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第15話「エルフの弓術」

「学園を案内する前に、先にあなたについて聞かせてくれ」


 生徒会室。

 長机を挟み、ザイアが向かいに座るケイシーへ静かに話しかけた。

 その目にはわずかに警戒心が滲んでいる。

 ケイシーは少し困ったように眉を寄せた。


「あ、そうでした」


 そこで、レイがはたと目を見開いた。

 チョーカーの鈴を小さく鳴らしながら腰へと手を伸ばす。

 そのまま、装備していた翻訳と放擲の短剣トランスレイトスローンダガーを取り外した。


「あ……」

「それは……!」


 シュナとノイーダが同時に声を上げる。


「例の、敵の行動を予測する短剣ですね?」


 ノイーダの問いに、レイが頷いた。


「はい。それの本来の翻訳の効果で、ケイシーさんとは会話してたんです」

「……ああ。あの時のドロップ装備か」


 ザイアがレイに木の棒で助けられた時のことを思い出す。

 レイは取り外した短剣を、手の上でくるりと回した。

 そしてそのまま鞘を握ると、柄の方をケイシーへと差し出す。


「どうぞ」


 その行為に——

 レイを知る者は一斉に目を見開いた。

 対して、ミヤビとシュヴェルツェは眉を顰める。


「……いいのか?」


 ケイシーが戸惑うように問う。


「はい! ケイシーさんは装備を大事に扱いますから!」

「……おい」


 ミヤビの低い声が通る。


「危機感が無さすぎるんじゃねえのか?」


 鋭い視線がレイを射抜く。


「見知らぬ奴に武器を渡すなんざ、自殺と同義だ」

「……私も同感だ」


 続けてザイアも口を開いた。


「レイ。君の装備は強い。だからこそ、扱いは慎重になるべきだ」


 その言葉に、レイは大きく目を見開いた。


「……なるほど。確かにそうですね」


 感心するように、真剣な顔で頷く。


「でも、ケイシーさんは大丈夫です」


 レイは、微笑んでから続けた。


「お友達ですから!」

「……お前」


 ミヤビの目がさらに細められる。


「待った」


 そこで、テイルが言葉を挟んだ。


「まずは、ケイシーさんの話を聞くのが先じゃない?」

「……チッ」


 ミヤビが舌打ちを鳴らした。


「……そうだな」


 ザイアも一つ頷いた。

 ケイシーは、差し出された短剣を丁寧に受け取る。


「借りるよ。必ず返す」

「はい!」


 嬉しそうに、レイが頷いた。


「……それで、ケイシーさんはエルフなのか?」


 ザイアの問いに、ケイシーが直接答える。


「ああ。人族は我々をそう呼ぶらしい」

「らしい?」


 ザイアが眉を上げる。

 ケイシーは小さく頷いた。


「私が人族に会ったのは、今日が初めてだ」

「……まさか、人間は近くにいないのか?」


 ケイシーが、今度は首を横に振った。


「森の外にはいるらしいが、我々は森から出ないからな」

「なるほど……」


 ザイアが顎へ手を当てる。


「……ケイシーさんは、なぜここへ来たんだ?」

「この周辺の動物が騒いでいたから、気になって来てみたんだ。まあ、理由はすぐわかったが」


 ケイシーが肩をすくめる。

 ザイアは大きく息を吐いた。

 その後ろで、テイルがシュヴェルツェへ小声で話しかける。


「異世界で確定じゃないか? これ」


 シュヴェルツェは難しい顔のまま低く唸った。

 ザイアが、再び口を開く。


「レイをあなたの鍛冶場へ連れていくという話だったが、我々も同行できるだろうか?」


 ケイシーは一度目を伏せて思案する。


「……全員は不可能だ」


 顔を上げて、続ける。


「連れて行けるのは、せいぜい五人まで。それ以上は里が混乱する」

「そうか……」


 小さく呟き、ザイアが振り返った。


「レイは確定として、他を決める」

「ザイアは必要だろう。こちら側の代表者として」


 ガルドスの言葉に皆が頷く。


「あとは……シュナか? 記録係は必要だろう」


 イリスに呼ばれ、シュナが背筋を伸ばした。


「それと、能力バランス的にヒーラーのノイーダかな?」


 テイルがノイーダへと視線を送る。

 ノイーダは静かに頷いた。


「あと一人……」


 ザイアの声に、自然とミヤビへと視線が集まった。


「……まあ、そうなるよな」


 頭をかきながら、ミヤビが呟く。


「いいぜ、ついていってやるよ。それに……」


 ミヤビが、レイを顎で示した。


「そいつ、危なっかしいし」


 レイは、ただ目を瞬かせていた。

 ザイアが苦笑し、一つ頷く。


「……よし。そのメンバーで向かう」


 そしてそのまま、ケイシーへ向き直った。


「ケイシーさん。これからあなたの里に向かうことはできるだろうか?」


 問われ、ケイシーは首を横に振る。


「私だけなら可能だが……」


 視線が、レイたちへ向けられる。


「君たちを連れてとなると危険だな。人族は、夜の闇に弱いのだろう?」

「……明日のほうが賢明、か」


 ザイアが小さく呟く。


「あの〜」


 そこで、レイが声を上げた。


「でしたら、ケイシーさんに学園を案内したいのですが、いいでしょうか?」


 その言葉に、ミヤビが口を開く。


「……パニックになんじゃねえか?」


 視線はケイシーに向いていた。


 銀色の髪。

 翡翠色の目。

 長く尖った耳。

 ——目立つ。確実に。


「いや、むしろ大々的にしたほうがいいんじゃないか?」


 モノクルを押し上げたイリスの言葉を、ザイアが肯定する。


「エルフの里に向かうんだ。最初から公にしておいた方がいいだろう」

「……それもそうか」


 ミヤビが納得したように呟いた。


「よし! そうと決まれば、早速案内しに行こう!」


 テイルが明るく笑う。


「大人数で行っても窮屈だろうし、親睦も兼ねて里に行くメンバーが案内役をしたらどうかな?」


 その発案に、ミヤビが眉を顰めた。


「……オレもかよ」

「もちろん! コミュニケーションは、とっておいて損はないだろ?」

「……ケッ」


 ミヤビが顔を背ける。


「じゃあ頼んだよ、レイ君」

「はい!」


 レイが元気に返事をした。

 そして席を立つと、ケイシーへと向き直る。


「では行きましょう、ケイシーさん」


 にこりと笑い、そのままくるりと扉へ体を向けた。


「ああ」


 勇んだように歩き出すレイ。

 その背中を、ケイシーはどこか微笑ましそうに見つめていた。

 少し遅れてザイアたちも続いて行く。


 そんな彼らを見送りながら、テイルがにやりと笑う。


「さて。じゃあ俺も」


 その言葉に、イリスが呆れたように眉を寄せた。


「まさか、お前……」


 テイルは答える代わりに、人差し指を立てる。


消失する躰(トランスシン)


 空気に溶けたテイルは、レイたちの後を追っていった。


◇ ◇ ◇


 まずレイが向かった先は、修練場だった。

 学園の一角に広がるそこには、広く開けた地面と、一定間隔で並べられた練習用の的がある。

 木製武器を収めた棚や、模擬専用のフィールドも設置されていた。

 それらを指して、レイが口を開く。


「修練場です!」


 ……続く言葉は、無い。


「……それだけか?」


 ザイアが思わず問い返した。


「……?」


 レイは小首を傾げている。

 ザイアは、苦笑を浮かべながら補足した。


「ここは、我々生徒が鍛錬をする場所だ」

「セイト、とは?」


 ケイシーが問い返す。


「ああ、そうか」


 ザイアが少し言葉を選ぶ。


「この学園は、戦う者を育てるための施設だ。そこで学ぶ者を、生徒と呼ぶ」

「へえ……」


 ケイシーが感心したように頷いた。

 その時。

 少し離れたところで、的に向かっていた男子生徒が剣を構える。


翔斬(ソアブレイド)!」


 振り下ろされた剣から放たれた斬撃が、高速で的へと走る。

 それは的に当たると、派手に弾けた。

 的は激しく揺れながらも、その場へ立ち続けている。


「……頑丈だな」


 ケイシーが感心したように呟いた。


「ふぅ……」


 男子生徒が汗を拭い、そこでレイへ気付く。


「レイ君」


 学園がダンジョンに侵食された時、初めにレイが助けた少年だった。


「おお、エントさん。こんにちは」


 レイが軽く頭を下げた。


「こんにちは」


 エントも、同じように頭を下げ返した。


「あの時は、どうもありがとう」

「いえいえ。直剣はお元気ですか?」

「もちろん。君のおかげでね」


 エントが剣を軽く持ち上げる。


「それならよかったです〜」


 レイが嬉しそうに微笑む。


「それで、レイ君は——」


 エントの言葉が、途中で止まる。

 レイの後ろにいる少女を見て、口を開けたまま固まっていた。


「エ、エルフ……?!」


 大きく目を見開き、ケイシーとレイを交互に見る。


「ど、どういうことだい……?!」


 思わず小声で問いかける。


「僕のお友達です」

「とも……」


 エントは絶句した。

 だがすぐに、苦笑を浮かべた。


「……やっぱり君は、とんでもないね」


 レイは、不思議そうに小首を傾げていた。


「あの、ケイシーさん」


 ノイーダがケイシーに話しかける。


「ケイシーさんは、弓をお使いになるんですよね?」


 視線は、ケイシーが持つ短弓へ向いている。


「ああ」

「ふむ……」


 ノイーダが真剣な表情を浮かべる。

 ケイシーは、不思議そうにわずかに首を傾げた。


「……弓って、あんまり見ないのよ」


 シュナの声に、ケイシーが眉を上げた。


「そうなのか?」

「ええ。扱うのが難しいし、それに——」

「魔法の方が、基本的に優れてるしな」


 ミヤビが言葉を挟む。


「射程も、速度も、威力も。負けてるのは静音性くらいか?」

「マホウ……霊術のようなものか」


 ケイシーが小さく独りごちる。


「ケイシーさん」


 直後、背後からかけられたレイの声に、ケイシーが振り向いた。


「なんだ?」

「その……ケイシーさんが弓を使っているところを見てみたくて……ダメでしょうか?」


 その言葉を聞いたザイアが、微苦笑を浮かべた。


「……修練場に来たのは、それが狙いか」


 ケイシーはふっと笑って、一度頷く。


「ああ。いいぞ」


 言いながら、ちらりとミヤビを一瞥した。


「……ん?」


 ミヤビが片眉を上げる。

 ケイシーは、的の前まで歩いた。

 そして静かに弓を構え、矢をつがえる。

 その一連の動作は、流れるように美しかった。

 ケイシーが、真っ直ぐに的を見据える。


「……ふっ!」


 短く息を吐いた瞬間——矢が放たれた。

 風が、わずかに矢へ纏う。

 一切ブレることなく飛翔したそれは——

 的の中心を、正確に貫いた。


「すご……!」

「おお……」


 エントが目を見開き、ノイーダが感嘆の声を漏らす。

 矢は的を貫通し、後方の壁へと突き刺さった。


「我々の弓は、マホウにも負けていないだろう?」


 ケイシーが、少し誇らしげにミヤビへ告げる。


「ふっ……悪かったよ」


 片手を上げて、ミヤビは素直にそう言った。


「ケイシーさん、かっこいいです!」


 その横から、レイが身を乗り出した。

 瞳がきらきらと輝いている。


「取り回し重視の短弓……森での狩りを行うのに最適ですね」


 短弓をじっと見つめたまま続ける。


「草木や闇に紛れるための静かな意匠が、いぶし銀のような魅力を孕んでいます」


 そして次に、ケイシーを見た。


「先ほどの矢に纏っていた風も、最小限で効率的な力でした!」


 その言葉に、ケイシーがわずかに眉を上げた。


「……もしかして、レイは弓も使えるのか?」


 そう問われた瞬間。

 レイの顔が、ぴたりと固まった。


「あ、あ〜……使い方は知っていますが、その……下手でして……」


 頬をかきながら目を逸らす。


「……意外だな。なんでも使えると思っていた」


 ザイアの言葉に、レイはわずかに唇を尖らせた。


「使えはするんです! でも……的に当たったことがないんです……」


 その表情に、シュナが何かを思いついたように眉を上げた。

 ほんの少し口角を上げる。


「……ねえ、使って見せてくれない?」


 その言葉には、悪戯心が滲んでいた。


「むむ……」


 レイがわずかに唸る。


「……わかりました」


 そう言って、木製武器が並べられた棚へと向かった。

 短弓を手に取り、矢を一本抜く。

 そして、的の前へ立った。


「ふぅ……」


 深く息を吐く。

 ——その瞬間。

 空気が、変わった。

 レイを中心に、周囲の空気が張り詰める。


「あの時の……」


 シュナが、小さく声を漏らした。

 思い出すのは——魔法を切っていた、あの姿。


 レイは据わったような瞳で、真っ直ぐに的を見つめている。

 その耳にはもう、何の音も届いていない。


 弓を構える。

 矢をつがえる。

 ピン、と弦が張る。


 満ちた静寂に、誰もが思わず息を止める。

 ——だが。


「——レイ」


 ケイシーが声を発した。

 声は風に乗り、レイの耳へと流れていく。


「レイ」


 その声が届くと同時、レイはぴくりと眉を動かした。


「は、はい」


 弓を下ろし、振り返る。


「……少し、集中しすぎだな」


 ケイシーの言葉に、レイはわずかに首を傾げた。


「……どういうことでしょう?」

「弓は、自分自身だけの武器ではない」


 ケイシーが、レイの元へと歩み寄る。


「日の光。相手の動き。そして、風」


 レイの手に、そっと触れる。


「自然とも、一体化せねばならない」


 ケイシーが目を閉じる。

 その銀髪が、ふわりと揺れた。

 手を通じて、レイの周囲へも風が舞う。


「……感じるか」


 その声に、レイも目を閉じた。


 瞼越しの光。

 ケイシーの気配。

 頬を撫でる風。

 ——すべてが、鮮明に感じられる。


「……はい」


 二人がゆっくりと目を開く。

 すっと、ケイシーが手を離した。

 そして、矢筒から一本の矢を抜く。


「これを」


 差し出されたそれを、レイが受け取る。


「ありがとうございます」


 ケイシーが一歩下がった。

 レイは、静かに弓を引く。

 弦が張り詰める。


 ——レイが、矢を放つ。

 風に乗り、先ほどよりも遥かに真っ直ぐ飛んだ矢は——

 ストン、と。

 的の外側へ深く突き刺さった。


「……!!」


レイの目が、大きく見開かれる。


「いいじゃないか」


 ケイシーが柔らかく微笑んだ。


「すごいです! ケイシーさん!」


 目を輝かせ、ケイシーへと駆け寄る。


「風が……! 光が……!」


 感動のあまり、言葉がうまくまとまっていない。

 その様子に、ケイシーがくすりと笑った。


「もう一度やるか?」

「はい!」


 ——その時。

 ミヤビの咳払いが大きく響いた。


「……次。案内するんだろ」


 レイが、はたと目を見開く。


「……そうでした」


 ——それからレイは、学生寮や中庭をケイシーへ案内した。


 完全に日が傾いた頃。

 学生寮の前で、突如空間が揺らぐ。


「お疲れ〜」


 そこへ現れたのは、テイルだった。

 ケイシーが大きく目を見開く。


「……副会長、まさか」


 シュナが半眼で睨む。

 テイルは、悪戯っぽく笑った。


「こんな面白そうなこと、俺が見逃すわけないじゃん」


 悪びれる様子もなくそう言い放つ。

 シュナは、呆れたようにため息を吐いた。


「ところでさ、ケイシーさんってどこに泊まるの?」

「私の部屋にでも、と思っているが」


 答えながら、ザイアがケイシーへと視線を向ける。

 ……だが。


「……私は、レイの部屋がいいな」


 その言葉に、ザイアとシュナが同時に目を見開いた。


「ダメよ、そんなの!」


 シュナが反射的に叫ぶ。


「あ……」


 想像以上に大きな声が出たことに気づき、シュナが頬を染めて黙り込んだ。


「……まあ。男女で同衾するというのは、さすがに認められないな」


 ザイアが眉を寄せる。


「なぜ、僕の部屋なのでしょう?」


 レイがケイシーへ問いかける。


「私が信頼しているのは君だし、それに……」


 ケイシーが、わずかに口角を上げる。


「きっと、他にも装備があるのだろう? それを見てみたい」


 その言葉に、レイは目を輝かせた。


「もちろんです! お話しましょう!」

「待て待て……」


 ザイアが困ったように眉を顰める。


「……どうすんだよ?」


 ミヤビに問われ、ザイアが考え込むように口を閉じた。


「……監督役として私も入るか……? いや、それは……」


 眉間に皺を寄せるが、答えが出ずに低く唸る。

 その横で、テイルが軽く言った。


「じゃあ、みんなで大部屋に泊まればいいんじゃない?」


◇ ◇ ◇


 普段休憩室として使われている大部屋には、六人の姿が揃っていた。


 ザイア。

 シュナ。

 ノイーダ。

 ミヤビ。

 ケイシー。

 そして、レイ。


 それぞれが適度に距離を空けながら、寝具を並べている。


「なんでオレが……」


 ミヤビが、面倒臭そうに頭をかいた。

 すでに全員寝巻き姿となっている。


「あれ、テイルさんは来ないんですか?」


 レイが部屋を見渡しながら問いかける。


「……そうみたいよ」


 シュナが呆れたように答えた。


 ——そっちの方が面白そうだから。


 テイルの言葉を思い出し、小さくため息を吐く。


「そうですか……」


 レイが少し肩を落とした。

 そして、そのまま手元に視線を落とす。

 そこでは、冥誘の光剣(コールオブハデス)の手入れが行われていた。

 鞘を丁寧に磨き。

 刃を抜き、欠けや歪みがないかを確認する。

 ノイーダは正面に座り、それを楽しそうに眺めていた。


「それは、毎日やっているのか?」


 座り込むレイの頭上から、ケイシーが尋ねた。

 ノイーダがわずかに体をずらし、場所を開ける。


「はい。日々の手入れは、戦闘に直結しますから」


 レイは当たり前のように答える。


「……そうだな」


 ケイシーは頷くと、髪を耳へとかけながら手元を覗き込むように屈んだ。

 その時、襟元がわずかに広がる。

 ザイアから借りたシャツのサイズが、胸元のみ合っていなかったのだ。

 それを見たザイアとシュナが、即座に手を伸ばして押さえた。


「……危機感が薄すぎるぞ」

「……?」


 ケイシーは不思議そうに首を傾げる。

 ミヤビが、呆れたように鼻を鳴らした。


「エルフってのは、天然なのか?」


 そんなやりとりが交わされていた——その時。

 ふわり、と。

 窓の隙間から、青い光が入り込んだ。


「……なんだあ?」


 ミヤビが訝しげに目を細めた。

 その間も、小さな光の玉は揺らめきながら部屋の中を漂っていた。


「あれは……」


 ケイシーが、驚愕したように目を見開いた。

 青い光は、ゆっくりとレイの方へと近づいていく。


「お……?」


 レイが、興味深そうに手を差し出す。

 すると、光は彼の指先へちょこんと留まった。


 その瞬間——

 光の玉が、形を変える。

 一瞬の間、強い輝きを放ち——やがて、その輪郭が浮かび上がった。


 四枚の羽。

 蝶のような姿。

 淡く青く輝く、小さな存在。


「精霊さま……?!」

 

 ケイシーが、慄いたように声を漏らす。

 だが——


「綺麗ですね〜」


 レイは、ただ嬉しそうに微笑んでいた。

 青い蝶のような精霊は、ふわふわとレイの周囲を飛び回る。

 肩へ留まり。

 髪を掠め。

 まるで遊ぶように、光の軌跡を描いていた。

 その幻想的な光景に、部屋の全員が言葉を失う。


「……精霊さまが……我々以外に近寄るなんて……」


 ケイシーが唖然と呟く。

 ——やがて。

 精霊は再び窓の方へ飛んでいき、夜の闇へと消えていった。

 ……静寂が落ちる。

 その中で、ケイシーだけが、呆然とレイを見つめていた。


「レイ……君は、何者なんだ……?」


 だが、そう問われた本人は——


「……?」


 不思議そうに、小首を傾げるだけだった。

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