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怪しいイケメンくんと異世界旅行〜目指せ、世界征服〜  作者: 風葉 千尋
第2話 紫の月
53/67

21.争乱 後編(死闘部分)

文字数(空白・改行除く):3,782文字

「スタートだ!」

 ヒューイ、ヒュイ。

「ツェルドは、バリアだ」

「分かってるって」

 バリアを張るまでは、ツェルドの護衛でもするか。

「護衛なんて要らないよ。ぼくの能力、忘れたの?」

「忘れてない」

 なら、とりあえず応戦だ。

「ねぇ、レネアさん。もしかして5人まとめて相手するの?」

「そのつもりだ」

「ふーん。頑張って」

 そう言うと、彼は参加者のいる方にバリアを2枚、張った。

 そして、俺は軽く構える。

 男性5人。

 20代、30代くらいか?

「余裕があれば、手伝い頼む」

「オッケー」

 右から殴り。

 全員を見たまま、少しかがんで、足をかける。

 左からも殴り。少し前へ出ると、彼の拳を左手で押さえて、手首を握り、腕を引っ張って背負い投げ。足をかけられて倒れてる奴の上に投げ飛ばす。

 右斜め後ろから、直線的に低めの横蹴り。

 ジャンプして、後ろ回し蹴り。男は耐えながら、少し後ろに下がる。

「――ぐはっ」

「レネアさん⁉︎」

 まさか、後ろに赤髪の男がいたとは……。

 赤髪の男を見ながら、左手で、蹴られた左横腹を押さえる。

 蹴られた勢いで、茶髪の男の方へ飛ばされている。

 間合いを取らなければ。

 走り出――。

 ――ゴンッ!

 痛っ!

 頭を上から殴られた。

 間合いを取るのが遅かった。

 顔を上げ――。

「ぐはっっっ」

 俺は宙に浮いた。

 顔を上げた瞬間に、目の前にいた赤髪の男にアッパーを食らわされて。

 下は水。

「レネアさんっ! バリアッ!」

 ゴンッ!

 痛い……。

 バリアで思いっきり、頭を打った。

「チッ。溺れ死ねば、良かったものを」

「ふーん。バリアで、驚かないんだ」

「結界を張るやつくらい、何人もいる……」

「それより! レネアさん! そのバリアから早く出てくれない?」

「分かった」

 ツェルドが張っているバリアは、空に1枚、自分の周りに2枚、この床で1枚。

 張っているバリアが3枚を超えると、超えた分、1枚につき、3秒ごとに1の魔力を消費する。

 出てやらなければ。

 俺は走り出した。

「そうはさせるか!」

 茶髪の男が手を広げる。

「音声魔法ツィール。『ツァド・イント』」

『何でしょうか、ご主人様』

 音の精ファナ。時間を計ってくれ。

『かしこまりました』

 あ、3の倍数のときは、教えてくれ。

 蹴り。

 ジャンプしてかわし、茶髪の男を突き飛ばす。

『3』

 男は尻もちをつく。

 そして、俺はまた走り出――。

 うわっ。

 足首を掴まれていた。

 前のめりになってこけ、うつ伏せになる。

 ――うっ。

『6』

 ドンッ。

 もう1人の赤髪の男に背中を踏まれている。

 少しでもその力が強くなれば、おそらく背骨が折れる。

 頭も、ズキズキと絶え間なく痛む。

 考えようとすればするほど、痛む。

 足首を掴んでいた男が手を離し、背中を踏んでいる男の横に移動した。

「ぐはっ。ぐはっ」

『9』

 俺の腹を蹴ってきた。

「ぐはっ。ぐはっ。ぐはっ。ぐはっ」

『12』

 もう1人、深緑の髪の男がやってきた。

「兄貴! アイツ、自分の周りに、四角柱状に結界を張りやがった!」

「そうか」

 自分の、周り?

「お前も蹴れ」

「分かった」

 自分の、周り、って、ことは――ぐはっ――4枚、張ったと、いうことか。はぁ、はぁ。

『18』

「ぐはっ。ぐはっ」

 これは、どう抜けるのが最適か?

「ぐはっっっ」

 強烈。

 痛みが腹を駆け回る。

「……そろそろいいかげんにすれば?」

『21』

「ケルン、増員」

「分かった、兄貴! 東の奴を呼んできます!」

 深緑の髪の男が走り去っていった。

『27』

 茶髪の男が、後ろへ足を振る。

 来るっ!

 ――くっ。

 やはり、痛いっ。

 勢いがついているだけある。

「やめろ」

「誰がやめるかよ」

『33』

「ぐはっ。ぐはっ」

 背中が、痛い。

 全体重をかけても、こんなに強い力になるだろうか。

『36』

「お前、どうしてそこまで持ち堪える? そんなに王になりてぇのか?」

「ああ、なりたいな。俺は、ガキ(アイツ)たちのために、王になる」

 とまあ、こんなことを言っていても、こいつたちを倒すこともできなければ、逃げることもできない。

 情けない限りだ。

『48』

「兄貴ぃっ! 連れてきましたよー!」

 30人……。

 押し寄せる人々の雰囲気に気圧されて、他の参加者は離れていった。

 この人数でかかられたら、ひとたまりもないな。

「兄貴、こいつですか?」

 ラベンダーグレージュに髪を染めた男が、俺の方にやってきた。

『54』

「ああ、こいつだ」

「けど兄貴、こいつなら俺たち30人も要らないんじゃないっすか?」

「こいつ、なかなかにしぶとくてな」

「分かりました、兄貴。任せてください」

「――ついでにあの結界師の処理も」

 『ついで』。『処理』、ねぇ。

 ふざけるな。人は物じゃない。

「了解っす!」

『72』

「イトは結界師を。俺はこいつを」

「おけ」

 ラベンダーグレージュの髪の男が、こちらに向かってくる。

『75』

 ――フッ。今頃、俺にもチャンス到来か?

 深緑の髪のイトは、バリアを何度も叩いている。

 しかし、さすがは強固なバリア。割れる気配など、一切ない。

 さあ、俺もこのチャンスのために集中しないと。

『78』

 ――来た。

 赤髪の男と茶髪の男が、場所を空けるために横にずれる。

 ――力がゆるんだ。

 今だっ!

 全力で右腕を背中側に振り、少し体をひねって、男たちの足が見える体勢にする。

 俺の背中に置いていた赤髪の足はそのまま地について、俺はそれを強く押す。

 すると、その反動で、バリアの上を転がった。

 赤髪の男も、膝をついている。

 体勢を立て直そう。

 まだ、背中が痛い。離れても尚、息をするだけでもまだ痛む。

 転がったのも悪かったか。

 背中をかばい、膝をついて立ちあがる。

「逃げられたか」

 男たちがこちらに歩いてくる。

『87』

 後ろは湖。1歩たりとも、後ろには下がれない。

 少し走ってバリアから出ると、バリアが消えた。

「よく耐えたね、レネアさん」

「当たり前だ」

 俺は、男たちを見たまま答えた。

「これで終わらせるから。ぼくの先輩を傷つけたこと、後悔すれば?」

 ツェルドがバリアを消した。

 パンッ!

 ツェルドが手を叩――「『|光の線《フラッシュ・ライン』」。

 ブスッ――ブシャアアアアアア――。

 生暖かい、真っ赤な液体が顔にかかる。

「ツェルド⁉︎」

 30人以上いる男たちが、全員、血を流して倒れた。

 土の上を、水が染み込んでいくように流れる血。

 何度も何度も、さっきの光景がフラッシュバックする。

「君、何をしたんだ⁉︎」

「分かんないの? 魔法だよ。行方不明の光属性の家系――カンチュアス家が生み出した幻の光魔法『フラッシュ・ライン』」

 フラッシュ・ライン……。聞いたことがない。

 さっき、ツェルドが手を叩いた瞬間、手の中から生まれた光が針のように全方向に飛んでいき、男たちを貫いた。

「1つ言っておくけど、誰も殺してないから。動けない程度にケガはしてると思うけど」

 死んではいないのか。良かった。

 ならば、近くに配備されている医者たちが、処置を施してくれるだろう。

「なぜ、その魔法を知ってた? 俺は聞いたことがない」

「王立図書館にあった古文書に、書いてあったんだよね。清光でも日光でもない魔法――光魔法についての本に。本当に使えるとは思ってなかったけど」

 光魔法、つまり、光分野か……。

 何十年、いや、何百年も昔に絶滅した魔法分野。

 清光よりも、日光よりも、強いと聞く。

「君は今、どれくらい魔力が残ってる?」

「ちょっと待って。『ツァダーラ・インテトート』」

『ツェルド、魔力 1/85』

 おお、1か……。

「ってことは、フラッシュ・ラインの使用魔力量は9だったってことか」

「ううん、違う。8だよ」

「どうしてなんだ?」

 バリアで使用した魔力は、計算した感じ、75。

 残りは、9のはずだろう?

「バリアを柔らかくしたときに1、使ったんだよね。魔力を1だけ」

「なるほどな」

「とりあえずさ、早く行かない?」

「ああ」

 俺は湖面に手をかざす。

「凍結」

 そう言うと、手のある位置から真っ直ぐ城のある小島に向かって、氷の道が出来た。

「緑のカードがどこにあるか、分かるか?」

「うん、あそこ」

 即答。

 ツェルドは氷の道の途中を指さした。

「見つけるの、早くないか?」

「当たり前でしょ。ぼく、レネアさんがボコボコにされてるのを横目に、ずっと探してたんだよね」

「ひどいな」

「だって、レネアさんがボコボコにされてるところとか、滅多に見られないじゃん? レアだし、ちょっと楽しんでから、あの人たちをフルボッコにしようかな、って思ってさ」

 これ、王子の発言だとは思えないな。

 ていうか、ただのサイコパスだろう。

 ボコボコにされてるのを娯楽にするとか、ヤバい奴のすることだと思うのだが。

「――君、後で覚えとけ」

「怒ってるのも伝わるけど、それさ、悪役の捨て台詞でしょ? 一周回って、めっちゃ雑魚い感じが出るんだけど」

「…………」

「ねぇ、早く行かない?」

「……ああ」

 とりあえず俺たちは、たまたま氷の道の中に埋まっているカードのところへ走っていった。

「どうやって取り出すのさ。10cmぐらい奥にあるし。こんなの、ぼくたちじゃ、割れないよ?」

 俺は、カードの上の氷に手をついた。

「こうするんだ。氷よ! 造形魔法モデルーフ!」

「うわ、切れた」

 氷が筒状に切り出され、俺はそれを引き抜いた。

「氷よ」

 そう言うと、氷は粉々に砕け散った。

 ひらひらと舞いながら落ちるカードをキャッチすると、ツェルドは走り出した。

「え、ちょっと、君!ちょっと待て!」

「早く、早く!」

 氷の上なのに、何でこけないんだ⁉︎

 はぁ。

 精神年齢5歳児か!

 リクよりも幼いぞ!

 ていうか、サイコパスなのか、5歳児なのか、はっきりしてくれ!

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