表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/21

第8話「決着」

 ザイアたちの間には、焦りが生む息苦しい空気が漂っていた。


 強力な攻撃。

 強固な防御。

 そして——敵の増援。

 それらすべてが、重圧となってのしかかる。


「ふぅ……」


 ザイアが深く息を吐く。

 胸の奥に溜まった熱を吐き出してから、鋭く息を吸い込んだ。


「折れるな!」


 張り上げた声が、空気を切り裂く。


「勝機は、必ずある!」


 凛として、力強い声。

 その響きは、聞いた者の背中を震わせる。


「連携が噛み合えば、絶対に突破できる!」


 一瞬の静寂。

 ザイアの言葉を受けた全員は——口角を、わずかに上げた。

 握り直される武器。

 踏みしめられる足。

 折れかけていた流れが、再び繋がる。


 その瞬間——

 空間に、異変が生じた。

 いくつかの青い歯車が、唐突に浮かび上がる。

 それらはかちりと噛み合って——一筋の青い光が、一直線に走った。

 片方の土煙が巻き上がり——そして、消える。

 その中心に、レイが立っていた。

 ガルドスから渡された指輪が消え、代わりに黒いブーツへ銀色の線が螺旋状に走っている。

 ——直後。


「おおおおぉぉぉ!!」


 もう一方の土煙から、煙を引き裂くような雄叫びが轟く。

 飛び出したガルドスが、勢いのまま騎乗骸骨(スケルトンライダー)へと大剣を振り下ろす。

 ガキンッ!と、激しい金属音が響き渡った。

 一瞬の鍔迫り合い。

 次の刹那、騎乗骸骨が剣を弾き、ガルドスが後方へと跳んだ。


「ザイア!」


 ガルドスが叫ぶ。


「こいつらは、俺とレイに任せろ」


 そのまま、視線を横へ向ける。


「いけるな? レイ」


 問われたレイは、こくりと頷いた。


「はい」


 気負いはない。

 むしろ、その表情にはわずかな高揚すら滲んでいた。


「……頼む!」


 ザイアの声に、二人は同時に正面を向いた。

 それぞれの、倒すべき相手へと。


◆ ◆ ◆


「さてさて……」


 レイは、自らの足元へと視線を落とした。


 『風纏い圧縮する長革靴エアプレッシャーブーツ

 ——防御力:C

 ——状態異常耐性:D


 表示されたステータスに、目を細めて笑みを浮かべる。

 そして——トン、と軽く地面を蹴る。

 そのまま、レイは騎乗骸骨の周囲を円を描くように駆けた。

 対する騎乗骸骨は——動かない。

 レイを見据えながら、静かにその場に佇んでいる。


「やはりそうですか」


 レイが小さく呟く。

 次の瞬間。

 レイは強く地面を蹴り、騎乗骸骨の方へ高く跳んだ。

 騎乗骸骨が、剣を構える。

 そして、その姿が消える——よりも、わずかに早く。


 レイが、空気を踏みしめた。


 足裏に伝わる、確かな反発。

 続いて——トン、と。

 空気を蹴った。


 レイの体が、真横に動く。

 その直後、騎乗骸骨の姿が視界から消えた。

 レイのすぐ横を、何かが一瞬で通り過ぎる。

 水色の髪が風に揺れる。


「いい感触です」


 レイは、口元に笑みを浮かべた。

 そして、騎乗骸骨に視線を向ける。


「モンスターでも馬は馬ですね。速さは圧倒的ですが、機動力に欠けます」


 冷静に、分析を口にする。

 視線を受けた騎乗骸骨は——剣を、逆手に持った。

 そして、躊躇なく。

 自らが騎乗する馬型モンスターへと、その剣を突き刺した。


「え……?」


 レイが目を見開く。

 次の瞬間——モンスターの身体が、黒いもやに包まれる。

 そして、剣へと吸い込まれるように消えていった。

 刃にまとわりつく、不気味な闇。

 ゆらゆらと揺れ、蠢いている。

 それを見たレイは——ぱっと、表情を輝かせた。


「なんですか、それ?!」


 純粋な興味を宿したその瞳は、きらきらと光っていた。


◆ ◆ ◆


「こいよ、骨野郎」


 レイが戦闘を開始したのと、同じ時。

 ガルドスは大剣を肩に担ぎ、挑発するようにそう言った。

 騎乗骸骨は、それに応えるようにゆっくりと剣を構える。

 そして——姿が消えた。


 ——ガキィンッ!!と。

 激しい金属音が耳を打った。

 踏ん張ったガルドスの足元が、地面を抉る。


「重えな……だが」


 歯を食いしばることもなく。

 ガルドスは、一歩すら後退せずにその一撃を受け止めていた。


「馬ってのは、急には曲がれねえし止まれねえ……正面からしかねえとわかってれば、なんてことはない」


 にやりと口角を上げ、大剣を振り抜く。

 弾かれた騎乗骸骨は、後方へと退いた。

 間髪入れず、ガルドスが一歩強く踏み込む。


「ふん!」


 振り下ろされる、鋭い一撃。

 対する騎乗骸骨は、剣を横に構えた。


「取った!」


 確信を抱き、口にする。

 しかし——ガキンッ、と。

 重い衝撃音とともに、その大剣は止められた。


「なに?!」


 騎乗骸骨が、そのまま力任せに押し返す。

 弾かれたように腕を上げたガルドスの、わずかな隙。

 そこへ、横薙ぎの斬撃が走る。

 だが、その瞬間。

 ガルドスの指に嵌められた指輪が、赤く光った。

 ——パァン、と。

 放たれた空気弾が、高い音を奏でて剣を弾いた。

 ガルドスが、腕の筋肉を隆起させる。


「オラァァ!!」


 叩きつけられるように、大剣が振り下ろされた。

 それを見て、騎乗骸骨は——迷いなく馬型モンスターから飛び降りた。

 ガルドスの目が、わずかに見開かれる。


「ほう!」


 振り抜かれた大剣が、馬型モンスターを断ち切る。

 断面は光の粒子へと崩れ、消えていった。

 だが、騎乗骸骨はそれに一切の興味を示さない。

 静かに地へ降り立ち、すっと剣を構える。


「……第二ラウンド、ってやつか?」


 ガルドスは、なおも口角を上げていた。


◆ ◆ ◆


「一時と九時の方向!」


 ザイアの鋭い指示が飛ぶ。

 即座に反応し、前衛が盾を構えた。

 ——ガキィッ!と、飛来した大鎌が激しく叩きつけられる。

 受け止めた腕に、みしりと嫌な音が走った。


「「中回復魔法(ヒール)!」」


 間髪入れず、ヒーラー二人が詠唱する。

 淡い光が前衛を包み、損傷を瞬時に修復していく。


「魔法攻撃!」

「雷よ!」

黒き弾丸(ダークショット)!」

風刃(ふうじん)!」


 三位一体の魔法が飛ぶ。

 雷が唸り、闇が走り、風が切り裂く。

 だが——

 骸の死神は、泳ぐようにその身を滑らせた。

 すべての攻撃を、紙一重で回避する。

 その光景に、ザイアが歯噛みする。


(このままでは、前衛が擦り切れるだけだ……)


 自然と、手が刀に触れていた。


(私なら……だが)


 思考の途中で、視線をシュナへと向ける。

 その時——シュナと、目が合った。


「……会長。このままでは、ジリ貧ですよね」


 ザイアは、わずかに目を見開いた。


「会長なら——あの大鎌、相手取れますか」


 真っ直ぐな視線。

 試すでも、縋るでもない。

 ただ、必要な戦力として問うている。


「……ああ」


 ザイアは短く答えると、少しだけ口元を緩めた。

 そして——腰を落とし、刀を構える。

 その動きを見た瞬間。

 骸の死神が、大鎌を自らの元へと引き戻した。

 直後——ギンッ、と鋭い金属音が響く。

 ザイアの斬撃が大鎌と交差し、火花が散った。


「頼んだぞ、シュナ」

「はい!」


 シュナの力強い返事に頷くと、ザイアはゆっくりと歩き出した。

 シュナたちから距離を取る。

 その動きを、骸の死神は視線で追っていた。

 少しの後、ザイアが立ち止まる。

 そして再び、腰を落とした。

 骸の死神がわずかに眼窩の光を揺らし、腕を振るう。

 二本の大鎌が、一直線にザイアへと飛来する。

 ザイアは低く息を吐く。

 鞘から抜き放たれた刀身が、鋭く煌めいた。


 ——ギンッ、と。

 一本の大鎌が弾き飛ばされる。

 振り抜かれた刀から、かちゃりと鍔鳴りが響いた。

 その余韻が消えるよりも——早く。

 返す刀が、振り抜かれる。

 二度目の金属音を鳴らし、もう一本の大鎌も弾き飛ばされた。


 だが。

 宙へと弾かれたそれらは、不規則に軌道を変え——

 再び、ザイアへと刃を向けた。


「それでいい……」


 不敵な笑みを浮かべたザイアが、そう呟いた。


◆ ◆ ◆


 ——キン、と。

 ククリナイフと漆黒の剣がぶつかり合う、乾いた金属音が響く。

 地に足をつけ、レイと騎乗骸骨が剣を交える。


「……ん?」


 その最中、レイがわずかに違和感を覚えた。

 レイの視線が、漆黒の剣へと向く。

 その剣は、剣戟のたびに黒いもやを散らしていた。


「魔力が……吸われているような……」


 呟きの直後、騎乗骸骨が斬りかかる。

 レイは、片方のククリナイフでそれを受け止めた。

 弾けた黒いもやが、逆流するように剣へと吸い込まれる。


「その剣、魔力吸収系の効果があるみたいですね」


 どこか嬉しそうに呟くと、レイはもう一本のナイフを振るい、騎乗骸骨を押し返す。

 距離が開いた一瞬——レイの視線が、周囲を走った。

 同時に、騎乗骸骨が踏み込む。

 続けて振り下ろされた一撃を、レイは飛び込むように地面を転がり回避する。

 そして、そのまま跳ね上がった。

 地面を蹴り、更に空中で空気を踏みしめる。

 大きく跳躍したその先には——穴が空き、所々が切り裂かれた一枚の黒い布が落ちていた。


 『風を生む黒布(ガストローブ)

 ——防御力:B-

 ——状態異常耐性:C


「やっぱり。普通のローブじゃないと思ってたんですよね〜」


 骸の死神が身につけていたローブを見て、レイが口角を上げた。

 その場所へ、騎乗骸骨が迫る。

 レイはローブを拾い上げ、そのまま空中へと跳ねた。

 跳躍の最中、指先で五芒星を描く。

 青い歯車が出現し、かちりと噛み合う。

 次の瞬間——魔法陣が、ローブとククリナイフへ転写された。


 それらが、同時に分解される。

 ナイフは粒子へ。

 布は繊維へ。

 その二つは空中で交差し、絡まり合い——刃が、再構築される。

 曲線はより鋭く。

 重心は、わずかに前へ。

 その軌道に沿って、黒い筋が走っている。

 柄の先では余った布がゆらりと垂れ、まるで外套の裾のように静かに揺れていた。

 刃と外套を一体化させたような、異形の武器。

 それが、レイの両手に収まった。


 『風を生むククリ刀(ガストククリナイフ)

 ——攻撃力:B+

 ——耐久性:C


 レイが深く笑みを刻む。


「さて……」


 地面に降り立ち、騎乗骸骨を見据える。

 そして、にやりと片側の口角を上げた。


「それ!」


 掛け声とともに、レイは一本のククリナイフを斜め上へと放り投げた。

 回転しながら、綺麗な放物線を描く。

 騎乗骸骨は一瞬だけ視線を上げたが、無視してレイへと踏み込んだ。

 だが——ヒュウ、と。

 鋭い風の音とともに、空中にあったククリナイフが騎乗骸骨へと一直線に迫った。

 騎乗骸骨は足を止め、剣で弾く。

 ククリナイフは、くるくると回転しながら宙へ舞う。

 ——だが。

 再び鋭い風が吹き——ククリナイフは、レイ(・・)へと刃を向けた。


「あれ、逆でした」


 ククリナイフがくるりと回り、騎乗骸骨へ向き直る。


「調整が難しいですね……それに、魔力消費も激しいです。でも……」


 レイは、空中へ浮かぶナイフを楽しそうに見上げた。


「あの大鎌……独立して動く武器って、昔からかっこいいと思ってたんですよね〜」


 笑みを浮かべ、上機嫌にそう呟く。

 騎乗骸骨は一度、レイとククリナイフを交互に見た。

 そして、正面で剣を構えた。

 刀身の纏う闇が、一層濃くなる。


「か、かっこいい……!」


 その様子を、レイは目を輝かせて見ていた。

 直後、騎乗骸骨が踏み込んだ。

 素早くレイとの距離を詰め、剣を振るう。

 レイは地面を蹴って、軽やかに避ける。


 同時、騎乗骸骨の右側面からククリナイフが飛来する。

 漆黒の剣がそれを弾いた——その刹那。

 レイが空気を蹴り、一気に迫った。

 ククリナイフによる横薙ぎの一撃を、騎乗骸骨は横に跳んで回避する。


 ——再び、同時。

 弾かれたククリナイフが、一直線に襲いかかる。

 騎乗骸骨が再度剣を振り、それを防ぐ。

 しかし——間髪入れず、レイが空気を蹴った。


「そこ!」


 素早く重ねられた攻撃に、騎乗骸骨は腕で受け止めることしかできなかった。

 ——バキッ、と。

 騎乗骸骨の骨が砕ける。

 その瞬間。

 漆黒の剣から、影が蠢く。

 それは、レイの顔をめがけて鋭く伸びた。


「おっと?!」


 反射的に空気を蹴る。

 だが——影は即座に軌道を変え、レイの左肩を抉った。


「っ……!」


 血が溢れ、腕を伝ってぼたぼたと地面に落ちる。

 レイが痛みに一瞬顔を顰めた。

 だが——


「そんなこともできるんですか?! ぜひ欲しいところです……」


 すぐに目を輝かせ、騎乗骸骨の剣を見ながらそう言った。


「……しかし、魔力の消費が激しいですね」


 ブーツを見下ろし、独りごちる。


「ナイフも直感的にしか動かせませんし……要練習です」


 血が伝う左腕をだらりと垂らす。

 そして、顔を上げた。


「でも、今はそろそろ終わらせましょう」


 騎乗骸骨もまた、片腕で剣を構える。

 互いの視線が交差する。

 ……一拍の静寂。

 刹那——互いが、同時に踏み込んだ。


 騎乗骸骨の剣が、外側から横薙ぎに走る。

 レイは地面を軽く蹴り、騎乗骸骨の頭上前方へ跳ぶ。

 それを追うように振り上げられる剣。

 しかし、高速で飛来したククリナイフが真下に弾いた。

 騎乗骸骨は瞬時に手を離し——空中で柄を握り直した。

 剣を振り上げ、宙に浮くレイを狙う。

 だが、レイは空気を蹴り横へ回避する。

 刃が真横を通ってから、さらに一歩。

 空中で踏み込んで斬りかかる。

 騎乗骸骨が、地面を蹴って後退した。


 ——その瞬間。

 レイが握るククリナイフから、風が吹いた。

 レイが手を離すと、それは一直線に飛んでいく。

 顔面に迫る刃を、騎乗骸骨は身を捻り紙一重で回避する。


 だが。

 体勢が崩れたその真上から——ヒュウと、風の音が聞こえた。

 騎乗骸骨が上を向く。

 その先にあるのは、もう一本のククリナイフ。

 騎乗骸骨の剣で、闇が蠢く。

 そして、鋭い影が伸びた。


 刹那——

 パァンと、高い音が響いた。 レイのブーツから放たれた空気弾が、影を弾いた音だった。

 直後。

 垂直に落ちるククリナイフが、騎乗骸骨の体を貫いた。

 ドス、と音を立てて地面に突き刺さる。


 騎乗骸骨は動きを止めると——光の粒子となって、消え去った。

 その場には、漆黒の剣のみが落ちている。


「ふぅ……」


 レイが額の汗を拭う。

 そしてすぐに、剣の元へと駆け寄った。

 拾い上げたレイは、目を輝かせる。


「刀身が漆黒です……! かっこいい……」


 しかし、表示されたウィンドウを見て微かに眉を寄せた。


 『冥誘の剣(コールオブハデス)

 ——防御力:C

 ——状態異常耐性:A-


 そのステータスの内容は、武器のそれではなかった。


「……これ、防具なんですか?」


 驚きを滲ませて呟いた瞬間、すぐ近くの壁で轟音が鳴った。

 顔を向けると、一本の大鎌が突き刺さっていた。

 飛んできた方向を見ると、大鎌と斬り結ぶザイアがいた。


「ザイアさん!」


 レイがその場へ駆け出す。

 だが——


「私は大丈夫だ! シュナの元へ!」


 一瞬だけレイを見たザイアが、そう叫んだ。

 そしてすぐに、大鎌へと視線を戻す。

 刃を最小限の動きで避けるザイアを見て、レイは短く返事をした。


「……はい!」


 即座に向かう方向を変える。

 走りながら、反対側へ声を張る。


「ガルドスさん!」

「なんだ!」


 戦闘中のまま、声が返る。


「相手の剣、防具です! それと、魔力を吸収します!」


 その言葉に、ガルドスの目がわずかに開かれる。


「どおりで……」


 そして、口元に獰猛な笑みを浮かべた。


「ならば……どちらが最後まで立っていられるか、存分に打ち合おうぜ」


 低く、楽しげに告げる。

 戦いは、さらに熱を帯びていく。


◆ ◆ ◆


「みんな耐えて! 今は、耐える時だから!」


 シュナが鋭く、張り詰めた声を上げる。


「「了解!」」


 即座に返る声には、一切の迷いはない。


(やつを引き摺り下ろして、核を叩く。そのためには——)


 思考を巡らせた、その瞬間。

 骸の死神の眼窩の光が、揺れた。


「ぐうっ……?!」


 前衛の四人が、同時に喉を抑える。

 呼吸が乱れ、膝が崩れる。


「「広域状態異常回復魔法(エクスリベレーション)!」」


 ノイーダと暁の紅玉のヒーラーが、寸分の遅れもなく詠唱した。

 光が広がり、異常を打ち消す。

 だが——その刹那。

 骸の死神が急降下した。


「アーリア!」

黒き刃(ダークエッジ)!」


 放たれた闇の斬撃。

 しかし骸の死神は、それを片腕で弾き飛ばす。

 そのまま、もう一方の腕を振りかぶった。

 狙いは——ヒーラー二人。


「危ない!」


 ノイーダが、体当たりで押しのける。

 そして、振り下ろされた拳を剣で受け止め——壁へと吹き飛ばされた。


「くっ……!」


 シュナが杖を掲げる。

 だが、その時にはすでに骸の死神は上空へと退いていた。


「ノイーダ!」

「だ、大丈夫です……!」


 答えながら、ノイーダが立ち上がる。

 しかし、片腕は力なく垂れ、額から血が流れている。


大回復魔法(ハイヒール)!」


 暁の紅玉のヒーラーが、ノイーダに魔法をかける。


「ありがとうございます」


 その間。

 地面に片膝をついていた、片腕を失った少年がゆっくりと立ち上がった。

 そして、頭上に手をかざす。


「……状態異常耐性付与(レジストエンチャント)


 青紫の光が、全員の体を包み込む。

 それを見た少年は、がくりと膝を折った。


「大丈夫ですか」


 その少年は多くの血を失っており、明らかに顔色が悪い。


「……ああ。悪いな」


 その時、骸の死神の光が再び揺れた。

 前衛たちが、視界を遮るように盾を掲げる。


「がっ……?!」


 しかし、骸の死神の攻撃には効果がなかった。


「「広域状態異常回復魔法!」」


 ヒーラー二人が魔法を唱える。


「うぐ……」


 魔力が欠乏し、暁の紅玉のヒーラーがよろめく。


「おっと……」


 その身体を、ノイーダが支えた。

 その一瞬の隙に、骸の死神が再び動く。

 だが——


拘束の(バインド)……咆哮(ロアー)……!」

「ギャアアァァァ!」


 クルーガの盾が、絶叫した。

 骸の死神は動きを止める。

 シュナは、眉間に皺を寄せる。


(今は、耐える時……でも)


「……あと一手……あと一手が足りない……!」


 悔しげに、唇を噛む。

 ——その時。


「シュナさん」

「ひゃん!」


 耳元で名前を呼ばれ、シュナがびくりと肩を震わせた。

 勢いよく振り返る。


「あ、ごめんなさい……驚かせるつもりは」


 レイが、すぐ後ろに立っていた。

 腰には、二対のククリナイフと漆黒の剣。


「ザイアさんから、こちらに行くようにと言われまして」


 そう言うレイの左腕からは、血が滴り落ちている。


「あんた、その腕!」


 シュナの声と同時に、ノイーダが手をかざす。


「大回復魔法」


 淡い光がレイの肩を包み、傷が癒えていく。


「ありがとうございます、ノイーダさん」

「いえいえ。ご気分は大丈夫ですか」

「はい」


 ノイーダの問いに、レイが平然と頷く。

 その二人を見たシュナの目が、わずかに見開かれた。


「……あんた、ノイーダの剣を強化してたわよね」


 突然の問いに、レイはほんの一瞬だけ首を傾げてから答えた。


「はい」

「あれ、防具にも使えるの?」

「ええ。使えますよ」


 レイがこくりと頷く。


「上昇するステータスは防御力だけ?」

「いえ。状態異常耐性もです」


 素早い返答に、シュナの思考が一気に回り始める。


「でも数が増えると力が分散してしまうので、ご期待には沿えないかもしれません」


 その言葉に——だが、シュナはにやりと笑った。


「十分よ。それなら——勝てる」


 レイが驚いたように目を見開く。


「レイ——」


 そのまま、シュナは一気に言葉を紡いだ。

 短く、的確に。

 全てを繋ぐ、最後の一手の説明を。


◆ ◆ ◆


「オラオラァ!!」


 地を揺らす踏み込みとともに、ガルドスの大剣が唸る。

 圧倒的な膂力により、左右、上下、間断なく叩き込まれる連撃。

 だが——

 騎乗骸骨は剣を合わせ、角度をずらし、受け流す。

 叩きつけられる大剣を、一撃も崩さず正確に受け続けていた。


「どうしたどうした!」


 金属音が鳴るたびに、漆黒の剣の周囲に黒いもやが滲む。

 そして、吸う。

 ガルドスの魔力を。

 防御そのものが、攻撃。

 それを理解している騎乗骸骨は、あえて受けに徹していた。

 ガルドスは、片眉を吊り上げる。


「つまんねえなあ、そんなんじゃよお!」


 声と同時、大剣を大きく振り上げる。

 その一瞬の隙。

 騎乗骸骨の剣が、一直線に突き出された。

 狙いは、胸。

 確実に捉えた——はずだった。


眩惑の身体(ミラージュフェイズ)!」


 紫の光が、全身鎧を淡く包む。

 刹那——漆黒の剣は、すり抜けた。

 肉も、骨も、鎧すらも捉えずに——ガルドスの腕の下を、虚しく通過する。

 ガルドスが、地面を砕く勢いで踏み込んだ。


「オラアアアァァァ!!」


 空間ごと叩き割るかのような勢いで、大剣が迫る。

 騎乗骸骨が即座に剣を引き、横に構える。

 だが——

 構わず振り下ろされた大剣は、止まることなく騎乗骸骨の半身を叩き斬った。

 骨が砕ける音が響き、白い破片が弾け飛ぶ。

 それから、一拍遅れて。

 振り抜かれた際に発生した衝撃波が、一直線に地面を割った。

 爆ぜるような轟音が空間を震わせる。


 騎乗骸骨は大きく跳び退いた。

 半身を失いながらも、片足で立つ。

 そのまま、静かに剣を構えた。

 ガルドスは大剣を肩に担ぎ、感心するように息を吐いた。


「ほう……その姿勢には、騎士道を感じるぞ」


 そして、ゆっくりと大剣を構えた。


「こい。相応しい終わりをくれてやる」


 その言葉に応えるように。

 騎乗骸骨は、高く跳んだ。

 空中で剣を振りかぶる。

 そして、落下とともに一撃を叩き込む。

 ガルドスは——退かなかった。

 再び、強く踏み込む。


「ふん!」


 横薙ぎに走る一閃が、騎乗骸骨の剣を捉えた。

 ガキンッと、金属音が響く。

 そして——騎乗骸骨の剣が、みしりと音を鳴らした。


「悪くない剣だった」


 ——バキィンッ、と。

 漆黒の剣が、二つに折れた。

 勢いを殺さずそのまま振り抜かれた大剣が、騎乗骸骨の身体を両断した。

 空中で、動きが止まる。

 そして——光の粒子となって、崩れ去った。


「ふ……」


 短く息を吐き、ガルドスは大剣を肩に担ぐ。

 その直後——空気が、変わった。

 突如として、天井に真っ赤な光が生まれていた。

 燃えて、膨れ上がり——やがて、それは太陽のような巨大な火球へと変わっていた。


「ガルドスさん!」


 空間を裂くようなシュナの声に、ガルドスが顔を向ける。


「ラストを!」


 あまりにも短い指示。

 だが——ガルドスは、にやりと口角を上げた。


「心得た!」


 その一言とともに。

 戦いは、最終局面へと移る。


◆ ◆ ◆


「わ、わかりました」


 シュナの作戦を聞き、レイはわずかに表情を硬くして頷いた。

 それを見て、シュナは小さく笑う。


「そんなに緊張しなくていいわ。タイミングは、アタシが指示するから」


 その一言に、レイがふっと肩の力を抜いた。


(……この子でも緊張とかするのね)


 考えてみれば当たり前のことを、シュナは脳内で独りごちる。


「ありがとうございます。連携は……少し苦手でして」

「大丈夫よ。さ、まずはバフをお願い」

「はい!」


 レイが指を持ち上げる。

 そして、空中に六芒星を描いた。

 青い歯車が現れ、かちりと噛み合う。

 次の瞬間。

 全員の装備に、魔法陣が転写された。

 淡い青い光が装備に宿る。


「……なんだか、装備が軽くなった気がします……!」


 アーリアが驚いたように声を上げる。

 他の面々も、装備の感触を確かめていた。


「みんな、来るわよ!」


 シュナの声の直後。

 骸の死神の眼窩の光が揺れる。

 ——しかし。


「……効かねぇなぁ!」


 クルーガが挑発するように叫んだ。

 その様子に、シュナは口元に笑みを刻む。


(ナイス演技、クルーガ!)


 状態異常攻撃は、完全に無効化されているわけではない。

 それでも、レイの刻印により耐性が底上げされており、動けなくなっていた先ほどまでとは苦しさがまるで違っていた。


 ——シュナが、目を閉じた。

 流し込まれた魔力を受け、杖の宝石が真っ赤な光を帯びる。


「ふぅ……」


 深く息を吐き、さらに大量の魔力を込める。

 額に汗が滲み、ぐらりと大きく体が揺れる。


 ——トス、と。

 誰かが、その体を支えた。


「おっと……」


 すぐ近くから聞こえた声は、レイのものだった。

 両肩に置かれた手の熱が伝わる。

 その体温に、なぜか口元が緩んだ。


 シュナは限界まで魔力を注ぎ込む。

 宝石の輝きが、より一層増す。

 そして——ゆっくりと目を開き、杖を掲げた。


「焔よ!」


 声に呼応し、一つの小さな火の玉が放たれる。

 その瞬間、レイに支えられながら、シュナががくりと膝を折った。

 火の玉は炎を巻きながら、骸の死神へと向かう。

 だが——

 骸の死神はゆらりと体を動かし、容易く避けた。

 それを見たシュナは——しかし。

 にやりと、口元に弧を描いた。


 骸の死神の横を通り過ぎた火の玉は——その頭上で、巨大な炎に燃え上がった。

 轟々と、まるですべての酸素を燃やし尽くさんとばかりに燃え盛る。

 その大きさは、どんどんと大きくなり——

 やがて、天井すべてを覆い尽くした。

 骸の死神の光が、動揺したように大きく揺れる。


「降りてきなさい……!」


 骸の死神の逃げ場を奪うように——炎が、落ちる。


「ガルドスさん! ラストを!」

「心得た!」


 ガルドスの声が響く。

 シュナは次に、ザイアの方を見た。


「会長!」


 二本の大鎌を相手にしていたザイアは、一瞬だけシュナを見た。

 視線が交差する。

 言葉はない。

 だが——理解は、十分だった。

 ザイアが、一度確かに頷く。

 そして、大鎌へと視線を戻した。


 カラカラと、頭上から不快な声が響く。

 だが——その中に、明確な焦りが混じっていた。

 骸の死神がシュナめがけ、空中を泳ぐように突っ込んでくる。

 そして、骨の拳を振り上げた。


挑発の咆哮(グルードロアー)!」

「ギャアアアァァ!」


 クルーガの盾が絶叫する。

 びくりと、骸の死神の動きがわずかに止まる。

 その一瞬を逃さず、盾から伸びた舌が腕に絡みつく。

 そして、ぐいと強引に引き寄せ、拳を盾に打ちつけさせた。

 骸の死神が、強引に腕を引き抜こうともがく。


「おおおおおお!!!」


 その瞬間。

 他の前衛が、三方向から盾を叩き込む。

 骸の死神の腕が、固定される。


「逃がさねぇよ……!」


 骸の死神は、もう一方の手でクルーガに殴りかかった。

 だが——


黒き連撃(ダークスラッシュ)!」

切裂烈風(カマイタチ)!」


 アーリアと暁の紅玉の後衛が魔法を放つ。

 骸の死神は、拳の先をその魔法に切り替えた。

 拳が高速で頭上を通り過ぎ、空気が震える。


「レイ!」

「はい!」


 レイが指を持ち上げる。

 そして、空中に六芒星を描いた。

 瞬間。

 装備に描かれていた全ての魔法陣が消え、青い光が収まる。


 ——ただ一つ。

 ガルドスの大剣を除いて。


「オラアアアァァァ!」


 ガルドスが、骸の死神の核をめがけ振り下ろす。

 その大剣には、眩いほどの青い輝きが迸っていた。

 骸の死神の赤い光が、大きく揺れる。


 その刹那——

 風を裂く音が、鼓膜を揺らした。

 ザイアの相手をしていた大鎌の一本が、高速で動き出す。

 それを見たザイアは——動かなかった。

 それが、予定調和だというように。


 大鎌の刃が、核と大剣の間に滑り込む。

 骸の死神が、カラカラと嗤う。

 ——だが。

 ガルドスも、にやりと笑った。


幻惑剣(ファントムブレイド)


 大剣が、音もなく大鎌の刃をすり抜ける。

 そして——

 真っ赤な核を、両断した。


 骸の死神の動きが止まる。

 一瞬の静寂。

 カラカラと、不快な音が鳴ることもなく——

 骸の死神が、光の粒子となって弾けた。


 部屋全体を、光が満たす。

 その中で——


『第一階層が攻略されました』


 青いウィンドウが、部屋の中央に静かに浮かび上がった。

 わずかな間を置いて、表示が切り替わる。


『ファイナルブロウ:ガルドス』


 その下に、一つの箱が出現した。

 同時に、光の粒子がゆっくりと消えていく。

 それに合わせるように、ウィンドウもふっと消えた。


 ……静寂が落ちる。

 誰も、すぐには動かなかった。

 その沈黙を破ったのは、シュナだった。


「……勝っ、た……?」


 掠れるような、小さな声。

 だが、次の瞬間——


「うおおおおお!!!!」

「勝った! 勝ったんだ!」

「やったぞおおお!!」


 歓声が爆発した。

 張り詰めていた空気が、一気に弾ける。

 シュナは、大きく息を吐いた。


「はぁ……」


 肩の力が抜ける。

 そこで、ようやく気づいた。


「あ——」


 自分が、まだ支えられていることに。

 慌てて離れようとして——だが、ぐらりと視界が揺れた。


「おっと……魔力欠乏ですから、急に動かない方がいいですよ」


 レイの声。

 気づけば、その胸元に頭を預ける形になっていた。

 シュナの顔が、一気に赤くなる。


「で、でも……これは……!」


 もごもごと口ごもるシュナ。

 だが、レイは目を輝かせて口を開いた。


「それにしても、シュナさんすごいです!」


 その言葉に、シュナがわずかに顔を上げる。


「あんなすごい作戦を思いつくなんて!」


 真っ直ぐな称賛。

 シュナは、思わず目を逸す。


「ふ、ふん! あのくらい当然よ!」

「すごいです! シュナさんすごいです!」


 無邪気に繰り返される言葉に、口元がわずかに緩む。


「おいレイ!」


 そこへ、ガルドスが歩み寄ってきた。


「お前の刻印、すげえじゃねえか!」


 豪快な笑みを浮かべて続ける。


「俺の大剣が、信じられねえぐらい手に馴染んでよ。ぜってえ叩き斬れるって確信できたぜ!」


 そう言って、レイの頭をわしゃしゃと乱暴に撫でる。


「あの刻印がなけりゃ……正直、一発で斬れるか怪しかったぜ」

「あ、ありがとうございます。ガルドスさん」


 頭を揺らされながらも、レイは嬉しそうに笑った。


「それとよ、ちらっとしか見てねえが……なんかすげえ戦い方してなかったか?」


 撫でる手を止め、ガルドスが興味深そうに問う。


「空飛んだり、ナイフが飛んだりよ」

「ああ、ええ。でも、思ったより難しくて……要練習です」


 あっさりと答えるレイ。

 それを聞いたガルドスは、わずかに目を見開き——

 そして、快活に笑った。


「……やっぱりお前、面白いな!」


 再び、豪快に頭を撫でる。


(それに、冥誘の剣も……僕の部屋にある装備と、いい使い方がありそうなんですよね〜)


 レイは自室の装備に想いを馳せながら、口元を緩めた。

 そして、はたと目を見開く。


「そうだ……ガルドスさんすみません。貰った指輪、融合してしまいました」


 そう言って頭を下げるレイに、ガルドスは笑みを深めて答える。


「気にするな。なんなら、もうひとつ渡してやろうか?」

「いいんですか?!」


 レイがぱっと目を輝かせる。


「ありがとうございます!」


 シュナの体に当たらないよう、レイは軽く頭を下げた。


 その光景を、少し離れたところからザイアは見ていた。

 ふっと、柔らかな笑みが浮かぶ。

 だがすぐに、その視線は中央へと移る。

 出現した箱へ静かに歩み寄り、見下ろした。


「ふむ……」


 箱の前には、青いウィンドウが浮かんでいた。


『第一階層攻略報酬』


「何がありました?」


 クルーガが近づき、問いかける。

 ザイアは体を少し横にずらした。


「報酬……こんなの、学園の記録にありましたか?」


 ザイアは首を横に振る。


「いや。ドロップするのはモンスターからのみで、こういった『報酬』として与えられることはない」


 そう言って、少し考える素振りを見せた。

 だが、すぐに決断する。

 クルーガと視線を交わしてから、箱に手をかけた。

 ウィンドウが消える。

 蓋を開くと、そこには——

 手のひらサイズの、真っ黒な箱が入っていた。


「なんですか、これ……?」


 横から覗いたクルーガが呟く。

 ザイアは、それを手に取った。

 その瞬間、視界に今度は緑色のウィンドウが現れる。

 ザイアはわずかに眉を顰めた。

 その色が、これまで見たどのウィンドウとも違っていたから。


「……交換黒箱エクスチェンジボックス?」


 そしてそこには、未知の名前が静かに浮かび上がっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ぜひ下の☆から評価をお願いします!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ