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第88話 先輩たちの卒業試験

 三学期。

 魔法学院、卒業試験。

 実技試験場には、三年生たちが集まっていた。

 卒業を目前に控えた生徒たち。

 その表情には緊張が浮かんでいる。

 試験官を務めるのは、教師の黒崎。

「これより卒業実技試験を開始する」

 黒崎が淡々と告げる。

「試験内容は二つ」

 巨大な標的が運び込まれる。

 何重もの防御結界が展開されている。

「第一試験」

「防御結界で守られた標的を、魔法によって撃破すること」

 続いて黒崎が杖を構える。

「第二試験」

「私が放つ魔法を、防御または回避すること」

「制限時間はそれぞれ五分」

「では」

「始める」


 最初に呼ばれたのは。

 石破武。

「石破」

「はい」

 石破が標的の前へ立つ。

 標的には強固な防御結界。

 普通の攻撃魔法なら、まず突破できない。

「……」

 石破は魔法陣を展開する。

 複雑な数式。

 幾何学。

 そして。

 実数の切断。

「実数を……」

 石破が静かに呟く。

「切る」

 魔法が発動。

 標的を覆っていた防御結界の一部分が。

 まるで最初から存在していなかったかのように消える。

「……!」

 観客席がざわめく。

 石破はそのまま開いた一点へ魔法を撃ち込む。

 直撃。

 標的が大きく揺れた。

「合格」

 黒崎が即座に告げる。

 石破は軽く頭を下げる。

「次」

 黒崎が杖を向ける。

「第二試験」

 魔法が飛ぶ。

 しかし。

 石破は動かなかった。

 いや。

 正確には。

 立っている場所そのものが歪んだ。

 飛来した魔法が石破の横を通り過ぎる。

 空間が曲がっている。

 位相幾何学。

 空間そのものの構造を操作し、攻撃の軌道を変えている。

「……」

 魔法は石破の身体を掠めることすらなく、彼方へ消えた。

「合格」

 石破は静かに退場する。


 次。

「アイザ・エレスト」

「はい!」

 アイザが前へ出る。

 その姿を見ただけで。

 周囲の生徒たちは少し距離を取った。

 アイザは国王の娘。

 そして。

 学院でも屈指の火力を誇る魔法使い。

「開始」

 標的へ向けて手を伸ばし魔方陣を展開する。

「――っ!」

 凄まじい炎が放たれた。

 爆音。

 衝撃波。

 防御結界が激しく揺れる。

 一枚。

 二枚。

 三枚。

 次々と結界が砕ける。

 最後の結界が。

 粉々に吹き飛んだ。

 そのまま炎が標的へ直撃する。

 轟音。

「……」

 試験場が静まり返る。

「合格」

 黒崎が告げる。

「ありがとうございます!」

 アイザが笑顔で頭を下げる。

 続いて第二試験。

「来い」

 黒崎の魔法が放たれる。

 高速で迫る魔法。

 アイザは防御壁を展開した。

 土属性。

 巨大な壁が立ち上がる。

 魔法が直撃する。

 ――ドンッ。

 土壁が揺れる。

 しかし。

 何事もなかったかのように。

 魔法は消滅した。

「……」

 アイザが少し驚く。

 黒崎が頷いた。

「合格」


 そして。

「次」

 黒崎が名前を呼ぶ。

「フィクアリー」

「……はい」

 フィクアリーがゆっくりと立ち上がる。

 周囲から。

 小さなざわめきが起きる。

「フィクアリーか……」

「卒業試験、大丈夫なのか?」

「得意魔法って水泡だろ?」

「この試験じゃ厳しいんじゃないか?」

 フィクアリーの《水泡》。

 魔法大祭で天才的な魔法と評価された。

 しかし。

 あの魔法は。

 威力が高すぎる。

 ここで使えば危険。

 かといって。

 普通の魔法では防御結界を突破できない。

 そのため。

 フィクアリーが落ちるのではないか。

 そう考える生徒も少なくなかった。

「開始」

 黒崎の声。

 フィクアリーは杖を構える。

 そして。

 一つだけ。

 小さな水泡を生み出した。

「……?」

 あまりにも小さい。

 拳よりも小さい。

 水の膜の中には。

 何かの魔法が閉じ込められている。

 フィクアリーがそれを。

 標的へ向けて飛ばす。

 水泡はゆっくり進み。

 防御結界へ接触した。

 次の瞬間。

 すっ。

「……え?」

 水泡が。

 結界を通り抜けた。

 まるで。

 そこに防御結界など存在していなかったかのように。

 そのまま内部へ。

 そして。

 水泡が弾けた。

 ――ドンッ!

 標的の内部から爆発が起こる。

「……!」

 観客席が静まり返る。

 防御結界は。

 無傷。

 なのに。

 標的だけが破壊されている。

「合格」

 黒崎が告げた。

 フィクアリーは小さく頷いた。

「……よかった」

 周囲では。

「今の……偶然?」

「たまたま結界の隙間を通ったんじゃないか?」

「そうだろ」

 誰も。

 この現象の意味を理解していなかった。

 フィクアリー自身も。

 完全には説明できない。

 ただ。

 冬休み。

 神埼家で練習した。

 新しい魔法。

 それが。

 今の一撃だった。


「第二試験」

 黒崎が杖を構える。

「始める」

 魔法が放たれた。

 フィクアリーは。

 動かない。

 小さな水泡を一つ。

 目の前に浮かべる。

 そして。

 魔法が水泡へ接触した。

 ――パチン。

 水泡が弾ける。

 同時に。

 黒崎の魔法が。

 消えた。

「……」

 静寂。

「……合格」

 黒崎が告げる。

 フィクアリーは。

 少しだけ安心したように息を吐いた。

「終わった……」

 そのまま試験場を出る。

 観客席では。

「フィクアリー、合格したぞ」

「すご……」

「でも、今の何だったんだ?」

「分からない」

 誰も分からない。

 ただ。

 一つだけ確かなことがあった。

 フィクアリーは。

 卒業試験を突破した。

 しかも。

 誰も予想していなかった方法で。

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