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ナツの扉 ~ザ・ドア・イントゥ・レグレスィール~  作者: みたよーき


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10.家族のカタチ

「マドル、どこへ行くんだ?」

「……エクスタの人達の所。今日はあっちで一緒に泊めてもらうから」

 私達が貸し与えられた二階の部屋を確認してから階下へ降りると、そんな、ロロさんとその息子マドルさんの会話が、玄関口の方から聞こえてきた。

「……エクスタ、って、何?」

 私は足元のジョーに、小声で尋ねる。

「エクスターミネータ。つまり、モンスター駆除のプロフェッショナルさ。町の警備隊とは違って、あちこちの町を巡ってモンスターを倒している奴らだが、ちょうど昨日、この町にやってきたのさ」

 そういう職業もあるんだ、という感想と共に、今更の疑問も浮かぶ。

 エクスターミネータ、とは、多分英語だろう。モンスターやプロフェッショナルもそうだけど、何か不思議な力で翻訳されて私にそう聞こえるだけなのだろうか? でも略称で呼ばれているということは実際にその言葉がこの世界で使われているということか――なんて、あまり考えても仕方ないと思いつつも、つい気にはなってしまう。

 私がそんな風に暢気に構えている間に、しかし、ロロさん達の会話は俄に雲行きが怪しくなったようだ。

「なれるわけないだろ、ってな、鼻で笑ったんだよ、お前は!!」

 そんな、突然激昂したマドルさんの怒鳴り声に、私は驚き、自然、耳を傾ける形になった。

「危険だと心配するでもなく! 本気なら相応の努力が必要だと諭すでもなく! そりゃあな、あの時の俺は、世の中のことなんて何も知らない子供だったかも知れねぇけどな! その子供なりに憧れて、本気でエクスタになりたいって、そんな俺の夢を、お前は一笑に付したんだよ!! そうやって自分が認めたくない子供の未来を馬鹿にして! そんな奴が父親面?! 俺はなぁ! お前の夢やら理想やらを押しつけられて! それを実現してやるだけの人形じゃねえんだよ!! 俺は俺という一個人だ! 家族なんてのはただ表面上の関係性を表すだけの言葉だ! お前がその言葉に勝手に込めている幻想を俺に押しつけんな!!」

 家族というものに特別な意味なんて無い――そんな風に聞こえるその考え方は、私には少し、悲しいと感じる。

 だけどそれは、私が、私の両親にちゃんと一個の人間として大事にされていたからなのかも知れない。両親がその上で家族という関係を温かいものとして築いてくれたから、私も家族を好きだと、言えるだけなのかも知れない。

 私にも、中学から高校に掛けて、親を鬱陶しく感じてイライラしていた時期はあった。そういう頃は、私に対して「何故?」「どうして?」と問いかけて私に考えさせるような、ある意味では回りくどいとも言える接し方に、無性に腹が立ったこともある。

 だけど改めて振り返れば、両親はそうやって私から言葉を引き出し、理解しようとしてくれていた。だから、頭ごなしに否定されたような経験は全く無かったのではないだろうか。

 父も母も人間なのだから、一時期のきつく当たる私の態度には腹が立つことだってあっただろうに、決して感情的にならず、辛抱強く向き合おうとしてくれていたように思える。

 ――ああ、私は、親に愛されていたんだ。

 そんな陳腐な言葉が、今更になって実感として湧き上がる。言葉にするなら、これまでも心のどこかにはあった思いが、確かな居場所を確保した。そんな感覚。

 別に、マドルさんが愛されてなかったと言いたいわけじゃないし、ロロさんが息子を愛してなかったと言うつもりもない。

 ただ私の場合は、私が愛情だと感じられる形で、両親が私を愛してくれていたのだろう、というだけのこと。

 マドルさんとロロさんは、少しすれ違ってしまっただけ。そう思いたいのは、私が持てる者だからなのだろうか。

「……明日、エクスタさん達と一緒にモンスター狩りに出る。それが、俺も加えてもらえるかどうかのテストだ。……せいぜい、俺がしくじることでも祈ってろ」

 沈痛な表情で何も言えずにいたロロさんに、マドルさんはそう言い残して、出て行った。

 と、ナツがその後を追いかけて行ってしまう。

 私は、ロロさんのことも心配だったけど、掛ける言葉も見つからない。結局、その場の居たたまれなさから逃げるように、ナツを追いかけた。


 家を出たすぐ先で、ナツを構っていたマドルさんに追いついた。

「ああ、悪いな、旅人さん。下らないことに巻き込んじまって」

「いえ、私達こそ、お二人の問題に立ち入ってしまうような形になって……、済みません」

 屈んでナツを撫でながら、多分気を遣ってくれたのだろう、さほど深刻なことじゃないかのように軽い感じで謝罪の言葉を口にするマドルさんに、私もただ、正直な気持ちを口にした。

「……まあ、あれで良かったんだ、きっと。俺がやろうとしてることは、危険なことだ。あっという間にヘマをして、二度と会えなくなるかも知れない。だから、表面だけ取り繕って仲良し家族の振りを続けるより、本音でぶつかって、決裂するならするで、はっきりした方がお互いにとって良かったんだよ」

 そういうものだろうか? と思ったのが私の本音ではあるけれど、家族の在り方だってそれぞれだ。本人がそう言っているのだから、私がとやかく言うことじゃないんだろう。

「それに、旅人は幸福を運んでくるって言うしな。だから俺達家族にとって、このタイミングでこうなったことが、きっと幸運だったんだ。だから気に病まないでくれ」

 立ち上がってそう言ったマドルさんの晴れ晴れとした表情からは、私達に気を遣ってそう言っているわけではないのだと理解できた。

「……分かりました、努力はしてみます」

「ははっ。そりゃ、気に病むなと言われて、すぐに切り替えるのも難しいか。……それじゃ済まないけど、頑張ってくれ」

 マドルさんはそう言って背中越しに手を振ると、軽い足取りで去って行った。


 私達が戻ると、出て行った時と変わらない体勢でいたロロさんは、だけど僅かな時間で随分憔悴してしまったように見えた。

「……旅人さんか。申し訳ない、見苦しいものをお見せして」

 それでもロロさんは、私達に気付くと謝罪の言葉を口にする。

「いえ、こちらこそ……済みません」

「……妻に先立たれて、私は立派な父親であろうと、昔から努力していたつもりでした。だが、言われてみれば確かに、私は、子供の言葉を、いいえ、子供のやることなすこと全てを、何か、微笑ましいものとして見るだけで、真剣に向き合っていなかったように思います。見下していたと思われても仕方ない……」

 静かな口調で切り出したロロさんは、私に話しかけているようでいて、自分自身に確認しているようにも、或いは懺悔しているようにも、見える。

「息子にああ言われても、そんなことがあったなんて思い出せない。それだけ、当時の私が彼の言葉を軽く考えていたからなのでしょう。だけど私には、見下すつもりも馬鹿にするつもりも無かったはずです。臆病な私と、穏やかな性格だった妻との間に生まれた子供が、危険なエクスタになりたいなんて、今聞いたって、信じられない心持ちがします。きっと、その時だって……」

 淡々と語るロロさんの声音からは、その心情を推し量ることはできない。

「だけど、あいつにとっては、今でも忘れられないくらい、ショックなことだったのでしょう。私に悪気が無かったと分かっていたとしても、そう簡単には許せるものではないほどに」

 そして、それまで虚空を見つめるようにして語っていたロロさんが、私の方へ向き直って言う。

「旅人さん。こんなことを聞かれても困るだろうが……。私は、間違ってしまったのでしょうか……?」

 きっと、ロロさんが望んでいるのは口先だけの慰めじゃないのだろう。弱っている人の心に、自分の言葉が何らかの影響を与えてしまうかも知れないことに、少なからず恐怖もあるけど、私なりに誠実に、今の気持ちを正直に語りたいと、どうしてだか、思った。

「何が正解で、何が間違いなのか、それは私には判りません。例え分かったところで、過去は変えられもしません。だから、今からでも、改めて真剣に向き合ってみませんか?」

「今から……。だが、どうしたら……」

「明日、マドルさんを見送ってあげて下さい。……マドルさんの選択は、ロロさんが望んだものじゃないかも知れないけど、むしろ一番望まない選択かも知れないけど。でもマドルさんはきっと、何を言われたってやめるつもりは無いと思います。だからせめて、息子さんが自分の意志で決めた道へ踏み出そうとしているその瞬間を、親として見届けてあげて下さい。例えそれがロロさんの自己満足でも、です」

「私の……自己満足でも……」

「そうです。マドルさんは、決裂することになったとしても、家族なら本音をぶつけてはっきりした方が良いと、そのようなことを言っていました。だから、息子さんに、ロロさんもその時感じた素直な気持ちをぶつけてあげて下さい」

「あいつがそんなことを……。そうか……。ありがとう、旅人さん。あいつがそう考えているなら、私は答えてやりたいと思うよ。……だが、私は臆病者だ。だから、旅人さん、申し訳ないが、明日、私が逃げ出さないように、見張ってくれないか? いや、見張る、は大げさか。ただ見ていてくれるだけでいい。それだけで、私は父親として、あいつの前に立てると思うから」

「それで私が、お役に立てるなら」

「ありがとう。……さて、そうと決まれば、明日に備えて英気を養わなければ。ああ、夕飯は任せてくれ、こう見えても、料理は得意なんだ」

 その言葉に嘘はなく、私はその夜、豪華でこそないが素晴らしい出来映えの家庭料理に、舌鼓を打ったのだった。


 翌朝。私達も早めに門へ向かったつもりだったが、そこには既にマドルさん達がいて、出発前の点検をしているようだった。

 私達が近付くと、それに気付いたマドルさんが手を止めて、こちらに向き直る。

「あなた方は、ここで」

 ロロさんはそう言って、真っ直ぐマドルさんの元へ向かい、私達はその場で様子を見守る。

「……何しに来た、親父」

「ふん。お前には昨日、一方的に好き勝手言われたから、俺もお前に言ってやろうと思ってな。いいか、マドル。あれだけ俺に偉そうなことを言っておいて、ダメでした、なんて情けない真似はしてくれるなよ。もしそんなことになったら、今度はお前を腹の底から笑ってやる。それが嫌なら……、死に物狂いで頑張るんだな」

「……はん、言われるまでもねぇ」

 言葉だけ聞けば、剣呑な感じもする。だけど、エクスタの人達が微笑みながら見守っているように、実際には衝突に発展しそうな雰囲気は感じられなかった。

 結局、二人のやり取りはそれだけ。ロロさんは最後に息子を預けるエクスタ達に頭を下げて、町の外へ向かう一行を見送った。


 その日の夕方、私達がジョーに呼ばれて門へ向かうと、ロロさんがその手前をウロウロしているのが見えた。流石に朝からずっとというわけではないだろうが、随分長いこと待っていそうな気がする。

 間もなく、そこへ、エクスタ一行が誰一人欠けること無く帰ってきた。

 門をくぐり、ロロさんを見つけたマドルさんは、そのロロさんに向かって、自慢げな笑顔を見せて。

 そこへ近付いていったロロさんは、ただ小さく笑って、マドルさんの背中を軽く二度叩く。

 言葉さえ交わさない、たったそれだけの、やり取りだったけど。

 ――本当に、家族の在り方なんて、それぞれなんだ。

 私は、胸に抱いたナツの温かさを感じながら、そんなことを思った。


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