20.兄を探して 後編
文字数(空白・改行除く):2,203文字
『ただいま〜』
「おかえり。パン、取ってきてやろうか?」
うん。よろしく。
いつになく、リクが優しい気がするよ。
「あー、疲れた」
「手がかりは1つだけか」
「キツイね。この手がかりだけで捜すのは」
得られた手がかりは1つだけ。
30人目の人に聞いた話だ。
赤い目の男性が5年前、黒髪の男子中学生と一緒に城の近くにいた、ということ。
「赤い目の男か。ヌヴェルさんに間違いないだろうな」
レネアさんが癒しの間のカーペットに座りながら言った。
「ですね。とりあえず、5年前までは生きていた、と。生存確認、ですねっ!」
「――ルイ」
低い声。
ツェルドくんの2つの目が僕を睨んでいた。
「ルイ……」
レネアさんは、僕を呆れの目で見ていた。
「何で楽しげに『生存確認、ですねっ!』なんて言うのさ。しかも笑顔で。プレーヌが、いなくて寂しがってること、ルイも分かってるでしょ?」
「ごめん」
僕は、そんなつもりで言ったんじゃない。
誰が聞いても分かるくらい、ツェルドくんが発した低く淡々とした声には軽蔑の気持ちが混ざっていた。
「全然、解決してないんだからさ、プレーヌの気持ちも解決なんてしない。人が生きているか、死んでいるか、のことを、そんなに軽く楽しげにいうのはありえない」
そして、ツェルドくんは語気を強めた。
「所詮ルイは、他の人のことを考えられない、バカ中のバカなんだよ」
えっ……?
胸がひゅっと音を立てた。
何度も何度もツェルドくんの言葉が脳内で再生される。
いろんなことを考えようとして、そこまで良くない僕の頭が必死に動き、体は少しも動かなかった。
ただ、僕の直感が、ツェルドくんの言ったことは本心だと証明していた。
「そこまでだ、ツェルド。言い過ぎだ」
レネアさんの言葉が、僕の頭の動きを止め、体から力が少し抜けた。
「――ごめん。たしかに言い過ぎたよ」
ツェルドくんは、決まりが悪そうな顔をしていた。
「ううん。こっちこそ、ごめん」
悪いのは、こっちだ。
「カッとなっちゃった。ちょっとイライラしててさ。本当、ごめん」
「ううん。悪いのは僕。ツェルドくんが謝ることじゃないよ」
イラっとするのも分かる気がするよ。
かなりの時間を費やしても、手がかりは1つだけ。
酷い態度の人も多かった。
「ありがとう。そう言ってくれて、うれしい」
仲直り、出来たのかな?
うん。きっとそうだよね!
――ぐるぎゅるぎゅる……。
うわっ。
お腹が鳴っちゃったよ!
「本当に緊張感が無いよね、ルイって」
「そうだな。今日の昼食と夕食もザントさんが注文しすぎるのだろうか」
「たぶん……」
4日連続で、昼食と夕食の出前を注文しすぎているザントさん。
「上で物音が聞こえる。来るぞ」
うおっ。
いつからいたんだ、リク!
背後霊じゃないんだから!
「お前がお腹を鳴らしたあたり」
聞かれてたぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎
「誰かいないかぁ〜?」
階段から、ザントさんの声。
「おっ、いたいた」
ザントさんは、両手にビニール袋を4袋提げて、癒しの間に入ってきた。
「牛丼を頼み過ぎたから、一緒に食べてくれないか?」
やっぱり、頼み過ぎてる!
「「「「もちろんです!」」」」
ザントさんは机に袋を置いた。
「1袋に、牛丼は2皿入ってる。つまり、8皿あるということだ。ちなみに、全て大盛り」
なぜ、大盛り⁉︎
「ということで、俺が食べられる量は、せいぜい2皿だ」
残り6皿。
「俺は、半分くらい」
残り5皿半。
「僕は1皿半で」
残り4皿。
「ぼくも1皿半」
残り2皿半。
レネアさんは……。
「残りは全部貰っておく」
さっすがレネアさん!
「「「「「いっただっきまーす」」」」」
……ムシャムシャ……。
「そういえば、今日は何してたの? プレーヌちゃんがいないから、観光はできなかっただろ?」
「ええ、まあ。プレーヌのお兄さんを探してきました」
すでに1/4皿食べ終わっているレネアさんが、答えた。
「そ、そうか」
ん?
ザントさんの顔に汗が浮かんでいる。
顔も少し青白い。
「どうかしたんですか?」
「……話したほうがいいかな。でも、話さないと彼たちの時間が……」
「話してくれない? 何でもいいからさ」
「うん、分かった」
ザントさんは、気持ち顔を上げた。
「プレーヌちゃんの兄――ヌヴェルくんは、死んだって噂だ」
ガタ、ガタン!
「えっ⁉︎ 嘘でしょ⁉︎」
お兄さんが死んでる⁉︎
「そんな、まさかな」
「アイツの兄が?」
ツェルドくんは立ち上がり、無表情なことの多いレネアさんやリクでさえ、目を大きく見開いていた。
「で、でもさ、噂でしょ? 噂って、話に尾ひれがつく、って言うでしょ?」
ザントさんはゆるゆると首を振った。
「それが人から聞いた話なら、俺も信用しないさ。違うから、俺は信じるしかないんだ」
それって、まさか!
「ヌヴェルくんは、俺とクザリアさんの目の前で、車にはねられて飛んだ。たしか、3年前だったか」
……やっぱり。
「そんな!」
「俺たちは、夕飯の買い出しに行ってたんだ。横断歩道を渡ろうと、車が通り過ぎるのを待っていた。そしたら、ふらふらと金髪の男の人が道路に出たんだ。そのまま、車が……。最期は、赤い目を見開いていたよ」
自殺、かな。ヌヴェルさんは。
「俺たちはプレーヌちゃんに言うべきか、迷った。けれど、言うことにしたんだ」
知ってたのか。プレーヌちゃんは。
「でも、彼女は信じてない。生きてるって希望を持ってるんだ」
切ないな。
「死んだとは、決して言わないでくれ。見つからなかったと言ってあげてくれ」
クザリアさんは、横に目を流した。
次はいよいよ、王座決定戦です!




