18.魔法のバナナのアルバム 後編
文字数(空白・改行除く):2,306文字
「ルイくん!プレーヌ!ツェルドくん!リクくん!」
僕たちがマジカルバナナの続きをしていると、大家のクザリアさんが息せき切って現れた。
「レネアくんが、病院に、運ばれた、って」
「「「「えっ⁉︎」」」」
「今から、行く、んだけど、一緒に、来る?」
「「「「はいっ」」」」
階段を上り、外に出る。
ヒュヒュッ、ヒューウ。
ヒューイ、ヒュイ。
2人が口笛を吹く。
バサァ。
バサ。
黒い竜のザルソンと、少し青緑がかった白の竜が現れた。
「プレーヌと、ツェルドくんはザルソンに!ルイくんとリクくんは僕と一緒にヴァイレンに!」
「「「「分かりました」」」」
僕はリクをクザリアさんとの間に挟むように乗る。
「本気で飛べ、ヴァイレン!シェイル病院へ!」
「本気で飛んで、ザルソン!」
早歩きでレネアさんの病室へ急ぐ。
あった、ここだ!
「レネアさん!」
「騒々しいな。ここは病院だろう?」
起き上がっていたレネアさんが、顔をしかめて僕たちを見ていた。
生きていた。
本当に良かった。
「で、あんたたちは誰なのさ」
ん?
ツェルドくんが見ている方向には、レネアさんのベッドの横に座っている4人の男の子。
「俺は、サウル」
白い服の8歳くらいの男の子が言った。
「俺はクウラ。こっちがマルキ。そっちはヌロ」
10歳くらいの男の子が言う。
お医者さんがキョロキョロしている。
「えっと保護者の方は……」
「あ、僕です」
クザリアさんが反応する。
「過剰出血による出血性ショックです。貧血を起こしていました。首の傷が少し深く、そこによる出血です。鉄剤を投与したので血圧は元に戻っています」
「そうですか。それは良かったです」
「処置が迅速だったことも関係しています」
「処置?」
「ええ。止血です。サウルくんが止血してくれた様でして」
僕がサウルくんを見ると、サウルくんはすいっと目を逸らした。
「サウルは命の恩人だ」
「そんなんじゃないよ」
「クウラ、マルキ、ヌロもありがとう」
「おう」
「うん」
「どういたしまして」
「―ねぇねぇ」
「ん?」
サウルくんが僕を見上げている。
「付いてきてよ」
「え?いいけど」
どこにだろう。
「じゃあ、お兄さん。後でね」
「ああ」
ガラガラ。
サウルくんの後ろについて病室を出ると、階段を下りて外に出る。
「どうかしたの?」
「お兄さんの首の傷」
ああ、レネアさんの。
「あの傷さ、作ったの―」
サウルくんが振り向いた。
「俺なんだよね」
その顔は、悲しげで、切なげで、でも、微笑んでいた。
「そうなんだ」
声が上ずるのを必死に抑えた。
「怒ら、ないの?」
「うん」
「変わってるんだね」
その言葉を聞き流す様に僕は言う。
「―レネアさんは何て言ってた?」
「え?」
「首の傷について、何て言ってた?」
「『気にするな』って。『止血してくれたのなら±0だ』って言ってくれた」
「なら、僕も気にしない」
サウルくんは目を見開いた。
「―俺、病室に戻る」
「僕もそうするよ」
「本当に出るつもりなんですか?」
病室に戻ってくると、お医者さんとレネアさんが言い争っていた。
「ええ。この通り元気になりましたし」
「それでも王座決定戦に出るのはどうかと……」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないです!傷が開けば君、死にますよ!」
「鉄剤もありますし」
「そんなに出たいんですか?」
「ええ!」
「もし死んでもいいというのなら、条件があります」
「どんな条件なんですか?」
「2ヶ月の間、毎日鉄剤を飲み続けてください」
「それだけ、ですか?」
「逆にそれだけしかできないんですよ」
ああ、なるほど。
「退院手続きをしましょうか。では、保護者の方は私についてきてください。子供たちは病院の外に出ていていいよ。レネアくん」
「本当ですか⁉︎先生、本当にありがとうございました」
「どういたしまして」
ガラガラ。
お医者さんとクザリアさんが病室から出ていった。
「そういえばサンドイッチ、食べ損ねた。―なんか眠いな」
アパートに帰る道を歩いていると、ふわぁぁとレネアさんがあくびをしながら言った。
ちなみに、竜に乗らず歩いているのは、風圧で傷が開くのを防ぐためなんだよね。
「明々後日、王座決定戦ですし、ゆっくり寝て回復してください」
「ていうか、あんたたち、いつまで付いてくるのさ」
ツェルドくんは4人の男の子を見ている。
「え、いつまでって言われても」
サウルくんは意表を突かれたような表情をする。
「家に帰りなよ」
なんか、プレーヌちゃんが「もしかして……」って顔をしている。
「家、ねーし」
クウラくんが少し目を逸らす。
「どういうことだ?」
レネアさんが怪訝な表情で訊く。
リクも無言だけど、眉間に皺を寄せている。
「だって、親いないから」
マルキくんが当たり前であるかのように、淡々という。
親が、いない?
あまり良くないのは分かっているけれど、自然とプレーヌちゃんの方に目がいく。
プレーヌちゃんは苦笑いをしていて、僕が見ているのに気づくと口を開いた。
「ザラにいるんだよね。親がいない子。ボクの親みたいに病死したり、事故に巻き込まれたり、バトルやケンカで死んだり。フシレさんの親も、フシレさんが9歳のときにバトルと事故で亡くなってるし」
プレーヌちゃんのバイト仲間のフシレさん。すごく明るくてタフそうな人だなぁ、と思ったけど、そんな過去があったのか。
ツェルドくんが、悲しげにプレーヌちゃんを見ている。
「日曜までなら、アパートの1室を借りてやる。その代わり、月曜からは出ていってもらうがそれでもいいか?」
リクが少し上から目線に言う。
「住んでもいいの?」
サウルくんが目を輝かせる。
そして、ヌロも口を開く。
「僕、家だったらどこでもいいし、何日でもいいから住んでみたい!」
「なら、俺たちに付いてこい」
レネアさんは、たくましく歯を見せて笑った。
今回はいろいろ盛り沢山でしたが、楽しんでいただけましたか?
そして思うのは、レネアさんが、いろいろ鈍くなってる。




