お前
ディアナは食事中もほとんど口をきかなかった。憮然とした表情で黙々と食事を口に運んでいたのみだ。
食事を終えるとディアナはマリアに少々お時間をいただけませんかと尋ねた。マリアが承知するとディアナと二人で会議室に入れられる。
「お話って何かしら?」
マリアが尋ねるとディアナは優しい笑顔で言った。
「王妃様、我々補佐役は貴女様を補佐する役割があることはご存知ですか」
「ええ…」
マリアはそう返事をするもののそれで?と聞き返した。
「王妃様にはいくつか再教育をしたい点がありますの」
淡々と、それでいて辛辣な言葉だった。
「再教育?」
マリアがその辛辣さに驚いて聞きかえしても
「ええ。…まずはその話し方」
と淡々と続ける。
「私の話し方がおかしいかしら」
マリアは思わず不快な表情をした。それみろ、と言わんばかりにすかさずディアナは返す。
「王妃様はお声が小さく、早口にお話になるでしょう。それに、感情がすぐ表情に表れるのも問題ですわね」
マリアは本当のことを言われて何も言い返せなかった。
「ご安心を。王妃様」
ディアナは優しそうな笑顔を向けながら厳しい宣言をした。
「私が貴女様の悪い癖をのぞいて差し上げます」
このディアナという女はマリアが輿入れする一月前に城に入った身である。
彼女は城のなかの女では新人だ。正式には王妃補佐役として呼ばれたのである。
「今日、人をよこして欲しいの」
彼女は与えられた自室に入るなり侍女に言った。
「人をですか?」
侍女が聞き返すとディアナはその名を告げた。
「ロイズ殿下の側近をしているシン=マーカスって男よ。なるべく早く呼びなさい」
ディアナの口調に気圧されたのか、侍女はあわててロイズの執務室へ向かった。
ロイズも執務室に戻ったばかりのようで、王妃補佐役の使いと聞くと珍しく侍女に直接用を聞いてくれた。
侍女は事情を話したが、やはりというべきか、女の部屋に自分の部下を行かせるのにロイズは不快な表情をした。
「ディアナ=グーテンホーフを王妃補佐役に推したのは私だが、彼女に部下をよこす筋はないはずだ」
侍女は侍女のあのおっかない新しい上司にできなかったと報告もできない。だがロイズはロイズで恐ろしく、「そ、そうおっしゃられましても…」と困った顔をしていると
「殿下、少しお時間を下さいませんか」
と凛とした声がした。
ロイズが侍女の後ろに注意をやると品のいい、それでいて芯の強そうな青年がいる。聡明ながら最下層の下働きだったあの少年だ。
「どういうことだ」
ロイズが眉間にしわを寄せ尋ねるとシンは
「ディアナ=グーテンホーフは以前私が屋敷勤めしていた家の奥様でとても世話になった方です。私にとっては殿下の次に大切なお方ですので、許可を戴きたいのです」
と実直に言った。
他の家臣はシンの大胆な発言にあわてたが、ロイズは「よかろう」と頷いた。




