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フラワースタンド用の花を摘んだ後、適当に散策しつつ時間を潰してから、温泉へ戻った。
『いい感じの棒』は握り具合が本当にいい感じなので捨てるのが惜しく、アイテムボックスへ仕舞った。
そういえば有名ゲームの初期装備で『〇〇の棒』というのがあった。この棒は、俺にとっての初期装備といえるかも。
攻撃力は望めないが、振り回せば対象を怯ませることくらいはできそうだ。
ただし、小動物に限る。
まぁ、それはさておき、温泉施設の前では見張りと思しき男性が、腕組みをして立っていた。天幕から人の気配はしないので、恐らく領主様一行は入浴中なのだろう。
(これじゃ脱衣場に入れないな。もうちょっと時間を潰してくればよかった…。さてどうするか…)
もう一度ブラブラするにしても、見張りは俺に気付いているようなので、一応声を掛けておくべきかな。
「お勤めご苦労さまです。私は今晩こちらで寝泊まりする、薬師見習いのサトーと申します。
領主様は今、入湯されているのでしょうか?」
「ニュウトウ…?我が主は仲間と共に湯浴み中だ。薬師殿なら通していいと言われているから中に入ってくれ」
「あ、いえ、お気遣いありがとうございます。お邪魔になるといけないので、領主様達の湯浴みが終わる頃合いにまた参ります」
全裸な野郎共がいる場で待機するなんて、ムリムリの無理。
頭を下げつつ遠慮を装って断りを入れると、見張りの人は「それなら我々の天幕で待つといい」と天幕へと誘導してくれた。
領主様の部下ならそれなりの身分なんだろうけど、きちんと対応してくれるので有り難く思う。
この領主にしてこの部下あり、ってとこかな。
万能薬のお陰もあるが、ウィル様をはじめ、俺が出会った貴族は平民を見下すようなことはなかった。
ま、百人百様というから、血筋家柄至上主義で平民を蔑視する貴族もいるとは思う。願わくば会いたくないものだ。
見張りの人は、前回とは別の天幕に俺を案内してくれた。
いわゆる四方幕テントで一回り大きく、こっちはお供の人達が利用するんだろう。
「適当に寛いでくれ」と言われたが寛げるはずもなく、取り敢えず地べたに座って辺りを見回してみた。
天幕の隅には防具や武器、大きなズタ袋?が4つほど、村からの差し入れと思われる食料や水が入った木箱が置かれていた。
(あの人達、この天幕の中で雑魚寝するんか。もしかしなくても土の上で直寝?布か何か敷くとか?
どっちしても俺もこれをやる日が来るんだろうけど、体痛くなりそうだなぁ)
ウィル様のように転移魔法が使えるならいざ知らず、移動手段が徒歩な俺は、否が応でも野宿をしなければならない。
(大きい布袋に藁を詰めて敷布団代わりを作るか?
いや、村を出るのに、そんなモノ作って変に思われても困るか。アイテムボックスに入れれば良いんだけど、普通なら持ち運べる代物じゃないし、ツッコまれると面倒だな)
少しでも快適な野宿の方法を考えていると、急に天幕の外がさわがしくなる。
慌ただしい足音がこちらへ近づいてきたかと思えば、天幕の入り口が勢いよく開かれ、全裸の領主さまが乗り込んできた。
「薬師殿!すぐ来てくれ!!」
「は? え? え!?」
領主様は、ギョッとする俺の腕を掴み天幕の外へと連れ出した。
お供の人が、領主様の腰巻き用の布を手にオロオロしているのを横目に、温泉施設へと連行されていく俺。
「あっ、あの!いったい何が?」
「温泉で部下が倒れた!意識が朦朧としている!今すぐ診てくれ!」
領主様の説明を聞く限り、単に風呂でのぼせたのだと思うが…?
脱衣場に着くと、一人の男性が寝かされていた。周りには同僚達が心配そうな表情を浮かべている。
俺は男性の側に屈んで、彼を注視した。
ガタイのいい領主様や他の人達より細身、というか中肉中背で『普通』の男性に見える。
その姿に、ふと先日の自分の醜態を思い出して、おおよそ察した。
この人は文官的な人なんだろう。日々鍛えている人たちに付き合えば、そりゃのぼせもするわ。
取り敢えずこのままじゃ辛かろうと、脱衣場に置いていた俺のボンサックから、小分けにして入れておいた、栄養ドリンクの小瓶を取り出した。
「この方は、のぼせている状態です。恐らく温泉に浸かり過ぎたのでしょう。
水分補給をさせて体を冷せば回復するはずなので、どなたか水を持ってきてもらえますか?
あと、念の為この小瓶の薬を飲ませます。よろしいですか?」
「構わん、やってくれ」
領主様の了承を得て、俺は男性の上半身を抱き起こした。意識がない状態なのでそこそこ重い。
『これがかわいい女性なら…』と、妄想しかけたところで、薄っすら男性の瞼が開いた。体調不良の人を不安にさせないように、ここは優しく微笑んでおこう。
「体調はどうですか?」
「あなたは…天使か…?ここは…?わたしは…死んだのか?」
彼はまだ意識が朦朧としているようだ。
俺の前方からも、息を呑む気配がするが無視無視。とにかく栄養ドリンクを飲ませてしまおう。
「大丈夫、ちゃんと生きてますよ。これを飲んでください。不調が和らぐはずです」
小瓶を男性の口元に持っていくと、素直に口をつけてくれた。喉仏が上下に動き、嚥下したのを確認してから、ゆっくりを彼の体を横たえた。
一応このドリンクも『万能薬』らしい。のぼせにも効果があるといいけど。
仕事を終え、俺は領主様の方へ向き直った。
流石に全裸ではなく、パンツを履いていたので胸をなで下ろす。履いてなければ、元の世界ならお巡りさんを呼ぶ案件だ。
さて、改めて今回の経緯を領主様に確認したら、やはりこの状況はなるべくしてなったようだ。
領主様のような、タフそうな人の指南で温泉に入れば、まぁ一般人はのぼせるわな。『各自の頃合いで湯から出る』事ができないんだから。
見たところ文官さん(仮名)以外は体力バカっぽいので、自分たちは平気なのに文官さんが倒れて慌てたんだろう。
そんな文官さんも、のぼせは治まったようで体を起こし、同僚から渡された水を飲んでいる。
チラチラこちらを見ているので、領主様に声を掛けるタイミングを計っているようだ。
それを分かってはいたが、今このタイミングで領主様には釘を刺しておきたい。少しだけ待っていてほしい。
体の不調が緩和される温泉だが、長湯してのぼせるのは本末転倒なのだ。
「僭越ながら薬師見習いとして、領主様や部下の皆様にお伝えしたいことがございます。
実感されている方もいると思いますが、この温泉は薬効が高く、体の不調を緩和させます。但しそれは適度に入浴された方のみ。
長く湯に浸かったからといって、その分効果が増すというものではございません。
この湯の温度は高めです。長く入って大丈夫な方もいれば、数分で限界な方もいるでしょう。
入浴時間は個々で判断してください。
領主様より先に出るのは不敬、などと思わないでください。ご自身のペースで入浴してください。
王太子殿下…、の、側近であらせられるガーランド小公爵さまにご入浴を指南させていただいた際にも、身分の件はご了承いただいております。
ご領主様もご了承いただけますと幸いです」
「ガーランド小公爵が了承したということは、殿下も承知しているのであろう。異議を唱えるなど無礼千万!
薬師殿、いや、サトー殿と呼ばせていただこう。貴殿の助言、しかと心得た。
それから部下を診てくれたこと、感謝する」
「薬師見習いとして当然のことをしたまでです。ハジメリ村滞在中に、何かございましたらいつでもお声掛けください」
このやり取りをきっかけに、俺は領主様御一行と交流を深めることになってしまった。
幸いなのは、脱衣場で領主様と一緒に就寝しなくてよくなった事だ。…というか、村長に負担をかけない為の方便で、最初から天幕で過ごす予定だったそうだ。
温泉施設周辺に天幕が張れるスペースがあることも把握したうえで俺に乗っかったのだろう。
冗談交じりに『儂はこのままサトー殿と一緒に寝ても構わんが、貴殿が落ち着かんだろう?』と言われたが、肯定も否定もできず、笑ってごまかしておいた。
余談だが、のぼせた文官さんは余っ程のぼせが辛かったのか、俺と顔を合わせるたびに毎回介抱のお礼を言ってくる。
何事にも限度がある。いい加減ゲンナリしている事を察して欲しい、今日この頃である。




