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Last Quartz  作者: 錢葵
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9-3話_No Turning Back

本当は8月中に宿泊研修編を完結せたいつもりでしたが、月見バーガーの季節に入っちゃいました。


――旧千代瀬集材所方面


警棒が数メートル先の地面を転がった。

柄沢は、それを拾いに行こうとはしなかった。

弾き飛ばされた右手に、痺れるような痛みが残っている。

指を二度、三度と握り込み、まだ動くことだけを確かめた。


初めて見る技だったから受け損ねた――それだけではない。

壁を作るだけの学生だと思っていた。

だが、認識を改める。


こいつは、舐めてかからない方がいい。


柄沢は懐へ手を入れた。

通すなとは言われた。

殺すなとは、言われていない。


引き抜いた手には、一本の短刀が握られていた。


「――グラム」


柄沢が、その名を呼ぶ。

アールと睨み合っていたグラムが、アールから距離を取り天を仰いだ。

低い遠吠えが、山あいに響き渡る。


呼応するように、柄沢の短刀へイデアの光が収束していく。

黄土色の、土を押し固めたような鈍い光。

柄沢は切っ先をわずかに持ち上げ、岬へ向けた。


「次、撃ってこいよ」


岬は二挺のデリンジャーを構え直した。

銃身へ、夕陽色の光が集まっていく。

先ほどと同じように、普段なら壁全体へ広げる量のイデアを、一発の弾丸へ幾重にも押し込んでいく。


その途端、身体がずしりと重くなった。


ただ立っているだけなのに、両脚へ泥がまとわりついているような感覚。

腕にも、先ほどまではなかっただるさが滲んでいる。


それでも、銃口は下げなかった。

この先で、華園后が待っている。


岬は引き金へ指をかける。

照準の先で、柄沢は動かない。

短刀を携えたまま、本当に次の一発を待っている。


それでも――撃つしかない。


岬が、引き金を引いた。


来る。


銃器を扱う召喚士なら、現役時代にごまんと見てきた。


構え。

呼吸。

引き金へかかる指先。


そして、発射の直前に現れる一瞬の変化。

銃口を満たしていた夕陽色の光が、コンマ数秒だけ消えた。

イデアが消えたわけではない。


弾丸へ収束しきったのだ。

直後、銃声が弾ける。

柄沢は右手の短刀を逆手へ持ち替えた。

踏み込みと同時に、黄土色の刃が空を裂く。


放たれた弾丸と、振り抜かれた短刀。

両者は寸分違わぬタイミングで激突した。


甲高い音が鳴る。


だが、先ほどのような衝撃は起こらない。

弾丸を包んでいた夕陽色の光が、短刀の刃へ触れた瞬間に弾け散った。


勢いを殺された物理弾が地面へ落ちる。

乾いた音を立て、柄沢の足元まで転がっていった。

柄沢は視線を落とさない。


逆手に握った短刀を振り抜いた姿勢のまま、岬だけを見据えている。


その傍らでは、アールとグラムが互いに食らいついていた。

アールの牙がグラムの首元を捉え、グラムの前脚がアールの傷ついた肩を地面へ押し込む。

ともに傷を負い、その輪郭がところどころ解れ始めていた。


――もう、あの弾は彼には通用しない。


胸の奥へ、冷たいものが落ちる。

それでも岬は、絶望に呑まれるより先に考えていた。


考えろ。

目を逸らすな。


柄沢から。

グラムから。

傷ついたアールから。


そして、この先で待っている華園から。

岬はデリンジャーを握り直した。


あと二発。


***


――滝の音が、次第に近くなっていく。


湿った山道を駆けながら、奏は自分の呼吸が上がっていくのを感じていた。


喉が焼ける。

呼吸をするたび、横腹が痛んだ。


それでも、不思議と足は止まらなかった。


ベレッタが消えた。

華園の身に、何かが起きている。


その考えが、疲労よりも先に奏の身体を動かし続けていた。

木々の切れ目を抜ける。


視界が開けた。


浅い水辺の向こうで、大量の水が白い飛沫を上げながら流れ落ちている。

轟々と響く水音が周囲を満たし、奏の荒い呼吸さえ呑み込んでいく。


――忘却の滝。


だが、そこに華園の姿はなかった。

代わりに、一人の男が奏へ背を向けて立っていた。

奇妙な柄のセットアップを身にまとった男。


青年と呼ぶには老けて見える。

かといって、おじさんと呼ぶにはまだ若い。

そのどちらとも言い切れない男が、飛沫の舞う水辺に佇んでいる。


奏が足を止める。


水を踏んだ音など、滝の轟音に紛れて聞こえるはずもない。

それでも男は、奏が来たことを知っていたかのように、ゆっくりと振り返った。


「まずは自己紹介を――」

「華園はどこだ!」


男の言葉を遮るように、奏は声を上げた。

荒い呼吸のまま、目の前の男を睨みつける。


「そう焦らずに。ターン制バトルといこうよ。まぁ、こ(・)っ(・)ち(・)から仕掛けたわけだし、質問には答えるよ」


男は両の手のひらを広げ、頬の高さまで持ち上げた。

降参を示しているようにも見える。

だが、その表情に緊張はない。


「彼女は、ここにはいない」


男が一つ答える。


「そして、自分のターン。改めて――自分の名前は、砥上沃哉(とがみよくや)。君と話をしに来た」


その言葉を聞いた瞬間、奏はハンドガンを引き抜いた。

銃口を、砥上へ向ける。


「じゃあ、どこだよ!話をしに来た?誰が信じられるかよ!お前は一体、何者だ!」

「一ターンに二回以上行動するのは、ルール違反だ」


声は、背後から聞こえた。


「――っ!?」


遅れて、風が奏の頬を撫でる。

爽やかな香りが、鼻先を掠めていった。

奏は弾かれたように振り返る。


背後、二メートルほど先。


砥上は背筋を伸ばして直立し、両手をポケットへ入れていた。

つい先ほどまで、正面で両手を上げていたはずなのに。


動いた瞬間すら、見えなかった。


疾い。


奏は砥上へ銃口を向け直す。

もし、今の移動で背後を取るだけでなく、攻撃を加えられていたら。

引き金へ指をかけるよりも早く、自分は地面へ倒されていたかもしれない。


「ルール違反」という言葉は、注意ではない。


警告だ。

砥上は銃口へちらりと視線を落とした。


「ちゃんと質問には答えるから、一旦その物騒なモノ、下げてくんない?」

「誰が信じるかっ!」


奏の指は、引き金へかかったまま動かない。

砥上は困ったように眉を下げた。


「で、何の質問だっけ?」


わずかに首を傾ける。


「彼女をどこで保護しているか、だっけ。残念ながら、自分は知らない」


銃を握る奏の手が震えた。


「……!」


声を出そうとしても、言葉が喉につかえる。

砥上は構わず続けた。


「自分を倒しただけじゃ、情報はドロップしないよ」


両手をポケットへ入れたまま、淡々と告げる。


「君は騙されて、ここへ誘導された。それだけ」

「……っ!?」

「そして、君のその腕時計――」


奏は反射的に、自分の手首へ視線を落とした。

父から受け継いだ腕時計。

その文字盤に埋め込まれた、蒼いクォーツ。


「――の、そのクォーツについて調査しに来た。さぁ、君のターンだ」


砥上の視線が、腕時計へ注がれる。


「……それが目的か?」

「じゃあ、これが自分の最後のターンかな?」


砥上はわずかに口元を緩めた。


「――そう。それが、“ラストクォーツ”と呼ばれるものなのか」


一拍置き、今度は奏自身へ視線を戻す。


「そこに宿る召喚獣が、本当に――“蒼竜アビス”なのか」


砥上はポケットから両手を抜いた。

耳にかかる髪をかき上げ、小さなピアスへ指先を触れる。


「それを確かめに来た。――おいで、キューちゃん」


ピアスに埋め込まれたクォーツが、水色の光を放つ。

光は砥上の傍らへ集まり、一羽の鳥の輪郭を形作った。

カワセミを思わせる小さな召喚獣。

目にも留まらぬ速さで翼を羽ばたかせ、ハチドリのように空中へ静止している。


『アルキュオネだ。次は居留守を使うからな』

「はいはい。どうどう」


砥上は不満げなアルキュオネをなだめながら、奏へ視線を戻した。


「さぁ、君の最後のターンだ」


その目が、奏の腕時計に埋め込まれた蒼いクォーツを捉える。


「早く“ソレ”を確かめさせてくれないか?」


アビスを召喚するほかに、手段はない。

先ほど見せつけられた、圧倒的な速さ。

拒めば、自分の身が危うい。


そして拒めば――たとえ砥上が知らないと言っていても――華園の情報を得る道まで閉ざされる。


目の前にいる男は、クラスメイトではない。

これは、訓練でも何でもない。


もう迷わない。

後戻りもしない。


奏は砥上から目を離さなかった。

片手でハンドガンの銃口を向けたまま、もう一方の手を腕時計へ重ねる。

指先が、蒼いクォーツへ触れた。


「――アビス!!」


腕時計から、蒼い光が迸った。

滝壺から舞い上がる無数の飛沫が、その光を受けて蒼く染まる。

やがて光の中から現れたのは、翼を生やした小さな竜だった。


全身を覆う蒼い鱗。

しかし、その幼い体躯は竜というより、翼の生えたトカゲのようにも見える。


アビスは一度だけ宙を旋回すると、奏の肩へちょこんと降り立った。

砥上の眉が、わずかに寄る。


「……そのトカゲが?」

『我が名は、紛れもなくアビスじゃぞ』

「ふっ……冗談はよせ」


砥上は浮遊するアルキュオネへ視線を向けた。


「キューちゃん。まずは手始めに」

『その名で――』


アルキュオネは言いかけて口を閉じ、アビスへ嘴を向ける。

次の瞬間、嘴の先から水が放たれた。

水鉄砲と呼ぶには、あまりにも鋭い。

高密度に圧縮された水が、レーザービームのような一直線を描き、奏の肩にいるアビスへ迫る。


だが――。


奏とアビスの一メートルほど手前で、水流が止まった。

何かにぶつかったわけではない。

勢いそのものを奪われたように、空中へ静止している。


細く伸びていた水がゆっくりと縮まり、一つの水球へ形を変えた。

そして、支えを失ったように崩れ落ちる。

大量の水が奏の目の前へ降り注ぎ、浅瀬に大きな波紋を広げた。


『沃哉……』


アルキュオネが身震いする。

その声から、先ほどまでの不満げな調子が消えていた。


『私の水が、支配を離れた』


小さな蒼い竜を見据える。


『水そのものが、あ(・)れ(・)に従っている。間違いない』

「……そっか。本当にいたんだ」


砥上は小さく息を吐いた。


「なら次は、君がどこまで“それ”を扱えるのか――確かめさせてもらおうかな」


砥上は片腕を胸の高さまで持ち上げ、地面と平行に固定した。

その意図を察したアルキュオネが翼を畳み、差し出された腕へ降り立つ。

砥上とアルキュオネが、短く視線を交わした。


「いくよ――|《召装》《インシグニア》」


アルキュオネの輪郭が、水色のイデアへ解けていく。

鳥の姿を失った光は、砥上の腕を伝い、両手を包み込んだ。

やがて光は、拳から手首までを覆う一対のグローブへ形を変える。


残る光が左右へ分かれた。


砥上の両肩から数センチ離れた場所に、二基の装具が浮かび上がる。

カワセミの頭部と、折り畳まれた翼を思わせる形。

水色から深い青へ透ける羽根状のプレートが重なり、その輪郭を細かく震わせている。


先ほどまでそこにいたアルキュオネの姿も、どこにもなかった。

奏が息を呑む。

砥上はグローブに包まれた両拳を、静かに構えた。


「さぁ、始めようか」


***


――柄沢が、短刀を逆手に握ったまま歩き出す。


一歩。

また一歩。


岬との距離が、ゆっくりと縮まっていく。

先ほどまでのように、次の弾を待つつもりはない。


岬は二挺のデリンジャーを構えた。

残る弾丸は、二発。


「アール!」


呼びかけに応じ、アールが地面へ尾を叩きつける。

岬の背後で土が隆起した。


岬側の面は、背中を受け止めるように垂直。

その反対側は地面へ近づくほど厚く、裾を広げながら大地へ食い込んでいる。


攻撃を防ぐための壁ではない。

これから生じる反動を、受け止めるための壁。

そしてそれは、岬が自ら閉ざした退路でもあった。


岬は土壁へ背中を預け、両足を踏みしめる。

二挺の銃口が、柄沢を捉えた。

夕陽色のイデアが、二つの銃口へ集まり始める。


柄沢が足を止め、目を細めた。


岬は片方の腕をわずかに前へ出す。

二つの銃口が、柄沢へ向かってほとんど重なる。


――全身が重い。


腕の感覚は遠のき、土壁へ預けた背中へ体重がのしかかっていく。

それでも照準は外さない。

残った二発。


ここですべて使う。

岬は浅く息を吸い、二つの引き金へ指をかけた。

そして――引く。


二つの銃声が、ほとんど一つに重なった。

直後、凄まじい反動が両腕から肩を突き抜ける。

岬の身体が土壁へ叩きつけられた。


背中を受け止めた壁が低く軋み、表面から細かな土が零れ落ちる。

夕陽色の閃光が、柄沢へ向かって一直線に駆けた。

弾丸は周囲の土石を抉り、引き寄せ、これまで以上の大きさへ膨れ上がっていく。


柄沢は短刀を逆手へ持ち替えた。


銃口の光が消える瞬間も、発射のタイミングも読めている。

黄土色の刃が、空を裂く。

短刀と凝縮弾が激突した。


轟音。


夕陽色の光が弾け、巻き込まれていた土石が四方へ飛び散る。

凝縮状態は崩れた。


だが、衝撃までは殺しきれない。

柄沢の右腕が、短刀ごと大きく外側へ弾かれた。

砕けた土石と夕陽色の残光が、柄沢の視界を埋め尽くす。


その中に、一つだけ異質なものがあった。

夕陽色の光を纏っていない。

周囲の土を巻き込んでもいない。


凝縮弾の陰を、わずかに遅れて飛んでいた二発目。

何の変哲もない――ただの弾丸。

柄沢の目が見開かれる。


凝縮弾を迎撃した右腕は、短刀ごと外側へ弾かれている。

戻しても間に合わない。

通常弾が、柄沢の右上腕を抉った。


「――っ!」


右腕が大きく跳ねる。

短刀を握る手から力が抜け、切っ先が下がった。

破れた袖から、鮮血が滲み出す。


岬の最後の一発は、確かに柄沢へ届いた。

岬は土壁へ背中を預けたまま、二挺のデリンジャーを下げなかった。


残弾は、もうない。

腕の感覚もほとんど残っていない。

それでも、二つの銃口へ再び夕陽色のイデアを集めていく。


――弾丸がなければ、留められない。

幾重にも凝縮することも、撃ち出すこともできない。

ただ、集めているだけの光。


虚勢に過ぎない。

だが、柄沢は知らない。

柄沢は右上腕の傷へ一瞬だけ目を落とし、すぐに岬へ視線を戻した。


二つの銃口には、依然として夕陽色の光が灯っている。


――あと何発ある。

次は、どこを狙ってくる。

柄沢の表情から余裕が消えた。


怒りに混じり、初めて焦りが滲んでいる。

柄沢の視線が、夕陽色に光る二つの銃口を往復した。


「グラム」


アールと組み合っていたグラムが、柄沢へ顔を向ける。


「……しょうがない――《召装(インシグニア)》!」


呼応するようにグラムが低く吠えた。

その輪郭が黄土色のイデアへ解け、アールの牙が虚空を噛む。

光は柄沢のもとへ流れ込み、左腕へ絡みついた。


指先から上腕までを覆う、頑強なアームガード。

さらに腕の外側でイデアが広がり、縦長の板を形作っていく。

黄土色に鈍く光る、半透明の湾曲盾。


左腕そのものが、盾の内側へ組み込まれていた。


盾は畳一枚ほどの大きさまで広がり、柄沢の全身を二つの銃口から覆い隠した。

負傷した右手には、依然として短刀が握られている。

柄沢が、盾を前へ出す。


「……撃ってこいよ」


先ほどと同じ言葉。

だが今度は、岬の攻撃を見切るためではない。

黄土色の盾に全身を隠し、一歩を踏み出す。


岬は銃口を下げない。

夕陽色の光も、絶やさない。


柄沢が、さらに一歩近づく。

銃声は鳴らない。


もう一歩。

それでも、岬は撃たない。


二挺の銃口へ集められた光が、わずかに揺らいだ。

柄沢の足が止まる。


「……弾切れか?さてはブラフだな!くそっ!」


声から、焦りが消えた。

残ったのは、右腕を撃たれた怒りだけ。


柄沢の左腕に沿って、畳一枚ほどに広がっていた盾が縮み始める。

面積を失うほど、半透明だった黄土色は濃く、鈍くなっていく。


防御のために広げていたイデアを、打撃の一点へ集めている。


「大人を舐めるなよ、嬢ちゃん」


柄沢が重心を落とした。

左肩を前へ入れ、縮小した盾を構える。


その動きを見たアールが、岬のもとへ駆け戻ろうとした。

だが、傷ついた前脚が地面を滑る。

解れかけた輪郭が揺らぎ、踏み出した身体を支えきれない。


柄沢が地面を蹴った。


岬は咄嗟に二挺のデリンジャーを交差させ、顔と胸を庇う。

直後、黄土色の湾曲盾が両腕へ叩き込まれた。

衝撃が、骨の奥まで突き抜ける。


「――っ!」


岬の身体が背後の土壁へ押しつけられた。

岬の背後の壁、表面に亀裂が走る。

反動を受け止め続けていた土壁は、次の瞬間、轟音とともに崩壊した。


岬は大量の土塊と一緒に後方へ吹き飛ばされる。

二挺のデリンジャーが手を離れ、地面を転がった。


土煙が舞う。


その向こうで、岬の身体が地面へ落ちた。

起き上がろうと腕へ力を込める。

だが、身体は動かなかった。


柄沢が、崩れた土壁を踏み越える。

黄土色の盾を左腕へ沿わせたまま、地面に伏した岬へ近づいていく。


アールが低く唸った。

岬を守ろうと前脚を伸ばすが、解れかけた身体は地面を掻くばかりで前へ進まない。


柄沢は右手の短刀を握り直した。

撃たれた上腕から、新たな血が滲む。


それでも足は止めない。

一歩。

また一歩。

岬のそばまで辿り着き、短刀を振り上げる。


「……これだから、女はよぉ――」


刹那。


一条の雷光が、柄沢と岬の間を貫いた。

直後――雷鳴。


轟音とともに地面が爆ぜる。

柄沢は左腕を持ち上げた。

湾曲盾が瞬時に面積を広げ、弾け飛んだ土砂と雷光を正面から受け止める。


衝撃に押され、柄沢の足が後方へ滑った。

舞い上がった土煙の中を、細い稲妻が走り抜けていく。

柄沢は短刀を下げ、雷が飛来した方向へ振り返った。


「おっさん、あーしらのダチに何してんの?」


土煙の向こうから、声がした。

やがて煙が風に流され、二つの人影が姿を現す。

銀色の髪を持つ二人の少女。


――双鳶姉妹だった。


霹は半歩前へ出て、柄沢を真っ直ぐに見据えていた。

その口元はわずかに吊り上がっている。

だが、目は笑っていない。


隣に立つ靂の視線は、地面に伏した岬とアールへ向けられていた。


「あーし『ら』?」


静かな疑問が、霹の隣から投げかけられる。


柄沢の前に、二つの雷が立ちはだかった。



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