第97話 Aブロック 2組目
Aブロック、一組目の激戦が終わった。
そして次の試合。
「続いて、Aブロック二組目!」
実況の声が闘技場に響く。
「三年! アイランド・アームストロング!」
大きな歓声が上がった。
鍛え上げられた巨体。
立っているだけでも圧を感じるほどの筋肉。
しかし、その表情は穏やかだった。
アイランドは闘技場へ入ると、観客席へ一礼する。
「よろしくお願いします!」
礼儀正しい。
非常に礼儀正しい。
だが――
その身体は、どう見ても普通の高校生ではない。
「対するは!」
「二年! エクレシア・イクシー!」
昨日のお題競争で優勝した少女。
創造魔法の技術は、学院でも屈指。
特に、与えられた素材を自在に加工し、複雑な構造物を作り出す能力は他の追随を許さない。
そして。
手には魔法陣が描かれた紙。
何枚もの術式紙を準備している。
「アイランド先輩」
エクレシアが頭を下げる。
「全力で行きます」
「もちろん!」
アイランドも笑って答えた。
「二年生だからって手加減はしない!」
審判が両者を見る。
「それでは――」
旗が振り下ろされた。
「開始!」
最初に動いたのはエクレシア。
術式紙を一枚。
空中へ放り投げる。
魔法陣が展開される。
「土槍!」
地面が盛り上がった。
一本。
二本。
十本。
さらに――
「まだまだ!」
無数の土槍が形成される。
そして。
それらが一斉に空中へ浮き上がった。
「なっ……!」
観客席がざわめく。
空を埋め尽くすほどの槍。
「行け!」
土槍が一斉に降り注ぐ。
――ズドドドドドドドッ!!
闘技場の地面へ次々と突き刺さる。
しかし。
「おおっ!」
アイランドは走っていた。
一本。
二本。
三本。
迫り来る槍を、身体を捻り、跳び、しゃがみ、紙一重で避けていく。
まるで槍の雨の中を歩いているかのようだった。
「全部避けてる!?」
実況が叫ぶ。
最後の一本。
アイランドは横へ跳んだ。
槍が頬のすぐ横を通過する。
そして――
「よっと」
アイランドはその槍を掴んだ。
土でできた一本の槍。
それを軽々と持ち上げる。
「……?」
エクレシアが目を見開く。
アイランドは槍を見る。
「これ、借りていいかな?」
「え?」
「返すよ!」
そう言って。
アイランドは槍を――
投げた。
「――っ!」
槍が飛ぶ。
ただの投擲。
ただの槍投げ。
それだけだった。
しかし。
――――ズドォォォォォン!!!
凄まじい音が闘技場を揺らした。
槍が地面へ突き刺さった瞬間、砂煙が一気に舞い上がる。
「うおおおおおお!?」
「何だ今の!?」
「槍投げただけだぞ!?」
観客席が騒然となる。
煙が晴れていく。
地面には深い跡が残っていた。
アイランドは自分の手を見る。
「……ちょっと強く投げすぎたかな」
天城は観客席からその光景を見ていた。
「……」
しばらく無言。
(……身体強化、使ってないよな?)
使っていない。
あれは――
素の身体能力。
アイランド自身の肉体だけで出した威力だった。
エクレシアも驚いていたが、すぐに術式紙を取り出す。
「……まだです!」
次々と魔法陣が展開される。
地面が盛り上がる。
巨大な土塊。
壁。
槍。
刃。
球体。
次々と形を変えながら、アイランドへ襲いかかる。
「これなら!」
物量。
エクレシアの最大の武器。
一つ一つの威力ではなく、圧倒的な数と種類で相手の逃げ場を奪う。
しかし。
アイランドは――
拳を握った。
「おおおおおっ!」
走る。
迫ってきた土塊を――
殴る。
――ドゴン!
粉砕。
横から迫った土槍。
――バキッ!
拳で折る。
頭上から巨大な土塊。
――ドォン!
正面から殴り飛ばす。
「えええええ!?」
観客席から悲鳴に近い声が上がる。
エクレシアは次々と術式紙を使う。
地面から巨大な壁を作り出す。
アイランドは――
殴った。
壁が崩れる。
さらに槍。
殴る。
土塊。
殴る。
岩。
殴る。
魔法。
殴る。
「いや、あの人……!」
「全部拳で壊してない!?」
実況も混乱している。
エクレシアは必死に魔法を展開する。
「まだ……!」
術式紙を取り出す。
魔法陣が広がる。
そして――
空。
その遥か上空に、巨大な魔法陣が出現した。
「……!」
観客席が静まり返る。
エクレシアが空を見上げる。
「降りてきて!」
大量の槍が――
空から落ちてきた。
土で作られた無数の槍。
まるで雨。
いや。
槍の雨。
闘技場全体を覆い尽くす。
エクレシアの創造魔法。
地中で形成した土の槍を空中へ転移させ、一斉に降らせる。
無から生み出しているわけではない。
この闘技場に存在する土を利用している。
だが。
それでも。
この規模は異常だった。
「アイランド先輩!」
エクレシアが叫ぶ。
「これを全部避けられますか!」
アイランドは空を見上げた。
そして。
笑った。
「やってみよう!」
槍が降る。
アイランドが走る。
避ける。
跳ぶ。
そして――
真正面から降ってきた一本を。
「……!」
拳で叩き落とした。
そのまま前へ走る。
エクレシアが次の術式紙を構えようとした瞬間。
アイランドが目の前にいた。
「えっ――」
拳が止まる。
エクレシアの目の前。
ほんの数センチ。
アイランドの拳はそこで止まっていた。
「……」
静寂。
アイランドは拳を下ろす。
エクレシアが呆然とする。
「……え?」
「俺の勝ち、かな?」
審判が慌てて旗を上げる。
「勝者!」
「三年、アイランド・アームストロング!」
一瞬遅れて。
会場が爆発するような歓声に包まれた。
「うおおおおおおお!」
「魔法使ってないぞ!」
「全部拳で壊したぞあの人!」
アイランドは観客席へ向かって一礼する。
そしてエクレシアへ手を差し出した。
「すごかったよ」
「……ありがとうございます」
エクレシアはその手を握る。
「でも……」
悔しそうに呟く。
「全然届かなかった……」
「そんなことないって!」
アイランドは笑った。
「槍の雨、あれ本当にすごかったぞ!」
その笑顔に、エクレシアも少しだけ笑った。
観客席。
天城は腕を組みながらアイランドを見ていた。
(……あいつ。)
(三年になっても、相変わらず規格外だな。)
魔法大祭。
Aブロック二組目。
勝者は――
三年・アイランド・アームストロング。
しかも。
最後まで――
魔法を一切使わずに。




