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Last Quartz  作者: 錢葵
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11-2_Give or Take

静かな場所より、ちょっとざわざわした場所の方が作業がはかどるタイプです。


期末考査の日程が発表されてから、数日が経った放課後。


奏は授業を終えると、寮へ戻る廊下を歩いていた。

自室で制服からジャージへ着替え、その足で訓練場へ向かうつもりだった。

期末考査まで、残り三週間を切っている。

実技考査の当日までに、銃口から伸びるあの刃を、少しでも実戦で使えるものにしたい。

日中も、試験対策の授業中も、教室を出てからも考えていたのは、そればかりだった。


「?」


自習室の前を通りかかったとき、ふと視線が留まった。

普段なら、そのまま通り過ぎていたかもしれない。

だが、何気なく室内へ向けた視線が、見覚えのある顔を捉えた。


いくつか並んだ長机の一つを囲み、綴、后、霹、靂が教科書や問題集を広げている。

その中心では、岬が開いたノートを指でなぞりながら、何かを説明していた。

自習室にいるのは、彼女たちだけではない。


他の机でも、何人もの生徒が黙々と問題へ取り組んでいる。

ペンを走らせる音。

ページをめくる音。

時折、周囲へ配慮するように交わされる小さな声。

実技考査のことで頭がいっぱいになっていた奏へ、期末考査には筆記もあるという当たり前の現実を突きつけるには、十分な光景だった。


奏は自習室の前で足を止めた。

寮へ戻れば、すぐにジャージへ着替える。

そうすれば、そのまま訓練場へ向かうだろう。

筆記考査の勉強は、夕食のあとでもできる。

明日でもいい。

そう言い訳を重ねたところで、明日になれば同じことを考えるに決まっている。


「……やっぱ、座学もしなきゃいけないよな」


誰に聞かせるでもなく呟き、奏は自習室の扉を開けた。

室内へ入ったところで、綴が顔を上げる。


「お、奏も勉強?」


周囲を気にしているのか、普段よりも声は小さい。


「ああ。今から」


奏も声を抑えて答え、空いている席へ鞄を置いた。


「ちょうどよかった。逢麻さんのノート、すごい分かりやすいよ」

「あなたは見せてもらう前に、自分で解きなさいよ」


后に窘められ、綴は開いていたノートを腕で隠す。


「解いたって。答え合わせしてるだけ」

「そのわりには、さっきから自分のノートが一行も進んでないけど」

「それはほら、理解を深めてる途中だから」

「はぁ…モノは言い様ね」


言い返せなくなった綴が、助けを求めるように岬を見る。

岬は苦笑しながら、自分の隣に置いていた教材を少し移動させた。


「天宮君は、どの教科をやる?」

「数学。途中で分からなくなったところがあるんだ」


奏は鞄から教科書と問題集を取り出し、空いた席へ腰を下ろす。

訓練場へ向かう時刻が、少しだけ遠ざかった。


***


奏が問題集を開いてから、しばらくの間は静かな時間が続いた。

それぞれが自分の課題へ取り組み、分からない箇所があれば岬へ尋ねる。

岬はすぐに答えを教えるのではなく、途中までの計算式を確認し、どこで考え方を間違えたのかを一緒に探していた。


「ここまでは合ってるよ。次に移項する時、符号が置いてけぼりになってる」


岬が示した先を見て、霹が「あっ」と声を漏らす。


「じゃあ、ここがプラス?」

「うん。だから、そのあとの計算も全部変わるね」

「全部!?」


思わず大きくなった声に、周囲の生徒が顔を上げた。

霹は慌てて口元を押さえ、申し訳なさそうに頭を下げる。

隣に座る靂は小さく息を吐くと、霹の問題集を自分の方へ引き寄せた。


「最初から急いで解くから。途中式を省かなければ、こんな間違いはしない」

「だって、途中まで分かってたし」

「数学は結果が全て。間違ってたら、過程まで否定される」

「そ、そこまでいう?」


そう言いながらも、霹は消しゴムを手に取り、間違えた箇所から計算をやり直す。

向かいでは、綴が岬のノートと自分のノートを交互に見比べていた。

その手元を、后が横から覗き込む。


「空木。数字だけ変えて、そのまま写してないでしょうね」

「失礼だな。ちゃんと式の意味も理解してるって」

「なら、この式を使う理由を説明してみなさいよ」


綴は数秒、黙り込んだ。


「……人生には、言葉にできない理解もあると思う」

「理解してないだけじゃない」


后の即答に、奏は思わず笑いそうになる。

賑やかではあるが、騒がしいわけではない。

誰かが間違えれば他の誰かが気づき、分からなければ岬のノートを囲む。

普段の授業とは違う気楽さがありながら、それでも問題集のページは少しずつ進んでいった。

やがて、数学の問題が一区切りついたところで、霹が机へ突っ伏した。


「もうヤダ。数字見タクナイ……視神経が悲鳴あげてるんだけど……」


その様子を見ながら、綴が肩を回す。


「それにしても、御三家が勉強なんて珍しいじゃん。獅堂君と篠亀っちは?大事な高校生の夏休み、捨てた感じ?」

「あの二人は、実技に向けて特訓中」


靂が答える。


「へえ。もしかして、あの二人がペアになったりして」


冗談めかした綴の言葉に、靂は首を横へ振った。


「御三家同士がペアになることは、天地がひっくり返ってもないでしょうね。――私たちなんて特に」

「いっつも、あーしら離されるじゃんね〜」


机へ伏せたまま、霹が不満そうに付け加える。

御三家の生徒が同じ組になれば、戦力が一方へ偏る。

これまでの戦闘訓練でも、彼らが意図的に別の組へ振り分けられることは珍しくなかった。


「でも今回は、完全なくじ引きだろ?」


奏が言うと、靂はわずかに考える素振りを見せた。


「確率がゼロではない、というだけ。そう都合よく揃うとは思えないけど」

「そりゃそうか」


綴はあっさり納得し、話題を切り上げた。


「気分転換に、ちょっとした○×問題やる?もちろん召喚士法規のテスト範囲内だけど」


岬が別の問題集を開く。

霹が机へ伏せたまま、片手だけを上げた。


「数字が出ないなら、まだ戦える」

「じゃあ問題。夜の繁華街で召喚行為を行ってはいけない。○か×か」

「○っしょ!」


霹が即答し、綴もそれに続く。


「さすがに○でしょ。夜の繁華街で召喚獣を出すのは危ないって」


奏も同じ答えを考えたが、向かいに座る后と靂は呆れるように眉をひそめ、何も言わなかった。

岬は全員の反応を確かめてから、問題集の解説を指で示した。


「正解は、×でした」

「なんで?」


霹が勢いよく顔を上げる。


「召喚行為の可否は、昼夜や繁華街であることだけでは決まらないから。昼夜を問わず、定められた区域および状況下で行うことができます」

「夜の繁華街で召喚していいの?」

「許可された区域や、緊急時を含む定められた状況ならね。問題文は、夜の繁華街では例外なく禁止されているように書いてあるから×」


綴は納得できないように問題文を見つめた。


「これ、日本語の問題じゃん」

「法規は日本語で書かれてるからね」


岬の返答に、后が小さく笑う。

その後も何問か○×問題を解いているうちに、窓の外は次第に暗くなっていった。

自習室に残っていた生徒も、一人、また一人と席を立っていく。

綴は時計を確認すると、椅子の背にもたれながら大きく腕を伸ばした。


「頭使ったら肩こってきた〜。ちょっと体動かしてこよ」

「え?じゃあ、あーしも!」


霹がすぐさま教材を閉じる。

靂は霹と綴を交互に見て、深いため息をついた。


「はぁ……」

「二人とも、勉強から逃げたいだけじゃないでしょうね」


后が疑いの目を向ける。


「違う違う。適度な運動は、勉強の効率を上げるんだよ」


綴はもっともらしく答えながら、既に帰り支度を始めていた。

夕食の時間も近い。

后と靂も教材を片づけ、四人は揃って自習室を出ていった。

奏は解きかけの問題へ目を落とす。


「俺は、これだけ終わらせてから行くよ」

「分かった。先に行ってるわ」


后の声とともに扉が閉まり、自習室へ静けさが戻る。

奏は再び問題へ向き直った。

岬も自分のノートを整理しながら、席に残っていた。


***


奏は問題集へ視線を戻した。


残っているのは、最後の一問だけだった。

途中まで計算式を書き進め、手を止める。

壁の時計を確認する。

まだ、訓練場へ向かう時間は残っている。

再び問題へ目を落としたものの、さきほどまで解けていたはずの式が、急に頭へ入ってこなくなっていた。

数分前から、同じ行を何度も読み返している。

答えを出しても次のページへ進まず、時計を見ては問題集へ視線を戻す。


それを何度か繰り返したところで、向かいから声がかかった。


「天宮君、なにか浮かない顔っていうか、ソワソワしてる?落ち着きがないというか……」


奏は顔を上げた。

岬がノートを閉じ、こちらを見ている。


「え?そう?」


自覚がなかったわけではない。

筆記考査が大事なのも分かっている。

だからこそ自分の意思で自習室へ入った。

それでも頭の片隅では、今すぐ訓練場へ向かい、銃剣の再現を試したいという考えが消えずに残っている。


「宿泊研修が終わってから、ずっと何かに悩んでるよね」


岬は奏の反応を確かめながら続ける。


「実技訓練の時も、ログを見ながら晴れない顔をしてた」


そこまで見られていたとは思わなかった。


「よく見てるんだな」

「同じクラスだから。それに、天宮君は――分かりやすい方だと思うよ」

「そうなのか?」

「少なくとも、今はすごく分かりやすい」


奏は否定しかけて、やめた。

岬の言うとおり、先ほどから問題集はほとんど進んでいない。

このまま誤魔化したところで、説得力はなかった。


奏は胸の内のモヤモヤを、岬に打ち明けた。

宿泊研修での出来事。

イデアで形作られた刃。

岬の表情がわずかに変わる。

奏は声を落とし、周囲へ聞こえないように話を続けた。


「今も形にすることはできる。でも、動こうとするとすぐに崩れる。あの時みたいに、刃として使えたことは一度もない」

「それを、もう一度使えるようにしたいんだね」


奏は頷いた。

岬は何かを考えるように目を伏せる。

宿泊研修の最中、千代瀬の昼空へ立ち昇った蒼い光。

奏はそのことを口にしなかった。

岬もまた、何も尋ねなかった。

代わりに思い出したのは、実地演習での出来事だった。


「天宮君、実地演習でも銃口にイデアを集めてたよね。凝縮したイデアを弾みたいにして撃ってた」


銃口へイデアを集め、形を与える。

擬似弾と刃では大きさも用途も違うが、根本は似ているのかもしれない。

奏は携帯端末を取り出し、保存していた訓練ログを表示した。

出力の推移や、刃を形成できた時間。

成功した時と失敗した時の記録を、岬が順番に確認していく。


「成功した時は、いつもここまで出力を上げてるの?」

「そのくらいまで上げないと、形を保てないんだ」


岬は画面を何度か切り替えたが、やがて小さく首を傾げた。


「これだけだと、分からないかも」

「やっぱり、ログにも違いはないよな」

「ううん。そうじゃなくて」


岬は携帯端末を奏へ返す。


「実際に見た方が早いかも」

「見てくれるのか?」

「まだ夕食まで少し時間があるから」


閉じたノートを鞄へしまい、岬は席を立った。

奏も解きかけの問題集を閉じる。

最後の一問は残ったままだったが、先ほどまで訓練場へ向かうことを急かしていた気持ちは、少しだけ形を変えていた。


***


一度寮へ戻ってジャージに着替えた二人は、訓練場へ向かった。


夕食の時間が近いこともあり、場内に残っている生徒は少ない。

二人は空いていた訓練区画へ入り、端末へ使用者と訓練内容を登録した。


奏がアビスを召喚すると、岬もアールを呼び出す。

アビスは奏の少し後ろに座り、隣に並んだアールとともに二人の様子を見守っていた。


「それじゃあ、一度やってみてくれる?」

「ああ」


奏はホルスターからハンドガンを抜いた。

岬が少し離れた位置へ移動し、腰に提げた二挺のうち一挺を手に取る。


「私がウォールシードを発生させるから、両断してみて」

「両断!?あの土壁をか?」


思わず聞き返した奏へ、岬は当然のように答える。


「刃として使いたいんでしょ?だったら、実際に斬れるか確かめないと」

「そうだけど……」

「大丈夫。普通の訓練用標的より、少しくらい失敗しても困らないから」


岬は訓練区画の中央へ銃口を向け、床へ一発撃ち込んだ。

着弾点へ土属性のイデアが広がる。

床の一部が盛り上がり、土塊が互いに重なるように形を変えていく。

やがて、奏の腰ほどの高さがある分厚い壁が出来上がった。

岬は銃を下ろし、壁の表面を軽く叩く。


「準備できたよ」


奏はウォールシードと向かい合い、ハンドガンを構えた。

銃身へイデアを流し、銃口の先へ集中させる。

淡い蒼色の光が生まれた。

光は銃口を覆い、細長く伸びながら、次第に刃の輪郭を作っていく。


「なるほど……」


岬が小さく呟く。

蒼い刃を目にした岬は、一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。

だが、それ以上は何も言わず、奏の手元と全身の動きを注意深く見つめる。


奏は呼吸を整え、一歩踏み出した。

刃の輪郭が揺れる。

崩れかけた形を保つため、さらにイデアを流し込む。

踏み込みと同時にハンドガンを振り、蒼い刃をウォールシードへ叩きつけた。

接触する寸前、刃が大きく歪んだ。

土壁の表面を撫でるように光が触れ、そのまま粒子となって砕け散る。

ウォールシードには、傷一つ残っていなかった。


「……こんな感じなんです」


奏はハンドガンを下ろす。


「止まったままなら、もう少し長く保てる。でも、動きながら使おうとすると、今みたいに崩れる」


岬はすぐに答えず、訓練端末へ歩み寄った。

記録された出力の推移と、先ほどの奏の動きを交互に確認する。

刃を形成した直後から出力は上がり続け、踏み込んだ瞬間には、さらに大きく跳ね上がっていた。


「もう一度、刃だけ作ってみてくれる?」


奏は言われたとおり、銃口へ蒼い刃を形成する。


「この状態を保とうとすると、どんな感覚?」

「銃口から離れないように、イデアを流し続ける感じだ。少しでも緩めると、形が崩れる」


岬は刃の根元から先端まで、ゆっくりと視線を動かした。


「そこにイデアを留めるために、出力を上げてるように見える」

「でも、刃で何かに触れる時に出力が低いと、脆くならないか?」

「刃全体の出力を、ずっと上げ続ける必要はないと思う」


岬はウォールシードへ近づき、先ほど刃が触れた位置を指で示した。


「その一瞬だけ。ほんの一瞬、刃が触れるそこだけのイデア濃度を高める、というのは?」

「触れるところだけ……」

「わかりやすく言うと、ダイラタンシー流体みたいな?」

「余計分からないよ」


奏は銃口から伸びる刃を見る。

これまでは形を崩さないことばかり考え、刃全体へ均等にイデアを流そうとしていた。

必要な瞬間に、必要な場所だけを強くする。

理屈は分かる。

だが、それを動きながら行うとなれば、求められる制御は今まで以上に細かい。


「まったく、簡単に言うよ。俺は君ほど器用じゃない……」


奏は困ったように笑い、もう一度ウォールシードへ視線を向けた。


「でも、ありがとう。いいヒントかもしれない」


一度、銃口の刃を消す。


「今の、試してみてもいいか?」


岬は訓練端末に表示された時刻を確認した。


「三十分だけなら、付き合えるよ」

「十分だよ。ありがとう」


奏はウォールシードから数歩離れ、再びハンドガンを構えた。

刃全体を強く保つのではない。

触れる瞬間に、触れる場所だけへイデアを集める。

頭の中で岬の言葉を繰り返しながら、銃口へイデアを流す。

蒼い光が集まり、先ほどと同じように刃の形を作った。

奏はウォールシードの中央へ狙いを定める。


一歩、踏み込む。


接触する位置を意識した瞬間、刃の先端が強い光を放った。

だが、力を込めるのが早すぎた。

先端へイデアが偏り、土壁へ届くより先に刃の根元が形を失う。

光は途中から折れるように崩れ、ウォールシードの手前で消えた。


「……今のは?」

「集中させる場所を決めるのが、少し早かったのかも」


訓練端末で記録を確認していた岬が答える。


「動き出す前から、先端の出力だけが上がってる。触れる瞬間まで待ってみたら?」

「触れる場所を考えながら、触れるまでは集中させるなってことか」


口にすると、改めて難しさが分かる。

それでも、先ほどより何を失敗したのかは明確だった。

奏はウォールシードとの距離を測り直す。


次が三度目。


闇雲に回数を重ねるのではなく、岬の指摘を意識して動きを組み立てる。

銃口へ蒼い刃を作る。

形を保とうと力を込めすぎず、最低限の出力で輪郭だけを維持する。


一歩目。

刃がわずかに揺れたが、すぐに立て直す。

二歩目。

ウォールシードが間合いへ入る。

奏はハンドガンを振り抜いた。

蒼い刃が土壁へ触れる。

その瞬間だけ、接触点へ意識を絞った。

光が強く瞬く。

刃はウォールシードの表面へ食い込み、斜めに走った。

直後、形を保てなくなった蒼い光が砕け散る。

奏は振り抜いた姿勢のまま、土壁を見た。

表面には、細い斬撃痕が残っている。


「……斬れた?」

「傷をつけただけ」

「そこは少しくらい喜ばせてくれてもいいだろ」

「目標は両断でしょ?」


岬はそう返しながらも、すぐに訓練端末へ駆け寄った。

先ほどまでとは違い、刃とウォールシードが接触した瞬間、イデアの濃度が一か所へ集中している。

接触直後に出力が大きく落ち込んでいるものの、動きながら刃を対象へ届かせたことは、これまでの記録にはなかった。


「でも、今までとは違ったよ」


岬の言葉に、奏はもう一度ウォールシードの傷を見る。

両断には程遠い。

実戦で使えるとも言えない。

それでも、自分の意思で蒼い刃を届かせた、初めての痕跡だった。


岬もまた、その細い傷を見つめていた。

触れる瞬間だけ、触れる場所へ力を集める。

自分で口にした考えを確かめるように、岬の指先が無意識に腰の二挺へ触れた。


その意味を、今の岬はまだ知らない。

ふと訓練端末へ目を向けた岬が、表示された時刻を見て目を丸くする。


「いつの間にか、三十分過ぎてた。食堂が混む時間だから、早く行こう」

「ほんとだ。付き合ってくれてありがとう。なんか、いけそうな気がする」


奏の表情は、自習室にいた時よりも明らかに晴れていた。

岬がウォールシードを解除すると、土壁は崩れ、床へ吸い込まれるように消えていく。

最後まで残っていた細い傷も、やがて元の床へ溶けていった。


それでも、その感覚は奏の中に確かに残っていた。



ダイラタンシー流体って口に出して言いたい言葉ですよね。これを読みながら、ダイラタンシー流体って声に出した読者の皆様、いつも読んでいただきありがとうございます。

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