第85話 初詣
年が明けた。
冬休みも、もう後半。
学院の生徒たちはそれぞれの正月を過ごしていた。
そして。
「初詣行こう!」
神埼おとの一言で。
クリスマス会に集まったメンバー全員で、初詣へ行くことになった。
「寒い……」
天城が白い息を吐く。
「正月だからな」
石破武が笑う。
「それにしても人が多いな」
「毎年こんなものですよ」
神埼信之が周囲を見渡す。
参道には大勢の人。
屋台もずらりと並んでいる。
焼きそば。
たこ焼き。
りんご飴。
たい焼き。
甘酒。
正月らしい光景が広がっていた。
「まずはお参りですね!」
おとが先頭を歩く。
「フィクアリー先輩も来てください!」
「うん」
フィクアリーも後ろからついていく。
「天城」
石破が声をかける。
「冬休みの魔法開発は進んでいるか?」
「一応」
「どんなものを作ってるんだ?」
「まだ秘密」
「なるほど」
石破が笑う。
「じゃあ、完成したら見せてもらおう」
「石破先輩は?」
「俺か?」
「数学魔法の研究」
「ああ」
石破は少し考える。
「新しい魔法陣の構築をしている」
「やっぱり魔法陣なんですね」
「魔法は理論が大事だからな」
その会話を聞いていたフィクアリーが口を開く。
「私も魔法を作ってる」
「神埼さんと?」
「うん」
おとが嬉しそうに頷く。
「二人でいろいろ考えてます!」
「どんな魔法?」
「まだ秘密です!」
天城が笑う。
「じゃあ、完成したら見せてくれよ」
「はい!」
「……」
フィクアリーが少し考える。
「たぶん」
「たぶん?」
「天城には理解できないと思う」
「なんでだよ!」
「だって」
フィクアリーが真顔で言う。
「見てる世界が違うから」
「……」
天城が固まる。
「またそれか……」
石破が少しだけ眉を動かした。
「見ている世界が違う?」
「うん」
フィクアリーはそれ以上説明しなかった。
まだ。
自分自身でも、その意味を完全には理解していない。
やがて。
「着きました!」
おとが声を上げる。
全員で境内へ入り。
順番に参拝する。
天城も目を閉じる。
(今年もちゃんと魔法を勉強できますように)
フィクアリーも静かに手を合わせている。
何を願っているのか。
天城には分からなかった。
参拝を終えると。
「お腹空いた!」
おとが屋台を見る。
「何か食べません?」
「いいな」
天城も屋台へ向かう。
「俺はたこ焼き!」
「俺は焼きそばかな」
石破も続く。
フィクアリーは屋台を眺めている。
「……たい焼き」
「食べる?」
「うん」
神埼信之が財布を取り出した。
そして。
「じゃあ、俺が買うよ」
「ありがとうございます!」
信之が財布を開く。
その瞬間。
天城が固まった。
「……え?」
「……」
「先輩」
「何?」
「それ……」
信之の手には。
分厚い札束。
「札束ですよね?」
「うん」
「なんで?」
「給料」
「給料!?」
天城が思わず声を上げる。
石破も目を丸くする。
「副隊長ってそんなにもらえるのか……?」
「いや」
信之は少し困った顔をする。
「普段あまり使わないから」
「だからって札束になる!?」
おとが笑い始める。
「お兄ちゃん、貯めすぎ!」
「忙しくて使う暇がないんだよ」
「なるほど……」
天城は信之を見る。
「魔導隊ってそんなに給料いいんですか?」
「副隊長手当とか危険手当とか、いろいろあるからな」
「……」
天城は真顔になる。
「魔導隊……」
「?」
「将来の進路として考えてもいいかもしれない」
「お前、金で進路決めるな」
石破が笑う。
「冗談だよ」
「絶対半分くらい本気だっただろ」
そんなやり取りをしている間にも。
信之は屋台の料理を次々と買っていく。
「たこ焼き」
「焼きそば」
「たい焼き」
「りんご飴」
「あとこれも」
「先輩、買いすぎじゃないですか!?」
「せっかくだからな」
「お兄ちゃん太っ腹!」
「正月くらいはいいだろ」
フィクアリーは受け取ったたい焼きを小さく食べる。
「……おいしい」
「よかった」
信之が笑う。
少し離れた場所では。
おととフィクアリーが話していた。
「先輩」
「ん?」
「昨日の論文」
「うん」
「もう少し考えてみたんですけど」
「何か思いついた?」
「まだ全然です」
「そっか」
「でも」
おとが笑う。
「今年中には絶対、何か作りましょう」
「うん」
フィクアリーも頷く。
「私も」
その言葉を聞いていた天城が振り返る。
「二人とも楽しそうだな」
「はい!」
おとが笑う。
「冬休みの宿題より楽しいです!」
「それは分かる」
天城も笑った。
新しい年。
新しい魔法。
そして。
まだ誰も知らない。
フィクアリーと神埼おとが作ろうとしている魔法が。
魔法史に残るほど異質なものになることを。
今はただ。
冷たい冬の空気の中。
屋台の明かりと笑い声に囲まれて。
新しい一年が始まった。




