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第94話 勉強嫌い

 神崎家から帰ってきた天城理人は――

 机に向かっていた。

 時刻は夜。

 机の上には紙が大量に並べられている。

 魔法式。

 計算式。

 物質の性質を書き出したメモ。

 そして――

「……うーん」

 天城は頭を抱えた。

 魔法開発。

 それだけなら、いくらでも考えられる。

 だが。

「やっぱり、もっと自由にできないか?」

 天城が紙に書く。

 今までの魔法は、基本的に「何かを発生させる」ものだった。

 炎。

 電気。

 風。

 様々な現象を魔法として再現する。

 しかし。

 天城が今回考えていたのは――

 物質そのものを変えること。

「形を変えるだけなら……」

 天城は机の上に置かれた消しゴムを見る。

「固体を別の形にする」

 魔方陣を描き、魔力を込める。

 消しゴムの形が変わる。

 四角形。

 円柱。

 球。

 細長い棒。

「……できる」

 天城は目を細めた。

 物質そのものが別の物質になったわけではない。

 構成するものは同じ。

 ただ、形状が変化しただけ。

「なら……」

 さらに考える。

 形状。

 密度。

 状態。

 配置。

 構造。

 それぞれを魔法式に組み込めないか。

 天城は紙を次々と増やしていく。

「この条件なら……」

 書く。

「いや、こっちか?」

 消す。

「待てよ……」

 また書く。

 そして――

 数時間が経過した。

* * *

「…………」

 天城は机の上を見つめていた。

 紙。

 紙。

 紙。

 紙。

 そして、完成した魔法式。

「……よし」

 天城は満足そうに頷いた。

 その瞬間。

 机の端に置いてあった教科書が目に入った。

「…………」

 数学。

 国語。

 古代語。

 その他、学校の勉強道具。

 天城はしばらく眺める。

「……」

 そして。

 魔法式の紙をその上に置いた。

「今はこっちだな」

 勉強終了。

 いや。

 始まってすらいない。

 天城は魔法開発へ戻った。

 魔法なら、いくらでも考えられる。

 物質の性質。

 状態変化。

 形状変換。

 魔力による操作。

 科学の知識を一つ繋げるたびに、新しい可能性が生まれてくる。

「魔法って……」

 天城はペンを回す。

「結局、何でもできるんじゃないか?」

 もちろん。

 何でもできるわけではない。

 魔力にも限界がある。

 魔法式にも限界がある。

 必要な知識もある。

 そして――

 基本的に法則そのものを無視することはできない。

 だからこそ。

 天城は考える。

 どうすれば。

 既に存在する物質を。

 既に存在する現象を。

 魔法によって組み替えられるのか。

「……面白い」

 天城の口元が少しだけ上がった。

 また紙に新しい式を書き始める。

 その式が何を意味するのか。

 それが何に使われるのか。

 今はまだ――

 誰にも分からない。

 天城自身ですら。

「……これ、使えるか?」

 天城は完成した魔法式を眺める。

 そして。

 ニヤリと笑った。

「魔法大祭まで、秘密にしとくか」

 そう呟くと、天城は紙を伏せた。

 机の上には、いくつもの新しい魔法式。

 そのどれもが――

 まだ、完成していない。

 しかし。

 少しずつ。

 確実に。

 天城理人の中で、何かが形になり始めていた。

 ――魔法大祭。

 そこで何をするのか。

 それはまだ、誰も知らない。

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