22. The stark reality 〜All is well that ends well~
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あれは、僕の14歳の誕生日。
母親に祝ってもらった後で、1日への希望を胸に学校へ行ったんだ。
でもね、希望は絶望に変わった。
教室に入ったら、友には避けられ、机には「死ね」のメッセージ。
びっくりしたよ。
「何が起きたんだ⁉」ってね。
そうしたら、言われたんだ。
「この、穢れたクズめ!」
「虐殺者は消えろ!」
別に、僕は虐殺者でも何でもないのにね。
まぁ、それで、先祖のことでいじめられてるって気づいたんだけど。
1番、すごかったのは、ガキ大将。
学校が終わったら、毎日、暴力をふるってきて。
ああ、足を踏み続けられて、骨を折ったこともあったっけ。
暴言暴行の数々。忘れやしないよ。
たしか、名前はセーゼ・トゥイ・ナンユと言ったかな。
あれ? 聞いたことがある気が……。
「その人、ヌヴェルさんを探しているときに話しかけた人じゃないか?」
レネアさんが顎に手を当てながら言う。
言われてみれば。
でも、あの人――。
「――ヌヴェルさんのこと、知らないって言ってた、な」
「嘘ついてる雰囲気でもなかったよね」
まさか、あの人……!
「忘れてる――」
リクが少し声を震わせて言った。
そのあと、考え込んだ。
「君たちはセーゼに会ったのかな?」
ヌヴェルさんが少し目を細めて言う。
僕はこくっと頷いた。
「そうか。で、僕のことを忘れていた、と」
僕はまた、頷いた。
「まあ、そうだろうね」
え?
「アイツは昔から、薄情なやつだったよ。今更、何も思わないね」
とても淡々と言う、その声が、僕には無性に哀しく聞こえた。
どうして忘れることが出来るんだろう。
与えた苦痛の数々を、どうして忘れているんだろう。
ひどすぎるよ……。
――ヒュン。
ヌヴェルさんは、細められた目を、ねめつけるようにリクの方に向けた。
「何の真似だい?」
ヌヴェルさんは、血を流しながら、人差し指と中指で挟んで掴んだナイフを床に落とし、足で蹴り飛ばした。
「ナイフを掴めるほどの動体視力と身体能力」
リクは、ナイフを投げるために持ち上げていた腕を下ろしながら、言い始めた。
「それだけの能力があれば、前国王を倒すのは簡単だったでしょう」
「簡単ではなかったけれど、難しくはなかったね。――それよりも、何が言いたいのかを教えてくれないかな」
「あなたほどの能力があれば、いじめっ子ぐらい、やり返せていたんじゃないですか?」
「君は、いじめられたら、やり返すのかい? 浅はかだね。やり返したら、終わるわけじゃないんだよ。第一、この世界は暴力が全てじゃない」
「戦いで国の頂点に立った男が、それを言いますか」
「…………」
「俺は、いくつかの情報と、その王座を明け渡してくれれば、それでいい。お前は、俺たちを殺さなければならないはずだ! どうして俺たちを攻撃しない? 俺たちに殺せない理由でもあるのか⁉︎」
「――はぁ。君たちは死にたがりなのかな?」
ヌヴェルさんが、異様な雰囲気を醸し出す。
「空間を支配せし空気よ、彼等の周りから消えるがいい」
空気? 消える?
――あ、あれ⁉︎
い、息が吸えないっ!ど、どうして……⁉︎
横を見ても、ツェルドくんは口をパクパクさせている。
バタッ。
リクが床に倒れた。
胸を押さえ、小さな体をくの字に折り曲げている。
僕も力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
痛い、痛い。胸が、痛い。
僕は仰向けになる。
「苦しそうだねぇ。止めてあげようか」
朦朧とする意識の中で、僕は必死に頷いた。
ヌヴェルさんが指を掲げる。
パチン。
「っ、はぁ、っはぁ、っはぁ、はぁ」
肺の中に突然、大量の空気が流れ込んだ。
まだ痛みの残る胸に手を当て、五感のひとつひとつを正しく作動させていく。
「リ、リク、は?」
「大丈夫だよ。僕は誰も殺してないから」
僕は安堵の息を吐いた。
「しかし、この状態では何もできないだろう? 僕の話の続きでも、休みながら聞いてくれ。話し相手がいなかったからね、ずっと寂しかったんだよ」
彼はニヤッと笑った。
「だが、忘れないでくれよ? ここにいる全ての者の命が、僕の手にかかっているということを」
――ん?
さっき、何かが引っかかった。
何が、だ?
どうして、僕が王家の末裔だとバレてしまったのかは分からなくてね。
ひたすら耐える日々が続いた。
シングルマザーの母さんも、会社をクビになり、僕たちは貯金を切り崩して生活していた。
骨折を治すお金もかかって、貯金も底をつきそうで。
そんなときだった。
ピーンポーン、ピーンポーン。
母親は出かけていたから、僕が代わりに外へ出た。
男の人が、インターホンを鳴らしていたんだ。
これが、恩人である『あの方』との出会い。
あの方は、トレンチコートに黒マスクでね、今までに一度も顔を見たことはないよ。
っと、話が逸れたね。
「トイレを貸してくれ」って言うから、部屋に入れたんだ。
で、その後。
「君、いじめられてるんだろ?」
「…………そうですが、何か?」
あの時はムッとしたね。
「突然現れて、何言ってんだ?」って。
びっくりしたし、同時に焦った。
見ず知らずの人が知っているなんて。国中に知れ渡るのも時間の問題。
どうにかしなければ……!
「何、怖いんだけど」
この時も、僕の雰囲気は異様だったらしいんだ。あの方に怖がられたね。
僕、どうやら、驚いた時と焦った時が、怒った時みたいな態度になっちゃうらしくて。
感情表現が苦手なんだよな。
「いじめ、止めてあげようか?」
「はい?」
「俺、魔術師なんだよな」
「はぁ……」
一応、僕も魔術師みたいなものだからね。
君たちも体験した様に、空気を操ることが出来るから。プレーヌには、『見えないものを操る能力』って教えたかな?
だから、その話は信じることにした。
「俺の能力は、記憶を改ざんする能力。全ての人から、君の先祖がユールセンであることを忘れさせよう」
「……それは、何か裏があるんですよね? そんなこと、無料でしてくれる人がいるわけない」
「――君はひねくれ者か? まぁたしかに、裏はある。条件というほうが、俺は好きだけど」
「で、その裏って?」
「王になってもらおう」
「はい?」
「王座決定戦に出てもらう。そして優勝。これが条件」
「どうして僕が」
「ん、根回し」
「は?」
「とりあえず、この条件を呑むか、呑まないか。決めてくれ」
「……呑む」
僕は彼の目を見て答えた。
「オッケー」
パチン。
掠れることなく高い綺麗な音を出して、指を鳴らした。
「これで、特に何の理由もなく、君たちはいじめられていたことになった。俺が少し動くから、おそらく、いじめは止まる」
「そうですか。ありがとうございます」
この時、ひたすらに安堵した。
これで、プレーヌが僕と同じ様にいじめられることはない、って。
「約束、守ってくれることを期待しているよ」
そう言って彼は、家を出て行った。




