22.The stark reality 〜your face, her face〜
文字数(空白・改行除く):2,583文字
紅に染まるこの場所に、絶叫がこだまする。
開かれたこの場所で何故、こんなにも声が反響したのか。僕には分からない。
城の中に足を踏み入れながら、僕は不安になった。
バタンと扉が閉まり、さらに焦燥感を強めさせる。
準備は出来ている。
だけど、この胸のざわめきは何だろう。
『報・連・相』。この不快感も、そうしておくべきなんだろうか。
――ここは大広間みたいだ。
天井から吊り下げられている黒いカーテンで仕切られていて、全体は見えないけれど。
待機スペースにしているのかな?
あれ? カーテンに紙が貼ってある。
『3時半までお待ちください。隅にある椅子は、ご自由にお使いください』
「レネアさん、今、何時ですか?」
「2時半だ」
なら、あと1時間、待たないと。
入ったらすぐ戦いかと思ってたのに、拍子抜けだな。
ピンポンパンポーン。
……放送?
『3時半になりました。これより、一騎討ちを始めます』
女性の機械音声が流れ、自動的に黒いカーテンが開きだす。
――ガチャ。
鍵が閉まった⁉︎
「もう、出られないじゃん」
はあっ、とツェルドくんは、ため息をついた。
しょうがない。
僕は、白いお面をつけている王の方に目を向ける。
王は、大広間の真ん中にある椅子に腰掛けていた。
肘掛けに肘を立て、頬杖をついている。
――ぞわっ。
王が殺気を発していたわけではない。
この背筋に走った悪寒は、叫び出したくなるような虫の知らせと、全てが分かってしまったときの恐ろしさ。
最悪だ。
こんなこと、今まで無かった。
こんなにしっかり直感したのは、僕の魔力が増えて、直感がパワーアップしたことも関係あるかもしれない。
けど、こんなに恐ろしくなるのは、僕の直感したことが、それぐらいしっかりした事実なんだろう。
「お兄、ちゃん……?」
プレーヌちゃんは瞬きもせず、目を見開いていた。
「えっ⁉︎」
「お兄ちゃん⁉︎」
「あいつが⁉︎」
王はばっと顔を上げ、レネアさんとリクとツェルドくんはプレーヌちゃんの言葉に驚き、そして狼狽えた。
「そ、そんなわけないでしょ。だって、プレーヌの兄さんが、プレーヌの嫌いな奴なわけないじゃん!」
「第一、プレーヌの兄さんは死んだんだろ⁉︎ なぁ、レネアさん」
「あ、ああ」
「――いや、違うと思うよ」
勝手に言葉が口からこぼれ出した。
「は? 何が違うっていうのさ⁉︎」
ツェルドくんを傷つけてもいい。
僕は、現実を見てほしい――知ってほしいんだ。
「ちゃんと王を見てよ」
ウェーブのかかった金髪。
透き通った赤い目。
そして、プレーヌちゃんと色違いの赤い耳飾り。
「たしかに、ヌヴェルさんと、容姿の特徴は一緒だけど! それだけじゃ、何とも言えないじゃん!」
「それだけじゃないんだよ」
アパートの住人さんが言っていた。
王が変わったのは8年前。王は成人していないという噂だと。
ヌヴェルさんが行方不明になったのも8年前。ヌヴェルさんは当時14歳。成人してない。
「で、でも!」
「じゃあ、こう言えばいい? 僕の直感――ううん、透視眼で見えた。王は、ヌヴェルさんだと」
「――透視、か。それは厄介だ」
突然、王が立ち上がって僕たちの方へ――いや、プレーヌちゃんの方へ歩いてきた。
王が手を上げる。
「少しおやすみ、プレーヌ」
そして王が、プレーヌちゃんの右側の首筋に手を振り下ろした。
手刀打ちだ!
プレーヌちゃん、避けて!
シュッ、トン!
プレーヌちゃんが崩れ落ちた。
「何するのさ!」
「何、って、少し寝てもらおうと思ってさ」
王は4脚、椅子を運んできてその上にプレーヌちゃんを寝かせた。
自分が首にかけていたペンダントを、プレーヌちゃんの首にかける。
「そうだ、ぼく」
ぶわぁっ。
得体の知れない気が王から発せられる。
そして、王は僕の方を見ながら、お面に手をかけた。
「だいせいか〜い」
お面を外したその顔は、とても色白な美形で、どことなく見たことのあるような顔で。
「ぼくの透視眼は優秀だね」
ああ、彼女に似てるんだ。
彼が口の端を歪めると、彼女と同じ色の髪が揺れた。
そして僕は思った。
どうしてこの人の目は、こんなに透き通っていて、綺麗なのだろうかと。
それしか、思えなかった。
「で、君たちはどうしてそんなに好戦的なんだ?」
ヌヴェルさんは、刀に手をかけているツェルドくん、8本のナイフを持っているリク、構えているレネアさんと僕を見ながら言った。
「あなたが異様な雰囲気を出していたからですが」
レネアさんがきっとヌヴェルさんを見据えて言った。
「そんなに異様だったかな」
ヌヴェルさんが肩をすくめる。
あれ?
さっきほど異様な気配が無い。
「まあ、焦っていたし、びっくりしていたからね。昔からそうだし」
「そうって?」
「えっと。話した方がいい? 長くなるけど」
「聞いておきます」
このまま決闘とかになっても、気持ちの整理がついていない僕たちは圧倒的に不利。
なす術もなくやられるだろうから。
なら、時間稼ぎ。
ヌヴェルさんは、また椅子に座った。
「君たちもどこかに座れば? まだ椅子はあるし。別に立ったままでも僕はいいけど」
ツェルドくんとレネアさんは少し後ろに下がり、壁にもたれかかった。
レネアさんが、「椅子には仕掛けがあるかもしれない」って言ってたからな。
床に座ろうかな。
僕が床に座ってあぐらをかくと、リクがその上に乗ってきた。
「なんで乗るんだよ。僕は父さんじゃないんだぞ」
「なんでもいいだろ。なんでも。……人間の体温を感じたかっただけなんだよ」
人間の体温?
「どういう意味?」
「恥っず。聞こえてたのか……」
ん?
「分からねぇならそれでいいよ」
どういうことかな?
「話すよ?」
ヌヴェルさんは手を組んだ。
「僕はいじめられてたんだ。昔、ね」
いじめ?
僕が14歳のとき、通っていた学校でのことだ。
たくさんの人に軽蔑されてた。
そして学校内での権力者――ガキ大将にいじめられてたんだ。
理由はね、僕とプレーヌの先祖のことだよ。
僕とプレーヌの先祖は、王様。
ある事件がきっかけで失脚した王様。
「事件?」
「あれ、知らない? プレーヌから聞いてないの? ああ、誰も言わなかったんだ。調べたりもしなかった、ことかな? じゃあ、僕のことを話す前にその話をするよ」
もしかして、教会の話かな。プレーヌちゃんが話してくれた。
「その感じは知ってる感じだね。ある程度。でも、ちゃんとは知らないでしょ? だって」
ヌヴェルさんはニコッと笑った。
「異世界から来たんだもんねぇ、君たちは」
バレてる……⁉︎




