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ナツの扉 ~ザ・ドア・イントゥ・レグレスィール~  作者: みたよーき


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12.心を鬼にして

 翌日の昼頃、私達が降り立ったのは、エガヴァールという名の町だった。

 これまでの町もそうだが、その名前はどんな由来なのだろう? 少し考えてみたけど、いくら憶測を重ねても確実な答えは得られないだろうな、という考えに行き着くだけだった。

 今回、改札を抜けたところで待っていたのは、三毛猫。こうやって色んな種類の子に出会えるのは、ちょっと嬉しい。

「こっちよ。付いてきて」

 そんな、ちょっとツンとした感じで話し掛けてきたその子に先導されて、出口へ向かう。

 三毛猫は日本の猫というイメージが強いけど、やっぱりこの世界ではそんなことは関係ないのだろう、出入り口の向こうに見えた景色に、和風の建物が並んでいる、なんていうことはなかった。ただ、パッと見ただけでも、建物の数はこれまでの町よりもだいぶ多いように見える。

「ようこそ。旅人さんだね?」

 出入り口でそう声を掛けてきた人物は案内してくれた三毛猫の飼い主で、エイジと名乗り、今はナツを値踏みするように見ながらその周りをぐるぐる歩いている三毛猫の名前をナーベだと教えてくれた。

「よろしくね、ナーベ」

 私がそう声を掛けると、ビクッとして私を見て、だけどすぐ取り繕うように、すました様子で「ええ、よろしくね」と応えてくれた。

 するとナーベは、今度はこちらをじっと見上げたまま、私の足元を8の字を描くように歩き回る。じっと見上げるといっても、ガンを付けているという感じではなく、純粋な好奇心のようだ。歩き回るのはこの子の癖みたいなものだろうか。

 そんな様子をつい微笑ましく見守っている私に、エイジさんが声を掛けてきた。

「突然だけど、旅人さん、魔法は使えるかな? できれば助けて欲しいんだ」


 聞けば、今この町の周りでは、モンスターの目撃情報が“激減”しているそうだ。

 それだけを聞けば良いことのように思えるし、実際にこの町にもそう考える人達はいるそうだが、そうではないと考える人もいる。

 つまり、伝承(鈴木さんに聞いた話が、ここではそういうことになっているようだ)にあるように、モンスターが徒党を組んで襲ってくる前触れだと考える人達がいるということなのだそうだ。

 実際、この町はだいぶ人口が増えているそうで、私が受けた印象の通り、建物の数も多い。

 駅舎を挟んで南北に広がるエガヴァールの、北市街では、更に領域を広げるべく、モンスターのいない今のうちに防壁の移築を行っているそうだ。

 その作業に関わっているのは、モンスターがこの町を攻めることを無意味だと学んで姿を消したと考える人達や、例え攻めてきても返り討ちにできると考えている人達が主。

 一方、悲劇の再来を憂う人達を初めとした、危機感を持った人達や悲観的な人達などは、ここから東へ行った先で見つかった小さな駅舎を中心とした移住先を開拓するべく動いているのだという。

 大別すると、楽観派と悲観派で、ほぼ五分五分。もちろん、楽観派も悲観派も日々の生活に必要な仕事もあるので、壁の移築にせよ、移住地の開拓にせよ、人手は不足しているらしい。

 エイジさんはその悲観側で、移住先の開拓に直接関わっている立場。

 ――私が頼まれたのは、そのエイジさん達の護衛だった。


 私達は、南市街の出口から外に出て、平原を人が踏みならして自然にできたのであろう、道とも言えない道を東へ向かっていた。

 南の方には森が見え、東に向かうにつれて、より自然味を増していく。そう感じたのは、町の近くでは、森の中へ続く道や、今運んでいる木材などを伐採したのであろう跡などが見受けられたからだろう。

 その木材を乗せた荷台を牽いているのは、馬だった。

「よろしく!」

 そんな風に、出会い頭に馬から元気に声を掛けられても、「あ、やっぱり」という感じ。むしろ、鈴木さんを疑っていたわけじゃないけど、馬が居る、という事実そのものの方が驚いたくらいだ。

 今、私達は、その馬(名前はフルートと言うそうだ)の横を歩いている。――いや、正確には、歩いているのは私とエイジさんだけ。ナツとナーベはフルートの背で、揺れもあるだろうに、転げ落ちることもなく、のんびりと丸まっている。

「モンスターが減ったおかげでこうして予想以上に早く木材が用意できたんだけど、今動けるのは僕だけだったんだ。流石に一人で運ぶのは不安だったんだけど、そんなタイミングで現れたのが、身を守る魔法を使える旅人さんだなんて、これぞ猫神様のお導きだね」

「ねこがみ? ……猫の、神様ですか?」

「うん、この世界は、太陽のように輝く毛皮に覆われた猫の神様が見守って下さっているんだ」

 魔法なんてものがあるこの世界でなら、神様が実在しても不思議じゃないのかも知れないと思うし、しかもそれが猫だと言われてもあまり驚かない。……というか、ちょっと見てみたいと思った。

「……それじゃあ、猫は神聖な生き物なんですか?」

「いいや? 地上の猫たちは、仲間、家族――まあ、形はどうあれ、人間のベストパートナーさ。……あ、もちろん、お前も大事なパートナーだよ、フルート」

「ヒヒン!」

 なるほど、猫は別に、特別偉いというわけじゃないみたいだ。

 ――だけどそれは、この世界では、猫と人とは対等な存在ということ。猫を見下すような人は殆どいないのだろう。

 そう考えて、“向こう”には、平気で猫に酷いことをできるような人もいるのだ、という気持ちが、ふっ、と湧き上がって、ちょっと悲しくなった。

 と、その時、ナツとナーベが同時に身を起こした。

「敵だよ! カノッ!」

 ナツはそう叫ぶと同時に、フルートの右を歩いていた私の頭上を飛び越えて、地面に着地する。ナーベも続いてナツの横に降り立った。

「エイジさん、後ろの警戒をお願いします!」

「あ、ああ! 任せて!」

 私はエイジさんに声を掛けると、ナツ達の後ろで、森から現れたモンスターを凝視する。

 そこに居たのは、かつて出くわした小鬼達と同種と思しきモンスターが……十二体。その後ろに、その三倍は大きい、やはり鬼のようなモンスター。ファンタジー風に言えば、ゴブリン達とそれを率いるオーガ、といった感じか。

 と、大鬼が何気ないような動作で、小鬼を空いた左手に掴んだ。そして、それを、こちらへ投げつけてきた!

 まだかなり距離があるにも拘わらず、投げられた小鬼はかなりの勢いのまま迫ってくる。

 私の手は震えていたけれど、心は不思議と落ち着いている。慌てることなく、バリアを展開。

 ナツとナーベが迎撃しようと動いてくれたけど、小鬼は私の張ったバリアに当たり、そして、向かってきた以上の勢いになって大鬼へ真っ直ぐ飛んでいく。

 流石にそれは予想外だったか、大鬼はそれを避けようとして、だけど避けきれずに左肩に受けた。小鬼が弾け飛ぶ程の勢いは、大鬼にかなりの打撃を与えた様子で、大鬼の左腕はだらんと垂れ下がっている。

「グゥォォォーーーッ!!!」

 痛みからか、屈辱からか、大鬼が咆吼すると、小鬼達が恐怖に突き動かされるように、無秩序にこちらへ向かってくる。

 その様子に集中していた私は、次の瞬間、肝が冷える思いを味わった。

 先行してきた小鬼に向かって、音もなく、だけど鋭く駆け寄っていく、ナツとナーベの姿が視界に入ってきたからだ。

 だけど二匹は、私が守ろうと思うよりも速く小鬼に飛びかかり、そして、その首元を、前足の爪で切り裂いた。

 首の左右から緑色の血を吹き出し、そして倒れる小鬼。

 小鬼達はその様子に怯んで足を止めたが、それを見た大鬼が咆吼すると、再び走り出し、こちらへ迫ってくる。

 だが、前後の恐怖に挟まれて萎縮した小鬼達は最早ナツ達の敵ではなく、何も出来ないまま次々と倒れていく。

 生粋のイエネコで、狩りの経験など無いはずのナツだが、ナーベに負けない動きを見せている。その様子に、いつかナツが、私を守る、と言っていた言葉は嘘じゃなかったのだと思い知った。

 小鬼は残り三体となると遂に逃げ出したが、こちらへ歩き出していた大鬼が、右手に持った丸太のような棒を横薙ぎにして、それらをまとめて打ち払った。その姿に躊躇するような様子はなく、小鬼達に対して仲間という意識なんてまるで無いかのようだった。いや、事実、そんな感情など、無いのだろう。

 例えモンスターといえど、命を奪うということに対してまだ私の中には忌避感のような感情もあったけれど、少なくとも、この大鬼に対してはそんな気持ちを持たずに済みそうだと思えた。

 意外と素早い動きでナツに近付いた大鬼は、手に持った丸太を、叩きつけるようにナツへ振り下ろす。

 その振り下ろす速さは巨大な丸太が見えないほどだったが、ナツは素早く避ける。――だが、丸太は地面に叩きつけられることはなかった。

 丸太は、ナツの身体よりも広い範囲に広がった、私の張ったバリアに触れた。

 次の瞬間、大鬼は、振り下ろされた時以上のスピードで飛んでいこうとした丸太に右腕を持って行かれるような形で、宙を錐揉みしながら吹き飛んでいた。

 その身体は森の入り口まで勢いが殺がれることなく吹き飛び、そして激突した木をへし折って、止まった。

 そして、そのまま大鬼が起き上がることは、無かった。


「ナツ!」

「カノっ!」

 私は、駆け寄ってくるナツを、腕を広げて迎える。そして、飛び込んできたナツを――。

 ――ガシッ!

「ニャッ?!」

 空中でその脇をしっかりと受け止めると――。

 ――ザバーッ!

「ニ゛ャーーーッ!!」

 問答無用で魔法の水を浴びせ、その身に浴びていた返り血を洗い流す。

 モンスターがどんな病気を持っているかも判らないのだ。私は、ナツのために、心を鬼にして、丹念に水洗いする。爪もしっかり忘れずに。

「なるほど、それは良いね! 旅人さん、次はナーベにもお願い!」

「やーッ!やーーッ!」

 ナーベはエイジさんに掴まれたまま、ジタバタと、喋り声なのか鳴き声なのか判らないような声を上げて、もがくけど。次の瞬間には――。

「ニ゛ャーーーーーーッ!!!」

 そんな声を、相変わらず不思議な光が揺らめく青空に、響かせたのだった。


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