第86話 始業式
冬休みが終わった。
魔法学院。
新学期。
始業式の日。
体育館には一年生と二年生の生徒たちが集まっていた。
ただし。
そこには三年生の姿がない。
「……あれ?」
天城が周囲を見渡す。
「三年生、誰もいないな」
「就職活動があるからだろ」
隣にいたアイランド・アームストロングが答える。
「そういう時期なんだよ」
「もうそんな時期か……」
天城は少しだけ黙った。
自分たち二年生にとって。
三学期が終われば。
三年生になる。
「……早いな」
「何が?」
「いや」
天城は前を見る。
「もうすぐ俺たちも三年生なんだなって」
「そうだな」
アイランドも頷く。
始業式が終わり。
教室へ戻る。
二年生の教室。
天城とアイランドは同じクラスだ。
席に着くと。
「そういえば」
天城がアイランドを見る。
「冬休み何してたんだ?」
「じいちゃん家」
「どこ?」
「北の方」
「北?」
「めちゃくちゃ雪降るところ」
「へえ」
アイランドが遠い目をする。
「ずっと雪かきしてた」
「……ずっと?」
「ずっと」
「何日くらい?」
「ほぼ毎日」
「……」
天城が想像する。
巨大な雪山。
その前で。
筋肉質なアイランドがスコップを持っている。
「なんか」
「お前なら似合いそうだな」
「そうか?」
「雪かきしてるだけなのに妙に強そう」
「実際かなり大変だったぞ」
アイランドが笑う。
「朝起きたら玄関が埋まってるんだから」
「それは大変だな……」
「雪って重いんだぞ」
「知ってるよ」
「いや、マジで重い」
「分かった分かった」
二人が笑う。
その頃。
三年生の教室。
そこには。
フィクアリーと石破の姿はなかった。
二人とも。
もう学院には来ていない。
就職活動のためだ。
石破には。
すでに進路が決まりつつあった。
アスフェルダム魔導隊。
そこから推薦が来ている。
「……」
石破は自宅で資料を見ていた。
魔導隊からの推薦書。
待遇。
配属予定。
仕事内容。
様々な資料が並んでいる。
「魔導隊か……」
石破は静かに呟く。
悪くない。
むしろ。
自分の能力を活かせる場所だ。
一方。
フィクアリーは。
就職活動をしていなかった。
「就職?」
「しない」
そう言っていた。
卒業後は。
魔法開発を続ける。
そして。
王都近郊の討伐依頼などを受けながら生活する。
研究費を稼ぎ。
必要な魔法を作る。
それがフィクアリーの考えている未来だった。
「……」
フィクアリーは机の上に並べた資料を見る。
ムンドゥ。
極微界律。
量子力学。
そして。
神埼おとと進めている魔法研究。
まだ分からないことだらけだ。
でも。
研究することだけは決まっている。
一方。
学院では。
「さて」
教師が教壇に立つ。
「今日から三学期だ」
教室が静かになる。
「二年生諸君」
「三学期は短い」
「そして」
教師が天城たちを見る。
「君たちはもうすぐ三年生になる」
「……」
天城が姿勢を正す。
「三年生になれば」
「進路を具体的に考える必要が出てくる」
「魔導隊」
「研究機関」
「学院教師」
「魔法技師」
「それぞれの道がある」
天城は黙って聞いていた。
(俺は……)
魔法研究者。
それが自分の目標だ。
科学と魔法。
その二つを繋げる。
まだ誰も知らない理論を見つける。
そのために。
この学院に来た。
「……」
天城は拳を握る。
(もっと勉強しないとな)
そして。
もう一つ。
最近、気になっていることがある。
フィクアリー。
彼女の魔法。
そして。
ムンドゥ・リスグラージュ。
さらに。
エボルド・ビルシートが残した。
「量子力学」という謎の言葉。
(あれも調べないと)
天城は静かに前を向く。
三年生まで。
あと少し。
今まで以上に。
気を引き締めなければならない。
そんな中。
学院の別の場所では。
「……二年生になるんですね」
神埼おとが呟いていた。
今年から二年生。
フィクアリーと過ごした冬休み。
そして。
始まったばかりの魔法研究。
「今年はもっと面白い魔法を作るぞー!」
おとが拳を握る。
新しい一年。
それぞれの未来が。
少しずつ動き始めていた。




