第80話 ダンジョン実習Ⅲ
ダンジョン実習。
フィクアリー班は、順調に探索を続けていた。
「……これで最後ね」
フィクアリーが実習しおりを見る。
ページには、集めたスタンプがずらりと並んでいる。
「全部集まった!」
アイランドが拳を突き上げた。
「残るはゴールだけ!」
「長かったな」
天城も息を吐く。
何度か魔物と遭遇した。
ゴブリン。
ゴーレム。
その他の小型魔物。
だが、三人の連携によってなんとか切り抜けてきた。
「じゃあ、あとは戻るだけだな」
「そうね」
三人はゴールへ向かって歩き始める。
その途中。
天城がふとフィクアリーを見る。
「なあ」
「なに?」
「ちょっと気になってたんだけど」
「うん」
「なんでダンジョンの中で『水泡』を使わないんだ?」
フィクアリーが不思議そうな顔をする。
「……当たり前でしょ?」
「え?」
「使ったらみんな巻き込むじゃない」
「……」
「それに、ダンジョン壊したら先生に怒られるでしょ」
「まあ……そうだけど」
「だから使わないの」
フィクアリーは何でもないことのように言った。
「水泡はこういう場所で使う魔法じゃないもの」
「……なるほど」
天城は納得する。
アイランドも頷いた。
「確かに、あれは街中で使ったら大変そうだ」
「街中でも使わないで」
「分かってる!」
三人は笑いながら歩いていく。
そして。
ゴールが見えてきた。
「見えた!」
アイランドが叫ぶ。
「あと少し!」
三人が足を速める。
その瞬間。
――ズン。
「……?」
地面が揺れた。
天城が足を止める。
「今の……」
――ズン。
もう一度。
今度は明確な振動。
「何かいる」
フィクアリーが杖を構える。
ゴール前の通路。
その奥から。
巨大な影が現れた。
全身を分厚い岩石の装甲で覆った巨体。
その身体には、幾重もの魔法陣が展開されている。
「……ゴーレム?」
アイランドが呟く。
「いや」
天城が叡智の瞳を発動する。
「上級ゴーレムだ」
「上級……?」
天城は目を細める。
魔導核。
属性。
魔力の流れ。
そして――。
「……防御魔法が多すぎる」
ゴーレムの全身を覆うように、複数の防御術式が展開されている。
「前に倒した奴とは違う」
天城が思い出す。
以前。
一年生だった頃。
天城は上級ゴーレムを一体倒した。
だが。
「こいつは完全に別物だ」
アイランドが前へ出る。
「だったら、俺が止める!」
「アイランド!」
「大丈夫!」
巨大な身体が一気に加速する。
「うおおおおおお!」
拳がゴーレムへ叩き込まれる。
――ドォン!
しかし。
ゴーレムは微動だにしない。
「……なっ」
アイランドの拳が弾かれる。
「硬すぎる!」
ゴーレムの腕が振り下ろされる。
「ぐっ!」
アイランドが受け止める。
――ドンッ!
地面が大きく沈む。
「アイランド!」
「まだいける!」
天城も魔法を放つ。
「レールガン!」
魔力弾がゴーレムへ直撃する。
――ガァン!
しかし。
表面の防御魔法が光る。
魔力弾が消滅した。
「……!」
天城の表情が険しくなる。
「防御魔法が多重化されてる」
「一枚じゃない」
「攻撃が一つ目の結界を破っても、次の結界が受け止めてる」
「じゃあ、どうする!?」
アイランドが叫ぶ。
「分からない!」
天城が歯を食いしばる。
フィクアリーも魔法を放つ。
「炎槍!」
炎の槍が飛ぶ。
しかし。
――バシュッ。
防御魔法に阻まれる。
「風切羽!」
風の刃が飛ぶ。
ゴーレムを避けるように揺れながら進む。
だが。
防御魔法に触れた瞬間、消滅した。
「駄目……」
フィクアリーが呟く。
ゴーレムが一歩進む。
――ズン。
さらに一歩。
――ズン。
三人との距離が縮まっていく。
「……」
天城は考える。
普通の魔法では無理。
レールガンも通らない。
フィクアリーの魔法も通らない。
アイランドの物理攻撃も届かない。
なら。
「フィクアリー」
「なに?」
「水泡を使って」
「……え?」
「水泡」
フィクアリーが固まる。
「ここで?」
「このままだと負ける」
「でも――」
「分かってる」
天城はゴーレムを見る。
「俺たちだけじゃ倒せない」
フィクアリーは黙った。
そして。
ゆっくりと杖を構える。
「……分かった」
魔力が集まる。
空気が震える。
「水泡」
巨大な泡が生まれた。
ゴーレムの周囲を包み込む。
天城の叡智の瞳が、その内部を捉える。
「……まずい」
「え?」
「これ、かなりの出力になってる」
アイランドが一歩下がる。
「逃げたほうがいい?」
「遅い!」
フィクアリーが叫ぶ。
次の瞬間。
――――轟音。
ダンジョン全体が揺れた。
ドゴォォォォォォン!!!
凄まじい衝撃が地下を駆け抜ける。
壁が震える。
天井から砂埃が落ちる。
魔法陣が一斉に消し飛ぶ。
ゴーレムの防御魔法が全て破壊された。
そして。
その巨体が崩れ落ちた。
――ガラガラガラ……。
静寂。
「…………」
「…………」
「…………」
三人は呆然と立ち尽くしていた。
アイランドが口を開く。
「……勝った?」
「たぶん」
天城が答える。
「……ダンジョンは?」
フィクアリーが周囲を見る。
壁。
床。
天井。
あちこちに亀裂が入っている。
「……」
「……」
「……」
「怒られるな」
天城が呟いた。
「絶対怒られる」
アイランドも頷く。
「怒られるね」
フィクアリーも頷いた。
そして。
数時間後。
学院の教室。
三人は机に向かっていた。
目の前には紙。
その紙の上部には、大きくこう書かれている。
始末書
「……」
「……」
「……」
三人とも黙っている。
天城がペンを握る。
「原因は?」
「上級ゴーレムの出現」
アイランドが答える。
「その後?」
「水泡を使用」
「結果?」
「ダンジョンが揺れた」
「……」
天城は頭を抱える。
「これ、俺たち悪くないよな?」
フィクアリーが静かに答える。
「先生がゴーレムを置いたのは先生」
「でも水泡使ったのはフィクアリー」
「天城が使えって言った」
「……」
「……」
「……」
アイランドが二人を見る。
「三人で書けばいいんじゃないか?」
「そうだな」
「そうね」
三人は再び始末書を書き始める。
こうして。
フィクアリー班のダンジョン実習は。
スタンプを全て集めたにもかかわらず、始末書を書くという形で終了した。




