「縁談」
マリアが伯爵家の養女になって半年が経ち、とうとうその日がやってきた。
「マリア…」
レイはその時義妹マリアを呼び出した。彼女はレイのただならぬ様子を読み取ったのだろうか、マリアの顔は緊張している。
「どうしたのですか?お義兄様」
おそるおそると言った感じでマリアはレイに聞いた。
「今日、国王陛下からお呼び出しがあってな」
「国王陛下から…?」
国王と聞いてマリアの表情が強張った。
国王の顔が浮かぶ。彼はいつも優しい顔をして残酷なことを平気でする男であることをレイは知っていた。
「君を、王妃に迎えたいとのことだ」
レイは感情のない声で言った。
「私を王妃に…?」
信じられないといった様子でマリアは義兄に問いかける
『――君の妹を嫁にもらいたいのだが、構わないだろうか』
穏やかに。そしてどこか高圧的に彼は言ったのをよく覚えている。
「でも…公爵とのお話はどうなるのです?」
レイは半月ほど前から名門の長男とマリアの結婚話を進めていた。
「断ることになるな。王族との縁談を断るわけにはいかないからな…」
(…国王は私の計画を見抜いているのか?)
レイはちらとマリアを見た。マリアは特別美人でもない。
美女シャリナを寵愛しているはずの国王が一目見て王妃にしたがるとは思えない。
シーモアのように突然破談になってはメンツも何もあったものではないし、王家に嫁に行くには多額の金がかかる。王室でいじめられないように王妃は城に働く女性に《ごあいさつ》と称して配る金銭を用意する必要もある。
シーモア家は経済的に破たん寸前まで追い込まれ、賄賂に手を出して家の権力を失うことになった。
おそらく、あの男の策略どうりだったに違いない。
自分もその二の舞になるかもしれない。
あの方は慎重で大胆な方なのだから。
先代国王が気に入っていた絵画をレイの幼かった弟が台無しにしてしまったことがあった。当時レイは16歳で当主に就いたばかりでありこのままでは家の立場が台無しになると焦ったがそれを当時14歳だった国王が見ていたのである。
「父の絵か――君たちは帰るといい。始末は私がしよう」
何を聞くわけでもなく、レイの幼い弟を見て国王はそう言った。当時彼は王族といっても玉座は望めないといわれておりレイは名前すらまともに記憶してなかったが彼の目が綺麗だったことは印象に残っている。
「どうした?行かないのか?」
茫然と彼を見ている自分たちは去りなさいと遠回しに告げられなすすべもなくレイは去った。
後日都中で国王お気に入りの絵が跡形もなく消えたと騒ぎになったが、どうやって国王があの絵を処分したのかは謎である。かまっても仕方がない自分たちを助けたレイは当時国王を優しいと思ったが今ではその周到さと大胆さに恐ろしさも感じている。
あの頭の固いリアジェを何の権力もない少年がどう口説いて国王に推薦させたのか、そもそも第一王子でありながらどうして片田舎に追いやられていたのかなど謎が彼には多かった。どこで育ったのかも知られておらず、誰も聞きもしない。
下手に断ったらどうなるのか予想もできない。
レイは敗北感を感じていた。




