第98話 Bブロック 1組目
Aブロックの二試合が終わり、観客の興奮もまだ冷めていない。
次はBブロック。
「続いて、Bブロック1組目!」
実況の声が闘技場へ響く。
「一年! 神道聖子!」
観客席から、少し意外そうなどよめきが起こった。
神道聖子。
一年生。
しかし、教師陣からの評価は非常に高い。
得意とするのは、生物に干渉する魔法。
その中でも特に危険なのが――記憶と神経へ作用する魔法だった。
聖子は静かに闘技場へ入る。
表情は穏やか。
杖を握る手にも、ほとんど力が入っていない。
「対するは!」
「三年! シルヴィア・クロフォード!」
大きな歓声。
三年生。
光魔法の使い手。
しかし、学院内での評価はどちらかといえば――
目立たない天才。
派手な名家の出身でもない。
圧倒的な魔力を持っているわけでもない。
それでも。
光魔法に関しては異常なほどの適応力を持っていた。
そして何より。
戦闘中の学習能力。
相手の魔法を見て。
実際に戦って。
そこから自分の魔法を変えていく。
シルヴィアは静かに杖を構えた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
聖子も頭を下げる。
審判が両者を確認する。
「それでは――」
旗が振り下ろされた。
「開始!」
最初に動いたのはシルヴィアだった。
「閃光弾!」
小さな光球が飛ぶ。
次の瞬間――
パァン!
闘技場が真っ白になった。
「うおっ!?」
観客席から声が上がる。
強烈な光。
しかしシルヴィアにはほとんど負担がない。
視界を奪う。
その隙に距離を取る。
非常に単純な魔法。
だからこそ使いやすい。
聖子は目を細めながらも、すぐにシルヴィアの位置を捉える。
「光魔法ですか」
「そう」
シルヴィアが答える。
「だったら――」
聖子が踏み込んだ。
速い。
シルヴィアが横へ跳ぶ。
聖子の手が空を切る。
「惜しい!」
シルヴィアが距離を取る。
聖子は追う。
もう一度。
さらに一度。
シルヴィアは避け続ける。
そして――
聖子の指先が。
シルヴィアの腕に触れた。
「……!」
観客席がざわめく。
シルヴィアはすぐに距離を取った。
「触れた!」
「神道の魔法って、触れたらまずいんじゃないのか!?」
天城も観客席から試合を見つめていた。
(まずい……)
神道聖子の魔法について詳しいことは知らない。
だが。
触れられること自体が危険。
それだけは分かっている。
シルヴィアも、自分の腕を見る。
そこに明確な傷はない。
だが――
「……来た」
身体の内側に違和感が走った。
神道の魔法。
生物の内部へ作用する魔法。
シルヴィアの身体へ、異常な変化が起こり始めていた。
観客席からは見えない。
しかし。
シルヴィアは理解した。
(このままだと危ない)
ならば。
どうするか。
シルヴィアは一瞬だけ目を閉じた。
そして――
「光よ」
身体の周囲へ光が集まる。
熱。
光魔法によって生み出されたエネルギーが、シルヴィア自身の身体へ流れ込む。
「……っ!」
身体が熱を帯びる。
異常なタンパク質。
それを――
分解する。
完全に理解したわけではない。
だが。
戦いながら理解した。
自分の身体に起きている異常。
それを光魔法によって処理できる。
「な……!」
聖子が初めて驚いた。
シルヴィアは立っている。
「私の魔法を……」
「自分で処理した?」
シルヴィアは息を整える。
「たぶん」
そして。
笑った。
「やってみたら、できた」
観客席がざわつく。
天城も目を見開く。
(戦いながら……適応した?)
シルヴィアが杖を構える。
「じゃあ――」
光が集まる。
「次は、こっちから行く」
閃光弾。
再び光が弾ける。
聖子が目を覆う。
その瞬間。
シルヴィアが横へ回り込む。
「光刃!」
光の刃が走る。
聖子は土壁を展開する。
だが。
シルヴィアの魔法は止まらない。
「まだ!」
光が変化する。
地面を走る。
そして――
地面そのものをえぐりながら進んでいく。
「これは……!」
実況が叫ぶ。
「光の斬撃が地面を削りながら進んでいる!」
シルヴィアの新たな魔法。
「光壕斬」
凄まじいエネルギーを持つ光の斬撃。
普通の防御魔法なら、受けた瞬間に耐えきれず砕け散る。
聖子が防御魔法を展開する。
光壕斬が衝突。
――バァン!
防御魔法が砕けた。
「くっ!」
聖子が後退する。
すぐに次の魔法を展開。
だが。
シルヴィアはもう一度、光壕斬を放つ。
今度はさらに速い。
聖子は回避する。
しかし。
シルヴィアは追撃する。
閃光。
光刃。
光壕斬。
魔法を撃つたびに、その精度が上がっていく。
最初とは明らかに違う。
「なんだあの人……」
「さっきより強くなってないか?」
「戦いながら魔法を変えてるぞ!」
聖子も負けていない。
神経へ干渉する魔法。
視界。
感覚。
記憶。
相手の認識そのものを揺さぶる。
シルヴィアの動きが一瞬だけ止まる。
「――っ!」
だが。
シルヴィアは再び光を放った。
自分の周囲を光で満たす。
視界を奪われる。
感覚を狂わされる。
それでも。
自分が今どこにいるのか。
何をすべきなのか。
光魔法によって状況を立て直す。
「……もう分かった」
シルヴィアが呟く。
「あなたの魔法」
杖を構える。
「触らせなければいいんだ」
聖子の表情が変わった。
シルヴィアの周囲。
大量の光が集まっていく。
「光壕斬――」
闘技場の地面が震える。
「最大出力!」
巨大な光の斬撃が走った。
聖子は防御する。
しかし。
防御魔法が次々と砕ける。
「――っ!」
最後の防御が崩れた。
聖子は場外へ転がる。
審判が駆け寄る。
そして旗を上げた。
「勝者!」
「三年、シルヴィア・クロフォード!」
会場が大歓声に包まれる。
シルヴィアは肩で息をしながら、静かに杖を下ろした。
聖子は悔しそうにしながらも、立ち上がる。
「……強いですね」
シルヴィアは笑う。
「ありがとう」
そして。
観客席の天城は、シルヴィアを見つめていた。
(最初は閃光弾だけだった。)
(でも、戦っている間に相手への対処方法を覚えていった。)
(あの人……)
天城は少し驚いたように笑う。
(戦闘中に成長してるのか?)
Bブロック1組目。
勝者は――
三年・シルヴィア・クロフォード。
隠れていた才能が。
今、魔法大祭という大舞台で姿を現し始めていた。




