第90話 打ち上げ
卒業式。
解放の儀式。
そして。
長かった三年間が終わった。
その日の夜。
ニューゴン先生の家。
「卒業おめでとう!」
クラッカーの音が響いた。
「……おめでとうございます!」
神埼おとが拍手する。
「おめでとう」
神埼信之も笑う。
「お疲れ様」
天城も笑顔で拍手した。
「先輩たち、本当に卒業したんですね」
「まあな」
石破が穏やかに笑う。
アイザも珍しくこの場に来ていた。
「こういう集まりも悪くないわね」
「アイザさんが来てくれるとは思わなかった」
天城が驚く。
「私だって打ち上げくらい来るわよ」
そう言ってアイザは笑った。
そして。
「……」
部屋の隅。
フィクアリーがいた。
座ったまま。
目が死んでいる。
「……」
「フィクアリー?」
天城が声をかける。
「……なに」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
「即答!?」
フィクアリーは机に突っ伏す。
「無職」
「うん」
「無能」
「いや、それは違うだろ」
「やることない」
「……」
天城は何も言えなくなった。
昨日まで。
学院最強クラスの魔法使いだった。
《水泡》という異常な魔法を使い。
魔法開発を続け。
卒業後も研究するはずだった。
それなのに。
今は。
魔法そのものが使えない。
「……」
おとがフィクアリーを見る。
「先輩」
「ん」
「ケーキ食べません?」
「……ケーキ?」
「作ってきました!」
テーブルの上に。
手作りのケーキが置かれる。
「おお!」
天城が身を乗り出す。
「すごい!」
「頑張りました!」
フィクアリーも少しだけ顔を上げる。
「……食べる」
「よかった!」
おとが笑う。
その横では。
「俺も料理を用意したぞ!」
ニューゴン先生が胸を張っていた。
「先生が?」
「そうじゃ!」
「何作ったんですか?」
「菓子じゃ!」
しかし。
天城は妙な焦げ臭さに気づいた。
「……先生」
「なんじゃ?」
「なんか焦げ臭くないですか?」
「気のせいじゃ」
「いや、絶対気のせいじゃないです」
その瞬間。
キッチンの奥から。
ボンッ!
「……」
「……」
「……」
全員が固まった。
ニューゴン先生がゆっくり立ち上がる。
「……そういえば」
「オーブンに入れておったのを忘れておった」
「何を!?」
「新作の菓子じゃ」
ニューゴン先生がキッチンへ向かう。
しばらくして。
「うむ」
「大成功じゃ!」
「どこが!?」
オーブンは真っ黒。
中には。
原型を失った何か。
「先生」
信之が呆れた顔をする。
「それ食べられるんですか?」
「たぶん」
「たぶん!?」
アイザが吹き出す。
「相変わらずね」
ニューゴン先生は胸を張る。
「料理とは実験じゃ!」
「お菓子作りで実験するなよ……」
天城が呟いた。
その後。
食事を終え。
テーブルの上が片付けられる。
「さて」
おとが何かを取り出した。
「ゲームやりません?」
「ゲーム?」
「はい!」
テレビの前にゲーム機が置かれる。
「対戦ゲームです!」
「いいね!」
天城が食いつく。
「俺もやる」
石破も座る。
「私も」
アイザも参加する。
「神埼さんは?」
「俺もやろうかな」
「よし!」
いつの間にか。
全員がコントローラーを持っていた。
「フィクアリー先輩も!」
「……」
「やる?」
「……やる」
フィクアリーもコントローラーを握る。
ゲーム開始。
「うわっ!」
「待って!」
「それ反則だろ!」
「ははは!」
部屋に笑い声が響く。
フィクアリーは無言で画面を見ている。
そして。
「……」
数分後。
「勝った」
「え?」
天城が画面を見る。
フィクアリーが一位。
「なんで!?」
「普通にやった」
「いや、上手すぎるだろ!」
「……」
フィクアリーは少しだけ口元を緩めた。
その表情を見て。
おとが嬉しそうに笑う。
「先輩、もう一回やりましょう!」
「うん」
もう一度。
ゲームが始まる。
卒業した三人。
これから二年生になるおと。
そして。
もうすぐ三年生になる天城たち。
それぞれの道は。
これから大きく分かれていく。
けれど。
今夜だけは。
そんなことを考える必要はなかった。
ただ。
笑って。
遊んで。
卒業を祝う。
そんな夜だった。




