21.争乱 後編(死闘部分)
文字数(空白・改行除く):3,782文字
「スタートだ!」
ヒューイ、ヒュイ。
「ツェルドは、バリアだ」
「分かってるって」
バリアを張るまでは、ツェルドの護衛でもするか。
「護衛なんて要らないよ。ぼくの能力、忘れたの?」
「忘れてない」
なら、とりあえず応戦だ。
「ねぇ、レネアさん。もしかして5人まとめて相手するの?」
「そのつもりだ」
「ふーん。頑張って」
そう言うと、彼は参加者のいる方にバリアを2枚、張った。
そして、俺は軽く構える。
男性5人。
20代、30代くらいか?
「余裕があれば、手伝い頼む」
「オッケー」
右から殴り。
全員を見たまま、少しかがんで、足をかける。
左からも殴り。少し前へ出ると、彼の拳を左手で押さえて、手首を握り、腕を引っ張って背負い投げ。足をかけられて倒れてる奴の上に投げ飛ばす。
右斜め後ろから、直線的に低めの横蹴り。
ジャンプして、後ろ回し蹴り。男は耐えながら、少し後ろに下がる。
「――ぐはっ」
「レネアさん⁉︎」
まさか、後ろに赤髪の男がいたとは……。
赤髪の男を見ながら、左手で、蹴られた左横腹を押さえる。
蹴られた勢いで、茶髪の男の方へ飛ばされている。
間合いを取らなければ。
走り出――。
――ゴンッ!
痛っ!
頭を上から殴られた。
間合いを取るのが遅かった。
顔を上げ――。
「ぐはっっっ」
俺は宙に浮いた。
顔を上げた瞬間に、目の前にいた赤髪の男にアッパーを食らわされて。
下は水。
「レネアさんっ! バリアッ!」
ゴンッ!
痛い……。
バリアで思いっきり、頭を打った。
「チッ。溺れ死ねば、良かったものを」
「ふーん。バリアで、驚かないんだ」
「結界を張るやつくらい、何人もいる……」
「それより! レネアさん! そのバリアから早く出てくれない?」
「分かった」
ツェルドが張っているバリアは、空に1枚、自分の周りに2枚、この床で1枚。
張っているバリアが3枚を超えると、超えた分、1枚につき、3秒ごとに1の魔力を消費する。
出てやらなければ。
俺は走り出した。
「そうはさせるか!」
茶髪の男が手を広げる。
「音声魔法ツィール。『ツァド・イント』」
『何でしょうか、ご主人様』
音の精ファナ。時間を計ってくれ。
『かしこまりました』
あ、3の倍数のときは、教えてくれ。
蹴り。
ジャンプしてかわし、茶髪の男を突き飛ばす。
『3』
男は尻もちをつく。
そして、俺はまた走り出――。
うわっ。
足首を掴まれていた。
前のめりになってこけ、うつ伏せになる。
――うっ。
『6』
ドンッ。
もう1人の赤髪の男に背中を踏まれている。
少しでもその力が強くなれば、おそらく背骨が折れる。
頭も、ズキズキと絶え間なく痛む。
考えようとすればするほど、痛む。
足首を掴んでいた男が手を離し、背中を踏んでいる男の横に移動した。
「ぐはっ。ぐはっ」
『9』
俺の腹を蹴ってきた。
「ぐはっ。ぐはっ。ぐはっ。ぐはっ」
『12』
もう1人、深緑の髪の男がやってきた。
「兄貴! アイツ、自分の周りに、四角柱状に結界を張りやがった!」
「そうか」
自分の、周り?
「お前も蹴れ」
「分かった」
自分の、周り、って、ことは――ぐはっ――4枚、張ったと、いうことか。はぁ、はぁ。
『18』
「ぐはっ。ぐはっ」
これは、どう抜けるのが最適か?
「ぐはっっっ」
強烈。
痛みが腹を駆け回る。
「……そろそろいいかげんにすれば?」
『21』
「ケルン、増員」
「分かった、兄貴! 東の奴を呼んできます!」
深緑の髪の男が走り去っていった。
『27』
茶髪の男が、後ろへ足を振る。
来るっ!
――くっ。
やはり、痛いっ。
勢いがついているだけある。
「やめろ」
「誰がやめるかよ」
『33』
「ぐはっ。ぐはっ」
背中が、痛い。
全体重をかけても、こんなに強い力になるだろうか。
『36』
「お前、どうしてそこまで持ち堪える? そんなに王になりてぇのか?」
「ああ、なりたいな。俺は、ガキたちのために、王になる」
とまあ、こんなことを言っていても、こいつたちを倒すこともできなければ、逃げることもできない。
情けない限りだ。
『48』
「兄貴ぃっ! 連れてきましたよー!」
30人……。
押し寄せる人々の雰囲気に気圧されて、他の参加者は離れていった。
この人数でかかられたら、ひとたまりもないな。
「兄貴、こいつですか?」
ラベンダーグレージュに髪を染めた男が、俺の方にやってきた。
『54』
「ああ、こいつだ」
「けど兄貴、こいつなら俺たち30人も要らないんじゃないっすか?」
「こいつ、なかなかにしぶとくてな」
「分かりました、兄貴。任せてください」
「――ついでにあの結界師の処理も」
『ついで』。『処理』、ねぇ。
ふざけるな。人は物じゃない。
「了解っす!」
『72』
「イトは結界師を。俺はこいつを」
「おけ」
ラベンダーグレージュの髪の男が、こちらに向かってくる。
『75』
――フッ。今頃、俺にもチャンス到来か?
深緑の髪のイトは、バリアを何度も叩いている。
しかし、さすがは強固なバリア。割れる気配など、一切ない。
さあ、俺もこのチャンスのために集中しないと。
『78』
――来た。
赤髪の男と茶髪の男が、場所を空けるために横にずれる。
――力がゆるんだ。
今だっ!
全力で右腕を背中側に振り、少し体をひねって、男たちの足が見える体勢にする。
俺の背中に置いていた赤髪の足はそのまま地について、俺はそれを強く押す。
すると、その反動で、バリアの上を転がった。
赤髪の男も、膝をついている。
体勢を立て直そう。
まだ、背中が痛い。離れても尚、息をするだけでもまだ痛む。
転がったのも悪かったか。
背中をかばい、膝をついて立ちあがる。
「逃げられたか」
男たちがこちらに歩いてくる。
『87』
後ろは湖。1歩たりとも、後ろには下がれない。
少し走ってバリアから出ると、バリアが消えた。
「よく耐えたね、レネアさん」
「当たり前だ」
俺は、男たちを見たまま答えた。
「これで終わらせるから。ぼくの先輩を傷つけたこと、後悔すれば?」
ツェルドがバリアを消した。
パンッ!
ツェルドが手を叩――「『|光の線《フラッシュ・ライン』」。
ブスッ――ブシャアアアアアア――。
生暖かい、真っ赤な液体が顔にかかる。
「ツェルド⁉︎」
30人以上いる男たちが、全員、血を流して倒れた。
土の上を、水が染み込んでいくように流れる血。
何度も何度も、さっきの光景がフラッシュバックする。
「君、何をしたんだ⁉︎」
「分かんないの? 魔法だよ。行方不明の光属性の家系――カンチュアス家が生み出した幻の光魔法『フラッシュ・ライン』」
フラッシュ・ライン……。聞いたことがない。
さっき、ツェルドが手を叩いた瞬間、手の中から生まれた光が針のように全方向に飛んでいき、男たちを貫いた。
「1つ言っておくけど、誰も殺してないから。動けない程度にケガはしてると思うけど」
死んではいないのか。良かった。
ならば、近くに配備されている医者たちが、処置を施してくれるだろう。
「なぜ、その魔法を知ってた? 俺は聞いたことがない」
「王立図書館にあった古文書に、書いてあったんだよね。清光でも日光でもない魔法――光魔法についての本に。本当に使えるとは思ってなかったけど」
光魔法、つまり、光分野か……。
何十年、いや、何百年も昔に絶滅した魔法分野。
清光よりも、日光よりも、強いと聞く。
「君は今、どれくらい魔力が残ってる?」
「ちょっと待って。『ツァダーラ・インテトート』」
『ツェルド、魔力 1/85』
おお、1か……。
「ってことは、フラッシュ・ラインの使用魔力量は9だったってことか」
「ううん、違う。8だよ」
「どうしてなんだ?」
バリアで使用した魔力は、計算した感じ、75。
残りは、9のはずだろう?
「バリアを柔らかくしたときに1、使ったんだよね。魔力を1だけ」
「なるほどな」
「とりあえずさ、早く行かない?」
「ああ」
俺は湖面に手をかざす。
「凍結」
そう言うと、手のある位置から真っ直ぐ城のある小島に向かって、氷の道が出来た。
「緑のカードがどこにあるか、分かるか?」
「うん、あそこ」
即答。
ツェルドは氷の道の途中を指さした。
「見つけるの、早くないか?」
「当たり前でしょ。ぼく、レネアさんがボコボコにされてるのを横目に、ずっと探してたんだよね」
「ひどいな」
「だって、レネアさんがボコボコにされてるところとか、滅多に見られないじゃん? レアだし、ちょっと楽しんでから、あの人たちをフルボッコにしようかな、って思ってさ」
これ、王子の発言だとは思えないな。
ていうか、ただのサイコパスだろう。
ボコボコにされてるのを娯楽にするとか、ヤバい奴のすることだと思うのだが。
「――君、後で覚えとけ」
「怒ってるのも伝わるけど、それさ、悪役の捨て台詞でしょ? 一周回って、めっちゃ雑魚い感じが出るんだけど」
「…………」
「ねぇ、早く行かない?」
「……ああ」
とりあえず俺たちは、たまたま氷の道の中に埋まっているカードのところへ走っていった。
「どうやって取り出すのさ。10cmぐらい奥にあるし。こんなの、ぼくたちじゃ、割れないよ?」
俺は、カードの上の氷に手をついた。
「こうするんだ。氷よ! 造形魔法モデルーフ!」
「うわ、切れた」
氷が筒状に切り出され、俺はそれを引き抜いた。
「氷よ」
そう言うと、氷は粉々に砕け散った。
ひらひらと舞いながら落ちるカードをキャッチすると、ツェルドは走り出した。
「え、ちょっと、君!ちょっと待て!」
「早く、早く!」
氷の上なのに、何でこけないんだ⁉︎
はぁ。
精神年齢5歳児か!
リクよりも幼いぞ!
ていうか、サイコパスなのか、5歳児なのか、はっきりしてくれ!




