第百十九話【波は立てずに】
人を操る魔術師。そんな敵について、ようやくゲロ男と話をすることが出来た。
とは言っても、それはあくまでスタートライン。まだなんにも解決はしていない。
それでも、今までは調べるどころかその方法を探すことさえ出来なかったんだ。それを思えば、とんでもない進歩と言えるだろう。
これでようやく前に進む……かもしれない程度だけどさ、まだ。どっちが前かもわかんない真っ暗闇で、それを一緒に悩む相手が出来ただけだから。
そして、ゲロ男とほんの少しの相談を終えたその日の朝……陽が昇ったあと。
俺はまた宿に戻って、フィリアが起きてくるのを待って、それから……
「フィリア。なんか手伝うことあるか? 暇でしょうがないんだけど」
「手伝うこと……ですか? ええと……」
何もなかった。そういう体で、出来ることがないかを聞くことにした。
ゲロ男と相談した結果、現時点でわかってることから敵の素性を暴くのは不可能だ……って結論が出た。
今までなんとなくダメそうだと思ってたものが、ハッキリとダメだってわかったわけだ。あの時間、なんの意味もなかった。ムカつく。
でも、それがハッキリしたことには意味があるから、イライラしてばっかでもしょうがないんだけどさ。
それで、今は打てる手がないから……と、ゲロ男から指示されたのは、とりあえず今まで通りに動くこと……敵にこっちの事情を知られないこと。
人を操る魔術があるって、こっちがそれを知ってるかどうかは向こうからはわからない……と思う。少なくとも、それがバレないようには努めてきた。
ならその部分は継続するべきだ、って。だから、俺とゲロ男とのあいだに水面下の協力関係が結ばれていることは、表に出さないようにしようって話だ。
つまるところ……今は任せられることがないから、邪魔にならないようにどっか行ってろ……ってことだな。ムカつく。クズ。
「街の中、いろんなとこ見てきたけど、俺に出来ることってそんなにないからな。なら、街の南側で魔獣でも退治したほうがいいのかなって」
そんなわけで、昨日までは街の中をうろうろしてたけど、結局やることは見つからなかったってことにして、フィリアに相談したんだ。
フィリア目線からは、ゲロ男からの指示があるまでは北の問題に首をつっこめない……って、そう見えてるハズだから。なら、それ以外のことで何か出来ないかなって。
「南の……ですか。ですが、貴方は何かすることがあって……したいことがあって、ここのところ単独行動をしていたのではなかったのですか?」
「だから、それが見つかんなかったから言ってるんだろ。魔獣を倒すのは簡単なのに、がれきを運ぶ力はないんだ。ムカつく。なんでそこは強くなんないんだ」
それで……どうやらフィリアは、俺が何か考えがあってひとりになったと思ってたらしくて、それはもういいのかって聞いてくる。
なんか……まあ……そうなんだけどさ。やることあったし、やりたいこともあったけど、それは言えないから……何もないって言うしかない。
言うしかないけど……そうなると、ただふらふらしてて、なんにも役に立たなかったから帰ってきた……って感じになって、なんか嫌だな。ムカつく。あのクズのせいで。
「そう……ですか。では、貴方の言う通り、南部での魔獣の様子を見に行きましょうか。別に問題が残っていることは、そちらを無視していい理由にはなりませんから」
「来るときも結構な数だったからな。定期的に倒しておかないと、また同じことが起こるかもしれないし」
ムカつく。けど、それはそれ。あのクズと何かあったと思われちゃいけないからな、出来るだけそういうイライラも隠さないと。
そのうえで、ゲロ男からの指示を待ってるあいだに出来ることを探す。今までの自分がやってただろうことを片っ端からやるんだ。
それに……万が一、敵が魔獣と一緒に攻めてくるなら。それはきっと、北側の魔獣に限ったものじゃないんだろう。
南側の魔獣が増えて、それが街を脅かしそうになったなら、それはそれで敵としても好機になる。なら、そこは先に潰しておくべきだ。
「……あの、ユーゴ。何かあったのですか? その……いつにも増して……と言うよりも、こういう場合、貴方はもう少しイライラした様子を見せるような……」
「……なんだよそれ。別に、出来ることないからってイライラしないし、しててもそれで周りに当たったりしないよ。子供じゃあるまいし」
うざ。子供扱いすんな。それと、フィリアのくせに見抜くなよ。もっとどんくさくて鈍いやつだっただろ。なんだよ、急に。
けど、俺が否定すればそれ以上の追及もなくて、そこまで大きな違和感があったわけじゃない……っぽいのかな。よくわかんないけど。
でも……そうか。俺、普段は結構イライラした様子に見えるんだな。じゃあ……そういう感じにするべきか……? でも、それもわざとらしかったら違うしな……
それも、どんくさいフィリアに見透かされるくらいだから、結構わかるもんなのかも。もしかして、俺って嘘つくの下手なのかな……?
とは言っても、フィリアも俺のことを疑ってるわけじゃないみたいだから。役場の大人と話をつけると、魔獣退治に出かける準備を進めてくれた。
ギルマン達も街で復興作業をしてるらしいから、ちょっとだけ時間がかかるけど、すぐに出られそうだ。
「それで、俺がいないあいだにフィリアは何してたんだ? まあ、街があんな状態だから、やることはいっぱいあっただろうけどさ」
「はい。主には、復興のための予算調整でしょうか。事態が事態ですから、国庫からも支援金を出せますし。私がいれば、煩雑な手続きをある程度無視してしまえますからね」
なんか……王様が直接命令すれば、本当なら必要な手続きとか申請とかを無視させられる……って言ってるように聞こえたけど、それっていいのか……?
まあ、王様に申請する必要があるところを、本人が直接やってるんだ……と思えば、案外普通のことなのかな。でも……うーん。
「こんなときにくらい、権威を振りかざさねば。でなければ、王としてここにいる甲斐がない。少なくとも、彼らと共にあるあいだは」
彼ら……って、役場のみんなのことかな。それとも、ギルマン達のことかな。
俺といるときは割と王様っぽくないこといっぱいやってることを思えば、王様としてのフィリアに従ってくれる人の前では……みたいな意味なのかも。
だからきっと……これが、フィリアなりの覚悟なんだろうな。ゲロ男が言ってた、組織の長だからこそ協力は飲めない……ってのとおんなじことで。
それからもうちょっと待てば馬車が役場の前に着いて、フィリアと一緒に車内へと乗り込んだ。
そこにいたのはグランダールだけで、ほかのみんなは街の手伝いに残すらしい。
なんか……王様が行くのにそれでいいのか? って気持ちになったけど、グランダールはギルマン達の中で一番強いらしいし、少数精鋭ってことなのかな。
それと……まあ、俺がいればいいって、やっとみんなもわかったってことだろう。そう思えば、信頼されてると前向きに受け取ることも出来る。
街がヤバ過ぎて、わがまま勝手な王様なんてほっとけ……って思われてるんじゃなければ、だけど。
そうして俺達は、ヨロク南部での魔獣討伐に向かった。
まあ、いまさら苦戦する相手じゃないから、俺がひとりでパパっと倒して、目に見えて数が減ったところで帰る、簡単な仕事だったけど。
それでも、北でなんかあったときに被害が出ないように……って意味では、多少の備えにはなっただろ。
あとは、ゲロ男から表立っての指示が出るのを待つだけだ。出来れば急いで欲しい。暇だし、帰りの予定とかもあるし。




