↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last Quartz  作者: 錢葵
PR
65/67

11-4_Know Thy Familiar

自己満で3章の準備を進めています。


休みが明けた日の放課後。

奏は一人、訓練場の木人と向かい合っていた。

右手には華園重工製、ゲッコウHZ90型。

一回り大きくなった銃身と、手のひらへ伝わる確かな重量。

不思議と扱いにくさはなかった。


奏は銃口を木人へ向ける。

少し離れた場所では、召喚されたアビスが床に伏せていた。

息を整え、HZ90型へイデアを流す。

旧銃を使っていたときには、ある段階へ達すると必ず見えない抵抗が生まれた。


今は、それがない。

流し込んだイデアが銃身を通り、淀みなく銃口へ集まっていく。

淡い蒼色の光が伸びた。

刃の形を作りかけたところで輪郭が乱れ、光の粒子となって散っていく。


失敗したがそれでも、奏は手の中のHZ90型を見つめた。

――今までとは違う。

奏は構え直す。

二度目も失敗した。

三度目。


銃口へ集まった蒼い光が、刃の輪郭を描く。

今までとは違う、光の縁は滑らかで、刃先は鋭い一点へ収束している。

同じ銃剣もどき――やっとスタート地点に立ったのだろうか。

奏は慎重に一歩を踏み出した。

刃の輪郭が揺れる。


もう一歩。

木人との間合いへ入るより早く、蒼い刃は形を失った。


「……まだ駄目か」


銃剣もどきは頭の中のイメージ通り再現できるが、自由に扱えるようになったわけではない。

奏は床へ落とした視線を上げ、再び木人へ向き直った。

何度かチャレンジを続けた。

イデアを銃身全体へ広げるのではなく、銃口の先へ集める。

刃の形を作ることだけに固執せず、輪郭を保つための出力を一定にする。


――そして、先日岬から教わったことを思い出す。

刃全体を強くしようとする必要はない。

触れる瞬間、その一瞬だけ、そこにイデアを集中させる。


試行回数を数えるのを止めてから何度目かのチャレンジ


奏は床を蹴った。

一歩目で輪郭が揺れる。

二歩目。

揺らぎは消えない。

それでも、刃は崩れなかった。

間合いへ踏み込み、HZ90型を斜めに振り抜く。

蒼い刃が木人の胴へ食い込んだ。

乾いた音が訓練場へ響く。

刃は木人の胴の半ばで止まった。


次の瞬間、切っ先から輪郭が崩れ、蒼い粒子が宙へ散っていく。

奏は荒くなった呼吸を整えながら、木人へ残った傷を見た。

刃が通った箇所は滑らかに切れている。


「まだまだ……真っ二つまでには遠いな……」


成功率も、維持できる時間も、わずかではあるが上がっている。

何より、形成された刃そのものは、明らかに武器へ近づいていた。

岬から教わった制御も、間違ってはいなかった。


奏は木人から視線を外し、伏せているアビスを見た。


「あとは――」


技術だけでもない。

武器だけでもない。

脳裏に、羽瀬川の授業でノートへ書き留めた二文字が浮かぶ。

《共鳴》

奏はHZ90型を下ろし、静かに息を吐いた。


***


数日後。


その日の対人戦闘訓練が終わると、奏は片付けをしながら、少し離れた場所へ目を向ける。

霞が一人、小太刀を手入れしていた。

近くに箒たちの姿はない。

奏は霞のもとへ歩み寄った。


「獅堂、ちょっといいか?」

「あ?」


霞が小太刀から顔を上げる。


「聞きたいことがあるんだ」

「何だよ……気味悪ぃな」


奏は一度周囲を確認した。


「《共鳴》って、どうやるんだ?」


霞の手が止まった。


「急になんだよ」

「羽瀬川先生の授業で、召喚獣の性質が武器とかに現れることもあるって言ってただろ」

「それが?」

「あのとき、獅堂の小太刀にも何か起きてたんじゃないのか?」


あのとき――入学式翌日の実戦演習

ラムダの姿が消え、霞の小太刀が高密度のイデアを纏ったこと。

いや――まるで小太刀の面影は無く、全く別の武器の様に見受けられた。

それが羽瀬川の授業で示された事例と、どうしても重なって見えた。


霞は何かを探るように奏を見る。


「お前に関係あるのか?」

「あるかもしれない」


奏が答えると、霞は小さく息を吐いた。


「別に、大したことはしてねぇよ」

「大したことじゃなくてもいい。何をしたのか教えてくれ。いや、教えてください」

「だから……なんていうか、やってやる!って思っただけだ」

「……それだけ?」

「それだけだ」


霞は当然のように言い切った。

奏は返す言葉を探したが、何も見つからなかった。


「もう少し具体的に言うと?」

「絶対に斬るって決めたら、身体の奥から力が湧いてくるだろ」

「普通は湧いてこない」

「俺は湧く」


奏が困ったように眉を八の字にする。

霞は面倒そうに眉を寄せた。


「腹の底に力を入れて、一気にこう……ガッとやれば、ブワッと来る」

「余計に分からなくなった」

「だからそれが、やってやる!って気持ちだよ」


精神論というより、もはや擬音だった。

しかし、霞がふざけているようには見えないが、本人にとっては、本当にそれだけなのだろう。


「そのとき、ラムダはどうなった?」


奏が尋ねると、霞は小太刀へ視線を落とした。


「姿は消えてた」

「消えた?」

「でも、いなくなった感じはしなかった」


霞は手入れを終えた小太刀を持ち上げる。


「どこにいるかなんて考える必要もなかった。ここ(小太刀)にいるって分かったからな」


小太刀の刀身を、指先で軽く示す。


「俺が風を纏わせたわけじゃねぇ。ラムダが、ここにいた」

「それって……」


奏の脳裏に、忘却の滝で対峙した男の姿がよぎった。

砥上の傍らにも、あのハチドリ姿の召喚獣の姿はなかった。

そして、奏のハンドガンから伸びた蒼い刃。

三つの光景が、頭の中で重なりかける。

――あの日マグレで発動した《共鳴》、やはりあれをモノにするしか。


「何だよ」

「……いや。続けてくれ」


霞は訝しそうな顔をしながらも、小太刀を鞘へ収める。


「俺が覚えてるのは、それくらいだ」

「その状態には、今もなれるのか?」

「ああ」


霞は迷うことなく答えた。

霞は既に、自分の意思で《共鳴》を引き起こすことができる。


「だったら、もう少しだけ教えてくれ」


奏が食い下がると、霞は露骨に嫌そうな顔をした。


「まだあんのかよ!」

「獅堂は、自分の意思で《共鳴》できるんだろ?」

「だからさっきからできるつってんだろ」

「やってやるとか、ガッとかブワッとか……。もう少し、俺にも分かる説明はないのか?」

「んなもん、俺なんかより九条――」


霞の言葉が、不自然なところで止まった。


「……いや。なんでもない」

「九条?え?狛?なんで?」

「忘れろ」


霞は小太刀を持ち上げ、その場を離れようとする。

奏はすぐにあとを追った。


「なんで狛の名前が出るんだ?」

「出してねぇ」

「出てた」

「聞き間違いだ」


霞は足を速める。

その反応は、誤魔化せていると思っている人間のものではなかった。


「狛も《共鳴》できるのか?」

「知らねぇ」

「本当に?」

「本人に聞け」


言ってから、霞の足が止まった。

奏は霞の顔を覗き込む。

今の一言が、ほとんど答えになっている。


「……図星だな」

「うるせぇ」


霞は吐き捨てるように言うと、今度こそ振り返らずに訓練場を出ていった。

残された奏は、その背中を見送る。


***


――翌日の夕食時。

食堂は多くの生徒で賑わっていた。

あちこちから話し声が重なり、トレーを運ぶ足音や、食器同士が触れ合う音が絶え間なく聞こえてくる。

奏は料理を受け取ると、空いている席を探すように食堂内を見渡した。

壁際のテーブルに、狛が一人で座ってスマートフォンを見ながら食事をしている。


奏は迷うことなく、そちらへ歩いた。

正面の席へトレーを置く。

狛が料理から顔を上げた。


「ここ、いいか?」

「おお、いいぜ」


短い返事を聞き、奏は椅子へ腰を下ろす。

箸を手に取るより先に、口を開いた。


「九条って、《共鳴》できんの?」


狛の動きが止まった。


「……」

「そのダンマリは、認めるってことでいいかな」


奏は口角を上げ、狛を曇りなき眼でまっすぐ見つめる。

狛はしばらく奏を見つめたあと、小さく息を吐いた。


「……獅堂か」

「俺は何も言ってないけど?」

「言ってるようなものだろ」


狛は誰が口を滑らせたのか、それだけで察したらしい。

一度止めた箸を置く。


「できる」


奏は内心驚いた。

狛のことなら、誤魔化すだろうと踏んでいたのに、隠し通そうとはせず、あっさりと認めた。


「どれくらいの確率で?」

「確率?」


狛が僅かに眉を寄せる。

質問の意味が分からないというより、なぜそのような聞き方をするのか理解できない様子だった。


「ウロが召喚できる状態なら、いつでも」

「いつでも……?」


奏は思わず聞き返した。

霞も精神論ばかりで、具体的な方法は何一つ説明できなかった。

狛も、当然のことのように、いつでもできると言う。


「どうやってるんだ?」

「先に言っておくけど、理屈は説明できない。いつでもできることと、説明できることは別だ」


狛の答えに、奏は言葉を詰まらせた。

間違ってはいない。

羽瀬川でさえ、《共鳴》のメカニズムを学術的に証明できていないのだ。


「獅堂にも聞いたんだろ」

「聞いたけど、やってやるって思えば力が湧くとか、ガッとやったらブワッと来るとか……」

「はっ、獅堂らしいな」


狛は妙に納得した様子で、再び箸を手に取った。


「九条は違うのか?」


問いかけると、狛はすぐには答えなかった。

周囲では、別のテーブルから笑い声が上がった。

誰かが落としかけた食器を慌てて受け止め、甲高い音が食堂内へ響く。

その喧騒の中で、狛が静かに尋ねた。


「お前って、アビスのことをどこまで知ってる?」

「どこまで……って……」


奏の言葉は、そこで途切れた。

何かを答えようとした。

父から譲り受けたクォーツに宿っていた召喚獣。

いくつかの言葉は浮かんだ。

だが、それが狛の問いに対する答えなのかは分からない。

狛は奏の返答を待たなかった。


「俺だって、ウロのことを全部知ってるわけじゃない」


料理へ視線を落としたまま、言葉を続ける。


「でも、あいつが次にどう動くかは、なんとなく分かる。多分、ウロも同じだ」

「……」

「俺がウロに合わせてるわけでも、ウロが俺に合わせてるわけでもない」


狛は一度だけ奏へ視線を向けた。


「《共鳴》っていうのは、そういうものなんじゃないかと思ってる」


それが正解だと言い切ることもなく、狛は再び食事へ戻った。


「まあ、これって、俺の感想だけどな」


会話が途切れても、食堂の喧騒は変わらない。

奏もようやく箸を手に取った。

だが、狛に投げかけられた問いは、頭から離れなかった。


――俺は、アビスの何を知っている?


***


食堂から戻ったあとも、狛の問いは奏の頭に残り続けた。

二〇六号室にある自分の部屋。

机の上には、翌日の筆記考査へ向けた教科書と問題集が開かれている。


奏は問題文を読み、ノートへ答えを書き込む。

数問進めたところで、ペン先が止まった。


――俺は、アビスの何を知っている?


父から譲り受けたクォーツに宿っていた召喚獣。

戦うときには力を貸し、窮地へ陥れば何度も助けてくれた。

知っていることはある。

共に過ごしてきた時間も、決して短くはない。

それでも、狛の問いへ答えようとすると、言葉が足りなかった。


父はなぜ、自分へ託したのか。

《ラストクォーツ》

その名前を知っていても、それが何を意味するのか、奏は知らない。


問題集へ落としていた視線が、いつの間にか止まっていた。

奏は小さく頭を振り、次の問題へ移る。


「……今は、こっちだ」


自分へ言い聞かせるように呟き、奏は問題集へ向き直った。


***


あっという間に

筆記考査の日程が終わった。

答案用紙が回収されると、教室のあちこちから安堵の息が漏れた。


「終わった……俺たちの夏休みは守られた」


綴が机へ突っ伏しながら呟く。

他の生徒からも、言葉が飛び交う。


「まだ結果は出てないぞ」

「今だけは夢を見させてよ」


筆記考査を終えた解放感に、教室が賑わいを取り戻していく。


「あとは実技考査だけだよな」


残るのは、二人一組で行われる実技考査。

ペアも対戦相手も、当日になるまで分からない。

奏は窓の外へ目を向けた。

銃剣もどきの訓練も続けていた。

それでも、必要な瞬間に確実に使えるとは確約できない。

胸の内の不安がつもる。


《ラストクォーツ》とは。

アビスとは。

父がそれらを遺した意味。


答えの出ない問いと向き合っているうちに、実技考査の朝が来た。

「お前、俺が《共鳴》できること喋っただろ」

「喋ってねぇよ。俺はお前の名前をうっかり出しただけだ」

「屁理屈は御三家のお家芸か?」

「――実技考査で当たったら覚えておけよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。