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異世界転生  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】

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第百十八話【共同体】


「――フィリアちゃん以外、宮にいる人間も含めて全員……ね。そりゃまた、おっかない想定で生きてるもんだ。ガキのくせによ」


 ゲロ男の口から切り出されたのは、いったい誰が操られているのか……自分は、お前は、本当に操られていないのかって話だった。


 敵の中には人の心を操る魔術師がいる。俺はそのことを、カスタードから聞いて知っていた。

 同時に、この話を誰とも相談出来ないでいた。するべきでないと釘を刺されていた。


 そしてそれは、カスタードみたいな情報提供者がいなくても、最前線で戦ってるゲロ男にも同じ障害として立ちはだかったんだろう。

 目の前で起こった異変から、周りの証言から、それぞれの証言の食い違いから、なんからの事情で操られた仲間がいることに辿り着いて、考えたハズ。

 なんとかして誰が操られているのか……延いては、誰が操られていないのかを探り当てなくちゃいけないって。


 だけどそれは、実質的に不可能なことのように思えた。いや……事実、出来ないと諦めてたし、今の今まで出来なかった。


 あたりまえだ。操られているのが誰かなんて、簡単に判別出来るなら最初から困ってない。つまり、目で見て、話をして、ハッキリとわかるほどの異変は起こらないんだ。

 そのうえ、その異変を見わけようとする行為そのものにリスクが伴う。目立つ行動は全部敵に知られてしまうと思って差し支えないわけだし。


 だから俺達も……俺とフィリアも、パールやリリィ、それにギルマン達国軍の兵士にも相談出来ず、今の今までふたりだけで悩んでいた。

 ゲロ男もきっと同じように……いや。俺達よりもずっと厳しい状況で、たったひとりで悩んでたんだろう。

 あるいは、今、マリアノが南にいて戻って来られないのも、それが原因なのかもしれない。

 マリアノが操られる可能性を危惧して……すでに操られている可能性さえも視野に入れて、それを一時的に遠ざけなくちゃならなかったんだ。


 だけど、ゲロ男はそれを俺に打ち明けた。味方が操られているかもしれない、そういう敵がたしかに存在するんだ、って。

 打ち明ければその時点で危険を伴うのがわかっていながら、ずっと一緒にいたわけでもない俺にその話をしたんだ。その話が出来ると、操られていないと、そう信じて。

 いや……違う。こいつは……


「……なんで、俺は操られてないってわかったんだ。イチかバチかとか、信用とか信頼とか、そんなのじゃ踏み出さないだろ。それでいいならフィリアの手を取ったハズだ」


 ゲロ男は、確信を持って俺に話をしたハズ。今までの振る舞いからもそういう人間だと思うし、何より、でなくちゃこんな時間、こんな場所にいるわけない。

 俺は操られてないって確信があるから……あるいは、それを簡単に確かめられると思ったから、コイツはひとりで俺だけを誘い出したんだ。

 まあ……誘い出そうとしたタイミングで俺がふらっと出てきたから、実際には何もしてないんだけど。


「はっは、そりゃそうだ。確証が得られたからこうして声かけに来たんだよ。もちろん、お前がもうちょっとバカならそれでも打ち明けなかったけどな」


「うざ。思い通りに動く都合のいいやつって言われた気分だ。なんにもうれしくない」


 もうちょっと素直に受け取ってくれていいんだぜ……? って、ゲロ男は目を細めるけど……こんなやつの言葉を素直に受け取っていいことなんて絶対ないだろ。クズ。

 何回も騙されてるからな、これっぽっちも信用ならない。協力関係は結びたいけど、それはそれとしてもコイツは敵だ。ムカつく。


「ま、いろいろとな。そもそも、ランデルにずっといたお前なら、操られてる可能性は低いって読みもある。あの様子だと、街に出かけることさえロクになかっただろうしな」


 っ! 前にランデルで鉢合わせたことがあったけど、やっぱりあれは商売のためなんかじゃなかったんだな。適当なこと言いやがって、クズ。

 ってことは……この二日でやったこと、魔獣退治と砦の守備も、俺が操られてるかどうかを確かめるための……


「そんな顔すんなって。それが必要不可欠で、失敗の許されないことだってのはお前もわかってんだろ」


「……まさか、お前がビビりのクズだったおかげで味方が出来るとはな」


 認めたくないけどそういうことだよな。コイツが徹底的にリスクを避け続けたおかげで、今もこうしてヨロクが無事なんだろう。

 そして、ずーっとひとりで耐え忍んで、ようやく打開出来るかもしれないって状況を前にも、舞い上がることなく慎重にことを運んで来たんだ。

 それこそ、初めてヨロクで俺達のことを見たときから考えてたのかもしれない。北の敵をなんとかするための味方に出来るかもしれないって。


「ま、やりかたについては全部終わったあとに興味があれば教えてやるよ。重要なのは、俺とお前が操られずにここで肩を並べられたって事実だ」


「誰が肩なんか並べるか、このクズ。情報だけくれれば俺がなんとかするから、お前は引っ込んでろ」


 さて。でも、こうして俺とゲロ男が意思疎通を測れたことも、ようやくスタートラインに立てただけに過ぎない。

 どうやって人を操るのかはわかってないんだから、気を抜いたらふたりのどっちかが操られて台無し……なんてことにもなりかねない。


 いや……その場合、台無しになるのは俺達の目論見だけじゃなくて、この国そのものの可能性だってある。

 まだなんにも始まってないんだって、気を張ってないと。


「現状、こっちでわかってることは全部開示する。だからお前も、噂の情報通から聞いた話を全部寄越せ。こうなっちまったら、俺達だけで解決するしかねえぞ」


「……わかった。じゃあそっちから先に話せ。こっちは話をまとめなくちゃなんないし」


 カスタードから聞いた話は、あくまでも推定のものが多かった。それに、魔術がどうとかってなると、俺じゃ想像も出来ない範囲になる。

 なら、ゲロ男から話を聞いて、もうちょっとだけ実感を得てからまとめておきたい。でないと、伝えたいことが伝わんなくなるかもしれないし。


「うし、わかった。んじゃまずは……知ってのとおり、敵は魔術師だ。もっとも、魔術なんて俺達もよく知らねえから、かじった程度の知識でそう思ってるだけだがよ」


 敵は魔術を使う。それが、人を操る魔術以外にも存在するかは不明。そもそも、それが本当に魔術と呼ばれるものの範疇はんちゅうなのかも定かじゃない。


 その魔術師は、魔獣の侵攻に合わせて接近してくる。混乱の中でいきなり味方同士の連携が崩れるから、被害の規模がかなり大きくなったらしい。

 そんな状況だから、魔術師の姿を確認したことは一度もない。あるいはあったかもしれないけど……顔を見たやつは操られてるだろうから、情報は得られそうにない。


 そして、魔術師とは別に、人間の兵士も敵として襲ってきたことがある。

 そいつらが操られた兵士なのか、それとも魔術師の仲間なのかはわからない。わからないけど、魔獣の対処をしてるあいだに砦を攻められるのはかなり危険だ。


 総じて、敵の顔も声も姿も、そもそも人間なのかさえも不明。そのうえ、マリアノさえも操られていない確証を得られていない。

 ゲロ男から聞かされたのは、そんな最悪の状況説明だった。


「どうだ、もう泣いて帰りたくなったか。俺はずっとそうだったよ。でも……泣いても帰る場所なんてねえからな。頭がいてえのなんのって」


「シャレになんないな、それ。諦めてちょっと目を逸らしたら、もうどこにも安全圏はないってことだろ。今までよく耐えてたな。クズのくせに」


 そりゃ、ビビりにもなるか。少なくとも、マリアノと俺は、コイツなんかよりはるかに強いからな。そんなやつふたりが敵かもしれないなんて、気が気じゃないだろう。


 でも、ゲロ男は諦めずに戦い続けてた。じゃあ、ここらでちょっとは報われてもいいころだ。

 俺から出せる情報に目新しいものはないからそこはちょっと申し訳ないけど……でも、念願の相談出来る相手にはなってやれるから。


 とりあえず、カスタードから聞いた話を、出来るだけそのまま伝えた。伝えて、それぞれの意味がどうだったのかを一緒になって考える。

 これで敵の正体がわかるなんてことはないけど、どう調べるかくらいは決めちゃわないとな。フィリアと違って、ふたりで話せる機会なんてそうないわけだし。


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