15.フィヌレースの王族と土産物 前編
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土産物を探せ。
それぞれと縁のある人に贈るプレゼント。
一人一人のことを考えて、選ぶ。
これは大事な風習だ。
ふああああ。よく寝たぁ。
ソファの上での目覚め。
なんか、慣れた気がする。
まあ、寝心地が違うんだけど。
これ、普通のソファだし。
今、何時?
えーっと、時計。
あ、あった。
まだ、5時か。
まだ早いけど、完璧に目が覚めちゃったし、起きておこう。
でもここにいても、皆の眠りを妨げちゃうだけだよな。地下の癒しの間に行っておこうかな。
音を立てないように、ゆっくり立って。
ドアを開けて、次、閉める。
よし、部屋の外に出られた。
あとは階段を降りて、地下へ行こう。
あ、着いた。
いい匂いがする。香ばしいパンの匂いだ。
あれ?癒しの間、電気が点いてる。
誰かいるのかな?
「こんにちは〜」
「今の時間に『こんにちは』って言う奴がいるかよ」
「あ、すみません」
ドリンクバーの前で、立ってコーヒーを飲みながら僕に話しかけてくれる、長身の男の人。
うわ、イケメン。
少し目つきの悪い、切れ長の透き通った茶色の目。薄い唇。茶色の少し長めの髪。黒いスーツ。左手はズボンのポケットに突っ込んでいる。身長は180cmあるかも。
「お前は新入りか?」
「は、えーと」
1週間、借りてるだけなのは『新入り』でいいのかな。
「期限付きか。もしかして、お前、王座決定戦に出るのか?」
「あ、はい」
「そうか。お前みたいな、何の取り柄もなさそうな男子がなあ」
「あの!仲間がいるんで!」
何の取り柄もなさそうな男子、って。
目の前で言わなくても。
「ふーん。なら、その仲間にも言っとけ」
「えーと、何を?」
「王座決定戦は大規模椅子取りゲームだ。1つだけの王座を巡って、たくさんの人が戦う。あれは、戦争だ。参加者は、他の王座決定戦に出る人を殴る、斬る、撃つ。最悪、殺す」
「どうして、そこまで……」
「お前、それを知らずに参加するつもりだったのか?お前、馬鹿だな」
「そこまで言わないでくださいよ」
「『王座決定戦』から、王を決めることがわかるだろ?しかし、実際、『王』になれるだけじゃない。この世界には1つしか国がない。それだけ広い土地を自分のしたいようにできる。しかも、その地に住む者も自分の思い通りに動かせる。そして何兆円にものぼる、莫大な金がもらえる。これだけの特権があって、参加者がいない、なんてことはあるわけがないんだよ」
「そんな……」
「まあ、年1で行われているが、8年前から王は変わってない」
8年前⁉︎その王、8年連続で勝ってる、ってことだよね。
「強いんですか?その王」
「まあな。滅多に表に出てこないが」
「へえー」
「王は成人してないって噂だ。威厳を保つために出てこないんじゃないか?」
成人してない⁉︎
「もう、5時半だな。じゃあ、俺は会社に行ってくる。じゃあな」
「はい、また〜」
ピロン。
ん?メールかな?
ツェルドくんからだ。
『今、どこにいるのさ』
『こっちは全員、起きたんだけど』
うわー。返さなきゃ。
『癒しの間にいるよ』
『部屋に戻るね』
ピロン。
返信、速っ!
『別にいい』
『そっち行くから』
こっちに来てくれるのか。
『分かった。待ってるね』
トン、トン、トン、トン。
ツェルドくんたちが階段を降りてくる音が聞こえる。
あ、来た!
「おはよう」
「おはよ」
「おはよう」
「おはよう」
ツェルドくんは右耳の近くに三つ編みをしながら、レネアさんは黒い四角の眼鏡を拭きながら、リクは髪を整えながら、降りてきた。
「朝、早いね。皆」
「お前の方が早いだろーが。ここの時間は1日と1時間ほど遅れている。時差ボケってやつだ」
時差ボケかぁ。
「ちょっと話すことがある。ここのパンを食べながら話すぞ」
リクが部屋の隅にあるパンコーナーを指差しながら言う。
「明後日、俺とルイは別の異世界に行ってくる」
「は?どうしてなのさ」
「用事がある」
ツェルドくんはまだ何か言いたそうな顔をする。
「……そ。分かった。ぼくはこの世界で何かしておくからさ」
「俺も明後日はゆっくりする。この国の観光とかしてくる」
「あ、でも、リクとルイ。違うところに行くからって、滞在期間を延ばさないでよね」
「え、どうして?」
「月曜、ぼくの許嫁と会わなきゃいけないんだよね。許嫁っていっても従兄妹だけど」
「従兄妹⁉︎」
「そ。血を濃く受け継ぐためにね。王を継げるのは3人しかいないからさ」
「3人?」
3人しかいないんだ。
「そ。ぼくと、許嫁のシュイ。その弟の、シュウ。まあ、王族で結婚してない人は7人いるんだけど」
「王族なのに、4人は王を継げないの?」
「そ。王は継げない。ぼくとシュイ、シュウは王を継げる、属性が宇宙で純血のジュンヴェイテ家。あとの4人は、先祖が宇宙属性の人と光属性の人の、純血じゃないトゥファリ家。純血じゃないから、王は継げないって話だけど」
宇宙属性と光属性。
光属性の血が王族に入ってるってことは、光属性ってすごいのかな?
「その光属性の家系は、魔力が高かったんだよね。王家と同じくらいにね。学園会会長は、その家系で魔力が普通だった人が先祖。だから、魔力は高くない。たしか、その家系はカンチュアス家だったと思うけど。その家系の人間は行方不明。政府が探してるんだけどね」
学園会会長ってすごい家の子なんだ。
「ぼくは絶対にシュイと結婚して、子供を2人以上つくらなきゃならないんだよね。それに対して、別にどうとも思わないけど」
ツェルドくんは、家を継ぐことに対して本気だ。
許嫁と結婚することを嫌だと思ってない。
僕なら、もし僕がその立場なら、本当にそう思えただろうか。
「―一つ、今後、呪いが解かれない限り、俺を好きな人が1人しかいない人から言わせてもらおう」
その1人って、科学・化学部員のダリア先輩のことだよね……。
「俺は、自分の家や境遇のために、自分を犠牲にする必要はないと思う。他人が家や境遇をどうこう言う必要も。―本当に、いいんだな?」
「本当にいいのか、ってシュイに失礼でしょ。第一、ぼくは自分を犠牲にしてるつもりはないし。これは将来の夢のため。本当に、犠牲になるつもりじゃない。だから、いい」
「そうか。ならいい」
「おはよー」
あ、プレーヌちゃん!
あれ?今日は、髪にゆるくカールがかかってる。服も、ネイビーのデニムジャケットに白いTシャツ、黒いスカート。
かわいい。今日のプレーヌちゃんは、普通に女子だ。
「ねえ、皆。皆は旅行で来た、って言ってたでしょ?」
「うん」
「なら、お土産、買いに行かない?」
お土産。
まさか、そこに住んでいる人から、誘われるとは思わなかったな。
「行こう!ねっ、いいよねっ!リクっ!」
めっちゃくちゃ行きたい。
だって、リクと一緒だと、ストレス溜まるんだもん。
「そうだな。アパートの人に買わなきゃダメだしな」
「ぼくもラージュさんに買わなきゃダメだし」
「俺も姉さんに……パシられた」
うわぁ、ナミさぁん。
「あ、もしかして、プレーヌ、そのためにその服なの?」
「あは。バレた?」
ペロッとプレーヌちゃんが舌を出す。
「まあでも、かわいいよ。よく似合ってるし」
「うんうん。僕もそう思う。ちゃんと女子だよ!」
―シーン。
あれ?
皆が僕の方を見ている。
レネアさんは氷―いや―ドライアイスみたいな目で、リクは口だけで「お・ま・え・は・ア・ホ・か」と言いながら、ツェルドくんは中2なのに「最近、1+1が出来るようになった!」と自慢する人を見るような目で僕を見る。
「ごめん、プレーヌ。ルイはこういうことをさらっと言っちゃうヤバいやつだから、ごめん」
「あ、大丈夫。大丈夫。慣れてるから」
こういうこと?
「まだ、気付いてないのかよ。本当、お前はアホだな」
ちょ、ちょっと、リク〜!
「君は礼儀正しいのか、失礼なのか、よく分からないな」
レ、レネアさんまで〜。
リクが、用意してくる、って言ったから部屋に戻ってきたけど、服も着替えてるし、用意することないはずだけど……。
「誰が、服の用意をするって言ったよ?服の用意じゃなくて、こっち。これだ。アホか、お前は」
アホじゃないし。
ていうか、何それ。リクの手の上の塊。
金属でしょう?鉄?
「なんで鉄?」
「ああ、なるほどね。その用意か」
「なるほどな。確かにプレーヌの前では、それは出来ないからな」
あれ?レネアさんとツェルドくんは何をするか、分かってるみたい。
「ルイは分かんないの?小学生レベルでしょ?」
えーと、小学校は日本にいましたので、知らないんですがね。
「忘れたのか?魔術知識科の1単元だ。魔金属を作る授業。覚えてないか?金属に魔力をこめることで、加工しやすい魔金属に変化させる」
「同じ人の魔力をこめた鉄は引き合うからさ。初めて来たこの異世界で迷子にならないようにするには、ちょうどいいってわけ。そうでしょ?リク」
「そういうこと。ちなみにフィヌレース国の魔法使いの魔力をこめないと引き合うようにはならない」
「へえ。そうなのか」
レネアさんの目が大きく開いて、目に光が映りこむ。
「でもさ、魔金属を作るには100gにつき魔力30もいるでしょ?ブレスレットか何か作るんだろうけど、たとえ1番魔力の多いルイでも120も魔力はないから足りないし、異世界じゃ、魔力をあげられないし」
「そうなの?魔力をあげられないの?」
「え?あ、うん。なんか、あげられないと思う。宇宙属性の家系魔術はやっぱりフィヌレースじゃないと効かないのかもね」
「だから、2人分の魔力を使う」
少し大きな声でしゃべりながら僕たちを見回すリク。
「2人分って言ってもルイが25の魔力を100gの鉄に流し込む。あとの5は自分で魔力をこめる。そうすれば、引き合う上に、誰がそこにいるかが分かる。魔金属は便利なんだ」
「なるほどね。じゃあルイ、早くしてくれる?プレーヌを待たせすぎだから」
「あ、うん。えーと。……どうしたらいいの?」
皆がズッコケる。
「やっぱりルイはアホだわ」
ツェルドくんが、リクから4つの鉄の塊を受け取って、手に乗せる。
「じゃあ、この4つの鉄のブロックに手をかざして『トフエル』って呪文を唱えて」
手をかざして。
「トフエル」
少し鉄が輝いて、鉄が黒みを帯びる。
「黒くなった?」
「そ。ルイの魔力に反応してる。あとはそれぞれが1つブロックを持って、魔力を5、こめたらいいだけ」
レネアさん、リク、僕が1つずつツェルドくんの手から取る。
「「「「トフエル」」」」
それぞれが持っている黒みを帯びた鉄が少し輝く。
僕のは黒く。ツェルドくんのは金色に。レネアさんのは水色に。それぞれの魔力に反応して色が変わっている。
リクの魔鉄は、リクが握っていて何色か分からない。
「で、これを加工して。ねぇリク。何に加工するのさ」
「ブレスレット。バングルでもいいけどな」
「だってさ。加工で、ブレスレットに模様とか、色とかつけられるからさ」
「うん。分かった」
…………。
「―どうせ、呪文が分からないんでしょ?」
「う、うん」
「呪文は『ルエフト』。完成形を想像しながらだからね」
完成形を想像しながら、かぁ。
別にこだわりはないから、模様は無しでいいか。
「「「「ルエフト」」」」
4つの鉄が輝いて、光の形が変わる。
手の上で光がおさまった。
それぞれの手の上に、幅2cmくらいのブレスレットが出来上がった。皆、無地。リクのブレスレット、黒だったんだ。皆、ブレスレットに円い留め金具が付いている。
あれ?僕の留め金具、模様が入ってる。
これは……弓矢?
「模様?」
「ああ。自分を表す紋章ね。魔力の持ち主の紋章が完成形には入るのさ。ぼくのは、あの星が月の形の涙を流しているマーク。レネアさんのは?」
「氷柱だ」
「リクのは?」
「…………」
リクはブレスレットをいつもより大きな目(いつも目は大きい。ずるい)で見て、反応しない。
「リク?おーい!」
ツェルドくんがリクの目を覗き込む。
「―ん?なんだ?」
「反応しないからさ、どうしたのかと思った。リクの紋章は?」
「俺のは、鳥。アカショウビンだ」
アカショウビン?
「アカショウビンって何なのさ」
「異世界の鳥。その世界の、東アジアや東南アジアと言われる地域でよく見られる鳥だ」
へえ。アジアで見られるんだ。
アカショウビンって言うぐらいだから、赤い鳥なんだろうけど、留め金具が黒いせいで、どんな鳥なのか分かりづらい。
「ほう。異世界の」
レネアさんが、息をつく。
「でも、どうしてこれがリクの紋章なんだ?」
「……さあな」
リクは少し目を逸らす。
「まあ、俺の紋章のことは別にどうでもいい。行くぞ」
リクがスタスタとドアに向かって歩いていく。
ドアを開けて、廊下に出たリクは目で「早くしろ」と言ってくる。
「分かった。行こう」
「そうだね。行こ」
「ああ。出よう」
リクはいつも自分勝手だなぁ。




