4.生徒会VS学園会〜劣等感〜
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一年生と思われるヴァニーユ色の髪の女の子を見据えて告げた。
「分かりました。自己紹介、ですよね」
彼女はため息をついた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。問題はありません」
彼女は下を向いて、深呼吸をした。
空気が変わる。
彼女は顔を上げた。
と、同時に物凄い目力でこちらを見てきた!
ワザフ君よりすごいけど⁉︎
怖いって!
その目力が少しマシになったとき、彼女は口を開いた。
「ミコ・エヘント。風属性の氷分野、能力は冷静。魔力は48」
エヘント?
もしかして、カルさんの親戚?
いや、でも、でも、名字が同じ人ってたくさんいるし……?
「生徒会さん、兄がお世話になってます。ただ、それとこれとは別ですが」
やっぱり、カルさんの―って妹⁉︎マジか⁉︎
兄妹対決⁉︎
「ああ、ミコちゃん。君のお兄さんにはお世話になられているよ。俺も元から、贔屓はしないつもりだよ。頑張ろうね」
「はい」
ってレネアさんも知ってた⁉︎
うーん。ミコちゃんは、カルさんと同じ髪色。少し三白眼っぽい目も似ている。けど……何が引っかかってるんだろう?
『ミコ・エヘント。風属性の氷分野、能力は冷静。魔力は48』
ん?冷静?
氷分野なのはレネアさんと一緒だけど……。冷静?んん〜?
「世間知らずくん、あんた、どうせ、『冷静』で『は?』って思ってるよね」
「え、うん」
「やっぱりね。冷静能力の人は物事を他の人より客観的に見ることができるんだよね。だから、あの、手先よりも指揮官役にぴったりってわけ。手先、案外、見る目あるじゃん」
なるほど。
頭を冷やす→氷
冷静 →氷
というわけか。
って、ツェルドくん、手先呼びしてるし。
「会長も、冷静の能力、一応、使えるんじゃないの?呪文を唱えないと無理だと思うけどね」
「ああ、やろうと思えば」
レネアさん、この話を聞いていたんだ。
「さあ、ルール説明をしますよ?」
「はい!お願いします!」
「返事、いいですね。ええと、シオーさん?」
「あ、あの!シオーじゃなくて、サトーです!」
代表、サトーをシオーって間違えるって、人間界の調味料の名前―しかも日本語―知ってるの⁉︎
…………んなわけないか。
とんでもない間違いだね。
今時、佐藤を調味料いじりしてくる人って珍しいよね。
って、違う違う。
塩はこの世界の調味料の名前じゃないんだった。
もちろん、砂糖も。
「まず、人数は5対5にします」
あ、話が進む。
調味料の件は一旦置いておこう。
「メンバーは先ほど紹介した者のみです」
「ジュンヴェイテはメンバーでいいんだよな?」
レネアさんが口の中でカラカラコロコロと音を立てながら訊く。
レネアさん、何か食べてる?
「何か食べていますかぁ?生徒会長?」
やはり、代表も気になったらしい。
「ああ。糖分補給を、と飴を食べているのだが」
「もし良ければ、私にもくださいますかぁ?」
「ああ、ほら」
レネアさんの投げた飴は美しい軌道でストン、と少し前に出していた代表の手の中に入った。
「ありがとうございます」
「ちょっ、何故?敵にあげてどうするんですか⁉︎」
カルさんは少し怒りながら訴えた。
「異世界、それも双子世界では、『敵に塩をおくる』という言葉があるそうだ。異世界の文化に習っただけだが?」
「はーあ」
カルさんは「付き合ってらんねぇ」というように、また、「そんな素直なところが良いところだよな」というように大きくため息をついた。
レネアさんの異世界好きは筋金入りだな。
まさか、「敵に塩をおくる」まで知っているとは!
そういや、抹茶も知ってたな。
というより日本語を知ってる?
なぜ?
うーん。レネアさんに僕の正体を言っても、信じてくれそうだな。
…………でも、僕が皆と違う人だ、って知ったら付き合い方が変わるかもしれないし。
やっぱり言えない。
「ルール説明はまだ続いていますが?」
「ああ、すまん。続けてくれ」
パチン!
突然、代表が指を鳴らした。
「シュレイル・ファノラー!」
すると、みんなの頭の上に体力ゲージが。
「ふん。カッコつけてんだね。あの、手先。呪文を唱えるだけでゲージはできるはずだけど?」
「そうなの?」
「うん」
「これは仮の体力ゲージです。これが0になると行動不可になります。この体力ゲージは本当の体力の身代わりとなりますので、バトルをすることで本当の体力が減るわけではありません。また、バトルで負う傷も、傷を体力に変換し、体力を減らすことで傷は消させていただきます。あ、死ぬこともありませんので安心して大丈夫です。ただし、精神的ダメージはカバーできませんので。あとはどのようなことをしてもいいというのがこのバトルのルールです。これから1分間を準備時間にします。どうぞ、始めてください」
準備時間、どうしよう。
そうだ、魔力が10から20になったらどうなるか、ツェルドくんに聞いておこう!
「ツェルドくん!」
「何なのさ?そんな変な声出して」
ひど。
それは、ないでしょう?
変な声って……。
ミコは、オレにとっていい存在じゃない。
ミコとオレはいつも比べられてきた。
ミコは優等生、オレは劣等生。
ミコは、学園初等部に入学すると、第4学年で学園会に所属。
オレは、学園会どころか学園内でもいい評価はされなかった。
ミコは素直に大人の話を聞き、周りの者を敬った。怒られるようなことは一つもなかった。
「妹の代わりに怒られて嫌だ」なんて言えるのは幸せだ。
親に頼られている証拠だから。
妹と比べられて怒られる。
オレと比べて妹を褒める。
自分が褒めて欲しいだけだと思うか?
そう、かも知れない。
でも、オレはひねくれた考え方しかできない。
「どうしてそんな考え方をするの!」と言われても、直すことはできない。オレは、
「素直」
じゃない。
心の声なんか聞きたくない。
でもそれは無理。
オレは「飛行能力」以外に心の声を聞くことができる「風分野」の能力を少し持っているらしいから。
聞きたくなくても聞こえるんだ。
ミコは皆を褒めた。
心の声は聞かずに。
ミコを皆が褒めた。
すると、ミコは喜んだ。
心の声を聞くことなく。
でも、オレは口を開いた。
「そんな出まかせ言わないでよ。ミコのこと本当は偉いと思ってないくせに。愛想を振りまいているだけじゃん。ミコを褒めて取り入ろうとしてるんでしょ。オレの家、金持ってるし。お前、クズだね。子供を利用するなんて」
オレは無知だった。
劣等生が何を言っても信じてもらえないことを。
カル兄は私のこと、きっとよく思ってない。
カル兄は昔から、心の声を聞く能力を持っていたらしい。気づいたのは、初等部に入学してから。
でも、既に遅かった。
カル兄は貯金していたお小遣いで寮に入っていたし、もう、心を閉ざしていたから。
カル兄が言うことは正論だった。
ドロドロした人間をバッサリ切る正論。
憧れた時もあった。
でも、その正論はよく思われなかった。関係作りを大切にしている母は、それによって関係が壊れることを恐れてカル兄を怒った。
理不尽だと思った。
そして、怖かった。
正論を言うのがいけないことだ、と怒られることが。
私は、それから正論は言わなかった。
正論は言わず、人を褒めて喜ばれた。
ドロドロしているのがいいことだとは思わない。
けれど、私はこの底なし沼にはまっている。
もう抜け出せないドロドロの中に。
そして、みんなが言うには、私は、
「素直」
らしい。
エヘントはいいやつだ。
だから、生徒会にも誘った。
だけど、こいつはそのことを分かっていない。
エヘントの家族は風の家系。風のように留まることなく自由に飄々としている性格の人が多かった。
だが、このご時世、関係を大事にする風潮の影響はエヘント家も例外ではなかった。
人を年齢で判断しないエヘントは生意気な態度をとり、嫌がられた。
エヘントは飄々としている。
本音を誰にも言えない孤独さを悟らせないために。
俺が生徒会に誘ったのはミコちゃんに対するコンプレックスを克服してもらうためでもあった。
果たしてそれは正しかったのか……。




