10-6話_When Ideas Answer
エアコンを付けるか付けないかの瀬戸際の季節になってきました。皆さん、体調管理に気をつけてください。
――山道を抜けた頃には、日は山の稜線へ差しかかっていた。
傾いた陽光が木々の隙間から細長く差し込み、二人の影を石畳の上へ伸ばしている。
狛は霞の肩を借りて歩いていた。
制服は土埃と煤にまみれ、ところどころが裂けている。
左肩を庇うように身体を傾け、口の端には拭い切れなかった血がこびりついていた。
霞も無傷ではない。
それでも狛の腕を自分の肩へ回し、歩幅を合わせながら、温泉街へ続く道を下っていく。
街へ近づくにつれて、人のざわめきが聞こえ始めた。
普段なら観光客で賑わっているはずの通りには、旅館や商店から出てきた住民たちが集まっている。
多くの視線が、煙の立ち昇る廃神社の方角へ向けられていた。
「研究所で働いてる知り合いから、警報が鳴ってたってメッセージが来た」
「こっちじゃ、川の向こうが青く光ったんだろ?」
「それに、さっきの爆発だ。山が崩れたんじゃないのか……?」
断片的な情報が、人から人へ渡るたびに形を変えていく。
何が起きているのかを正確に知る者はいない。
だからこそ、不安と憶測ばかりが膨らんでいた。
「どれも九条のところじゃないか」
誰かが呟いた。
その声に続くように、山道から下りてきた二人へ視線が集まる。
「……狛吉だ」
一人が気づけば、それは瞬く間に周囲へ伝わった。
通りに散らばっていた住民たちが集まり、狛と霞の進む道を塞いでいく。
それぞれが抱えていた不安の矛先が、山から戻ってきた狛へ向けられた。
「九条グループが、また何かやったんだろ!」
最初の非難が飛んだ瞬間、狛は霞の肩から腕を解いた。
「おい――」
霞が支え直そうとする。
だが、狛はそれを断り、自分の両足で石畳の上に立った。
身体が僅かに揺れる。
それでも倒れなかった。
霞は何かを言いかけたが、半歩だけ後ろへ下がった。腕を組み、険しい目で住民たちを見渡す。
「こんな騒ぎを起こして、何が狛吉だ! “吉”じゃなくて“凶”じゃねぇか!」
別の場所から声が飛ぶ。
狛は何も返さない。
「九条は、この街をどうするつもりなんだ!」
「山まで壊して、知らないじゃ済まされないだろ!」
声を上げているのは、その場にいる全員ではなかった。
少し離れた場所から黙って見ている者もいる。
狛の傷へ気づき、眉を顰めている者もいた。
何か言いたげに口を開きながら、結局声を出せない者もいる。
だが、そうした沈黙よりも、攻撃性を帯びた言葉の方が大きく響いた。
「どう責任を取るんだ!」
その声が二人に届いた瞬間、鋭い金属音が、住民たちの声を断ち切った。
霞が小太刀を抜き放っていた。
切先は誰にも向けられていない。
そのまま腕を振り下ろし、石畳へ突き立てる。
硬い路面が小さく割れ、抜き身の刃が夕陽を弾いた。
住民たちが息を呑む。
霞は狛の前へ立ち、怒気を隠そうともせず人垣を睨みつけた。
「てめぇら――都合のいい時だけ“九条”“九条”って、」
狛が霞の腕へ触れた。
傷ついた今の狛に、霞を力ずくで止められるほどの力は残っていない。
それでも霞は、続く言葉を呑み込んだ。
「獅堂、いい」
「けどよ――」
「……ありがとう」
霞の奥歯が、僅かに噛み締められる。
言いたいことはいくらでもあった。
狛がどれほど傷ついているのか。
それでも一人で立ち、すべてを背負おうとしていること。
何も知らないまま、心ない言葉だけを浴びせている者たちへ、吐き出したい言葉は幾つもあった。
それでも霞は堪えた。
石畳から小太刀を抜き、鞘へ納める。
ただし、その手は柄から離さなかった。
狛は霞から手を離し、一度、廃神社の方角を見た。
山の向こうでは、今も灰色の煙が空へ昇っている。
自分たちが戦った場所。
護り切れなかったもの。
それらを目に焼きつけてから、狛は住民たちへ向き直った。
そして、深々と頭を下げた。
左肩と脇腹へ痛みが走る。
耳鳴りが強くなり、周囲のざわめきが一瞬だけ遠のいた。
それでも頭を上げなかった。
誰も言葉を挟めないまま、数秒が過ぎる。
やがて狛はゆっくりと身体を起こした。
「今日のみんなの気持ちは受け取った」
住民たちを前にしても、声は震えていなかった。
「この街を――大好きな千代瀬を護れるぐらい――強くなる」
謝罪でも、釈明でもなかった。
責任をどう取るのかと問われ、狛が返したのは、まだ果たせない約束ですらない。
ただ、自分がこれからどうありたいのか。
それだけだった。
誰かが口を開きかけ、何も言えずに閉じた。
返事はなかった。
狛も、返事を求めなかった。
現地の住民とは誰とも目を合わせず、人垣の向こうへ視線を向ける。
その先にあるのは、戻るべきホテルだった。
狛は五節棍を石畳へつき、その身を支えた。
一歩。
また一歩と、自分の足で歩き始める。
霞の肩は、もう借りなかった。
住民たちも、今度は二人の進路を塞がなかった。
数歩進んだところで、狛が思い出したように振り返る。
「あぁ、それと」
立ち止まり、人垣へ言い放った。
「俺は狛吉でも、九条の坊ちゃんでもねぇ。九条狛だ」
他人から意味を押しつけられた呼び名ではない。
生まれた家を否定するためでもない。
九条という姓も含めて、自分自身の名前として口にする。
そして狛は隣に立つ霞の肩を軽く叩いた。
「今度、俺の名前を狛吉なんて呼んだら――コイツが黙ってねぇ」
「あぁ!?」
突然話へ巻き込まれ、霞が素っ頓狂な声を上げる。
狛はそれ以上何も言わず、再びホテルへ向かって歩き出した。
その背後で、住民の一人が霞の小太刀へ目を凝らす。
「っていうか……おい、あの小太刀の紋章……」
「さっき、シドウって言ってなかったか?」
「獅堂家……?まさか、御三家の!?」
ざわめきの性質が、急速に変わっていく。
「うちのお得意さんじゃねぇか!あの家が泊まりに来るたび、旅館から『蔵の酒をあるだけ持ってこい』って注文が入るんだぞ……!」
「おい、お前。謝ってこいよ」
「なんで俺が! 言い出したのはお前だろ!」
「俺だけじゃねぇだろ!」
そんな住民たちの言葉は、やがて千代ノ瀬川の水音にかき消され、二人の耳には届かなかった。
***
九条リゾートのロビーは、事件後の慌ただしさをまだ引きずっていた。
レセプションでは、数組の一般客がスタッフへ状況を尋ねている。
ラウンジのソファには、疲れ切った顔で座り込む者もいた。
指定された区画へ移動する生徒。
館内を行き交う学園関係者。
絶えず鳴る内線電話へ対応するホテルスタッフ。
誰もが、それぞれの事情を抱えて動いていた。
自動ドアが開く。
「――霞!」
最初に気づいたのは箒だった。
普段は滅多に感情を表へ出さない箒の声が、ロビーを貫く。
その視線の先に、五節棍で身体を支えながら歩く狛と、その隣に立つ霞の姿があった。
箒はすぐに御手洗へ振り返る。
「御手洗先生。九条と霞が戻りました」
御手洗も二人の姿を確認する。
「分かった。まずは救護室へ向かわせろ。話はそれから聞く」
「はい」
箒は短く答え、二人のもとへ駆け寄った。
近くまで来て、制服と負傷の状態を確かめる。
「ボロボロじゃねぇか」
「るせぇ……まずはコイツの手当てからだ。俺は唾でもつけてりゃ治る」
霞が顎で狛を示す。
箒は僅かに間を置き、頷いた。
「分かった。じゃあ、お前は唾で。九条は救護室だな」
「ほんとお前は冗談通じねぇな!!」
箒は霞の抗議を聞き流し、辺りを見渡した。
霞に代わって狛を救護室まで支えられる者を探し、ロビーの一角で待っていた生徒へ目を留める。
「榛名」
呼ばれた律が、すぐに歩み寄ってくる。
「九条を頼む。救護室まで連れていってくれるか」
「分かった」
律は狛の隣へ立ち、肩を貸した。
「律か。すまんな」
「いえ。無事で何より」
それ以上、二人は言葉を交わさなかった。
律に支えられた狛が、救護室へ続く廊下へ消えていく。
霞も一人で歩き出そうとしたところで、ラウンジから様子を見ていた綴が近寄ってきた。
「俺も奏を待ってんだけどさ。一向に帰ってこないし――肩、貸そうか?」
心配しているのか、からかっているのか。
おそらく、その両方だった。
「あぁもう、どっかいけ!」
霞に追い払われ、綴の眉尻が情けなく下がる。
捨てられた子犬のような顔を残し、綴は霞が一人で歩いていく背中を見送った。
狛と霞の姿が廊下の奥へ消えたあと、御手洗が箒と綴のそばへ歩み寄る。
「あとは……天宮だけか?」
「はい」
箒は一度、自動ドアの向こうへ視線を向けた。
「――俺、探しに行きましょうか?」
「もうすぐ日が暮れる。これ以上、生徒を危ない目に遭わせられねぇ」
御手洗は館内の時計を確認する。
「こっちが片づいたら、最悪、俺が行く」
「俺とクサビなら、夜道は余裕だけど」
綴が申し出る。
「まだ完全に安全とはいえねぇ」
短い返答に、綴はそれ以上何も言えなかった。
ホテルの外では、石畳に沿って並ぶ店へ少しずつ灯りがともり始めていた。
本来なら多くの観光客で賑わう行楽シーズンの夕刻。
だが、今夜ともされた明かりは、普段より明らかに少ない。
警察も、消防も、まだ千代瀬へ到着していなかった。
山の稜線へ沈みかけた夕陽だけが、温泉街を赤く染めていた。
***
――救護室の窓から差し込む夕陽が、白い床を淡い橙色へ染めていた。
后はベッドで眠っている。
目立った外傷はなく、呼吸も安定していた。
ベッドのそばに置かれた椅子では、岬が浅く腰掛けている。
凝縮弾を連続して扱った影響は、今も身体の奥へ残っていた。
制服の下には打撲が幾つもあり、身体を動かすたびに鈍い痛みが走る。
横になるほどではない。
そう判断して椅子へ座っていたが、張り詰めていたものが切れたのか、いつの間にか浅い眠りへ落ちていた。
シーツが、僅かに擦れる。
その音に、岬はゆっくりと目を開いた。
「……逢麻さん?」
掠れた声が聞こえる。
岬は眠気を振り払い、ベッドの上へ視線を向けた。
后が薄く目を開き、ぼんやりと天井を見ている。
「よかった……目が覚めたのね」
岬の声に、后がゆっくりと顔を向けた。
「ここは……?」
「ホテルの救護室。戻ってきたの」
「ホテル……」
后は記憶を確かめるように目を閉じた。
「私、研究所にいたはずじゃ……」
「あなたが戻っていないって分かって、探しに行ったの。旧集材所で倒れている華園さんを見つけた」
岬は必要なことだけを、順番に伝えた。
自分が后を探しに向かったこと。
旧集材所で、意識を失っていた后を発見したこと。
その後、霹と靂の助けを借りてホテルまで戻ったこと。
后は話を聞きながら、岬の腕や顔に残る傷へ目を向けた。
「その怪我……」
「大丈夫。見た目ほど酷くないから」
「私を……助けるために?」
「ま、まぁね」
后の表情が曇る。
「ごめんなさい。私のせいで――」
「違うの――」
岬は、静かに言葉を遮った。
強くはない。
だが、否定する意思ははっきりと伝わる声だった。
「――私が、自分で行くって決めたの」
誰かに命じられたからではない。
自分で考え、自分で后を助けに行くと決めた。
その結果として負った傷を、后の責任にするつもりはなかった。
后はしばらく岬を見つめていた。
「……ありがとう」
「別にいいよ。大丈夫」
岬の口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「天宮君も、華園さんを探しに真っ先にホテルを出たみたい」
「え?アイツが?」
「九条君も動いてくれていた。何があったのかまでは、私も分からないけど」
岬自身、ホテルへ戻ってから詳しい状況を聞いていない。
狛と霞がどこにいるのか。
奏がまだ帰還していないことも知らない。
ただ、后を探すために、結果として何人ものクラスメイトが動いていた。
その事実だけを伝えた。
「そうなんだ……」
后は天井へ視線を戻した。
その声には安堵とも戸惑いともつかないものが混じっていた。
少しの沈黙を挟み、后が再び口を開く。
「……そういえば――真柴さんは?」
岬は答えるまでに僅かな間を置いた。
「……分からない」
「分からない?」
「私が見つけた時、あそこには華園さんしかいなかったから」
嘘はついていない。
分からないことを、無責任な推測で埋めることもしなかった。
后も、それ以上は尋ねなかった。
最後にはっきりと覚えているのは、研究所で真柴と言葉を交わしたこと。
その後の記憶は曖昧で、何が起きたのか思い出せない。
ただ、自分一人が旧集材所で倒れていたという事実だけが、小さな引っかかりとなって胸の奥へ残った。
壁掛け時計が、規則正しく秒を刻んでいる。
窓の外では、千代ノ瀬川のせせらぎが絶えず響いていた。
二人はそれ以上話さず、救護室へ戻ってきた静かな時間に身を委ねた。
***
――日が山の稜線へ隠れ切った頃。
九条リゾートのロビーは、ようやく騒動の山をひとつ越えていた。
レセプションの前にいる一般客は、片手で数えられる程度にまで減っている。
チェックアウトを済ませたものの、最寄り駅までのシャトルバスが運行を停止し、帰る手段を失った者たちだった。
ホテルスタッフは落ち着きを取り戻しつつある。
疲労の色を滲ませながらも、客の質問へ丁寧に応じていた。
自動ドアが開いた。
冷え始めた外気とともに、一人の生徒がロビーへ入ってくる。
制服は水と泥と砂に汚れ、口の端には乾きかけた血が僅かに残っている。
足取りも重い。
それでも、その目だけは、ホテルを飛び出した時とはどこか違っていた。
御手洗が、その姿へ真っ先に気づいた。
「!――天宮」
低い声に、奏の足が止まる。
御手洗は奏の前まで歩み寄り、その全身を一度見渡した。
怒鳴るほどではない。
だが、明らかに腹を立てている顔だった。
「……お前、今までどこにいた」
「……道に迷ってました」
御手洗は何も言わなかった。
奏の口元に残る血。
泥だらけの制服。
単に道へ迷っただけではないことなど、聞くまでもない。
それでも、少し離れた場所には綴がいる。
御手洗は追及せず、救護室の方角を顎で示した。
「まずは救護室だ。それから風呂に入って、飯を食え。全部済んだら俺の部屋に来い」
「……そうでしたね」
奏の視線が泳ぐ。
ホテルを飛び出す前に、無事に戻ったら説教を受けると約束していた。
今の今まで、完全に忘れていた。
御手洗は綴へ目を向ける。
「空木。連れていってやってくれ」
「はーい」
綴が軽い調子で返事をする。
奏の隣へ並ぶと、その横顔を覗き込んだ。
「また呼び出し?」
「もう――慣れたよ」
半ば諦めたように答え、奏は御手洗の視線を背中に受けながら、綴とともに救護室へ向かった。
***
救護室の外に並べられた椅子へ座り、綴は廊下の天井を眺めていた。
数分後、扉が開く。
処置を終えた奏が出てきた。
口元の浅い傷には小さな絆創膏が貼られ、制服へ付着していた血や泥も、応急的に拭い取られている。
「その状態で風呂入れるの?」
綴が立ち上がりながら尋ねる。
「救護室の先生は、シャワー程度ならって。患部を湯船に浸けるなってさ」
「そりゃあ残念だね。最終日のお風呂なのに」
奏と綴は、着替えを取りに客室へ戻るため廊下を歩き始めた。
窓の外には、温泉街の灯りが浮かんでいる。
その向こうを流れる千代ノ瀬川は、夜の色へ溶け込み始めていた。
「あ、そういえば」
綴が思い出したように声を上げた。
「華園さんと逢麻さんは、双鳶姉妹が連れて帰ってたよ」
奏の足が止まる。
「華園さんは?」
「別の救護室にいる。逢麻さんが見つけたらしいよ」
綴が知っている範囲で、簡単に状況を説明する。
后が意識を取り戻しているかどうかまでは分からない。
それでも、無事に保護され、ホテルへ戻っている。
その言葉を聞き、奏は僅かに肩の力を抜いた。
すぐに、綴が示した救護室の方角へ目を向ける。
「ごめん。先に行っといて。どうせ俺、シャワーだし」
「風呂と飯は?」
「その後」
奏は客室へ戻る道を外れ、后のいる救護室へ向かった。
***
救護室のある廊下の先を、岬が歩いていた。
救護室から出て、浴場や夕食会場のある方向へ向かっている。
奏が声をかけるより早く、岬の姿は曲がり角の向こうへ消えた。
その背中を見送ってから、奏は救護室の扉の前へ立った。
二度、軽くノックする。
「はい」
中から聞こえた声に、奏は安堵した。
「天宮です。入ってもいい?」
僅かな間があった。
「……どうぞ」
奏が扉を開ける。
ベッドの上では、后が上体を起こしていた。
窓は僅かに開かれている。
冷え始めた夜風とともに、千代ノ瀬川のせせらぎが室内へ届いていた。
奏は后の顔を見た。
意識がある。
目立った傷もない。
その事実を自分の目で確かめ、強張っていた肩が僅かに下がる。
対する后は、入ってきた奏の姿へ目を見開いた。
「――ボロボロじゃないの」
「……道に迷ってた」
「嘘ね」
即座に切り捨てられた。
后は奏の制服に残る泥汚れと、口元へ貼られた絆創膏を交互に見る。
「どうしたら道に迷って、そんなところを切るのよ」
「……山だったから」
「何の説明にもなってないわよ」
奏は何かを言おうとした。
だが、上手く言葉が出てこない。
――后が無事でよかった。
それを伝えればいいだけのはずなのに、口に出そうとすると、なぜか言葉に詰まった。
救護室へ響くのは、壁掛け時計の秒針と、窓の外を流れる川の音だけだった。
「でも……ありがとう」
后が、小さく呟いた。
聞こえるかどうか分からないほどの声だった。
岬から聞いている。
奏が自分を探すため、真っ先にホテルを飛び出したことを。
「――え?」
「あぁもう!いいから!」
后の声が、急に大きくなる。
「そのドロドロの格好で私に近づかないで!早く風呂でも入ってきなさいよ!」
追い立てられるまま、奏は救護室の外へ押し戻された。
目の前で扉が閉まる。
廊下へ一人残され、奏は数秒、その場に立ち尽くした。
閉じた扉の向こうからは、もう何も聞こえない。
「……元気そうでよかった」
誰に聞かせるでもなく呟き、奏は今度こそ浴場へ向かった。
***
九条リゾートの夕食会場には、昼間の騒動を感じさせないほど多彩な料理が並んでいた。
和食、洋食、中華料理。
東南アジア料理から中南米料理まで、どこにそれだけの食材を保管していたのかと疑いたくなるほどの品数だった。
山菜や川魚を使った郷土料理。
切り分けられたローストビーフ。
揚げ物、点心、パスタ、炒飯。
色鮮やかな前菜が並び、温かな汁物からは白い湯気が立ち昇っている。
事件があったからといって、客へ提供する料理の質を落とさない。
それが九条リゾートの矜持らしかった。
会場には生徒たちの話し声と、食器の触れ合う音が満ちている。
その間を縫うように、穏やかな器楽曲が流れていた。
御手洗の姿はない。
今も後処理に追われているのだろう。
代わりに羽瀬川が、酒ではなく冷たい茶の入ったグラスを傍らへ置き、生徒たちの様子を見守っていた。
シャワーと着替えを済ませた奏が会場へ入る。
それぞれの円卓では、すでに思い思いの話題で盛り上がっていた。
入り口に立つ奏へ、ホテルスタッフが歩み寄る。
顔には僅かな疲労が滲んでいる。
それでも姿勢と微笑みは崩れていなかった。
「お好きなお料理をお取りください。空いているお席へ、どうぞ」
「ありがとうございます」
案内を受け、奏は食器を取らずに盆だけを手にした。
まず、何があるのかを一通り見て回る。
後先を考えず、目についた料理から取ってしまえば、最後には揚げ物と肉料理ばかりになる。
以前、岬から言われた言葉を思い出す。
――全部茶色じゃないの。
同じ指摘を受けないためにも、最初に全体を確認しておく必要があった。
もう一つ、探している姿がある。
岬が一人でいれば、声をかけやすい。
料理の並ぶ台を順番に巡っていく。
温かな汁物が並ぶ一角に、岬の姿があった。
盆に配膳された料理の数や、椀へ汁を注いでいるところを見る限り、二周目なのかもしれない。
「あ、天宮君」
先に気づいた岬が、顔を上げる。
「良かった――無事だったんだ」
「ありがとう。華園さんを助けてくれたんだろ?色々話は聞いた……」
「あ、いや、私は……やれることやっただけだよ」
岬は少し照れたように目を伏せた。
それでも、素直に喜び切れないものが残っているのか、眉を八の字にした何とも言えない笑顔を見せる。
「ていうか、天宮君――料理は取らないの?」
「あー、いや……一回ぐるっと見て回ろうと思って。全部茶色なんて言われたくないし」
「ふふっ――なるほどね」
岬は空の盆を見て納得したように頷き、円卓の一つを指した。
「そしたら、私たち、あそこのテーブルにいるから」
「分かった」
岬と別れた奏は、改めて料理を選び始めた。
肉料理だけへ偏らないように、途中でサラダや温野菜も加える。
一通り料理を取り終え、岬が示した円卓の近くを通りかかったところで、綴が気づいた。
「お、やっと来た。ここ空いてるよ〜」
「あ、お邪魔します」
奏は綴の隣へ腰を下ろした。
綴の盆へ並んでいる料理は、ほとんどが茶色だった。
揚げ物、肉料理、炒飯。
差し色として、蟹の足が一本見えている程度である。
その一つ向こうには岬が座っていた。
先ほどはどうも、と言わんばかりに軽く会釈を交わす。
「何ビクビクしてんだよ。遅刻だぞ?」
席へ着くなり、前方から軽口が飛んできた。
狛だった。
左肩や顔には処置を受けた跡があり、座っているだけでも満身創痍なのが分かる。
奏は思わず目を見開いた。
「狛、なんでお前そんな怪我してんだ……」
「ん?あぁこれか?」
狛は何でもないことのように答える。
「少し道に迷ったんだよ」
「…………」
奏は黙り込んだ。
「あはははは!」
その隣で、綴が堪え切れずに笑い始める。
目尻へ浮かんだ涙を指で拭いながら、狛と奏を見比べた。
「ウチのクラスって、道に迷うの流行ってんの?奏も帰ってくるや否や、『道に迷った〜』なんて言ってたし」
狛の耳が、分かりやすく赤くなる。
「うるさい。――そういえば天宮、飲み物ないだろ。ちょっと取りにいこうぜ」
「え、いや――」
「いいから」
狛は、何か言いかけた奏の言葉を遮る。
席を立とうとする狛へ、律が声をかけた。
「俺が行こうか?」
「いや、いい。ありがとう」
狛は短く断り、椅子から立ち上がった。
歩き方には僅かなぎこちなさが残っている。
奏は自分の料理を席へ置き、狛のあとを追った。
少し斜め後ろから、その歩き方を横目に見る。
「言ってくれたら、俺が持ってくるのに」
「これぐらい、自分でやるよ」
狛は前を向いたまま答えた。
「あと、天宮とも話したかったし」
「俺と?」
問いかけても、狛は答えなかった。
二人は並んだドリンクバーの機械の前へ立つ。
狛がタッチパネルを操作し、奏も隣の機械へ手を伸ばした。
「今日の、あの時の蒼い光って――」
奏の指が、一瞬止まる。
狛は注ぐボタンへ触れ、機械が低い作動音を立て始めた。
「――あれ、天宮だよな」
「…………」
奏は返事をせず、止めていた指を動かした。
画面に並ぶ飲み物を選び、注ぐボタンへ触れる。
二つの機械から、それぞれのグラスへ飲み物が注がれていく。
会場には大勢の声が満ちているはずだった。
食器が触れ合う音。
椅子を引く音。
料理を選びながら笑う声。
それらが遠のき、機械の操作音と、グラスへ液体が注がれる音、そして狛の声だけが鮮明に耳へ入ってくる。
狛のグラスが先に満たされた。
それを手に取り、奏の方を見る。
奏は、自分のグラスへ飲み物が注がれていく様子を眺めていた。
「そのダンマリは、認めるってことでいいんだな」
狛が続ける。
「別に、あの蒼い光が天宮だからって、何か罪に問われることはないだろ?」
それでも奏は答えない。
「実際に、実地演習で俺はその光を間近で見たわけだし」
何と答えればいいのか分からなかった。
そうだよ、と認めるのか。
あれはラストクォーツの光なのだと話すのか。
アビスと心を通わせたと思った瞬間、あの光が現れたのだと正直に説明するのか。
――そもそも、隠す必要があるのか。
考えれば考えるほど、答えが遠ざかっていく。
「――天宮?」
狛の声で、奏は我に返った。
「グラス、注ぎ終わってるぞ」
「あ、ほんとだ」
注ぎ終えたグラスを手に取るまで、少し時間がかかった。
狛は深く追及しなかった。
「ま、あの蒼い光は天宮ってことで」
「んー、まあ……そういうことにしといて」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
二人はグラスを手に、円卓へ戻り始めた。
だが、戻った先に奏の席はなかった。
綴が奏の座っていた場所へ押し出され、その隣には霹がいる。
さらに岬を挟んだ反対側には、いつの間にか靂が座っていた。
双鳶姉妹は岬と話したかったらしく、二人を両側から挟んでいる。
律は別の円卓へ移り、親しいクラスメイトたちと話していた。
狛が使っていた席だけは空いている。
しかし、すでにその円卓は女子三人の会話を中心に回り始めていた。
奏と狛は顔を見合わせる。
二人はそれぞれ自分の料理を回収すると、空席の増えた御三家の円卓へ逃げ込んだ。
ほどなくして、綴も料理を抱えて移ってくる。
気がつけば、隣り合う円卓の間で会話が飛び交い、誰がどの席にいたのかも曖昧になり始めていた。
「だから、《風炎斬烈》の何が気に入らねぇんだ!?」
霞の声が響く。
「『炎』を『焔』に置き換えればいいか?」
「そういうことじゃねぇよ」
「四字熟語が気に入らねえみたいだな。そしたら、《テンペストブレイズ=レイジングスラッシュ》か?」
「ほんと話が通じらねえ奴らだな……」
狛が即座に切り捨てた。
そのやり取りを聞きつけ、隣の円卓から霹が身を乗り出す。
「かっちゃんってめっちゃ面白くて〜。中学の時、必殺技の名前のレパートリーを増やしたくて漢字を調べてたら、大人でも受かるの難しい漢字の検定に受かるぐらい、漢字に詳しくなったもんね」
「漢字だけね。ネーミングセンスは中学生レベルよ」
靂が淡々と付け加える。
「その話すんな、ゴリラ女!」
霞が噛みついた。
霹は自分と靂を交互に指差す。
「え?どっち?A?B?」
「んあ?よく分からんが、どっちもだ!」
二つの円卓から、一斉に笑い声が上がった。
霞が顔を赤くして抗議している間に、霹が別の話題を持ち出す。
「そういえば、コマッチとかっちゃんが戦ったのって――」
一度言葉を切り、霞を見る。
「鋼属性だったっしょ?バキねぇと一緒じゃん」
「バキねぇ?」
霞の眉が吊り上がる。
「お前、椿姉さんのことそんな風に呼んでんのか?」
「本人公認だもーん」
霹は悪びれもせず答えた。
獅堂 椿――霞の一つ上の姉だ。
「コマッチとの必殺技があれば、バキねぇに勝てるんじゃね?」
「勝手に俺を姉弟喧嘩へ巻き込むな」
狛が即座に拒否する。
奏はその会話へ加わらず、賑やかな皆の様子を楽しそうに眺めながら食事を進めていた。
皿の料理を口へ運び、飲み込んでから、ふと口を挟む。
「獅堂って末っ子なんだな」
「んだと天宮!」
霞が勢いよく振り返った。
「意外だなぁって」
「何が意外なんだよ!」
霞が食ってかかる横で、霹が何かを思いついたように両手を合わせる。
「そうだ!カナディールも夏休みに御三家合宿に来ない?バキねぇと会えるよ!」
「えぇ……?」
唐突な誘いに、奏の箸が止まった。
「天宮君」
返事を考えるより先に、背後から声をかけられる。
振り返ると、飲み物の入ったグラスを片手に羽瀬川が立っていた。
「楽しそうなところ悪いけれど、御手洗先生に呼ばれているんでしょう?」
奏は会場の壁に掛けられた時計へ目を向けた。
時刻を確認した途端、その顔から僅かに血の気が引く。
「……そうでした」
食事と会話に気を取られ、思っていた以上に時間が経っていた。
奏は食べかけの皿を見下ろし、申し訳なさそうに眉を下げる。
急いで残りを口へ詰め込むわけにもいかない。
「すみません。先に失礼します」
席を立ち、残った料理を載せた盆を会場脇の返却棚まで運ぶ。
近くにいたホテルスタッフへ、小さく頭を下げた。
「すみません。ごちそうさまでした」
スタッフは疲れを感じさせない微笑みで、奏から盆を受け取った。
奏はもう一度頭を下げ、夕食会場をあとにする。
扉が閉じる寸前まで、《風炎斬烈》を巡る言い争いと、仲間たちの笑い声が聞こえていた。
夕食会場の扉が閉じる。
つい先ほどまで背中を押していた話し声と笑い声は、廊下を進むにつれて少しずつ遠ざかっていった。
***
奏は御手洗の部屋の前で立ち止まり、ひとつ息を整える。
二度、扉を叩いた。
「入れ」
返事を受けて、奏は扉を開けた。
「失礼します」
室内は、もはや宿泊用の客室には見えなかった。
机の上にはホテルや学園との連絡記録が積まれ、その隙間へ千代瀬周辺の地図が広げられている。
椅子の背には脱いだ上着が掛けられ、傍らには飲みかけのコーヒーが置かれていた。
御手洗は、入ってきた奏を一瞥する。
「そこに座れ」
「はい」
勧められた椅子へ腰を下ろす。
御手洗は腕を組み、しばらく黙って奏を見ていた。
「俺が言いたいことは分かるな?」
「……勝手にホテルを飛び出したことですか」
「分かってんなら、最初からやるな」
返す言葉もなく、奏は俯いた。
「お前が華園を心配したことまで責めるつもりはねぇ。だが、まだ敵が何人いるのかも、どこに潜んでいるのかも分からない状況だった。そこでお前まで行方不明になれば、探す人間がまた必要になる」
「……はい」
「今回は全員戻ってこられた。だが、結果が良かったからって、判断まで正しかったことにはならねぇ。覚悟と無謀を履き違えるなってことだ」
奏は膝の上で両手を握った。
あの時、ホテルへ残るという選択肢は考えられなかった。
今でも、同じ状況になれば、后を探しに行くと思う。
それでも、御手洗の言葉が間違っているとは思わなかった。
「すみませんでした」
一度頭を下げてから、奏は顔を上げる。
「でも、行かないという選択はできませんでした」
「……だろうな」
御手洗は呆れたように息を吐いた。
「まあ、勝手に飛び出した件については、今回はこれくらいにしといてやる」
「……ありがとうございます」
奏は再び頭を下げた。
出発前に約束させられた説教は、これで終わりらしい。
思っていたより、ずっと早かった。
安堵して肩の力を抜いた奏の前で、御手洗は机上の資料を脇へ退けた。
「――で、ここからが本題だ」
抜けたばかりの力が、瞬く間に戻ってくる。
御手洗は椅子へ深く腰掛け、奏を真正面から見据えた。
「あの蒼い光は、お前だな」
「…………」
「どこで、誰と、何をしてた?」
あまりにも広い問いに、奏は言葉を探した。
「……どこから話せばいいですか」
「最初からだ」
奏は記憶を辿りながら、起きたことを順番に話し始めた。
「研究所で、真柴という研究員から聞いていました。華園さんたちは、忘却の滝付近の道路を経由して避難するって」
御手洗は何も言わず、続きを促した。
「そのあと、傷ついたベレッタだけが戻ってきたんです。でも、華園さんは帰ってこなかった」
「それで、華園の身に何かあったと判断したのか」
「はい。忘却の滝へ向かいました」
奏は一度言葉を区切る。
「そこに、砥上と名乗る男がいました」
御手洗の指先が、机上で止まった。
真柴が奏へ伝えた避難経路。
その先で待ち構えていた砥上。
そして、ホテルに現れた――佐岸 弥陸。
偶然ではない。
佐岸は天宮奏を孤立させ、砥上と接触させるために、最初から人員を配置していた。
散らばっていた情報が、御手洗の中で一本の線へ繋がる。
だが、その推測を奏へ話すことはなかった。
「……続けろ」
奏は頷き、忘却の滝で起きたことを、覚えている限りそのまま報告した。
砥上が水を自在に操り、《召装》まで扱っていたこと。
アビスの攻撃がことごとく通じず、水の主導権を巡って衝突したこと。
その最中、自分とアビスの距離が、ほんの少しだけ縮まったように感じたこと。
即席で銃口へ刃を作り出したこと。
そして、その直後――忘却の滝から蒼い光が立ち昇ったこと。
やがて砥上へ何者かから連絡が入り、《第一目標》の達成が告げられた。
廃神社方面で爆発が起きたあと、砥上はそれ以上戦おうとせず、その場から撤退した。
すべてを聞き終えた御手洗は、深く背もたれへ身体を預けた。
片手で眉間を押さえ、長い息を吐く。
「……どこから突っ込むべきかな」
「すみません」
「謝る場所が多すぎて、何に対する謝罪か分からねぇよ」
御手洗は眉間から手を離すと、改めて奏を見た。
「まず一つ、訂正しておく」
「訂正?」
「お前が言う、“アビスとの距離が縮まった感覚”――」
その声から、先ほどまでの呆れが消える。
「それは《共鳴》だ」
「これが……《共鳴》」
奏は無意識に、左腕の時計へ目を落とした。
「ああ。お前とアビスの意思が、初めて同じ方向を向いた。それまで互いに奪い合っていた水を、あの瞬間だけは、同じ目的のために動かしたんだろ」
「はい。上手く説明できないんですけど……あの時は、アビスが何をしようとしているのか分かったんです」
「声が聞こえたのか?」
「いえ。そういうんじゃなくて……同じものを見ていた、というか」
「――十分だ」
御手洗は短く答えた。
「ただし、お前とアビスが《共鳴》したことと、あの光は分けて考えた方がいい」
「あの光は、《共鳴》じゃないんですか?」
「無関係じゃねぇ。むしろ、《共鳴》したからこそ起きた可能性が高い」
御手洗は窓の外へ目を向けた。
夜の千代瀬を形作る街の灯り。
その向こうから、絶え間なく千代ノ瀬川の音が届いている。
「仮に、あれだけのイデアをお前が放出したなら、今ごろそんな顔で俺の前に座っちゃいねぇ」
「……どういう意味ですか?」
「あの光は、お前から出たんじゃない」
奏が僅かに眉を寄せる。
「お前とアビスの《共鳴》に、あの場所に存在していたイデアが呼応した」
「俺たちに……?」
「忘却の滝。千代ノ瀬川。大気中の水分。普段は目に見えない自然界のイデアが、同じ位相へ揃えられた。それが、蒼い光として現れた」
御手洗の視線が、窓の外から奏へ戻る。
「お前たちが世界に合わせたんじゃねぇ――」
その言葉を噛み締めるように、一度間を置く。
「――世界の方が、お前たちに合わせたんだ」
奏は何も答えられなかった。
あの時、自分が何かをしたという感覚はなかった。
ただ、アビスと同じものを見て、同じものへ手を伸ばした。
それだけだった。
「――なんてな。まあ、今のところは俺の推測だ」
御手洗は机へ肘を置き、指を組んだ。
「だからこそ、今日の件はむやみに話すな。あの光を見て、お前とアビスに関心を持つ人間が出てくる可能性がある」
砥上は、光が立ち昇る前からアビスを知っていた。
奏はその事実を思い出し、静かに頷く。
「分かりました」
「それと、もう一つ」
御手洗は話題を切り替えた。
「砥上と戦った時に作った、その『銃剣もどき』。今、もう一度出せるか?」
「……分かりません」
「――だろうな」
御手洗は椅子の背へ身体を預けた。
「偶然できたものは、まだお前の力とは呼べねぇ」
そして、奏をまっすぐに見据える。
「その銃剣もどきを、お前のものにしろ」
「俺のものに……」
「夏休みに入る前、学期末テストを兼ねて、対人形式の学園内実技テストがある」
御手洗は、机上の予定表を指先で叩いた。
「それまでに――その銃剣もどきを、お前のものにしろ」
奏は、今度こそ迷わず頷いた。
「――はい」
「もちろん、筆記試験もあるがな」
つい先ほどまで引き締まっていた奏の表情が、目に見えて固まった。
夏休みまでの道のりは、どうやら思っていたより険しいらしい。
夏休み編の前に、期末テスト編が実装されることになりました。




