21.争乱 後編(準備部分)
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「まだ誰も来てないな」
「そうだね」
城門前に到着した俺たちは、前に1枚バリアを張ってあたりを見回した。
ザルソンが降りてこられるように、上のバリアとこのバリアは繋がっていない。
このバリアは、あくまで俺たちを守るためのものだ。
「そうだ、ツェルド」
「何なのさ」
「復讐だけはするな」
「は? いきなり何なのさ」
「復讐でやり返したところで、こちらが、さらにやられるだけ」
「それなら、こっちがもっと……」
「やり返す、だろう?」
「え、うん」
「じゃあ、やり返したとして、相手がまたやり返してくる。なら、どうする?」
「もっともっと……」
「そうなるだろうな。でも、それはまだまだ何回も続くことになる。そして、最終的には『死』まで行き着く」
ツェルドは、風で波打つ湖面の全体を見ている。
細かなところまで見て、それでいて抽象的に湖面を見ている。
俺は空を見上げた。
「人を殺すこと、それは罪だ」
「知ってるって、それくらい」
「復讐は、最終的に殺しになる。だから、たとえ誰かが死んでも、復讐をしてはいけない」
「――それは、レネアさんの持論?」
「いいや、違う」
俺は、ポケットからコーヒーキャンディを取り出して、口に入れた。
「姉さんだ。『もしレネアが殺されたら、怒るよ。自殺でも、他殺でも。もし他殺なら、犯人を恨むし、憎む。けど、絶対に復讐はしない。特に、殺したりはしない。人を殺すこと、それは犯人と同レベルに堕ちるってことよ。私、それだけは絶対に嫌』って」
にんじんを乱切りにしながら、俺の小3の終業式の日にそう言った姉さんの姿を思い出す。
あの時だったか。
人のことをパシってばっかりの姉さんが、ラージュさんと同じ種類の人間だということに気づいたのは。
「じゃあ、レネアさんの持論は何なのさ」
「俺の持論? そうだな。『守ることと傷つけることは表裏一体』というところか」
「?」
「守るためには、こちらから仕掛けるか、こちらが敗北宣言をするか。敗北宣言ができない場合、こっちが仕掛けるしかない。それは相手を傷つけることになる」
これだけでは分かりにくいな。
「前に、学園会と戦っただろう? 俺たちは、ツェルドを守るためにアレイアを攻撃した」
「ああ、たしかに」
「『ルイと、君自身の命の内、1つだけ助けられる。さてどうする?』って言われたとき。とれか1つを守れば、あとは死ぬ」
「なるほどね」
「俺は、仲間を絶対に守る。守りきれなかったら、悔やむ。しかし、現実を受け入れて生活する。もし、そのようなことになってしまったら、そうするつもりだ。復讐はしない」
「分かった。ぼくも、復讐はしない」
ツェルドに聞こえないように、俺は長く息を吐いた。
「――ねぇ、ねぇ。レネアさんは、カルさんとレネアさんの命が天秤に掛けられたら、どうする?」
「…………分からない。助かる確率の高い方を選ぶ。もし同じなら……どうするだろうな」
「ふーん。ぼくは迷わず、仲間だね」
「カルは、俺も助けてくれると思うぞ」
「何それ。自分、愛されてますアピール?」
「違う。ただあいつは、人を殺したくないだけだ。優しいんだ、あいつは」
「――本人のいないところで言う褒め言葉は本音だって、前に何かの本で読んだんだけど」
「ん、何か言ったか?」
「ううん、何も」
「あいつは、全員が助かる方法を考えるんだ。頭は良くないがな」
「それ言っちゃうんだ」
「ああ」
「――レネアさ〜ん!」
ん? ルイか?
空に黒い竜が見える。
ていうか、あそこは80m上空だろう。
何故、こんなにはっきり声が聞こえるんだ?
声、バカデカすぎるだろう。
ザルソンは、バリアの、城の上空だけ空いている穴から降りてきた。
ザルソンはそのまま降りて、湖の上数cmのところで滞空している。
そして、ルイ、リクの順に氷の道に降りた。
ツェルドがバリアを解いて、ルイは陸に上がった。
リクは、ザルソンに何か話しかけている。
ザルソンは、また浮上していった。
それにしても――。
「ねぇ、プレーヌはどうしたのさ」
そう。プレーヌがどうしたのか。それが気になっていた。
ツェルドの方が訊くのが早かったな。
「途中で別れたんだ。敵から僕たちを守るために」
「なるほどね」
「だからさっき、ザルソンを迎えに行かせた」
いつの間にか、ルイの後ろに立っていたリクが口を挟んだ。
「いつからいたのさ。背が低くて、分からなかったよ」
ツェルドがニヤッと笑う。
仕掛けてきたな。
「そっちこそ、身長160ねぇだろ。中2の平均身長、160.9cmらしいじゃねぇか」
うわ。返しが強い。
「156cmちょうどだけど、別にそんなに低いわけじゃないし」
「じゃあ、お前の身長は?」
ルイの身長は割と高い方だろう。
「僕は、165.3cmだよ」
「ほら、9cmも違うじゃねぇか」
「余所は余所。うちはうち」
「そういうことじゃねぇだろ」
「ていうか、リクはいっつも上から目線だけど、背が低いから目線は下からだな、ってぼくが勝手に感じただけなのに、そんなにムキにならせちゃってごめんねぇ」
「ウッザ」
なんか、大分しょぼい戦いだな。
「――あ、ザルソン」
そんな戦いを無視してそう呟いたルイの目線の先には、黒い竜と金髪の少女が。
「良かった。皆と会えたよ」
ザルソンから降りて、陸に上がったプレーヌは、ふわぁっと微笑んだ。
「一生、会えないかと思ったよ」
彼女は、とてもほっとしたような表情を浮かべて、そう言った。
「そんなことあるわけないじゃん」
「一生会えない、って死闘すぎるだろう」
「そうだね。あるわけないか」
そう言った後、真剣な表情で木の城門を見つめ、手を触れた。
「――この中に、世界で1番許せない人がいるんだよね」
世界で1番許せない人、か。
「プレーヌ、王は嫌いか?」
「うん。嫌い」
「奇遇だね。ぼくも王は大っ嫌いだよ」
こいつが言う『王』とは、誰のことなのだろうか。
父親のことを言ってないか?
「そろそろ入るか」
「その前に、魔力があとどれくらい残ってるかを伝えておかないか?」
「そうしましょう!」
心の準備ができていない様子のルイは、少し嬉しげに賛成した。
「またー」と言いたそうなのは、ツェルド。それから、「まあ、たしかにその方がいいかも」と言った。
「じゃあ、俺から。『ツァダーラ・インテトート』」
『レネア、魔力65/65』
「次は僕。『ツァダーラ・インテトート』」
『ルイ、魔力107/115』
「次、俺。『ツァダーラ・インテトート』」
『リク、魔力16/26』
「次はぼくだね。『ツァダーラ・インテトート』」
『ツェルド、魔力1/85』
「え、1?」
「うん、そうだけど何か?」
「いや、バリアには頼れないな、って思っただけ」
「元から頼らないで済むぐらい、頑張ってよ」
「……はい。すみません」
ルイが小さくなっている。
「じゃあ、入るか」
「あ、待て」
「まだ何かあるの、レネアさん?」
ツェルドが不満げだ。
「くれぐれも、『報・連・相』を忘れるな」
「「「「分かりました」」」」
リクとツェルドが、それぞれカードを扉の横の箱に入れた。
「Are you ready?」
心の中で、俺たちはリクの質問の答えを呟いた。
ギィーッ。
扉が開く。
争乱、終わりました!
いよいよ、次はクライマックスです!
さて次はどんな話になるのか、お楽しみください!




