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第79話 ダンジョン実習Ⅱ

 フィクアリー班は、さらにダンジョンの奥へ進んでいた。

「次のチェックポイントまで、あと少しね」

 フィクアリーが実習しおりを確認する。

「地図を見る限り、この先を曲がったところ」

「よし!」

 アイランドが拳を握る。

「スタンプ二個目!」

「まだ一個目しか押してないけどな」

 天城が苦笑する。

 三人は薄暗い通路を進んでいく。

 先ほどのゴーレムとの戦闘が嘘のように静かだった。

「そういえば」

 アイランドが口を開く。

「お菓子、まだあるか?」

「あるけど」

「食べようぜ」

「今?」

「今」

「魔物が出るかもしれないぞ」

「さっきも出たけど勝っただろ!」

「まあ……」

 天城が袋を取り出す。

「じゃあ一個だけ」

「やった!」

「遠足じゃないんだけどな……」

 三人がそんな話をしながら歩いていた。

 その時。

 ――ガサッ。

「……?」

 物音。

 三人の足が止まる。

「何かいる」

 天城が前を見る。

 暗闇の向こう。

 小さな影が一つ。

 そして。

 二つ。

 三つ。

 四つ。

 五つ。

「ゴブリンだ」

 フィクアリーが杖を構える。

 五体のゴブリンが、武器を手にこちらを睨んでいる。

「……」

 天城は少しだけ戸惑った。

 人間に似ている。

 二本の腕。

 二本の脚。

 顔もどこか人間に近い。

「なんか……」

「可哀想だな」

 アイランドも同じことを考えていた。

「見た目が人間に近いから、ちょっと殴りにくい」

「俺も」

 天城が頷く。

 ゴブリンたちはそんな二人の気持ちなど知ったことではない。

「ギャアアアアアッ!」

 一斉に襲いかかってきた。

「うわっ!」

「おい!」

 天城とアイランドが慌てて構える。

 次々と武器が振り下ろされる。

「待て待て!」

「普通に攻撃してくるじゃん!」

 アイランドが一体の攻撃を受け止める。

 だが。

「ぐっ……!」

 想像以上に重い。

「こいつら、結構強いぞ!」

「中級ゴーレムよりは弱い!」

「五体いる!」

「それはそう!」

 天城も杖で攻撃を防ぐ。

 ゴブリンの一体が横から飛び込んでくる。

「危ない!」

 天城が飛び退く。

「……油断した」

 相手を魔物だと認識するまでに、わずかな時間がかかってしまった。

 その隙をゴブリンたちは逃さない。

「フィクアリー!」

「分かってる!」

 フィクアリーが杖を構えた。

「炎槍!」

 魔法陣が展開される。

 炎が一点に集まり――。

 槍の形を作る。

 だが。

「……?」

 発射されない。

「え?」

 炎の槍は。

 その場に浮かんだまま。

 動かない。

「フィクアリー?」

「……」

 本人も困惑している。

「炎槍!」

 もう一度、魔力を流す。

 しかし。

 またしても発射されない。

「なんで?」

 天城が目を見開く。

「いや、なんで俺に聞くんだよ!」

「だって魔法を作ったのは天城でしょう!」

 その間にもゴブリンが迫ってくる。

「とにかく避けろ!」

 アイランドが一体を蹴り飛ばす。

「おおおおっ!」

 だが、別のゴブリンが背後から迫る。

 その瞬間。

 一体のゴブリンが。

 空中に浮かんでいた炎の槍へ触れた。

 ――パチッ。

「……?」

 小さな火花。

 それだけ。

 次の瞬間。

 ――ドォンッ!

「うわぁっ!?」

 炎が爆発的に広がった。

 ゴブリンが吹き飛ぶ。

「……」

「……」

「……」

 三人が固まる。

「……今の何?」

 天城が呟く。

「私にも分からない」

 フィクアリーも呆然としている。

 しかし。

 彼女の魔法は止まらなかった。

「だったら……」

 フィクアリーが別の魔法を発動する。

「風切羽」

 風が生まれる。

 細く鋭い風の刃。

 普通なら一直線に飛んでいくはずの魔法。

 しかし。

「……?」

 風切羽は。

 ゆらゆらと揺れながら進んでいった。

 右へ。

 左へ。

 また右へ。

「何してるんだ?」

 アイランドが呟く。

「分からん」

 天城も真顔だった。

 ゴブリンが風切羽を避ける。

「避けた!」

 ゴブリンが笑う。

 しかし。

 その瞬間。

 風切羽がわずかに軌道を変えた。

「え?」

 ――シュッ。

 ゴブリンの腕をかすめる。

「ギャッ!」

 傷は浅い。

 だが。

 確実に当たった。

「……」

 ゴブリンが後ろへ下がる。

 再び風切羽が揺れる。

 右へ。

 左へ。

 ゴブリンが避ける。

 しかし。

 また当たる。

「……何なんだ、この魔法」

 天城が呆然とする。

 フィクアリーは真剣な顔で杖を握っていた。

「位置を固定しない」

「……?」

「敵が避けた瞬間に、別の場所へ移動するようにしてる」

「いや、それが意味分からない」

 天城が即答する。

「私も説明できない」

「なんで作れたんだよ……」

 フィクアリー自身も分かっていない。

 ただ。

 魔力の流れを調整する。

 波の重なりを変える。

 その結果として。

 魔法は、奇妙な挙動を見せている。

 そして。

「もう一回!」

 フィクアリーが魔力を込める。

 炎の槍。

 空中に残る。

 ゴブリンが近づく。

 ――パチッ。

 爆発。

 風切羽。

 ゆらゆらと進む。

 避ける。

 ――シュッ。

 また当たる。

「……」

 アイランドがゴブリンを殴り飛ばす。

「うおおおおお!」

 天城も杖を振る。

「そこだ!」

 魔力弾がゴブリンを吹き飛ばす。

 最後の一体が倒れる。

 静寂。

「……終わったな」

 アイランドが息を吐く。

「うん」

 天城も頷く。

 そして二人は。

 フィクアリーを見る。

「……」

「……」

「……何?」

 フィクアリーが首を傾げる。

 天城が耐えきれず吹き出した。

「いや……」

「何がおかしいの?」

「だって……」

 天城は笑いながらゴブリンの倒れた場所を見る。

「なんで炎が空中で待機してるんだよ!」

「……」

「しかも敵が触った瞬間に爆発するし!」

 アイランドも笑い始める。

「風も変だったぞ!」

「なんで避けた後に当たるんだよ!」

「知らない!」

 フィクアリーが少しむっとする。

「私だって知らない!」

「本人が知らないの!?」

「知らないものは知らない!」

 三人の間に笑い声が響いた。

 だが。

 天城はふと、フィクアリーの魔法を思い出す。

 炎槍。

 風切羽。

 どちらも威力そのものは高くない。

 それなのに。

 妙に当てにくく。

 妙に避けにくい。

 普通の魔法とは違う。

「……変な魔法だな」

 天城が呟く。

「そう?」

「うん」

 フィクアリーは自分の杖を見る。

「でも、ちゃんと動いた」

「まあ、それはそうだけど……」

 天城は苦笑する。

 フィクアリーは知らない。

 自分が魔法を構築する際に見ている世界が。

 他の魔法使いとは少し違っていることを。

 そして。

 その違いが。

 彼女の魔法を、奇妙なものへと変えていることを。

「さて」

 アイランドが実習しおりを取り出す。

「ゴブリン倒したし、次は?」

 天城が地図を見る。

「二つ目のチェックポイントは、この先」

「よし!」

「行こう」

 フィクアリーも頷く。

 三人はゴブリンたちの横を通り過ぎ。

 ダンジョンの奥へ進んでいく。

 その先に何が待っているのか。

 まだ。

 三人は知らなかった。

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