19.跳べ跳べ!そして、顧問に呆れろ! 中編
文字数(空白・改行除く):2,269文字
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私は獣。
人の皮を被りながら、鋭く笑わぬその瞳で虎視眈々と獲物を狙う。
その獲物は目の前に。
気づいていない、おバカさん。
獣を信じちゃ、ダメですよ。
ほら、獣があんなところに。
あなたも獣に喰われるわよ?
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「しっつれーしまーす」
って、誰もいないのか。
6時間目が終わって、帰りのSHRも終えた私は、生徒会室にやってきた。
レネア会長もいないし、カルルはなんか、学園会中等部代表とモメてたし遅くなりそう。エーナ先輩はいつも通り遅くなるんじゃないかな?
カルルがドアの横にかけたホワイトボードに、「クティルヴィア・ジョーノーヴ」とピンクの字で書かれているマグネットを貼る。
まあ、待っていたら誰か来るかな?
それまで、理科のワークの宿題を片付けとこう。
えーと?
水の電気分解の化学反応式?
これは大丈夫!
「2H₂O→2H₂+O₂」。
次は?
トントン。
誰だろ、ドアをノックしたのは?
ギィーッ。
入ってきたのは、暗く鈍い黄緑色の青丹色の髪と目の割と小柄な男の人。
「こんっにっちはー!」
「えっと……。誰ですか、あなたは……」
「おっ?君はティルちゃんだね?よろしくぅ!」
「よ、よろしくお願いします」
で、誰なんだろう、この人。
「ボクは、カイルディア・レヴァンス!3年家庭科教師で、生徒会顧問だよ!」
「ええええっ!」
生徒会に顧問、いるの⁉︎
聞いたことないんだけど⁉︎
ていうか、今まで今年の生徒会に顔、出してないよね⁉︎
会ってないし‼︎
「……生徒会に顧問っていたんですね……」
「そうだよー。あれ?知らなかった?」
「はい。いらっしゃってなかったので」
「あー、そうだねー。まあ、生徒会は優秀だし、放っておいても自分たちで出来るでしょ?」
「まあ、たしかに。何で来られなかったんですか?」
「風邪ひいたんだよね。見かけによらず、体弱いから」
「でも、数週間経ってますよね?」
「えへ、へへへ。バレたぁ?実はねぇ、後半、仮病だったんだよねー」
「仮病……」
先生なのに、呆れるというか、何というか。
「そしたらさー、ルサちゃんにバレちゃって、めちゃくちゃ怒られたわけ。で、布団ひっぺがされたから学校に来たんだよ」
そりゃあ、怒られますよね。
「ていうか、『ルサちゃん』って誰ですか?」
「あれ?知らない?ムディルサ・ザネット。ボクの奥さん」
「ええええっっっっ!」
どーゆーこと⁉︎
ザネット先生が奥さん⁉︎
ザネット先生って、高等部2年の英語教師で、しかも学園会の顧問だよね?
生徒会と学園会、対立してるのに、顧問同士は夫婦なんだね。
不思議〜。
「一応、仕事なんだけどさ」
「あ、はい」
かなりテキトーな先生だけど、やっぱり顧問だから仕事は受けてくれてるみたいだね。
「最近、エイリンス地方にまた魔物が出たらしいんだよねー」
魔物。
聞くたびにいつも、心がざわざわとする。
「自我を持たない数種類の魔物がね。そのうちの1匹、獣型が逃げたらしくてさー」
エイリンスの魔物が、逃げた。
私の将来の夢は、エイリンスで隊を組んで、エイリンスの人々を守ること。
理由は、襲われて亡くなる人がいるから。
心臓の鼓動が速くなる。
もし、もし、もう誰かが殺されたのなら……。
「その魔物に魔力を吸われたと思われる人が、数人いるんだけど、どんどんここ―首都に近づいてきてるんだよね」
「それって‼︎ 」
「そういうこと。その魔物は、首都に向かってるんだよ。だから、生徒への注意喚起を頼もうと思ってね」
やっぱり……。
「……わかりました。しておきます」
トントン。
「失礼しまーす」
ギィーッ。
ドテッ。
「ワミちゃん、大丈夫ー?」
「先輩、大丈夫ですか?」
ドアの下のわずかな段差につまずいて倒れた先輩は、体を起こそうとした。
しかし、
ドテッ。
「体を起こすのに失敗しちゃったよ。会長がいなくてよかった」
先輩は、制服についたホコリを手で払いながら立ち上がった。
そして、眼鏡をかけ直して言った。
「お久しぶりですね、先生。それで、何の御用ですかっ?」
「ワミちゃん、何でそんなに怒ってるの?」
「フン! 絶対に許さないから」
何で先輩は怒ってるんだろ。
「ピーマンを食べさせようとしたこと、絶対に忘れませんからね!」
ピーマン⁉︎
え? あの緑の野菜を⁉︎ 食べさせられそうになったから怒ってる⁉︎
なんか、理由がしょうもないんだけど。
「2年も前のことだよー。謝ったでしょー?」
「フン! 許しません!」
「んもー」
「で? 結局、何しにきたんですか? 先生は」
「あ、そうそう。注意喚起だよ。魔物出現の。詳しくはティルちゃんから聞いて。じゃあ、ボクは帰るよ」
「あ、はい。さようなら」
「さっさと帰れ! アホ教師!」
ドテッ。
「痛ぁ……」
必死になって、背伸びをしながら言い返していた先輩は、また前に倒れたのだった。
本当にやれやれだよ。
「で、ティルちゃん。どんな注意喚起をするの?」
「えーと。放送と、ポスターですかね」
「そうだねー。そんなところだよね」
「まあ活動自体は、会長とカルルに相談してからにしようと思ってます」
「そうしようか。放送は、イベント同好会にでも頼もうかな」
「はい。放送担当はイベント同好会ですから」
「今更なんだけど、どんな魔物が出たの?」
「レイヴェです」
「レイヴェ?」
「はい」
レイヴェの姿はライオンを大っきくした感じ。
色は黒。
持っている魔力で大きさが変わり、0〜30くらいでもライオンの2倍はある。
逞しく太い四肢と鋭い牙で、凶暴度は最高レベル。
とても危ない魔物。
「なるほどね。そりゃあ、注意喚起しなきゃいけないわね。分かった。ポスター、作ってくるよ。絵を描くのは得意だから」
「お願いします」
誰も被害に遭わないといいけど。




