第9話 魔法開発
国立魔法学院。
選択科目、二つ目の授業。
天城理人が選んだ科目。
魔法開発
その名前を聞いた時から、理人は少し楽しみにしていた。
なぜなら――
「新しいものを作る授業」
だからだ。
理人にとって、これほど興味を引かれるものはなかった。
教室に入ると、そこは普通の教室ではなかった。
机の上には大量の魔石。
魔法式を書き込むための特殊な紙。
そして、一人一本ずつ用意された魔法筆。
先生が説明を始める。
「魔法開発では、既存の魔法を覚えるだけではありません」
黒板に文字が浮かぶ。
現象を理解し、魔法式を構築する
「まず、どんな現象を起こしたいのかを決める」
「次に、その現象を発生させるために必要な魔力変換を考える」
「最後に、魔法式として組み上げる」
理人は頷いた。
「これ、実験と同じだ」
普通の魔法授業では、
完成した魔法を使う。
しかし魔法開発では違う。
結果から逆算する。
先生は例を見せる。
「火を出す魔法を改良したい場合」
「ただ火を大きくするのではなく、なぜ火が発生するのかを考える」
酸素。
燃料。
熱量。
反応速度。
必要な条件を調整する。
「魔法とは、現象を設計する技術です」
生徒たちはそれぞれ作りたい魔法を考える。
小さな炎を強化する魔法。
水を細かく制御する魔法。
光を発生させる魔法。
そんな中。
理人は紙に向かっていた。
「……」
しばらく考える。
そして書いた。
乱気流発生魔法
隣の生徒が見る。
「え?」
「乱気流?」
「もっと普通の魔法作らないの?」
理人は首を傾げる。
「普通って?」
「火とか水とか……」
「でも、風って面白くない?」
理人は真剣だった。
風は目に見えない。
しかし、大きな力を持っている。
まず考える。
乱気流とは何か。
ただ風を強く吹かせるだけではない。
空気の流れが不安定になる現象。
原因。
温度差。
気圧差。
流体の乱れ。
「なら……」
理人は式を書き始める。
暖かい空気。
冷たい空気。
密度差。
上昇気流。
下降気流。
複数の流れをぶつける。
「温度差を作って、空気の移動を発生させる」
魔法式に変換する。
しかし。
すぐには成功しない。
「……失敗」
魔法を発動すると、
小さな風が吹いただけだった。
「威力不足」
次。
魔力を増やす。
「違う」
風は強くなったが、ただの突風。
「これじゃ乱気流じゃない」
三回目。
四回目。
何度も修正する。
周囲の生徒たちは完成させていく。
しかし理人だけは止まらない。
先生が近づく。
「まだ続けるのですか?」
「はい」
理人は紙から目を離さない。
「現象が起きない理由を探しています」
「普通は魔力不足を疑います」
「でも違います」
理人は式を見る。
「エネルギーは足りている」
「問題は流れの制御です」
先生は少し驚く。
高校生が考える内容ではなかった。
しかし理人本人は気づいていない。
ただ、実験で失敗した原因を探しているだけだった。
そして。
何度目かの修正。
理人は魔法筆を置く。
「これなら……」
魔力を流す。
周囲の空気が揺れる。
暖かい空気と冷たい空気が混ざり合う。
風が渦を巻き始める。
「成功……?」
小さな乱気流。
まだ不完全。
でも確かに、普通の風魔法とは違う。
先生が確認する。
「これは……」
「乱流を人工的に発生させていますね」
理人は頷く。
「はい」
「自然現象を再現しただけです」
教室が静かになる。
魔法開発とは、本来もっと単純なものだった。
既存魔法の改良。
魔力量の調整。
発動速度の改善。
しかし理人は違った。
彼は魔法を、
「現象」
として見ていた。
だから魔法を作る時も、
「何が起きるか」
から考える。
授業終了後。
先生は理人の提出した魔法式を見る。
まだ未完成。
実用レベルには遠い。
しかし。
「面白い魔法ですね」
理人は笑う。
「ありがとうございます」
「なぜこの魔法を作ろうと思ったのですか?」
理人は少し考える。
「……風って、見えないのにすごい力があるから」
「それを自分で作れたら面白いかなって」
先生は微笑んだ。
天城理人。
魔法を使う者ではなく。
魔法を作る者としての才能が、少しずつ現れ始めていた。




