事をしなくちゃならない。いや、宮にいなくてもそうだけど。

 そしてその仕事は、俺じゃ手伝ってやれない。パールやリリィですら手を出せないものまであるくらいだしな。しょうがない。


 しょうがない……から、俺はまたひとりで街に出ていた。この数日間、ずっと。

 目的は……別に、あってないようなものだけど。念のため……ってやつだ。


「……ま、さすがにだよな」


 宮から離れた繁華街の、大通りを抜けたその先。いつかここで、商売のためにランデルへ来たとうそぶくゲロ男と会ったことがある。

 あとになってネタバラシをされたのは、そのときは俺達の様子を窺いに来ていたって話で、つまり……あっちから接触する意図が少なからずあるってことでもあった。


 今はそれどころじゃない、簡単には収まらない問題のさなかにあるから、こんなとこに来るわけはないんだけど。

 でも……もしもそれが終われば、また俺の前に現れるんじゃないか、って。勝手な押しつけだけど、そんなふうに思ってしまう。


 今戦っている敵……人の心を操る魔術師について。相談出来るのは、お互いにひとりしかいないから。


 けど、やっぱりアイツが姿を現すことはなくて、数日間ずっとただ街をぶらついてるだけになってしまった。

 やれることないからいいんだけどさ。こうしてても誰にも迷惑かかんないくらい、俺じゃ何も出来ないんだし。


 まあ……暇を持て余してうろうろしてても文句言われないくらい何も出来ないやつ……になってるのは、かなり不本意だけど。

 でも、表向きの仕事にしたって、フィリアが動けなかったら魔獣退治にも行けないしな。不本意だけど、何も出来ないのは揺るぎない事実だ。ムカつく。


「……はあ。今、俺に何が出来るんだろ」


 ひとつだけ思いつくのは、カスタードとふたりだけで話をすること。ゲロ男との協力関係を打ち明けて、例の魔術師について相談する人数を増やすことだ。


 カスタードとゲロ男を直接会わせるのは難しいけど、あいだに俺が入ってやり取りをすることは出来なくもない。

 カスタードと意見をまとめて、それをどのくらいゲロ男に伝えるか。そういう話し合いをするためにも、フィリア抜きで洞窟に行きたい……けど……


「俺ひとりで行くわけにもいかないもんな。街からは出ないって約束だし」


 この約束は、破っちゃいけないタイプの約束だ。破っていい約束もないだろうけど、その中でも特に気にしなくちゃいけないものだと思う。


 宮から出歩くことが許可されたのは、みんなに信用されたから、だ。

 魔獣を倒して、仕事を手伝って、フィリア以外からもそれなりに信じて貰えるようになったから。


 だから……好き勝手なことはしないだろう……って、その信用を裏切れば、宮から出る権利を取り上げられるだけじゃなくて、ほかの部分でも何も任せて貰えなくなる。

 フィリアはともかく、宮にいる大人から見る俺は、本当に異質な……正体不明の不審人物でしかないから。そこは絶対に間違えちゃいけない。


 となると、街から出てもいいかってフィリアに相談するべき……なんだけど。でも、それをしていいかもわからない。

 理由を説明しなかったら、フィリアだってきっと許可はしないと思う。なんだかんだ王様で、ちゃんとしてるとこはちゃんとするからな。

 かと言っても、じゃあ理由を説明しよう……ってなったら、カスタードのとこへ行くなら自分も……ってなると思う。


 そりゃあ、フィリアは忙しいから俺ひとりで相談してくる……とか、嘘ついて誤魔化すことも出来る。でも……なんか、俺、嘘つくの下手っぽいから。

 フィリアにもゲロ男との協力は知られちゃいけない。となったら、あんまり怪しまれるようなことをするべきじゃない。だから、これはダメだ。


 そもそも、カスタードに相談していいかって、ゲロ男にも確認したいとこだしな。

 ほかのやつに情報を漏らした……って知れば、アイツも俺を信用してくれなくなる可能性は高い。アイツ目線では、カスタードも操られてない保証はないわけだし。


 だから……なんて言うか、信用ってものにすごく縛られてる感じがする。

 それを崩さないために、失わないために、出来ることがどんどんなくなってくイメージ。はあ……めんどくさい……


 と、そんなこと考えながら街をぶらぶらしてるうちに、気づけば日暮れが近づいていた。

 これと言って何もしてないのに、ずいぶんと一日が短く感じる。暇なときは長く感じるハズなのにな。

 それだけ焦ってる……のかな。また一日が終わっちゃった、まだ何も出来てないのに……って、そんな気持ちになるから。


「……さて。暗くなる前に帰るか。信用……だもんな、これも」


 夜遅くまでうろうろしない、出来れば宮の中で仕事を探す……とか。別に何してても文句なんて言われないだろうけど、一応気にしておこうかなって。

 俺を疑ってるやつは監視紛いのことしてるだろうし、変なことしたせいでフィリアが文句言われるのも面白くない。だから、なるべく優等生にしてよう。


 自分でもバカらしいって思うけど、フィリアががんじがらめなぶん、俺が自由に動けるようにならないと。

 そのためには、ほんのちょっとのことでも信用を失わないように気をつけなくちゃ。


 それから宮に戻って、部屋で地図と向かい合ってるうちにその日は終わった。

 なんか……もうひとり仲間が欲しいな。俺の事情を知ってるって意味での仲間。別の世界から呼んで来た……っていう、意味わかんないことを信じてくれる味方が。

 そういうのがひとりいたら、フィリアが動けないときにも一緒に来てくれるし、そしたらひとりで勝手なことしてるとか思われないで済むし。

 味方……仲間……うーん。パールやリリィがそうなったとしても、結局忙しいしな、ふたりとも。じゃあ……暇なやつで……暇なやつなんて宮にはいないか……




 そしてまた数日。何も進まないままの俺達のもとに、カスタードからの手紙が届いた。

 けど、その日の手紙にはいつもの文言が……至急来られよの部分がなくて。代わりに、とある街の名前が……行き先が記されていて……


「……なんだと思う? いつも自分の口から事情を説明して、それから指示出してたのに。なんで今回は手紙だけで済ませたんだろ」


「ううん……伯爵の考えはわかりませんね。もちろん、手を抜いたり、悪事を働いたりと、そういったことではないと思うのですが……」


 その手紙を前に、俺もフィリアも揃って首をかしげるしか出来なかった。いや、意図はわかるし、それで十分って思っただけなら変でもなんでもないんだけど。


 でも、今まではこういうことしなかったから。なんかあったらまず呼び出して、事情を詳しく説明して、それからどうすべきかを提案してくれた。

 それこそ、ヨロクが……北の戦線がヤバいってときにもそうしたんだ。じゃあ、ただ急いでるだけならこんなことしないよな。


「あるいは、伯爵自身が何かをしなければならない状況にあるのかもしれません。洞窟を離れ、自らの足で調査に赴いている……とか」


「あのおっさんがあそこから出るとは思えないけど……まあ、なくはないか。コウモリだけだと調べられない場所があるって言ってたもんな」


 としたら……ひとりで北へ行った……なんてこともあるのか? いや、さすがにそれはリスクが大き過ぎるし、そこまで無鉄砲じゃないか。


 なんにしても、カスタードもカスタードで俺達に言ってない事情くらいあるだろう。なら、あんまり気にし過ぎてもしょうがない。

 重要なのは、どうあれ手紙の内容だ。今までよりもずっと簡略化されたその指示がいったい何を意味するのか、そこに気をつけてないと。


 そういうわけで、フィリアの仕事を切り上げて、準備が出来次第またランデルを離れた。

 目的地は、手紙に書かれていた街――カンビレッジ。国の南端の街で、ナリッド解放の実績もある場所。

 カスタードはそこに何を見つけたのか。俺達は何を解決しなくちゃいけないのか。わからないままだけど、とにかく向かうしかない。


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